第126話 海辺にて 2
「リゼ姉ちゃん、これ見て!」
義妹たちの遊びが、浜辺に立って、踵が波に沈んでいく遊びから、「星の嵐」で流れ着いた流木や、ゴミ拾いに変わったようだ。
ミニーが退屈そうにしている義姉のリゼットのところまで戻って、戦利品を見せた。
「まぁ、サンダルね。……この持ち主はどうやって帰ったのかしら?」
ミニーが得意気にリゼットに見せたのは、泥とゴミの絡まった女性用の赤いサンダルだった。その後も、義妹たちは次々に何かを拾っては、リゼットに見せに来た。
アニーが蓋のついた黒い瓶を持ってきた。
「メッセージボトルかも! あ、でも蓋が開かない! リゼ姉様、開けてちょうだい!」
リゼットはアニーから瓶を受け取り、重さでメッセージボトルじゃないと分かったが、何とか蓋を緩めてやり、アニーに返した。
アニーはおもむろに蓋を開けて覗き込んだ。
「くっさ~い! げほっげほっ! 何これ~!」
中にはひどいにおいのする泥水が入っていただけだった。
アニーに強制的に臭わされたミニーも「くっさ~い」と逃げまくり、
「リゼ姉様も、ほら、におう?」
「いや~! 遠慮するわ! やめてぇ~!」
リゼットも、アニーの持つ瓶から、逃げまくるはめになった。
結局、姉妹三人でキャアキャア砂浜で追いかけっこのように、騒いではしゃいだ。
……アニーは、少し元気のなかったリゼットの笑顔をやっと見ることが出来て、嬉しく思った。
ひとしきり笑ったあと、リゼットはボビーの姿が見えないことに気付いた。
「あれ、ボビーは?」
「そう言えば、さっきからいないね」
三人は慌ててボビーを大声で呼んだ。
「ボビー! どこ行ったの~?」
「ボビー! 返事をして~!」
「ボビー! ボビー!」
リゼットは青ざめた。
──どうしよう! ボビーが海に入ってしまって、流されていたら……? 監視役失格だ……。
泳げないリゼットが、救助の手を借りるために戻ろうかとした時、
「俺はここだぜ~!」
遠くからボビーの声が聞こえた。ボビーは洗面器ほどの大きさの海亀を手にして、走って戻ってきた。
〈コラ、放せ、放さんかい!〉
「ウワ~、この亀さん話せるの?」
アニーは興奮して、ボビーの持つ亀に近寄った。ボビーが得意気に説明する。
「岩場からこいつの声が聞こえたんだ!」
「うん、ミニーにも、かめさんの声、きこえる!」
どうやら、この亀はこの星の原住生物で、グレーンフィーンと話が出来るようだった。
〈お、アンタら、グレーンフィーン人っちゅーやつやな。ワシの思念が聞こえるんやな。おい、坊主、いつまでワシを持ち上げとるんや。そ~っと下ろせ、そ~っとやで!〉
ボビーは、亀をそ~っと地面に下ろした。
〈ふぅ、助かった。ここにアンタらの先祖が住み初めてから、ここらの浜まで流れ着くことは、めったになかったんや……。岩の間に挟まって身動きがとれんかった、ヤバかった……。ほんまありがとぅな、助かったで、坊主!〉
「ねぇねぇ、お礼は? よくお話じゃあ、助けた動物がお礼くれるよね? お礼は?」
お調子者のアニーがしゃがんで、目をキラキラさせながら亀に尋ねた。
〈はぁ? お礼ぃ? うーん、お礼……〉
「アニー、亀さん困ってるよ。ボビー、もう海に返してあげたら?」
年長者らしく、リゼットが亀に助け船を出すが、亀はお礼を思い付いたようだ。
〈そや! アンタらが欲しがっとる石あるやろ?〉
「魔鉱石のこと?」
〈それや! この星はそれがよぅ取れるらしいねん……。でな、大事なこと教えたるわ……〉
「何? 大事なことって……」
ボビーがごくりと唾を飲み込む。
〈海の中にはないで!〉
亀は得意気にそう語って、小さな鼻をヒクヒク動かした。
アニーは怒って、
「ボビー、岩場に戻してきてよ!」
と言い、ボビーも亀を持ち上げようとした。
〈ウワ~、まてまて! もひとつ大事なこと教えたるわ。これはな、めっちゃ大事やで? アンタらの神さんが、なんでこの星に来たんか知ってるか?〉
アニーは、どうせまた下らない理由だろうと訝しんだ。アニーの横で前のめりになったのは、リゼットだ。
「そうね。角翼竜のヴェータは、神々……古代エアデーン人は、この星の貴方達みたいな原住生物を理解するために、まずグレーンフィーン人を作ったと言ってたわ。なぜそこまでして、この星に来たのかしら?」
亀は食い付きの良いリゼットに気を良くして、得意気に語った。
〈アンタらの神さんは魔法使いや。空の向こうまで飛ばせる船で、星から星へ旅しとる。魔法使いの力の源は、魔力や。魔力は魔鉱石から取れる力や。さっきも言ったけどな、この星には魔鉱石がよーさんあんねん。アンタらの神さんは、アンタらがこの星から送ってる魔力を今でも受け取って、使てんねん。これホンマやで!〉
「星から星へ旅……。素敵ねぇ」
リゼットはうっとりしだしたが、ボビーはがっかりした。
「ふーん、あんまり役に立たない情報だったね。僕への恩返しはまだ終わってないからね。また来てよ、カメック!」
〈くぅ~、ワシの取って置き情報やったのに……。ところで、カメックてなんや?〉
亀がボビーにつっこむと、アニーが
「あ~、私はカーメンって顔だと思ってたけどな~」
と悔しがり、ボビーは
「助けたのは俺だから、俺に名付ける権利がある!」
と主張した。
そんな二人の言い争いに、ミニーは、
「わたしは、カメータがいい!」
と言って参戦した。
一人っ子だったリゼットは、帰省して始めの数日は、義弟妹のケンカに戸惑っていたが、これはただの悪ノリであって、ケンカではないと、最近だいぶわかってきて、
「……日も暮れてきたし、帰らなきゃ。そろそろカメヤンを海に返してあげて」
と、この「名付け争い」に参戦することにした。
〈くそぅ~! みな好き勝手、ワシの名前つけよって!〉
亀は、〈くそぅ、くそぅ〉と言いながら、波打ち際まで、小さな足をのっそのっそと動かして移動していった。
そして波打ち際まで来ると止まって、首だけをグルリと回して振り返った。
〈ワシの名前は『マンネン』や! ワシに聞きたいことがあったら、『マンネン~!』って海に浸かりながら叫び~。アホみたいで、こっ恥ずかし~やろけどな~、イヒヒ。大概聞こえるから、来たるわ。聞こえへんかったら、ごめんやで?〉
そうグレーンフィーンの者達に語りかけ、海水にその体が浸かると、勢いよく海に向かって泳ぎ出した。
……この時出会った「マンネン」は、この星に入植した古代エアデーン人が初めて出会った「思念通話をする原住生物」本人(亀)だった、というのは、マンネンですら、知らない話である……。
作者、関西人なので……(^-^;




