無表情の少女と初めての街 ⑦
「この中で好みのアクセサリーはあります?」
まずは何よりシュティさんの好みですわ。
「これがよいです」
シュティさんは余り迷った素振りを見せずに先端に星と月の飾りがある簪を手に取った。
洋服に続き、星と月のデザイン。
シュティさんが自覚しているか分かりませんが、傍からは月や星が、かなり好きだと見えますわね。
「同じようなモチーフはヘアピンにも付いていますけど、簪の方でいいんですの? 付けるのには髪型を作らないといけませんわよ」
「こちらの簪がよいです。この鋭さは武器になります。銀製で耐久力もありそうですし、一度だけなら剣を受けることも出来そうです」
ちょっと気を抜くと思考が暗殺者になるのはどうにかならないかしら。
シュティさんの発言を聞いた店員が困っていますわ。
誤魔化さないとメディシス家の娘が変な客を連れてきたと思われてしまいます。
「最近は色々と物騒ですし、護身用の武器の一つくらいは持っていた方がよいかもしれませんね」
どう誤魔化そうか考えていたところに側に控えていたレジェスが助け舟を出してくれた。
「そ、そうですわね。剣を持つわけにいきませんし、こういう小さな物は実際に使わなくてもお守りとして身に付けておくのはいいかもしれませんわね」
「お嬢様の身は私が必ずお守りします。ですが、用心はしておくにこしたことはありません。店員さん、身を守るのに使えそうなアクセサリーはあったりしますか?」
「身を守る……ですか。実際に使えるかは分かりませんが、仕入れた商品の中に面白い物がありますのでお持ちます」
店員が再び店の奥へと入っていった。
「レジェス、助かりましたわ」
「当然の対応をしたまでです」
シュティさんを見る。
星と月がデザインされた簪が気に入ったようで、指先でペンのように回したり、握り方を変えて構えてみたりとしている。
無表情ですが、動き的には楽しそうですわ。
簪の購入は決定ですわね。
多少問題行動や発言はありましたけれども、洋服に続いて買う物が決まって何よりですわ。
シュティさんが楽しめたということはグリオット様が満足する結果になるでしょう。
店員が重たそうな商品をいくつか持って戻ってきた。
「お待たせしました。これらなどはどうでしょうか」
店員が新たにテーブルの上に置いたのは一見してどれもアクセサリーにしか見えない品々。
「どのように使うのか見せてもらえます?」
「分かりました」
店員は赤いブローチを手に取ると、絵柄部分を横にスライドさせる。すると絵柄の下から刃が現れた。
刃の長さは小指の先ほど。
少し驚きはしましたが、実用性があるとは思えませんわ。
「暗殺に使えますね。短い刃は毒を塗って手のひらを軽く傷つけるだけなので、長さとしては十分です」
シュティさんが饒舌に話し始めた。
「急に怖い解説をしないでくれません?」
「申し訳ありません。どのように使うのかをラクレーム様は気になっているだろうと思いまして」
「気にはなっていましたが――今の話を聞いてしまうと次からパーティーに行く際は刃が通らない手袋を着用しないと安心できなくなりそうですわ」
私が怖がっているのを見て、店員が頭を下げた。
「怖がらせてしまいましたか。申し訳ありません」
「店員さんが謝ることではありませんわ。私の方から使い方が見たいと言ったのですから。次の商品の使い方を見せてくださいな」
店員が次に手に取ったのは小さなバラが台座に付いている指輪。
「よく見ていてくださいね」
店員は指輪をテーブルに向けると指輪の裏側を押すような動きをした。
次の瞬間には空気が抜けたような音とテーブルに何かが当たった音が同時に鳴った。
「ご覧ください」
何が起こったのか分からない私に店員はテーブルの一角を指さした。
そこには小さく細い針がテーブルに刺さっていた。
「こちらの針は指輪から発射されたのです。バネで飛ばす仕組みとなっています」
「身を守るのに使えそうなアクセサリーをとお願いしたのに、先程から攻撃性が高い物ばかりですわよ」
「今はこの手の物しか店には無いもので。興味がお有りでしたら、いくつか仕入れてお屋敷の方へお持ちいたしますよ」
「お願いしますわ。身に付けてもよさそうな物なら買わせてもらいます」
まだ手にしていないアクセサリーもどこからか刃が出るか、何かが発射される類の物なのでしょう。
それらを考えると簪が一番用途がシンプルで、見た目に思えてきましたわ。
「色々と持ってきてもらって申し訳ないのですが、あの簪にしますわ。支払いは家の方にお願いします」
「承知いたしました」
「さあ、シュティさん。次のお店へ行きましょう」
簪を買ったことで次に向かうお店が決まった。
「次はどちらに行くのですか?」
「髪結いですわ。私の髪の手入れをしている人がいますから、これから訪ねます。簪を付けるために髪型を整えなくてはいけませんものね」
シュティさんの肩口まで伸びている黒い髪をどのように変えるか。
想像は私でも出来ますが、実際に形にするには職人の腕が必要ですわ。
「レジェス、あの人が在籍しているお店はどこだったかしら?」
「ご案内します。こちらへ」
レジェスが先導する後ろを私とシュティさんが付いていく。
「ラクレーム様、一つお伝えしたいことがあります」
歩いているとシュティさんが小声で話しかけてきた。
「何かしら?」
「先程のお店の店員についてです」
「私の家に何度か来ている店の方ですけど、何かありまして?」
「あれは私と同じビーネン一族の者です」
「えっ!?」
驚きで足が止まる。
私が大きな声を出したことでレジェスも振り返り足を止めた。
「どうかなさいましたか?」
「え、ええ。シュティさんがとても重要なことをさらっと言ったので驚きました」
「重要なこと……ですか」
レジェスは警戒する目線をシュティさんに向ける。
「レジェスにも共有する必要がありますわね。歩きながら話す内容ではありませんから、落ち着くためにも一度、カフェに入りましょう。レジェス、近くに話が出来るカフェはあるかしら?」
「ございます」
王都内の全ての店を把握しているのかレジェスは迷うことなく即答した。
「では、行先をそちらに変更ですわ。歩き疲れていたところでしたし、ちょうどいいですわね」
目的のカフェは通りから少し引っ込んだ場所にあった。
外装に金細工が施されていて、入口にはドアマンが控えている。
会員制のお店のようで、レジェスが入口に近づくと紹介状の有無を聞いてきた。
紹介状が必要な会員制のカフェがあることは知っていたけれども、このお店がそうでしたのね。
レジェスがドアマンに紹介状を見せると店内へと案内された。
「レジェス、いつの間に紹介状を用意してましたの?」
「王都を散策なさると決まった時点で必要そうな物は用意しておりました。このお店以外の紹介状も用意しておりますよ」
「さすが、私の執事ですわ」
「お嬢様の執事として当然のことです。奥の席を用意してもらいました。そこでなら周囲に聞かせたくない話も出来るかと」
私のやりたいことに答えてくれるレジェスは本当に頼もしい。
彼女が執事で良かったと思ったことは数え切れないですわね。
店の奥の席は厚い壁で仕切られた個室となっていて、まるで秘密の話し合いをするために用意されているかのような場所だった。
個室内に用意されていたテーブル席にシュティさんと対面する形で座り、注文したハーブティーが届くのを待ってから話を始めた。
「シュティさん、先程の話ですけど……」




