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幕間 王国王女

 

 王国の王城の一室。誰もがお飾りだと思っているその姫は、その実、誰よりも頭脳を巡らせていた。


 実際彼女の私兵は側付きの執事とメイド2人の計3人のみ。と周りからは思われている。


 だが彼女は王女として自由に使えるお金を使用して配下を増やしており、彼女に忠誠を誓う部下は城下だけでなく国の外に迄及んでいた。彼等は自らの実力を王女に認められて王女自ら直接交渉の上、王女の目となった者達だ。


「そうですか。ではアレックス兄様も闘技大会に出場されるのですね」


「はい姫様。ディック・カーマイン様も同様に出場される様です。前回大会の優勝者ですから王国中が注目している事でしょう」


 執事であるルーマンが王女、ヒカリ姫に報告しているのは王国が主催する年に一度の闘技大会の件だ。ディック・カーマインが王国最強と言われるのはその大会で3度の優勝を果たしているからだ。


「そうね、アレックス兄様にディックが出るなら名を上げようとする者の中にも腕に自信のある者が挙って出場する筈だわ。王国も魔人族の脅威にさらされた以上国防の強化は必須。能力の有る者を多く取り込まなくては帝国に隙を突かれる事になる。・・まぁもう突かれてるのだけれどね」


 ヒカリ姫は闘技大会に出場する選手の個人的なスカウトを考えていた。


 無論ヒカリ姫とは別に王国でも騎士団や貴族は優秀な人材を手に入れる良い機会である為当然観戦して自陣営に引き入れるだろう。彼等の目に留まる前に優秀な人材ならスカウトして配下に置きたい所だった。



 王女が個人的な武力を持とうとしているのは謀反を考えているからでは無く王国の、もっと言うならば国王や貴族達の危機意識の甘さにある。と言うのも王国は帝国とは違い貴族の力が強い為国王が全てを自由に支配出来る訳では無く、ある程度譲歩する必要があった。全てではないが国王のその態度によって勘違いして付け上がる者もいる。だが彼等は可愛い者で国王に直接不敬を働けば裁けば良いだけで本当に厄介なのは表面に出ず裏で非合法に手を染める悪徳貴族達だ。


 彼等は闇の世界と繋がっており盗賊ギルドや暗殺ギルドが噛んでいる場合もある。迂闊に手を出せば手酷いしっぺ返しを食らうのを予想出来た。


 それに処分出来たとしても代わりとなる後釜が都合よくある訳ではない為その後の混乱も予想されたのだ。


 とは言えヒカリ王女は地盤が固まればいずれ裏から手を回して処分するつもりだ。国家の膿は残らず断罪する。



「王国の膿を処理する為には能力だけでなく高潔な人物でなければならないわ。冒険者にそれを求めるのは間違ってるかも知れないけれどね」


 王女の言葉に執事も苦笑いで頷いた。


 冒険者は自由だ。ダンジョンに潜り一攫千金を目指し戦うのも、採取や護衛、魔物の討伐と言った依頼を好きに選んで冒険するのだ。


 故に縛られる事を嫌う者も多い。勿論貴族に仕官するとなれば受ける者だっているだろう。王女の個人的な配下になれば名声も金も得られるだろう。公開すればだが。


 ヒカリ王女が求めるのは陰に隠れて此方の意図通りに動ける裏切らない人材だ。王女への忠誠は必須である。金はある程度出せるが優秀な冒険者なら自身で依頼をこなした方が儲かるのは間違いない。そして活動を公開しない以上名声が得られる事は無い。名を売れない窮屈な仕事を好き好んでやる冒険者がどれ程いるのか。王女に仕えるという自己満足でやって貰わねばならないのだ。当然それだけで栄誉ある事なのだが。


「騎士団の方はファガンドラ団長が来るのでしょうね。実力のある方なのは間違いないのでしょうけどどうなのかしら?」


「ヒカリ王女の想像通りです。かつての騎士団長、剣聖ジャンバル様を追放したのはファガンドラ様であり協力関係に貴族達がおります。それも平民を見下す者達です。ミルロ男爵が既に自白していますが彼だけでは弱いですね。告発したとしても揉み消されるのが落ちでしょう」


「トカゲの尻尾切りね。男爵程度じゃ駄目ね、せめて伯爵位の地位がある者を追い詰めないと」


「ファガンドラ様の実家は侯爵位、権力はかなりの物です。それに出世欲で他者を悪事によって排除したとはいえ実力も又相当の物です。ジャンバル様には勝てずとも現騎士団最強なのは間違いありません」


「確かに騎士団ならそうかも知れないけど王国にはアレックス兄様もいるし、それにディック・カーマインもいるわ。そうでしょう?」


「ええ。それにしても姫様はカーマイン様の事になると表情が硬くなりますね」


「・・・そうね。あの人はどこか違うわ。英雄なのは間違いないのだろうけど私は不安だわ。アレックス兄様が認める親友なのはわかってるけどね。能力も人格も確かで家柄も充分。疑う余地はない程優秀な人物。それでも警戒はしておきなさい」


 ヒカリ姫にはディック・カーマインという人物は異常者にしか見えなかった。周りから慕われ王国最強の名を持つ英雄だが何故か受け付けられないのだ。そう、あまりにも胡散臭い。あの明け透けな態度が気に食わない。


「姫様の考え過ぎでは?」


「それならそれで良いのよ。最悪を想定しておけば状況はそれ以上悪化しないわ。けどそれが当たっていた場合国が滅ぶかも知れないわね。なんせ相手は王国最強だもの。先がどうなるかなんて誰も予想出来ないのよ?」


「・・・彼が敵対しない事を祈っておりますよ」



 執事は重い溜息をつく。主人相手に失礼ではあるが気心の知れた間柄。今更取り繕う必要も無いのだ。



「メリルとランカは?」


「暗殺者ギルドです」


「・・・必要悪って事よね。これは。いずれ私も殺されるのかしら?」


「姫様。滅多な事は仰らないで下さい。今の暗殺者ギルドはかつての殺人集団ではありません。姫様が作り替えた諜報機関なのですから非合法な事など行いません」


 諜報機関だと言っているのにどの口で言うのか。ヒカリ王女は苦笑いしてしまう。



「いいわ。祭りは近い。不謹慎だけど楽しみだわ」



 笑みを浮かべたヒカリ王女に意を決した表情で執事ルーマンが口を開く。


「そんな姫様に笑えない話がございます」


「何かしら。随分勿体ぶったわね。いいわ、聞きたくないけど言いなさい」


「国王が姫様の婚約者を決めた様です」


「・・・はい?」



 呆けて固まるヒカリ王女。



 そこに畳み掛ける執事ルーマン。



「お相手はディック・カーマイン様です。姫様は闘技大会の優勝者の景品として嫁に出される事になります」



「なぁっ!?」



 なぜ優勝の景品なのにディック・カーマインの嫁なのか。ディック・カーマインが優勝するからである。



「ふ、ふふふふ。よりにもよってディック・カーマインの。それもこの私が景品だなんてお父様ったら」



 ふふふふふ、と笑い始めるヒカリ王女に更なる追い討ちがルーマンから加えられる。



「それだけではありません。なんと陛下は姫様を餌に他の国にいるSランク冒険者を釣り出そうと思われているご様子。どうやらディック・カーマイン様との決闘後の疲弊している時を狙い隷属の首輪を使用するつもりの様です」



「はぁっ!?」



 ヒカリ王女が王女に有るまじき声を上げる。



「バッカじゃないのっ!?」



 普段のお淑やかさが消え失せる程の罵声であった。


「危険過ぎるわ。というか無謀よ。王都が焼け野原になるわよ?」


  ヒカリ王女はSランク冒険者の異常性を知っている。ディックには一歩及ばないとはいえ実の兄がSランクだからだ。


 それに側仕えの執事とメイドはBランククラスの実力者でもある。そんな彼らがAランクを壁を超えた化物だと表現しているのがSランクだ。一体Sランクとはどれだけ壊れた存在なのか。



「私の婚約がどうこうなんて言ってる場合じゃないわね。下手をすれば国が滅びるわ、帝国や魔人族なんて関係無くね」


「国防を口にして宰相や貴族の者達が止めても全く聞き入れないようです。このままでは陛下は強行するでしょう」


「私の言葉なんて始めから聞かないしね。でも実行するのは明らかな悪手だわ。そもそもそんな国防なんてあり得ないわよ。バカじゃ無いの?」


 ならば止めるしかない。どうにか穏便に済ませる方法が無いものか。普段の優柔不断さはどこに行ったのか国王は頑なに強行するつもりの様だ。



「集められるだけの戦力を揃えておきなさい。もし強行するようなら力づくでも止めるしかないわ」


「もしバレでもしてら姫様の身が危険に晒されます。どうか浅慮はなさらぬように」


「何? 私は景品なんでしょう? ならその程度の命で国を守れるなら構わないわ」



 皮肉げに笑ってヒカリは指示を下す。



「行きなさいルーカス。貴方の目で王都全てを監視するのです!」


「は!」



 元暗殺ギルド王都本部のエース、ルーカス。その腕はかつてのメリッサを遥かに超えており勇名馳せた英雄すら亡骸に変えてきた本物の殺し屋だった。


 彼は暗殺対象である王女と邂逅した事で人生が変わった。やる事は変わらない。だが意味は果てしなく違う。



『国の為』



 それが王女の口癖。そんな王女の力になる為に集まったのが自分達だ。



 彼は王女から使命を与えられた。生きる意味を手に入れたのだ。その時から信じられない程の充足感を手に入れた。



 ならば今はただ命令に従い動くのみである。王女に一礼したルーカスは音も無くその場から消えた。






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