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幕間 王国会議

 

 王国の王城にある大会議室には国を動かすトップが揃っていた。彼等はリュード伯爵からの報告書の内容を話し合っている。



「まさか魔人族が王国を攻めてくるとは信じられん。何処にそんな余裕があるのだ。今も帝国との戦争の真っ只中の筈ではないのか?」


「帝国もいつまで勝てもしない戦さをしているのだ。無論此方としては有り難い事だがな」


「帝国など兵力ばかりの野蛮な国だ。国の豊かさは此方が遥かに上だ。恐る必要など無いであろう」



 大臣や官僚の重鎮達が帝国を非難する。


 国王は宰相に尋ねた。


「それでリュードを襲った魔人族の目的はなんだ?」


「現在魔人族は帝国と戦争をしております。戦況は膠着状態、帝国では魔族領域に存在する魔物の群れを突破する事は不可能、従って魔人族側がわざわざ王国にちょっかいを掛ける理由はありません。リュード伯爵の報告書にある様にドラゴンファングという冒険者の言葉が事実であれば魔人族側の内部勢力の暴走でしょうな」


「うむ。で、それで?」


「はい。恐らくは、ですが。王国を攻められたく無ければ帝国を滅せ、という魔人族の警告でしょうな。魔人族は多種族に比べて全ての能力値が恵まれてますが数が少ない。帝国を本気で落とすとなると魔人族としてもかなりの数を動員する必要があります。滅せはするかも知れませんがリスクが大き過ぎます。なら他から戦力を持って来ればいいとでも考えた者が居るのでしょう。魔人族を統べる魔王は絶対に自分からは動かないと聞きます。ならば報告書通り反魔王派閥の暴走の可能性は高いでしょうな」


 宰相は魔人族の計画のかなり正確な部分を読み取っていた。彼が優秀なのは間違いなかった。


「宰相、何故部下の暴走と言い切れるのです。魔王自身の考えが変わったかも知れないのでは?」


「無論その可能性も無いとは言い切れませんが。あり得ない、と言いたい程の事ですが魔王は女神の加護を授かっている様だ。これが事実であるならば魔王はこの世界を守護する英雄の1人といえる」


 宰相はリュード伯爵の報告書に視線を向けてため息ながら吐き出した。


「世界を滅ぼすと言われる者が世界の守護を女神から任されているなど笑い話ですがな」


 この世界に生きる者なら魔王は恐怖の代名詞でもある悪しき者なのだ。当然勇者と呼ばれる人族の勇者は全ての種族の英雄であり女神の加護を受けて立つ世界の守護者という役回りだった。この事実は魔王が女神の加護を得ている時点で瓦解する。この世界に魔王以上の脅威など存在しないからだ。



「宰相殿のお言葉も最もな物。正直私には魔王が女神様の加護を受けているなどあり得ないと思いますがね」


「しかり。それに情報源は冒険者と言うではありませんか。魔人族がそんな重要な話を簡単に外部に漏らすなどあり得んでしょう。大方報奨金欲しさに大ボラを吹いた可能性も否定できますまい」


 魔人族に対してはこれと言った情報が多くある訳ではない為宰相も確かな事は言えなかった。周りの貴族達もそれもそうだと魔王が女神様の加護を受けている事に否定的であった。


 それには宰相自身も肯定的であったが口には出さない。やはり今迄あった悪と正義の潜在的な線引きがひっくり返るような思考をおいそれとは受け入れられなかったのだ。







 話合いは帝国に対しての対応に移る。長い時間を掛けて決まったのは現状は様子見として何かあればその都度対応する事。要はこれまで通り消極的な対応である。



 帝国を攻め滅ぼすべきと言う強硬派の貴族も居るが 帝国と全面戦争した場合に王国が受ける被害は並大抵の物ではない。小国ならともかく勝算もなく大国との戦争など簡単に出来る訳がないのだ。帝国との戦争に対して国王は臆病くらいに慎重であった。


 ならばと武力の増強を図るべきと騎士団や兵士の練度、装備品の向上が打診され予算がとられる事になった。これには軍務大臣もほっこり顔だ。代わりに財務大臣は頭を悩ませる事になるのだが。


「そう言えばもう直ぐ闘技大会の時期になりますなぁ。そこで優秀な人材が確保出来れば騎士団の強化にも繋がりましょうな」


 自慢の髭を撫でながらネロイ伯爵はブラウネン侯爵に挑発するような目を向ける。


 この2人は犬猿の仲で事あるごとに対立している。そして2人とも武力を重視している為私設騎士団にはこれまで闘技大会で活躍した者達が多く雇われていた。


 当然お国大事の今、個人的に動くのはリスクが高い。それでも動くだろう相手に早速牽制を入れた訳だ。


「確かにネロイ伯爵の言う通りだ。闘技大会で活躍する者であるなら重用して然るべき。この時期に我等が協力せねば貴族である資格はないであろうな。はっはっは」


 余裕の表情で皮肉を返すブラウネン侯爵。口元がにやけている。


「っ! ・・・そうですな、ブラウネン侯爵」


 ギリッ! と歯軋りの音を立てて苛立つネロイ伯爵。



「ふむ闘技大会か。騎士団長はどう思う。優勝はディックとアレックスどちらだ?」


 苦笑いしながら国王の問いに騎士団長が答える。


「ははは、気がお早いですな陛下。しかしながら陛下には申し訳ないのですがディックの勝ちは揺らがないかと思います。とはいえ王国にはディック以外にアレックス殿下に勝てる者などおりませんがね」


「やはりまだ届かぬか。流石最年少でSランク冒険者の称号を取っただけはあるか。うむ、ならばもう構うまい。カーマインよ、お主の息子は大した者だな。どうだ、そろそろ我が娘のヒカリと婚約させぬか」


「「「!!!」」」


「へ、陛下。ここでそのような発言はお控え下さい!」



 宰相が慌てて止めるも国王は取り合わない。



「構わぬだろう。ディックの力は既に国家権力の枠から飛び出している。冒険者に与えられるSのランクはその最高位に他ならん。優れた血を王家に入れるのは我等の使命よ。それに強すぎる力は管理しなければならん。ディックが平民出でなくてよかったわい。それでは流石に娘をやれんからな」



 それは他の貴族に対しての警告でもあった。ディックの身分は子爵家の次期当主だが自身のSランクまで成り上がった冒険者としての実力と王国最強の名声で家の陞爵は確実。金と実力を持った今一番波に乗っている人物なのだ。それ故に見合い話は多かった。だが本人の性格により今はまだいいと断り続けていたのだ。



「それで騎士団長よ。ディックが魔人族と戦って負けるとは思えんのだがどうなのだ?」


 どうやら国王の中では既に婚約は決定事項の様だ。宰相が取りつく島もない。



「並みの相手ではディックに勝つのは不可能です。魔人族でもそれなりの地位にいる者でもなければ相手にもならないでしょう。ただ戦争となれば全ての戦場にディックがいるわけでも無いので王都はともかくとして地方での戦況となれば絶望的でしょう。リュード伯爵の報告書によればA、Bランクの冒険者が束になり退けた様ですがそれは騎士団では隊長格に匹敵します。並みの兵士では歯が立たないでしょう」


「うむ。皆の者聞いていたな。今回の闘技大会では騎士団が優先的に取り入れるが国に仕えるよりも貴族の雇われの方が好む者もいるだろう。その者達に関してはそれぞれの交渉は許可する。自分の領土も守れないなど貴族とは言えないからのぅ」



 国王から勧誘の許可が出たと言っても国に仕えない者が貴族に仕えるかといわれれば疑問が残る。自領は自ら守れという事に他ならなかった。



「ふむ。国民への発表はディックの闘技大会優勝と共に行う事にするか。いや、いっその事大会優勝者はヒカリと婚約という事にするか」


「「「なっ!?」」」


 国王の信じ難い爆弾発言に貴族達が慌てふためく。まさか王女を大会の景品にするとは。


「なりませんぞ陛下! 王家の者を安く扱うなど有ってはなりません!」


「宰相よ、いつの時代も血は流れる物だ。それでも過去に比べて今の世はそれでも安定しておる方だ。巨大国家が出揃い拮抗しておる。割りを食うのは小国ばかりでな。だがこれからは動乱の時代がやってくる事になる。魔人族が動き出したとなれば帝国との戦争の機運は高まる。それどころか他の国も無視できんじゃろう。ここで王家が表に出る事に意味があるのだ。それに優勝はジャックなのだ。問題あるまい」



 国王の言い分も理解は出来るが容認は出来ない宰相は下がる様に騎士団長を見る。騎士団長は苦笑いしながら国王に尋ねる。



「確かにディックに勝てる者は()()には居ないでしょう。ですが、もし他の国にいるSランク冒険者が闘技大会で王女をという噂を聞いて出場したらどうしますか。闘技大会は基本誰でも出場出来ます。流石にSランク同士の戦いとなればどうなるか私もわかりません」


 正確にいえば分かっている。規格外同士が戦うには闘技場は狭すぎる。お互い全力を出せずに場外だ。きっと闘技場を破壊してしまうに違いない


 だが国王は又もや耳を疑う事を平然と宣う。



「それこそ問題ないわ。少なくともディックが引き分けに持ち込めるなら問題ない。判定でディックを優勝させてその者には隷属の首輪を使うのだ。ディックと戦うのだ、相手も無傷とはいくまい。これで王国の戦力は補充出来る。帝国にすら勝てるであろう!」


 Sランク冒険者とは文字通り一騎当千の戦力を持っている。隔絶した力を持った存在にとってその他大勢などドラゴンに踏まれるスライムでしか無いのだ。


「き、危険過ぎます! Sランク冒険者は英雄的存在! 手を出していい相手ではありません! ましてや冒険者ギルドすら敵に回してしまいます!」


「だからこそ万全を整える。それにやつらとて同じことをしておるではないか。やつらの上層部など叩けば幾らでも埃が出てくるのだ。抑え込むのは問題ではない。それよりも其奴らのパーティーに隷属の首輪を嵌める方が大変じゃ」


 既に国王はSランク冒険者を捉える方向に向いていた。こうなっては宰相の言葉も耳を通らない。



「いいな宰相。騎士団長も協力するのだ。それで王国はより盤石となる!」




 こうして会議は締めくくられた。罠にかかるのは冒険者か、はたまた・・・







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