激突
リュードの西門で今回魔人族討伐を依頼された冒険者達が集まっていた。
一つは言わずと知れたリュード筆頭冒険者パーティー、ドラゴンファング。同じくAランクパーティーのスカイランサー、リュード伯爵配下のナイトスター。
そしてその中で異彩を放ってるのが獣人族の女性だけで結成されたBランクパーティー、ブルーフォレスト、の3人の格好である。
「おい」
「・・・」
ダグラスがイラついた声で話しかけるがクーリカは取り合わない。と言うかじろじろと見られて気分が悪い。「あれ? これあたし達に言ってんのかな?(いらっ)」状態である。
「おいっ聞いてんのかっ! 何だその格好はよ。てめぇら舐めてんのかっ! まともなのはそこの2人だけかよ!」
ダグラスの言葉に他の冒険者達も頷いていた。
クーリカも流石に「まぁ確かに」と、この服の性能を知らなければ頷く所だが主人から賜った大切な正装なのだ。例えどれだけの価値があるか知らないとしてもケチを付けられるなど許せるものではない。
「ふざけてなどいないさ。これはあたし達がご主人様から授かった大切な物だ。悪く言うなら相手になるぞ。それに性能だって以前の装備とは比べものにならない程の優れものなのさ。凄いだろう?」
そう、何故ダグラスが声を荒げたのかと言えば、クーリカ、フローラ、フィオナはリョウお手製の獣耳専用メイド服を着ていたからだ。
これから戦闘に行くとは思えないフリフリの可愛いらしいメイド服。それに男性ならず女性まで目を向けてしまう綺麗な脚、大きな胸元を強調した大胆な仕様だ。
これは元々動きやすさを重視した露出の多い戦闘服を着用していたクーリカ達に、リョウが夜専用メイド服を獣耳娘用に仕立て上げた自慢の逸品だ。 (流石に夜専用程過激では、無い)
いまではオリハルコン仕様の装備というだけで無く、魔法付与もされた完全仕様でありレベルの低い魔法ではかすり傷一つ付けることは出来ないし温度調節機能まであり使用者の治癒機能まであるというデタラメ装備と化している。
「あーん? メイド服がか?」
ダグラスだけでなく全員から不審の目を向けられるがクーリカは気にせず言い返した。
「そうさ。しかしAランク冒険者はこのメイド服に掛かった付与効果に気付かないのかい?」
「ご主人様から頂いた魔法耐性、精神耐性、衝撃耐性、斬撃耐性、温度調節機能ありの国宝級装備なんて見ただけじゃ分からないわクーリカ」
「そうだぜ。正直オレも凄い凄いって思ってたけど実際体験してみると凄い程度じゃ表せねぇよ。さすがご主人様だぜ」
クーリカの挑発からはじまりフローラがたしなめ、フィオナが主人を持ち上げる。
クーリカ達の話はAランク冒険者である彼等こそ疑ってしまう。各種耐性装備ならそれなりの値段を出せば手に入れられるだろう。だがそれが全て揃った耐性装備など見た事も聞いた事もない。ましてや温度調節機能? 何だそれは? 理解出来ないメイド服の性能に胡乱な目を向けてしまうのは仕方ない事だろう。
だがドラゴンファングの女性メンバー達は違う所を見ていた。
(ねぇねぇ、あのチョーカー。あれってエミリアやメリッサがしてたのと同じよね?)
(うん、そーだよねー。間違いないよー)
(なら彼女達の主人はエミリアさん方と同じという事でしょうか? メイド服を着ていない2人はチョーカーも付けてないようですが?)
マリーの言う通りリズとココはリョウのメイドじゃないのでメイド服も支給されておらずチョーカーも与えられていない。クーリカ達も飼って貰わないかと説得しているのだがリズ達はリョウの事をよく知らない為断っている状態だ。
「何だ? まだ言いたい事があるのか? 別に邪魔はしないさ。あたしらは依頼されたからここにいるだけだしね、文句があるならギルドに直接言いな」
「あんだとメス猫がぁ!」
「まぁまぁ。ほら、落ち着こうよダグラス。バルトさんは冷静だよ? ね、ベース」
仲裁したのはダグラスのライバルでもあるアインだ。一度魔人族と対峙したからこそ戦力は1人でも多く揃えておきたいと何よりも魔人族を警戒していた。
「そうだぞダグラス。要求した事がこなせるなら問題ないだろ、俺達は俺達の事に集中するべきだ」
「ちっ、わかったわかった。だが足手纏いになったらさっさと消えろ! いいな!」
「なんだとてめぇ!」
高圧的なダグラスにフィオナが切れるがお互いベースとフローラが抑えてなんとか出発の段階になった。
彼等の前には目的地である廃棄ダンジョンが構えていた。ここに辿り着くまでに魔物の大群が脇目も振らずにリュードの街方面に向かっているのを確認したが彼等の目的は廃棄ダンジョンに居る筈の魔人族、そして異常種の討伐である。少しでも減らしておきたかったがここで無駄に体力を消耗すれば今でさえギリギリであろう勝率を下げる事に他ならない、断腸の思いでこれを見逃してここまで来たのだ。
「役割を確認する。ドラゴンファング、スカイランサー、ナイトスターは魔人族をブルーフォレストは異常種の討伐だ。ダンジョンに突入したら雑魚は相手にしないで突き抜けるぞ」
「ああ、問題ねぇ。狙うのは魔人族の首だけだ」
「こちらも承知した」
「あたし達も分かったよ」
「よし、それじゃあ行くぞ!」
「「「おう!」」」
4つの集団がダンジョンを駆け抜ける。出てくる魔物はドラゴンファングから聞いていた通り低級魔物ばかり、鎧袖一触で薙ぎ払い駆け抜ける。
1階層、2階層と抜け3階層までたどり着いた。
「はぁっ! 雑魚ダンジョンじゃねぇかっ」
「油断するなダグラス!」
「うるせぇ! わかってんよ!」
ダグラスとベースのいつものやり取り、だが彼等には既にかなりの圧迫感が襲い掛かって来ていた。
「空気が重いね、息苦しさを感じるよ」
「ああ、やはり強いな、とんでもなくな」
アインとラウル達ドラゴンファングは以前感じた感覚を思い出す。このまま殺り合えば全滅すると瞬時に感じた強者の威圧を。
「確かにこれはヤバイ奴だな。おいっ覚悟を決めろよお前ら!」
「「「了解!」」」
バルトが部下に声を掛けて気合を入れる。そうでもしないと呑み込まれて動けなくなる。なにせ、
ドスーン、ドスーン
地面が揺れて巨大な何かが近づいて来ているからだ。そしてそれは自分達を簡単に殺せる物だと感じているのだ。
フフフフフッ
果たしてそれは目の前に現れた。
笑い声とともに巨大なドラゴンが彼等を見下ろしている。いや、見下ろしているのはドラゴンだけでは無く頭上にいる魔人族、アシュレイだった。
「やっと殺されに来たのね、待ちくたびれたわ」
アシュレイは挑発しながらも一切油断はしていない。それだけ彼等を、ドラゴンファングの魔法使いを警戒していた。
「ほら、挨拶なさい」
「グガアァァァァァァァアァァァァッ!!!」
ビリビリビリビリッ!
「「「っ!」」」
アシュレイに応えたアースドラゴンの挨拶程度と言うにはいささか強力な咆哮に一流の冒険者達が身を竦ませてしまうも直ぐに歯を食いしばり立て直す。
「クソが! 厄介なアースドラゴンをテイムしてるのかよ」
「それがまさか異常種とはね。脅威度は紛れもなくSランクだね」
「・・・これはブルーフォレストだけでは荷が勝ち過ぎるか。俺達も加勢しよう、お前達は魔人族の女を!」
「要らないよ。あんた達の役割は魔人族、あたし達は異常種の相手だろ。お互いプロなんだ役割を全うしようじゃないか」
ダグラスとアインがアースドラゴンの圧倒的とも言える巨体に圧を感じ又バルトはブルーフォレストだけでの対処は厳しいとナイトスターが協力する姿勢を示したがクーリカはそれを一蹴した。これにバルトが反論する。
「なっ!? 流石に無理があるぞ! 死ぬ気か!?」
相手はナイトスターでも勝てるかどうか、いや、先ず勝ち目の無い相手なのだ。バルトのそれは至極全うな反応だった。
「まさかそんな訳ないだろ。あたし達が死ぬ前にさっさと魔人族を倒しちまいな」
勿論死ぬ気は無いけどさ、とクーリカが続ける。
「おら! バルトの旦那よ。こいつらがそう言ってんだ悩んでる暇なんかねぇぜ!」
「何よりアースドラゴンだけじゃなくあのアシュレイって魔人族は本当にヤバイからね」
アインの忠告は紛れも無い事実だった。何故ならアースドラゴンはアシュレイに従っているのだから。どちらが上位の存在か分かっているのだ。
「了解した。応援に行くまで死ぬなよブルーフォレスト!」
「「「おう!(にゃん!)」」」
「うふふ、もう準備は出来たのかしら」
アシュレイの声に応えたのはアインだった。声を張り上げて宣言する。
「ああ、僕達がお前を止めて見せる!」
「ならやって見せなさい。勇者でも無い貴方達には無理でしょうけれどね」
ここに魔人族の女、アシュレイとアースドラゴン対Aランク冒険者達の死闘が切って落とされた。




