第123話 議会 1
古代エアデーン人の遺した古代遺物「星の塔」の中心的機能である「環境保護システム:アーエリオス」により、エアデーン王国は、厳しい星の環境から護られてきた。
今回、あろうことか「星の嵐」が王国に上陸したことは、王国国民を震撼させた。
アーエリオスの「自動保護プログラム」が発動した為に、その被害はグレーンフィーン伯爵領の海辺の地域だけに留まった。
とはいえ、星の脅威に初めて晒された国民の不安は高まり、この事態を招いたことに対する不満は、王家へと向かっていった。
──王家は国王と聖王に分かれ、政務と聖務を分けるとして、王室典範を改定し、ハイラーレーンではないセイレーンが国王になった。
だが、やはりセイレーンが国王になるのは、無理だったのだ!──
そのような国民の声を受け集まった議員達は、今回の「星の嵐」を招いた責任を問い、再発防止体制について議論すべきだと、議長に緊急議会を召集する要求書を提出し、受理された。
***
「『星の塔』は、ハイラーレーン・エレオノーラ聖王陛下の管轄ということになっております。ですが、エレオノーラ聖王陛下は、エクレタ離宮で、もう六年間もご静養中です。すでに、『国王』・『聖王』の二分体制は破綻していると思いますが、如何ですか?」
議会は、要求書提出の代表者であるアダム・ホーウッド議員の質疑から始まった。
国王オリヴァールの意を受けたその側近が手を挙げ、議長の指名を受け、回答した。
「破綻はしておりません。神殿には『神の祝福者:レーン』である優秀な神官を多数揃え、不測の事態に常に備えております」
国王側近の、通り一遍の回答は予測済みだったホーウッド議員は、質問を変え、ハイラーレーン・エレオノーラ陛下の静養状況を尋ねた。
その質問に答えたのは、神官長であり、ハイラーレーン・エレオノーラの王配、フォーデンハイム公爵レーン・ジョゼフだった。
「ハイラーレーン・エレオノーラ陛下はエクレタ離宮にて、『神の石』の叡知について、独自に研究を進めておられます。ハイラーレーンがお持ちの『神の指先』は、エクレタ離宮のような離島でも、お使いになることがお出来になるそうです」
ジョゼフは、別居中の妻、ハイラーレーン・エレオノーラの、知識欲を満たそうと狂ったように「神の指先」を動かし続ける様子を、オブラートに包んで話した。
「……とは言え、今回問題となった『環境保護システム:アーエリオス』の調整など、離島からでは『神の指先』でもお出来にならないこともある。ですので神殿へのお戻りを、私からも、ウィリバート・レーン・リギース副神官長からも、何度も何度も進言申し上げに参りました。ですが、エレオノーラ聖王陛下は、そもそも聖王位に即位することに、同意した覚えはないとのことで、議会の決定に拒否権を発動されておられる状態です」
ここへ来て初めて明かされた聖王ハイラーレーン・エレオノーラの意思に、議場はざわついた。
議長が静粛にと呼びかけ、議場が静まると、ホーウッド議員は、質問を続けた。
「拡張脳機能を持つ祝福者である神官の数が、各省庁へ移籍するなどして、年々減少していることを示す資料がございます。合わせて『星の塔』で消費している魔鉱量についても、年々減少傾向にあると、資源管理省からの報告数値に表れております」
と、証拠を提示しながら議場で説明した。その上で、今回の件との因果関係について、神官長レーン・ジョゼフの見解を求めた。
再びジョゼフは答弁に立った。
「この六年間、何とか『星の嵐』を回避出来ておりましたのは、ひとえに魔力が一定以上『星の塔』にあったからと考えております。ですが、減少する神官での作業量には限界があり、必然的に消費する魔鉱石が減少し、結果的に『星の塔』に充填する魔力は減ってしまいました」
ジョゼフは、質問者が提起した因果関係を認めた上で、神妙に発言を続けた。
「……私から不敬を承知で申し上げるならば、今回の事態は『神の石』を操作出来る者の不在により生じた、と考えております」
汗をだらりと垂らしながらも、そう言い切って、ジョゼフは一旦席に戻った。
議場はざわつき、ホーウッド議員は「それはどういうことか」と説明を求め、議長は「神官長レーン・ジョゼフ」と、再び彼を指名した。
答弁者席に着いたジョゼフは、その真意を説明した。
「我ら『星の塔』を管理する『神の祝福者:レーン』である神官には、『星の塔』の魔力を維持する作業しか出来ません。一定以下の魔力で『星の嵐』を迎え撃つには、『神の石』を操作し、その力を集中させることの出来る、セイレーンやハイラーレーンのお力添えが不可欠です」
ここでジョゼフは一旦言葉を切った。
「しかし現在、『神の石』を操作まで出来るのは、恐れながら、ハイラーレーン・エレオノーラ聖王陛下と、セイレーン・アレクシス王子殿下だけです。もしセイレーン・オリヴァール国王陛下、セイレーン・マグノリア王女殿下が、神殿にて研鑽を積まれ、『神の石』操作して頂ける状態にあったならば、今回のような事態は生じなかったと推察されます」
ジョゼフの決死の非難の弁に、国王自らが席を立った。
圧倒的な威圧感に、ジョゼフはただ頭を垂れて耐えた。国王はジョゼフを睨み付け、怒声を浴びせた。
「今なんと申した、ジョゼフ? 公は、古代エアデーン人の知識吸収に狂った妻、エレオノーラを甘やかしておいて、余のせいだ言うのか? 王国から逃げ出し、帝国の手先となった、裏切り者のアレクシスはどうしているのだ? 『星の嵐』が来たのは、余のせいだとでも言うのか!」
国王の剣幕に、議場は静まり返った。
……だが、その静寂を破って発言した者がいた。
「陛下のせいではございません。強いて言うならば、我ら王族のせいです、陛下」
議員達が一斉に、声のした上方後ろを振り返った。
議場の扉の前に、深いフードで顔を隠した、背の高い人物が立っていた。
使い込んだ断熱コートで、踵まですっぽり身を包んでおり、その素性は判別出来ない。
彼は頭にゆっくりと手をかけ、顔を隠しているフードを外した。
軽く頭を揺らして現れたのは、王族に良く現れる明るい金の髪。ハッとするような美貌の青年の登場に、議場は息をのんだ。
一身に注目を集める中、彼は落ち着いた様子で階段を下り、その瞳は真っ直ぐ国王オリヴァールを見ていた。
そして議場の中央、上段に設置された玉座の前まで歩み出ると、コートの前を払って、膝をつき、臣下の礼を執った。
「アレクシス・セイレーン・セントレナード、タルール・シェグファ藩国よりジーラント帝国に渡り、アンドリュー前国王陛下に秘密裏に与えられた『魔鉱石供給量の回復』の任を、果たして参りました」
彼は、そのように国王オリヴァールの御前にて奏上すると、ゆっくりと面を上げた。
その怜悧さが宿る翡翠色の瞳で見据えられたオリヴァールは、一瞬、軽い戦慄を覚えた。
そして、そのことを恥じ、それを隠すために、壇上から長く無沙汰していた、半純血の甥を睨み付けた。




