リュード防衛戦2
リュードの街を襲う魔物の大群と衝突した冒険者達。
その中の一つ、冒険者パーティー、ギガントソードはリーダーのモレガンを中心に魔物を薙ぎ払って行く。
「オラオラァッ! 喰らえヤァ!」
普段は冷静な男が戦闘となると豪快な性格に変わって巨大なバスターソードを担ぎ魔物をぶった切って行く。
「モレガンさんスイッチ入っちゃってますねー」
「リーダーはこれだからな、いつもの事だよ」
リリーが魔物の警戒を行いモレガンが粉砕した魔物のドロップをパルシィットが拾っていく。
冒険者としては当然だ。リュードの防衛をしながらもドロップしたアイテムは拾えるだけ拾わなければただの損失だからだ。それが討伐証明にもなる為だ。
とは言え今はまだゴブリンやコボルト、グリーンウルフなどの低級の魔物ばかりだから余裕もあるし荷物も嵩張らないが強い魔物が出て来ればそんな余裕も無くなるだろう。リュードを守る為に戦っている為、街が崩壊すれば依頼も必然的に失敗になる。
つまり冒険者にとっては今が稼ぎ時なのだ。
「オラオラオラァッ!」
「リーダーがギブアップする直前で後退するぞ。リリーは警戒を怠るなよ」
「まっかせて下さーい。私は逃げるのは得意なので!」
リリーが胸を張りながら言う。
パルシィットは笑いながら後方にいるだろう強力な魔物を警戒して安全策でもってモレガンがバテる前に最終防衛ラインまで後退出来るように状況を見極めた。
一方後方にいるアホ3人組は大混乱の状態にあった。
「なななっ、なんて数来てんだよー!?」
「お、おち、落ち着けー! ニールぅっ、ちょっ、まてよっ! 助けてくれぇっ!」
あわあわしている2人を他所にニールはいつも通り気障ったらしく冷静だ。
「フッ、任せておけよ、この俺に」
ガクガク、ブルブル。
いや、震えていた。生まれたての子鹿のようだ。
「なっ!? びびってんのかお前!」
「そ、そんな訳ないだろう!? や、やってやろうじゃないかぁ!」
最終防衛ラインでありながらも遠距離攻撃から抜けてくる魔物も僅かばかり出始める。低ランク冒険者を最前線に置くと直ぐにやられる為、数だけは多い彼等は肉壁としてもここで踏ん張って貰わないといけない。
とは言え腐ってもベテラン冒険者。普通に戦えばゴブリンなどの雑魚魔物単体相手に負ける筈もないのだが冷静さを欠いてる彼等はまともな思考が出来ていない。
「うおぉぉぉ! お?」
パァンッ!
それでも果敢に攻めようとしたニールだったが突然横から矢が飛んで来てゴブリンの額に突き刺さった。生き絶えたゴブリンは直ぐ様ドロップアイテムに変換された。
「なっ!? 俺が今やろうと思ってたのにぃ!」
目くじら立てるニールだが周りを見渡しても弓使いが見当たらない。前方から放つ筈もないし余裕もないだろう事は想像がつく。
「え!? 誰がやったんだ?」
ジョンとラルフを見ても首を横に振るばかりだ。
とは言え。
「フッ、俺にかかればこんなもんだぜ」
安心したのか早速カッコ付け始めるニールだった。
「ヘッヘッヘ。まずは1匹目! 幸先いいぞ!」
「だな! へへへっ? ひぇっ!?」
またもや抜けて来たゴブリンに慌て出すジョン。
「や、やってやらぁ!」
パァンッ!
「「「ひぃっ!」」」
またもやゴブリンは眉間を射抜かれてドロップに変換されてしまった。
「な、なんだよぉ! どうなってんだよ!」
「もゔかえ゛ろうぜぇ!」
涙目になるジョンとラルフにニールが告げる。
「落ち着けよジョン、ラルフ。よく聞けよ? ここにいれば勝手に魔物がドロップするって事だろ?」
「「なっ!? お前は神か!?」」
2人にはニールが神に見えていた。立ってるだけで金が向こうから勝手にやってくるなんて!
最高だ!
「やっほーい! どうしたどうした? 早くかかってこーい」
「おいおい、まさかびびっちゃいましたかぁ? 怖いんですかぁボクちゃん?」
「フッ、やはり俺が居ないとな」
直ぐに調子に乗るアホと自己陶酔の極みにいるアホが緊張感も無く戦場を騒がしていた。
リュードの街のBランクパーティー、フルティカのリーダー、カスタードは近くで戦っていた冒険者を見て驚きを抱いていた。
「まじかよ。こいつら何者だ!?」
「カスタードッ!」
フルティカのパーティーの1人、ターニャが甘そうなリーダーの名前を叫ぶ。
「っ!?」
一瞬の隙を突きオーガが巨大な棍棒をカスタードに叩きつけてきた。
それを反射的に反応しスレスレで躱して一瞬の交差で太い腕を切断する。
「グヴォォォォ!」
オーガが悲鳴を上げながらも残る腕を振り上げるもカスタードの斬撃により首を切断されドロップに変換された。
「ハァ、ハァ。助かっぜターニャ」
「油断しないでよ、もう。まあ取り敢えずは目の前の魔物は一掃出来たみたいだけど」
ターニャの言う通り魔物の波が切れたようだがまだまだ揺れるような足跡が聞こえてくる。油断するのはまだ早いだろう。
「それもあの2人のお陰でだけどな」
自分達はリュードでもBランクパーティーとして活動している実力派としての自負がある。だが彼等をカスタードは知らなかった。
「ターニャはあの2人を知ってるか?」
「名前は知らないわ。でも騎士が着てる鎧は確か赤竜騎士団の物じゃなかったかしら。もう1人は、執事にしか見えないけど」
「よく知ってるな。なら貴族のお抱えか、執事は戦闘力が高いから連れて来てるんだろう」
「あんたもそれくらい知っておきなさいよ。まぁいいけど。でも本当に凄かったわね」
カスタードもターニャに頷く。彼等の戦いは驚異的だった。高い身体能力だけじゃない。その技も見事だった。だがそれ以上に恐ろしいのは。
「ああ、あいつら、戦いの中で進化していやがる」
カスタードの眼には険しい目で彼等を捉えていた。
「進化? レベルが上がっただけでしょ?」
「違う、レベルの問題なんかじゃない。きっとあいつらはこの戦いの中で自分の戦闘スタイルを確立して行ってるんだ。さっきから試す様に殺し方を変えてるし、スキルだって殆ど、いや、全くと言っていい程使ってもいないんだ。これじゃAランクと変わらねぇ戦闘力だぜ。なんて才能だよ、まるで進化する天才だ」
カスタードの言葉にターニャも無言で頷いた。確かに驚く程強い。自分達を圧倒するだけの実力者だ。だけどそれは裏返せば頼もしくもあった。何せC、Bの高ランク冒険者は危険な正面を受け持っている。強い仲間が居れば危険も遙かに軽減されるだろう。
「油断は出来ないがあいつらがいるなら持ち堪えられるか」
「当然でしょ。私は死ぬ気はないわよ」
「こんな物ですか。歯応えがありませんね」
「全くだなミスマル。俺達はどうやら強くなり過ぎたらしい」
周りの冒険者達を襲う魔物達の群れを潰し周りそれでも息が切れる様子もない2人は執事のミスマルと騎士ラインだ。
「強くなり過ぎたとは大きくでましたね。確かに今の私も全能感に酔いしれるかの様な状態ですが」
「いや、済まない。どうやら興奮していた様だ。確かにまだまだ未熟だな、越えるべき壁は遙かに高い」
頷くミスマル。
「ええ、私共の目標はこの程度の雑魚ではありませんからね。ですがラインの仰る通り私達は急激に成長出来てる様ですね」
ブンッ!
ザシュッ!
ミスマルが軽く一振りナイフを振ると斬撃が飛んだ。それは正しく「スラッシュ」のスキルだったがミスマルはスキルを使った訳ではない。単に物凄い速度でナイフを振り斬撃を飛ばしただけだ。これはスキルでは無いのだ。故にスキルによるMP消費も無い。驚異的な身体能力がそれを可能にしていた。
ミスマルの視線の先にはオーガやホブゴブリンなどのCランクの魔物のドロップが散乱している。それを必死に集めるのはパーティーを組んでいる赤竜騎士団のメンバーだ。
ミスマルもラインもかつてはCランクの魔物相手では苦戦は必至だっただろう。それが今では相手にもならない、瞬殺だった。その為色々と倒し方を試して魔物相手に訓練を開始した。彼等にしてみれば効率の良い経験値でしか無かったのだ。
「ああ、こいつらは良いな。オーク相手じゃ対して上がらなかったレベルが一気に上がった。レベル10台後半でもたついてたのが嘘みたいだ」
「ええ、今では28。30も直ぐにでしょう。Bランクがレベル40台とお聞きします、ですが先程の方は確かBランクのフルティカだったかと。正直話になりませんな」
「確かに俺達の方が強い。それもかなりな」
これはミスマルとラインが調子に乗ってる訳ではなく全くの事実である。それ程までにBランクの実力者を相手に差が開いているのだ。
ドドドドドドドドドッ!!!
魔物の波が近づいて来たようだ。
「あれは!」
「成る程、レッドオーガ。ブルーオーガも居ますね」
「トロルやナーガ、それにブラックウルフか」
「これだけの魔物を。ふふふっ。腕が鳴りますね」
「全くだ。ははははっ。経験値の肥やしになるがいい」
先程よりも大きな魔物の群れの波にも恐れず、それどころかやはり経験値としか見えない2人は口元を綻ばせる。
「行きますよ、ライン!」
「承知! 良いなお前ら! 自分の身を守る事だけ考えろ! 生き残れ! いいな!」
「「「「了解!」」」」
ミスマルとラインに率いられる彼等も経験値を共有している為レベルも同じ様に上がっている。その為彼等も以前よりも遙に強くなり身を守るだけならば耐えられる筈だ。何よりミスマルとラインが魔物を倒せば倒す程レベルが上がりステータスが上がっていくのだ。戦闘技術自体は騎士として常に鍛えているのだ。今更恐れる心など持ち合わせてなど居ない。
「俺達もやるぞ!」
「執事に負けてられるか!」
「隊長にも追いついてやるぞ!」
威勢のいい部下達を見てラインはふっ、と口元を緩めて発破をかける。
「なら死ぬ気で乗り越えろ! 限界を超えろっ!」
「「「「了解!」」」」
そして冒険者達がリュードを守る為、3度目となる魔物の波に立ち向かって行った。




