表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡命王子は星を導く~運命の婚約者と祝福された結婚~  作者: 和田 モエコ
第三部 エアデーン【再婚約編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/205

第119話 セイレーン・マグノリア

第三章

 エアデーン王国国王オリヴァールの長女、セイレーン・マグノリア王女は、明るく美しく、生命力に溢れた活発な少女だ。

 

 セイレーンとしての高い能力を持って生まれたが、父オリヴァールが、叔母エレオノーラと折り合いが悪かったこともあり、幼い頃からエレオノーラのいる「星の塔」には、あまり寄り付かなかった。

 

 それもあってか、彼女が幼く、まだ分別がついていない頃、叔母に向かってはっきりと、

 

「エレオノーラ叔母様は『狂ったハイラーレーン』なの?」

 

 と、大人たちが囁いていた言葉を、直接本人にぶつけたことがあったらしい。 

 

 それは、エレオノーラも薄々自覚していたことだったが、面と向かって言われたのは初めてだった。それ以来、エレオノーラは、この正直な、恐れを知らない姪のことを苦手としていた。

 マグノリアも知識の吸収に貪欲なエレオノーラのことを、異質な存在として、気味悪く思うようになった。

 

 それでもエレオノーラは、このたまにしかやってこない姪だけが、次代の唯一のセイレーンであった当時、ゆくゆくはハイラーレーンとなるよう育てようと、彼女なりに努力はしていた。

 だが、マグノリアの性格は、「星の塔」に籠って、じっと「神の石」を触ることに向いていなかった。

 

 マグノリアが八才になった頃、思念通話の祝福(レーン)しか持っていなかった従兄のアレクシスが、セイレーンとして目覚めた。

 エレオノーラの関心がそちらに向いてしまったことを幸いに、マグノリアは一切、「星の塔」に近づかなくなっていた。

 

 

 ***

 

 

 前国王ハイラーレーン・アンドリューが崩御した後、()()を司る国王には、議会での評価も高く人望も厚い、セイレーン・オリヴァールが即位した。

 ()を司る聖王には、ハイラーレーン・エレオノーラが即位した。

 

 

 ()とは、神々とも呼ばれる古代エアデーン人の遺物を維持管理・運用することである。

 

 王都のほぼ中心にある王国最大の神殿、ティタレーン神殿。

 その敷地内に建つ「星の塔」の最上階に安置されているのが、神々の遺物の中でも最も重要な聖遺物、「神の石」だ。

 

 「神の石」は、古代エアデーン人の知識の結晶であり媒体、そして、体の弱いエアデーン人がこの星で生きるための「環境保護システム:アーエリオス」の調整機関でもある。

 

 聖務は、その難解さ、複雑さゆえに、「神の祝福者:レーン」と呼ばれる拡張脳機能を持つ者しか、(たずさ)わることが出来ない。

 聖務を行う者は「神官」と呼ばれ、王国貴族は、聖名に「レーン」を持つ者が多く、優秀な神官を輩出することが多い。


 

 神官達は、「星の塔」に魔鉱石を投じて魔力を注ぎ、莫大な魔力を消費するアーエリオスを維持しているが、その調整は出来ない。

 ……「神の石」は、その資格の無い者には、ただの石にしか見えないからだ。

 

 アーエリオスを調整する聖務を行えるのは、「神の石」を見ることが出来る「星の制御者:セイレーン」、そして「星の支配者:ハイラーレーン」と呼ばれる特別な祝福(レーン)の聖名を持つ、王族でも一握りの者に限られる。

 

 聖王ハイラーレーン・エレオノーラは、王国の南端のエクレタ島にある離宮で静養生活を続けており、その戴冠式すら行われないまま、現在に至っている。

 エアデーン人を守る「アーエリオス」は、聖王の不在により、調整されることのないまま、六年の歳月が流れていた。

  

 

 ***

 

 

 十六才になったマグノリア王女は、この春、社交界にデビューした。

 その気質は、父王に似ていると言われ、豪胆で物怖じせず、王女の風格を持ちつつも、気さくな人柄で、国民からの人気も高い。

 城下で過ごすことを息抜きとしている、いわゆる「お転婆王女」で、彼女の崇拝者と呼ばれる青年貴族達に、護衛騎士の制服を着せて、本物の護衛騎士達を()いて、城下で過ごしたこともあった。

 

 

 従兄にあたるセイレーン・アレクシス王子は、一時はエレオノーラの後継者と目されていたが、アンドリュー前国王の崩御前に王国を離れた。

 

 その後、長らく行方不明とされていたが、現在は、母親の国であるジーラント帝国で、魔鉱脈開発に携わっているらしく、その華々しい活躍により、大公位を賜ったらしい。

 王国人女性との婚約は破棄されており、王国に戻ってくる気配はない。

 その不在を理由に、王国での継承権も公式には認められておらず、近く正式に放棄するであろうという噂もあった。

 

 マグノリア王女こそが、次代のハイラーレーンとなるであろうし、継承順位通り、彼女が次代の聖王となるはず……。

 明るく美しく聡明、交遊関係も広いマグノリア王女は、王室メンバーの中でも、注目の的だった。

 

 

 ***


  

 ……時はアレクシス王子の帰国日に(さかのぼ)る……


  

 マグノリアに来客の名が告げられた。

 珍しいことに、彼女の崇拝者や女友達ではなく、マシュー・レーン・エドガートンという名の神官だった。

 マグノリアは、たまたま夜会まで少し時間があったこともあり、気まぐれに会うことにした。

 

 現れた大人しそうな神官マシューは、彼女に謁見を申し込んでおきながら、モジモジとしていて、なかなか用件を切り出そうとしなかった。

 イライラとしたマグノリアは

 

「話せないなら、お帰りなさい!」

 

 と言い放ち、帰らせようとした。すると、その青年神官は思念通話で叫んだ。

 

〈セイレーン・マグノリア様! 『星の塔』の『神の石』を見て下さい! アーエリオスに魔力を送るのが私の仕事ですが、送っても送っても魔力不足の警告(アラート)が出ます。何か……、何か重大なことが起きているはずなんです!〉

 

 マシューの祝福(レーン)は、思念通話に全振りだった。そのタイプの祝福を持つ者にありがちな、口下手な神官だった。

 マグノリアは、そんなマシューの訴えを聞き入れ、渋々夜会の出席予定をキャンセルし、神殿に向かった。

 

 

 マグノリアにとって八年ぶりのティタレーン神殿は、幼い日の記憶の中にあったものとは、だいぶ雰囲気が違っていた。

 祝福(レーン)を持つ優秀な神官達は、聖王陛下の不在により、どんどん他部署に引き抜かれていると聞いたことがある。人手不足の状態らしく、神官達がバタバタと動き回っていた。

 

 「星の塔」の最上階に到着し、魔電梯の扉が開くなり、マグノリアの目に飛び込んできた古代文字があった。

 

「何か……『神の石』に書いてるわ! 赤い文字で、点滅している……」


 マシューは蒼白になり、

 

〈何と、何と書いてあるのですか?!〉

「分からないわ! わたくし、古代エアデーン文字なんて知らないもの!」

 

 居合わせた神官達は、驚き、頭を抱えた。

 このマグノリア王女は、セイレーンなのに……。「神の石」を見ることが出来るのに……。古代エアデーン文字もご存知ないとは!

 

 

 だが、マシューは失望を顔には出さず、根気強く尋ねた。


〈王女殿下、それではその文字の形を、この紙に写し取って頂けますか?〉

「分かったわ!」

 

 神官達を失望させたことに気付いたマグノリアは、一生懸命、自分に見える文字の形を、紙に写し取った。

 

 幼い頃より古代エアデーン文字と愚直に向き合ってきたマシューは、マグノリアが絵として写し出すその文字を、思念通話で読み上げていく……。


 ーーー

 警告    :「星の嵐」接近中

 現在座標  :307275

 中心気圧  :905

 上陸予想座標:302478

 上陸予想時刻:8月19日 22時54分

       :

       :

 ーーー

 

 そのマシューが読み上げる情報に(かぶ)せるように、


「中心気圧九〇五、猛烈な『星の嵐』です!」

「上陸予想座標、出ました! ヴォリアーシャ地方、グレーンフィーン領です!」

「到達予想時、満潮時刻と重なります! 高潮の発生が予想されます!」

「国王陛下へ報告の魔電報を!」

 

 神官達から次々と上がる緊迫した報告に、マグノリアはただならぬ雰囲気を感じた。

 

 ──何なの! 「星の嵐」って何? 王国は守られているんじゃないの?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ