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提案

 

 アシュレイは怒りながらも目の前にいる獣人族の娘達の異常性を確かに感じていた。


 アースドラゴンの異常種は硬いという特徴以外は凡庸な魔物であるがそれでもAランク程度の冒険者が手を出せる相手ではないのだ。


 それも3人でアースドラゴンを倒した、となれば実力は自分と同等かそれ以上。油断など出来ない。いや、直ぐにでも撤退するべきだろうと理性で判断していた。


 だが同時にどれ程の相手か直接戦ってみたいとも思ってしまった。何より自分の計画を潰されたのだから当然とも言えるが。


 冷静に周りを見ると混乱させる為に召喚したハーピィ達は粗方倒された様子だ。なら広範囲魔法を使用しても構わないか。



「どちらにせよ貴女達の運命は変わらないわ。ここで仲良く逝きなさい」


 アシュレイが強力な広範囲魔法を発動しようと魔力を込め始めるがそれは余りにも無防備な姿だった。無詠唱で魔法を放てるアシュレイだが強力な魔法は僅かな時間ではあるが魔力を込める作業がいるのだ。そしてそれは完全な隙となった。


「させない!」


 クーリカの俊足の踏み込みでアシュレイの懐に入り込み心臓を刺し貫き蹴り飛ばす。


 奇襲、不意打ち。アシュレイはまだクーリカ達を低く見積もっていた失態だった。


「・・・かはっ!」


 フローラとフィオナもクーリカに続いて得物を振り上げたがそれはアシュレイのマジックシールドに阻まれた。


 アシュレイは先程まで見せていた痛みを気にせずに立ち上がった。


「信じられないわね」


 そこには怒りの感情は無くなっていた。


「ねぇ、貴女達。こちら側に来ない?」


「「「な!?」」」


「どういう意味だい?」


 ブルーフォレストの、いやクーリカとフローラ、フィオナ以外の全員が驚いていた。ただクーリカ達だけは冷静なままだ。


「貴女達も獣人族なら人族がどれ程愚かな生き物かわかっているでしょう? 大した力も持たない癖に誰よりも他者を見下す種族。下等な生物、人族とはその最たるものだわ。貴女達にそれだけの力があるなら我々の軍門に下りなさい。何れ世界は人族に代わって私達が支配するわ。今なら良い席に座れるわよ」


 アシュレイの言う事は的を射ている。人族程嫉妬や妬みで人をましてや同族を容易く殺せる種族は存在しないだろう。今ですらお互いが牽制し合い、いつ戦争を始めてもおかしくない世界なのだから。


 とは言えクーリカ達の答えなど初めから明らかだった。


「断るよ。それにあたし達の主人が人族だからさ」


「・・・そう、残念だわ。既に飼い慣らされてたのね」


「それにさ、あたし達程度にやられるなら世界なんて取れる訳無いだろ。ご主人様はあたし達が何百何千人居ようと相手にならないくらい強いんだからさ」


「ふふ、そんな人間が居るわけ無いわ。でも次に会う時は良い返事期待してるわね。それじゃあまた会いましょう・・・」



 そう言うとアシュレイの身体は足元からちりに変わっていき綺麗サッパリ姿形が消え去った。


「初めから偽物の身体だったのか、やけに動きが鈍いと思ったけどさ」


 その事実に衝撃を受けるアインとバルト。全力の一撃が容易く受け止められた上に無様にやられただけだった彼等。今回2人は全く役に立っていなかったのだ。


「アッサリ倒しちゃったからな」


「まぁ無事終わったから良しとしましょう。ね、クーリカ」


「そうだね、お疲れ様フローラ、フィオナ、ココ、リズ」


「にゃん!」


「(こくこく)」


「それにしても凄かったわ。魔人族を倒しちゃうなんて。所でアースドラゴンはどうなったの?」


 ジャスミンが和気藹々と話すブルーフォレストに興奮しながら話しかける。


「私も気になってました。いつのまにかこっちにいて戦ってましたから」


「そうだよねー、私なんかハーピィの相手だけで疲れちゃったよ。ハーピィなのに地味に強いし沢山いるし」


 マリーとモニカもいつの間にやら会話に混ざっていた。



「ああ、それなら倒したぜ」



「「「「「・・ッ!?


 はぁー!?!?!?」」」」」



 フィオナの軽い口調の宣言に一流冒険者である彼等は騒然とする。



「なっ!? 嘘だろ!? 俺の一撃が弾かれたんだぞ!?」


「ぼ、僕のライジングスラッシュだって効かなかったんだよ!?」


「いや、オレらの攻撃が通った所見てただろ?」


「あ、ああ。しかしだからと言ってどうやって戦ったのだ。奴の攻撃を受ける事など不可能。一撃でも貰えば死が待ち受けるのみ」


「攻撃なんて躱せばいいだけだろ。あいつ物理攻撃しか能がねぇんだからよ」


「そんな事言ってフィオナだけは吹き飛ばされてたけどね」


「な!? フローラっ!」


「しかもいきなりだからな。フィオナは油断し過ぎだ」


「クーリカまで」


「いやいや、それにしては服も傷1つ無いようだが。身体もダメージを負ってる様には見えないのだが」


「そりゃメイド服着てるからな」


「おいおい、嘘だろ。まじでそんな凄いもんだったのかよ」


 出会い頭メイド服を着たクーリカ達に苛立っていたダグラスだが今ではふりふりのメイド服姿のフィオナに視線は釘付け状態だ。


 それはアインとバルトも同様だった。


 アインはフローラ、バルトはクーリカに死線を助けられた。その時に何らかの感情を持っても不思議では無いだろう。



「それでドロップは拾ったの? 勿論分け前を寄越せなんて言わないよ。ただ冒険者としてドラゴンのドロップが気になってー」


 てへへ、とモニカがはにかみながら尋ねる。パーティー名はドラゴンファングだが今迄ドラゴンとは無縁の存在だったのだ。それにお宝が気になるのは冒険者の性だろう。


「クーリカ?」


「ああ、構わないよ」


 クーリカはフィオナに許可を出してアイテムボックスからアースドラゴンのドロップ品を取り出した。


「へ? ボックス持ち!?」


「レアスキルじゃないか!?」


「まじかよ!?」


 一々煩い面々に若干の面倒になってきたフィオナだが付き合いは良いので今更やっぱりやめたとは言えない。


 素直にアースドラゴンのドロップ品「アースドラゴンの鱗」、「アースドラゴンの爪」、「アースドラゴンの血」、「アースドラゴンの目」、「アースドラゴンの肉(極上肉)」を取り出した。別の物もドロップに混じっていたがそれはご主人様が判断を下すだろうと今回は控えた。



 取り出した途端彼等は又もやフィーバーした。彼等の物になる訳では無いのは分かっている筈なのだがそんなの御構い無しに盛り上がっている。まぁ今回怪我をして重傷になったのはリーダーの三人組だけなのだが。


「ヤベーなおい! この爪で剣を造ったら何でも斬れそうだぜ!」


「いやいや、こっちの鱗だろ! アースドラゴンの鱗で盾や鎧をこれで造ったら最強の鉄壁だぞ!」


「アースドラゴンの血や目も秘薬としての価値は凄そうですね」


「でもマリー、私はこっちのお肉の味が気になって仕方ないよー」


 モニカの視線は「アースドラゴンの肉(極上肉)」に釘付けだった。涎が垂れている。


「もうモニカは食いしん坊ね。まあ確かに気になるけど」


 とジャスミンもお肉に目線が行っていた。ドラゴンの宝玉などがあれば魔法使いの装備として使えるのだが今回ドロップしたのは戦士向きのアイテムの様だった。


「ねークーリカ。このお肉売りに出すなら私にも少し売って欲しいなーなんてー?」


「そうね、もしギルドで売るつもりなら言い値で買い取るわよ。まあドラゴンの肉なんてオークションにかければ値段も青天井でしょうけどね」


「少し待って欲しい。流石にこれはあたしに判断出来ないからさ。ご主人様が許可するなら構わないから確認を取ってからだな」


「ふーん。貴女達のご主人様って、もしかしてエミリアやメリッサのご主人様と同じ人なのかしら?」


「? それは知らないけど綺麗なメイドの子が沢山居たな」


「・・・ふーん、そうなんだ」


「?」



 考え込むジャスミンの後ろではリーダー三人組が獣耳娘を狙っていた。


(おいおい、ご主人様とかいるのかよ、どういう事だよ)


(落ち着けダグラス。メイドは沢山居ると言っていただろう。そこで働いてるだけだろう)


(ならまだまだチャンスはあるって事さ。つまりフローラのあのたわわに実った最高の果実は僕の物さ)


(はぁー? フィオナのあの凶器的凹凸こそが男の本能を刺激するんじゃねぇか)


(馬鹿者! クーリカ殿のあのスレンダーラインこそ至高! 異論は認めん!)






 暑く盛り上がる男達もこの一時は勝利に浮かれていた。最大の障害は退けたのだから。



 だがその時リュードを襲うもう1人の魔人族の姿が別の冒険者達の前に現れていたのだ。







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