褒賞
リュードの街を襲った魔人族の企みは失敗に終わった。リュードの街は冒険者達やリュード伯爵の配下の者達の奮闘により見事に守り切ったのだ。
とはいえ魔人族の計画は魔人族に人族の街が襲われる事であり、計画は予定通りだった訳だが。
そしてリュードの街の中央にある街一番の豪邸では祝勝会としてリュード伯爵自ら功績を挙げた者達を労う為のパーティーが盛大に行われていた。無論条件次第では配下へとスカウトする為だ。
「諸君、彼等が街を救ってくれた英雄達だ。魔人族の首魁を撃退し、アースドラゴンを討伐した冒険者達。スターナイト、ドラゴンファング、スカイランサー、ブルーフォレスト。そして魔物の氾濫を起こしリュードの街に迫ってきた魔人族を討伐したライン、ミスマル、モレガン、カスタードだ。彼等には今回の報酬に一人金貨100枚を贈呈する!」
うおぉぉぉぉぉぉ!!!
盛り上がっているのは彼等のパーティーの冒険者達だ。会場に集まっているのはリュードの街に住む貴族達と魔人族討伐に活躍した冒険者達だ。マナーに煩い貴族達も今日限りは大目に見るだろう。
壇上では各リーダー達がリュード伯爵に紹介され報酬を受け取っている。
彼等の仲間達も後で受け取るだろうがこれは形式であり人前でやるから意味がある。
そんな中、メイド服に身を包んだ獣耳娘達がいた。彼女達5人はある人物の所有するメイド娘である。猫耳と兎耳の獣耳娘もいつのまにかある人物に飼われていた。
「ご主人様ー、お魚さん食べるにゃん!」
「待ちなさいココ。今は私がご主人様に食べさせる番よ」
「フローラはもうやっただろ! こ、今度はオレが。ご、ご主人様ぁ、はい、あーんっ」
「何あざとく上目遣いで甘い声だしてるのかしら? フィオナはそんな娘じゃなかったわよね!」
「う、うるせーよ!」
「(こくこく)」
ぴくんっ
「ほんとにゃ! あざと過ぎにゃん」
「あざとくない!」
「(こくこく)」
んぅっ!
「リズはさっきから頷いてるけどそんな資格はないにゃん!」
「(!)」
「なんで驚いてんだよ。ご主人様に耳もみもみほぐされて羨まし過ぎなんだよ!」
「(!)」
「貴方達、少し騒がし過ぎませんか?」
フィアが穏やかな笑顔で注意する。
「メイドたる者常にお淑やかにご主人様に仕える物ですよ?」
ミィがこちらも笑顔? で一言。
「えと、ご主人様に迷惑の掛からない程度を心掛けて下さい」
ヒナが姉からのプレッシャーにより何か言わないといけないかなーという雰囲気に押されて当たり障りない言葉で濁す。
「フィア姉様方。この娘達も直ぐに仕える事の意味を覚えると思いますので今はそのくらいでお願いします。貴女達もご主人様からならともかく人目のある場所では弁えた行動を取りなさい。宜しいですね?」
「「「「は、はい!」」」」
少し空気が重くなり始めた所をリアが上手く収めていた。
何故この場にリョウ達が居るのか。それは今回活躍した優秀な冒険者だから、ではなくアリスティアが貴族として呼ばれていた為だ。リュードの街に住む貴族達の殆どがリュード伯爵から声が掛けられており出席しない訳にはいかなかったのである。つまりはそのオマケである。
そして今回表彰される冒険者達も知り合いに声を掛けても良いと許可を貰っている。よって貴族のパーティーにも関わらず意外にも冒険者関係者達が多く集まっているのだ。
そんな中リョウはアリスについて来た為貴族席であり獣耳娘の耳をもふもふしながら癒されていた。メイド娘達はそんなリョウに献身的にサポートしている。ココは次のもふもふタイムは自分の番だと猫耳アピールしているくらいだ。
リョウとしても大好物のエルフ耳もあれば色取り取りの獣耳もあるのだ。正に選り取り見取りの楽園とも言うべき天国が拡がっていた。
とは言え冒険者達にメイド娘を引き連れた冒険者の存在は周知の事実。彼等の事はアンタッチャブルとして扱われていた。
当然リョウが暴走するからである。イヴも少しはっちゃけた出来事があったが。
だから彼等にちょっかいを出すのはこの場にでは貴族達、そして獣耳娘に心奪われた者達だけだった。
「おいおい、お前随分可愛い娘侍らかしてんじゃんかよ。俺にも少し分けてくんない?」
社会を知らない貴族のお坊ちゃんもその一人。自分の常識が通用しない世界が有るの事を理解していないのだ。平民は貴族に逆らえないと勘違いしたままからんでしまった。
フィアがリョウの目を見て何も言わないのを察すると直ぐに追い払う。
リョウは今リズの兎耳をふさふさ、もみもみするのに忙しいのだ。リズも気持ちよさそうに顔を赤くして(ん〜)と悦んでいるようだ。
「お話の途中申し訳御座いませんが主人は貴方様とは話をされないとの事ですのでお引き取り下さい」
「な! なんだと、無礼だぞ女! っ!」
腹を立てた貴族の青年だったがフィアの顔を見て表情が固まる。
フィアの美貌は美形の多いエルフの中でも群を抜いている。それもまだ少し幼さの残った美女と美少女の中間のこの時しか楽しめない可憐でありながらせつない美しさを併せ持った恋を咲かせた一輪の花。
恋する乙女が美しいのは当たり前と言えた。
そして惚れる男が出る事も。
「俺と結婚してくれ」
何も考えもせずに自然と出た言葉だった。
遊んでばっかりの不良貴族のボンボンだ。本気で恋愛などした事もない。女なんて遊びの道具としか思ってなかった。
今初めて本気になったのだ。
「お断り致します」
それに対する答えは即答で返された。当然の如く拒否された。相手にもされていない。
「なっ! ま、待ってくれ。俺は本気だ! 絶対幸せにして見せる! 金だってある。贅沢な暮らしを約束するぞ!」
「お引き取りを。サラ」
「はい、フィア姉様。ほら、ご主人様の迷惑になるから早く席に戻りなさい。じゃないとお仕置きするわよ?」
「ひ、ひぃ!」
貴族のお坊ちゃんはサラのひと睨みで脱皮の如く退散していった。
その後もメイド娘に手を出そうとする勘違い野郎が現れてはサラに追い返される者が続出した。
「良し良し」
「フー、フー(ふるふる)」
「旦那様、今はそれくらいに。それ以上は帰ってからでお願い致します」
リズが発情し始めた為流石にフィアも注意を促したが。
「ふむ。では次は猫耳だ」
「にゃーっ♪」
まだまだ獣耳を楽しむ様だ。
そんなリョウを睨むのは壇上に上がっていた今回の主役達だ。
「おい、あいつか? 俺のフィオナを横取りした野郎は」
ガラが悪い、顔は怖い、が腕は立つ男。ダグラスはステージの上からメイド娘に囲まれたリョウにガン付けていた。
「ああ。俺のクーリカを奪ったのはあいつで間違いないだろう。奴が例のご主人様とか言う奴だ」
明らかに怒気を含む声でバルドはメイド娘に囲まれた男を睨み付けている。
「僕のフローラがあんな小物の物になって良い訳がないさ。必ず助け出さないといけないね。あぁ、それにしてもやっぱりフローラは凄く綺麗だ! 美し過ぎる! それに胸も大きくて素敵だ!」
「フィオナの方がでけーだろーが!」
2人に同調しながらも視線はフローラから離れないアイン。以前リョウとは会った事があるが、アインが覚えている筈もない。
「ふん。胸もが無くとも」
彼等3人とも既にどうしようもない程にベタ惚れ状態だった。好きな相手なら胸のサイズなど関係ないのだ。それが叶わぬ恋であろうともだ。
「で、どうするよ、バルドの旦那。女達の前で焼き入れてやるか?」
「それでクーリカから非難されたら意味が無いだろう。やるにしても何か理由がいるな」
「彼女達の主人に相応しいか見てやるってのじゃダメなのかい?」
「そもそも強そうには見えねぇな。はっきり言って雑魚だろ。それなりに強かったらそこの騎士達みたいにここにいる筈だろ?」
ダグラスが視線を向けたのは魔人族、ロックスを討ち取ったライン、ミスマル達だ。彼等は仲が良さそうに談笑している。
「確かにな。なら警戒するまでもないか。俺達が軽く揉んでやれば直ぐに化けの皮を剥がすだろうな」
「へっへっへ。いーねそりゃ。それじゃあ早速やってやるか?」
「そうだね、愚かな男に天罰を下してやろうってね」
男達はニヤつきながらメイド娘達の方へ近づいて行った。
「・・・なんて話をしてる様ですね」
ミスマルがラインと戦友であるモレガン、カスタードに隣から聞こえてきた会話を説明していた。
「愚かな男とは彼等の様だな。相手の実力も計れないとはな」
ミスマルの説明を聞いたラインが溜息を吐く。
「そんなに強いのですか。その、リョウさんと言う方は」
「強いなんて物じゃない。正直彼からしてみれば俺達が倒した魔人族なんて相手にもならないだろうな。瞬殺されるのが落ちだ。俺は彼がオークキングを目の前で瞬殺したのを見てるからな。彼等じゃ話にならないだろうな」
「オークキングだと!? まじかよ。そんな強ぇーのになんで出て来なかったんだ?」
「出て来てましたよ。最終防衛線、リュードの街の目の前が彼の戦場です。まぁ彼が最前線まで出ていればあっさり片がついたかも知れませんが帰る街が無くなっては意味が有りませんからね」
「あー、まぁ確かにな」
ミスマルの言う事も一理あるとモレガンも頷く。
「でもそんなに強いってまるで勇者様の様ですね。Sランクの方達はみんなそうかも知れませんが」
「1人で無双出来るって意味ではそうかもな。だが俺達もあの程度の魔物なら充分無双出来てたんじゃないか?」
「ナイフも身体もボロボロになりましたがね」
「何言ってやがる。報酬も貰ったんだ。良い武器を新調して早くダンジョンに潜りたいぜ」
モレガンはレベルアップによる能力向上の高揚感が抜けきらず早く体を動かして試したいみたいだ。
「確かにモレガンの気持ちは分かりますね。俺も今はかなりレベルアップしましたからね」
「ああ、俺達はまた確実に壁を超えた。このまま突き進めばいずれ手の届かない巨大な壁だって手を掛けられる筈だ。俺はこの手で必ず掴んで見せる」
ラインが手のひらを強く握りしめる。モレガンやカスタードは分からなかったがミスマルは彼の思いを知っている。
「やれますよ。私達なら必ず」
「ああ。そうだな」
頷くき合うラインとミスマルにモレガンがツッコミを入れる。
「おいおい、そういや新しい武器って言えばラインはあの魔人族の魔剣があるだろ。どうなんだよ使った感じはよ」
魔人族、ロックスが使っていた戦利品である「魔剣オルクス」は話し合ってとどめを刺したラインが受け取る事になった。売れば金貨数百枚分の価値になるだろう物だ。それだけの大金となれば山分けが基本だがモレガンとカスタードは躊躇う事なく辞退した。強さを求めるラインとミスマルの姿に影響されたのだ。
「ああ、あれは凄まじいな。大量の魔力は食うし制御するのに集中力がいる。あれを使い熟すには相当な研鑽が必要だろうな。だが威力は申し分無い。これからが楽しみだよ」
魔剣の能力を十全に発揮するには魔力は勿論の事相応の技量が要求される。土を操るという単純でいて応用力の高い能力は使用者次第でいくらでも強くなれる可能性を秘めていた。
「お? どうやら始まるみたいだぜ」
モレガンの視線の先には血気盛んな男達が声を上げていた。
「どのようなご用件でしょうか?」
又もや別の冒険者が近づいて来たのを察したサラが主人の邪魔にならないよう素早く声をかけた。
「なに、僕達はそこの男に用があってね。悪いけど通してくれるかい?」
イケメンスマイルでサラに返答したアイン。普段であればサラ程の美少女を見れば口説くのがアインにとっての常識なのだが、今の彼の頭の中にはリョウを無様な見世物にする事で一杯だった。
「お断り致します」
「? ぇ!?」
故に彼のメイドから断られるなど考えてもいなかった。
自分はAランク冒険者だ。それもリュードを救った英雄の1人なのだ。それがたかが使用人風情に舐められるなど有り得ない。あってはいけない。そんなプライドからアインは高圧的な態度を取ってしまう。それは他の2人も同様だったようだ。
「何だって?」
「ふん。話にならんな。悪いが通させて貰う」
「だな。行くぜアイン」
「ああ」
だが、当然そんな横暴を許すメイド娘達ではない。
「通せないと申した筈ですが? あなた方は人間の言葉が分からないのでしょうか?」
メイド娘達を束ねるメイド長のリアは冷めた目で警告する様に煽っていく。基本メイド娘達はこの手の男達が嫌いだった。リョウと結ばれてからは尚更に。
「あー? 何だよウゼェ。邪魔だってんだろ? てか誰にもの言ってんだこら」
イラついたダグラスがリアに手をあげる。それは怪我をするのを免れない配慮の欠けた冒険者に有るまじき行為であった。普通に考えて一般人としか思えないリアとAランク冒険者であるダグラスではステータスが違い過ぎるのだ。故に冒険者は一般人に手を出すのは禁止されている。
ダグラスの行為は余りに悪手であったと言える。
パンッ!!
ダグラスの払った手がリアの頬を叩く。リアはその手の威力が強かったのかその勢いで倒れて動けないでいる。様に見える。
当然演技である。
リアのステータスを知らない周りの人達はダグラスがメイドに暴行したと受け取った事だろう。女優顔負けの演技力である。
一連の出来事に周りのメイド娘達だけでなく参加者である貴族や冒険者達も静まり返っていた。
何故か?
単純だ。彼等は今回一番の功労者であり名実共にリュード伯爵直々に表彰されたリュードの英雄になっていたからである。そんな彼等を取り込もうと周りの貴族や商人などは機会を伺っていた、そんな折の出来事であったからだ。
そう、彼等は正に色ボケにより周りが見えてなかったのだ。
冒険者は粗暴な者も多いがそれを踏まえてもこれは余りにも手酷い失敗であった。
何よりこの男を怒らせてしまった事がである。
「覚悟は出来てるんだろうな?」
ビクッ!!
「「「ッ!?」」」
リョウはメイド娘に害を為すゴミを許す程お人好しではない。寧ろ地獄に叩き落としてやろうかという程はらわた煮え繰り返っていた。
「おい、 何とか言ったらどうなんだ?」
「「「(プルプルッ)」」」
リュードの英雄であるアイン達は小刻みに震えるしか出来なかった。
それもそのはず。リョウはアイン達に威圧スキルを発動させていたからだ。
前に感情のまま威圧を放ったら軽くショック死した為苦しを味あわせる事が出来なかったのだ。今回はそんなぬるい事では許してなどやらない。普段から執拗に誘惑してくるドスケベメイドとは言え可愛いメイド娘を傷付けられて黙っているなど主人として許されないのだ。
周りの来場者は何故アイン達がプルプルしてるのか理解している者は少ない。蛇に睨まれたカエル状態がトイレを我慢している様に映るかもしれない。
「どうしたんだ? 何でなにも言わない。喋れない訳じゃないだろう?」
「「「(ヒッ、ヒィーッ!)」」」
心の中で悲鳴をあげる。
事実喋れない。それどころか恐怖は既に限界に達していた。一流冒険者である彼等のドラゴンや魔人族を前にしても臆さなかった心臓は限界で破裂寸前だ。それを表すように股間はとっくに限界を迎えて制御出来ずに小さな池を作っていた。
そんな彼等の痴態を見て少し怒りが収まったのかリョウは溜息ひとつ。
「今後俺のメイドに近づけば・・・わかるな?」
「「「ブンブンブンッ!!!」」」
首が外れるのでは?という程激しく縦に振るアイン達に念を押してリョウはメイドを連れて帰っていった。
最早彼等にリョウと敵対する意志は無かった。ただ絶望的なまでの恐怖から解放された安心感だけがあった。
「・・・ぉ、おい」
「・・・うん」
「・・・あ、あぁ」
3人同時に頷いた。
「「「生きてるって良いなぁ!!!」」」
今回もまた悪運強い彼等は生き残れたのだ。
「おいおいおい。Aランク冒険者様が何もしてねぇのにあの様だぜ。どうなってんだよ?」
「・・・何をしたのか全く分かりません。ですが彼等はまるで死神を見たかのように恐怖していましたね」
モレガンとカスタードはリョウがアイン達に何をしたのか全く分からなかった。
「ああ、俺にも分からないな。ミスマルはどうだ?」
「私にも分かりませんがあの様子からではスキルを使用したのは確かでしょうね。しかし・・・」
「そうだな。正しく無様、の一言だな」
ラインとミスマルは頷き合う。彼等が挑む男の背中は未だに遥か遠い。影すら踏ませて貰えないのだ。
「あれがお前らの言う男か。確かにあれからすりゃああの魔人族すら話にならねぇなぁ」
「あれが、リョウさんですか。Aランクをひと睨みで黙らせるとは。剣を抜く必要すらない、ですか。全く、化け物過ぎますね」
強さの壁を超えた一流の冒険者達が更に何度壁を超えなければ辿り着けない頂きなのか。
だが自分達は挑戦し続ける。今正に1つ壁を超えたばかりじゃないか。ラインは雲の上に存在する頂きに必ず近づいて見せる、と自らを奮い立たせた。
「どうだ? モレガン、カスタード。俺たちと組まないか?」
「・・・俺達だってパーティーがあるんだぜ。誘いは嬉しいが解散は出来ねえな」
「そうですね。私もモレガンと一緒ですね」
「解散する必要は無いさ。クランを作ればいい」
「成る程、クランですか。確かにそれなら適材適所に効率良く経験値を稼ぐ事が出来ますね。連携が機能すればですが」
これにはモレガンとカスタードも苦笑いだ。冒険者である以上金を稼ぐ為に依頼を受け、ダンジョンに潜る。だが彼等の目的は魔物、その経験値が目的なのだ。どこまでも強くなる事に拘る2人を彼等はキライじゃなかった。
「へっ。俺はいいぜ。俺の仲間も多分大丈夫だろ」
「ええ、私もです。一緒に強くなりましょう、ラインさん。ミスマルさん」
「ああ、宜しく頼む」
「私こそ宜しくお願い致します」
こうして集まった冒険者クラン。
名を「エベレスト」
遥か見えぬ頂きを目指す男達のクランである。




