隙
「……君を殺すのはやめよう。殺した場合に不都合なことが起こる可能性が高い気がする。でだ、素直に降伏してするなら、これ以上、怪我はさせないと約束しよう。どうだ?」
「今……殺さないだけだろ。調べることを調べて、問題が無かったら殺すという結論に変わりはないだろうさ」
「少しでも長生きはしたいだろ」
「十分に長生きはしたさ」
エーブの顔に疑問が浮かんだ。
俺が人生を全うした後の人間だと知るはずもないので当然だ。
「よく分からない返事だな。まあいいさ。さっきも言ったが、君は殺さない。だが、腕や足の一、二本は落とさせてもらう」
「腕も足も失うわけにはいかない。借り物だからな」
「……変なことを言って、惑わそうとしているのか」
「言葉くらいで、惑わせる相手なら苦労しない」
先ほど受けた一撃の痛みに耐えて剣を構え直す。痛みからして骨にまでダメージは通っている感覚がある。戦いが長引くと痛みによる集中力の乱れや体力の疲弊がきつくなるだろう。
「決着をつける」
「そうだな。夜も遅いし、早く済ませて寝ることにしよう」
言葉が交差すると同時に二人が動いた。
剣戟の応酬は一進一退だったが、全力を出している俺に対して、エーブは余力があった。俺を殺さないためにある程度、わずかに手を抜いているせいもあるのだろう。
まだ余力があるエーブだが、それでも全力の俺の攻撃に攻めあぐねていた。徹底的な攻撃の隙をエーブなら見つけられていたはずだが、そこを付けば俺を殺してしまうと見逃している。その積み重ねが苛立ちと焦りになり、エーブの剣先が僅かに鈍る。
俺は見つけた剣の鈍りを見逃さずに、エーブの剣を大きく弾く。
エーブの剣を弾くために俺の剣も大きく振り切ってしまったので、剣での追撃はエーブの剣が間に合い、防がれてしまうだろう。
だから、俺は空いた左手をエーブへと魔法と撃つために突き出す。
「この瞬間を待っていた。剣で勝てないんだ。いつか魔法を撃つだろうと思っていたよ」
剣を弾かれたエーブの言葉に、剣先を鈍らせていたのはワザとで俺に魔法を使わせるように仕向けていたのだと悟る。
「その突き出した腕、切り落とさせてもらおう」
突き出した俺の左腕にエーブの剣が狙いすまして振り下ろされた。