茶番
朝目を覚ますと横には裸姿のフィアラルがいた。
エルフの少女。尖った細い耳はエルフ族の特徴だ。エルフ族は20歳前後から老化が止まり若い姿を保つ長寿の種族だ。人よりも長くの時を生きる。その為生殖本能もあまり強くなく種族自体の数は多くはない。
だが昨日のフィアラルはそれには当てはまらないだろう。何故なら。
(昨日は凄い激しかったからな)
女神の加護は二律背反する理性と本能を巧く両立させていた。恐らく加護を「発情」だけに振り分けていたならフィアラルの意識は無かっただろう。
それでもベットの上はこの惨状だが。
俺は清掃の魔法をかけて一瞬にして新品のベットと変わらない状態にする。俺とフィアラルにも使用しリフレッシュだ。
それにしても
「フィアラルは可愛かったな」
フィアラルの頭を撫でながら呟く。
「旦那様!」
どうやらフィアラルは起きていた様だ。旦那様? 呼び方が変わったな。いや、昨日も確か呼んでいたか。
「そうだな、俺もフィアって呼んでいいか」
「はいっ、旦那様!」
「おいでフィア」
喜ぶフィアを抱きしめて朝の挨拶(口づけ)をする。フィアの挨拶はとても濃厚だった。
さて、今後の生活をどうするかな。
まだ異世界に来て2日目だ。焦る必要は無い。取り敢えずは冒険者としてやって行けそうだしある程度金を貯めてから家でも買うか。いや、永住する訳じゃ無いしな。異世界に来た以上他の場所も巡ってみたいし楽しみたい。
実際にそれだけの能力は与えられてるしな。女神様に(ツゥアハート)に感謝だ。
とは言えそうなるならフィアには冒険者ギルドを辞めて貰わないとな。当然俺に付いてきて貰うつもりだ。
フィアのレベルも他の冒険者と比べて高いし才能があるのは間違い無い。
「フィア、ギルドを辞めて俺に付いて来い」
「はい、勿論です旦那様」
「なんだ、フィアも考えてくれてたのか」
言ったら直ぐに返事を返されたからな。
「はい、旦那様は1箇所に留まる様な方ではありません。私も元は冒険者ですから何も問題はありません」
フィアとは昨日会ったばかりだが元冒険者の感か。俺の事を分かっている様だ。
「そうか、なら頼む。だが直ぐにギルドを辞める訳にもいかないだろ」
「そうですね、ギルドマスターに報告してからですけど。ですが新人の募集は出せばすぐに集まりますからそこまでは掛からないと思います」
ならいいか。
「今日はいいのか」
「休みなので大丈夫です。旦那様と一緒に居たいですし」
「そうか」
嬉しい事を言ってくれる。フィアを優しく抱きしめてキスをする。
こう言う穏やかな日常で俺はいいのだ。
フィアは今日は休みだが早速冒険者ギルドに行き、ギルドマスターに退職する事を話しに行く。
冒険者ギルドに入ると自然と視線が集まる。「あいつが例の」とか「フィアラルが一緒に居るぞ」とか「せんぱい〜」とか言ってる声が聞こえる。
俺は構わず奥に行くがフィアはギルドマスターには自分で話をするそうだ。俺に此処で待ってて欲しいと言われたので仕方ない、暇そうにしているエミリアとでも話すか。
俺はいきなり彼女のせんぱいを連れ出してエミリアの仕事を増やしたので良い印象は無いだろうが構うまい。
「昨日はフィアを連れ出して悪かったな」
「フィア・・・あの、貴方はせんぱいの恋人なんですか」
「そうだ。お前は」
「私は、せんぱいの後輩ですけど、そうなんですね。せんぱいって誰に声をかけられても断ってたから誰とも付き合わないと思ってたから気になってたんです」
「そうか、まぁ俺も昨日会ったばかりだしな」
「昨日っ!?」
「ああ、お互いに一目惚れって奴だな」
言ってて恥ずかしいが俺が女神の加護を使ったのはそうなんだろうな。
「そうなんですね」
本当にあるんだぁ、そんな事。なんて言ってるが本当にあるんだよ。
「それじゃあせんぱい辞めちゃうんですね」
奥を見ながら寂しそうに言うエミリア。どうやらフィアはだいぶ懐かれてたみたいだな。
「そう言う事になるな。今ギルドマスターと話してる所だ」
話していると奥からフィアと厳つい男が出てきた。この俺がギルドマスターのガランだ。レベル35とそれなりの高さだ。
「お前がフィアラルの言う男か」
俺を威圧するように言うガラン。いきなりご挨拶だな。態度の悪い男だ。優秀な受付嬢を引き抜かれて痛い気持ちは分かるがその態度は気に入らん。受けて立とうしゃないか。
「なんだお前は」
「ふん、小僧が随分とデカイ態度を取るじゃないか。俺は此処のギルドマスターだ」
いや、デカイ態度はお前だが?
「それで」
こめかみをぴくぴくさせて遊ぶガラン。どうやら俺の態度が気に食わない様だ。
「フィアラルが辞めてまで付き合いたい相手がいると言うから見てみたが、小僧。お前では釣り合わん、やめておけ」
「そうか。で、フィアどうなったんだ」
「無事退職しました。今から私も旦那様と、同じ冒険者です」
「そうか、それは良かった」
どうやら何事も無く無事に辞めれた様だ。これで晴れて2人でチームを組んでダンジョンに入れるな。
「いい加減にしろよ小僧がっ」
ガランは無視して話す俺達に苛立ったのか突然怒り出した。いや、さっきから怒ってたか。
「そうだぜ小僧、少し痛い目に会わなきゃわからねぇようだな」
「全くだ、餓鬼を指導してやるのも大人の役目だしな」
ガランだけでなく、野次をしてた周りの冒険者達も加わり始めてしまった。だが彼等に指導して貰う事は無いんだが。
実際に魔法だけで無く体術や剣術もスキルが自動的に最適解で体を操る事が出来る。まるで自分にオートモードをかけてる様だ。ある程度こなしたら自分でもスキルを使えそうだし汎用性も抜群に上がるだろう。だから正直彼等に教えて貰う事など思いつかないのだ。
「お前達の言う指導ってのはリンチの事だろう。痛め付けて自分が決まり良くなりたいだけだろ」
「てめぇふざけやがって」
「調子乗ってんじゃねぇぞガキが」
いや調子に乗ってるのはお前達では。ガランもなに「俺が訓練所で指導してやる」とか言ってんだ。他の冒険者達に加担してんじゃねぇよ。
仕方ない、少し反省させるとするか。
俺は女神の加護「好意」を発動 対象はエミリアだ。
「っ!?」
「エミリア、今の話を聞いていたな。どう思う」
「ギルドマスターがこんなに横暴で最低な人間なんて思いませんでした。冒険者の皆さんも自分がせんぱいに振り向いて貰えなかったからって八つ当たりはやめて下さい」
「「「なっ!?」」」
つまりはそう言う事だ。野次を飛ばす冒険者はフィアに好意を寄せてた連中なのだ。
図星を突かれて焦る奴や更に怒り出す奴がでる。そしてその矛先は俺に向く。ナイスアシストだなエミリア。
「どうした、俺と戦ってぶちのめしたいのか。だがお前達じゃ無理だ、役不足だな」
更に煽る。ガランも冒険者達ももう止まらない。
「てめぇいい加減にしろよ」
「下がってろエミリア、コイツをこのまま此処から出す訳にはいかねぇ。こっちだって面子があるんだ」
「そうだぜ、ぶっ殺さなきゃ気がすまねぇ!」
「裏の訓練所で決闘だ。お前もそれだけ啖呵を切ったんだ。このまま帰れるなんて思ってねぇだろ」
遂にギルドマスターであるガランがおれの望み通りの発言をしてくれた。
「いいだろう、でエミリア。ここのギルドにはどれだけ金がある」
「お金ですか、ちょっと待って下さい。レイニー、どのくらいあるの」
レイニーと呼ばれた女性が直ぐにエミリアに返事を返す。
「今は全部集めても金貨500枚位かな、時間を貰って掻き集めたら1000枚はいくと思うけど」
「そうか、まぁ破綻させるつもりは無い。金貨500枚でいい、エミリア、誓約書を書け。俺が此奴らに勝ったら貰う」
「何言ってやがる!」
「そっちこそ何を言ってる。お前らの都合でリンチを受けてやるって言ってるんだ。どうせお前らが勝つんだから問題無いだろ」
ここで俺はフィアに合図を送る。念話で俺に、奴等が強いと注意するように言ったのだ。
「旦那様! 彼等はCランクの者もいます。それにギルドマスターは元Bランクの腕利きです。危険過ぎます!」
正に迫真の演技。フィアは女優になれるな。それにしてもフィアは俺の強さを知らない筈だが、信頼されてるって事でいいのか。
「おいおい、ギルマスがビビってんのかよ。こんなガキ俺がぶっ殺してやんよ」
「さっさとサインしろ!始められねぇだろうが!」
フィアの心配そうな声に冒険者達はやる気を出したようだ。ガランに野次を飛ばす冒険者達。敢え無く冒険者達に迫られサインをしてしまうガラン。やってしまったな。
契約書は公的な書類だ。物的証拠が出来てしまった以上言い逃れは出来ないだろう。証拠隠滅が出来ない様に契約書にはプロテクションの魔法をかけておく。これで問題無く契約の履行ができるだろう。
さて、それじゃあ茶番を始めるか




