リュード防衛戦
リュードの外縁に広がって待機する冒険者達。
彼等は戦力が固まり過ぎない様にギルドマスターのライザックの指示により受け持つ場所を決められていた。
「早く来ねぇかなぁ、早く狩りてぇよぉ」
「落ち着けよ、まあ今回ばっかりはお前に同意だがな」
「フッ、確かに今回の主役はゴブリン殺しで有名な俺達の出番だな」
低ランク冒険者のジョン、ラルフ、ニールの3人組はこれから起こる事を呑気にも今か今かと楽しみ待っていた。
彼等はいつもゴブリンしか相手にしない低階層を根城にする冒険者だが今回ばかりはそうはいかない。何故ならスタンピードが起こればリュードに押し寄せるのはゴブリンだけではないのだ、だが残念な事に彼等の頭の中にはゴブリンの事しか頭にないのだ。
「へっへっへ、ゴブリン5匹で銀貨だってよ。今日は宴会だぜぇ」
「ああ、最高だな。久しぶりに贅沢出来るぜ」
「つまりゴブリン狩りのニール様の出番って事かよ。フッ」
大金が手に入るとなれば自然と笑いが込み上げてくる物だ。
「「「ハッハッハッ、俺達に任せとけ!」」」
「あいつらいつも楽しそうだなー」
「アホだからな、それに口だけの弱者だ」
アホ3人組を眺めてたのはCランク冒険者、ギガントソードである。リーダーのモレガンは「剛剣」と呼ばれる腕利きでその名の通り身の丈クラスのバスターソードを担いでいる大男だ。
「でも冒険者歴も長いだろ、ゴブリンしか倒して無いと言ってもレベルはそこそこあるんじゃないのか?」
「えー、そうなんですかー?」
ギガントソードの紅一点、リリーは最近加入したDランク冒険者だ。
「それこそゴブリンしか相手に出来ないヘタレだ。自分より強い相手とは戦わないのだ」
「それで良く今回の依頼を受けたよな」
「羽振りが良いですもんねー、今回の依頼」
「それだけ危険だという事だ。それが分からんからアホなんだ。今回は俺達と一緒だからいいがリリーは真似するなよ」
「大丈夫ですよぅ、モレガンさんこそメリッサのお尻ばっかり追っかけてちゃ駄目ですよぅ?」
「っ!? なにを言ってる?」
「「・・・」」
「・・・なんだ?」
「いえいえ、動揺し過ぎですよ?」
「語るに落ちるとはこの事だな。我がリーダーがこれとはな」
「普段は落ち着きがあって頼り甲斐のあるリーダーなんですけどねぇ」
「だから何をっ。それにメリッサは関係ないだろう」
「そー言えばメリッサが彼氏出来たって言ってましたよー?」
「なっ、なんだと!? どこのどいつだ! 俺のメリッサに手を出すなんて!」
「いや、リーダーのじゃないだろ。それどころか声すら掛けてないだろ」
「脚とお尻ばっかり見てますもんねぇ、綺麗ですよねー」
「うるさいぞっ。ふんっ。どこのどいつか知らないが剛剣のモレガンが叩き斬ってやる!」
ふんすーっ、と息を荒げるモレガンを見てため息を吐くリリーとベルスィットだった。
(はぁ、そう言えば聞いても答えてくれなかったけどメリッサの彼氏って誰なんだろうなー?)
アホ3人組とは逆の位置にリョウ達はいた。
「早いな、もうすぐ魔物が押し寄せてくるぞ」
「旦那様、私も察知しましたがかなりの魔物の群れの様ですね」
それはスタンピードが起きている事実を知らせる物だったがリョウもメイド娘たちも落ち着いた雰囲気だった。
「ああ、結構な数だな、まぁそれなりの冒険者も幾らかいるし魔物も雑魚ばかりだから問題ないだろうが。それよりも廃棄ダンジョンに向かったクーリカ達の方が大変か」
リョウがマップを見ながらフィア達に説明する。レベルが上がった事でスキルの能力も上方修正され使い易くなっていた。
「どうですか、クーリカ達は?」
「既に交戦状態のようだな。手筈通りクーリカ達は異常種の相手みたいだ。この間のゴブリンキング相手じゃ流石にステータス不足だったが今回も厳しそうだな」
「「!」」
「旦那様の恩身を受けていながら不甲斐ない!」
憤るフィアだがクーリカ達はまだレベリング前、それでもメイドの職業を与えられてはいる為既に何倍物ステータスに上昇している。Sクラスを名乗ってもおかしくない位に。
「まぁ待て、勝てない相手じゃない。ドラゴンってのには驚いたが上手く立ち回ってるぞ。まぁリズとココが足を引っ張ってはいるがな」
それを聞いてフィア達はなんとも難しそうな顔をする。
正直な話クーリカ達が主人の寵愛を受けるのは面白くないのだ。リョウが望めば全ての存在は傅くべきだと本気で思っているし、その魅力を少しでも感じてしまえば女性ならば有無を言わさずその身を捧げるだろう、私達がそうだったのだから。だがそうなれば次々に増えるメイド娘たちに自分の地位が脅かされかねない。つまりはリョウの隣に居られなくなるかも知れないのだ、それはとても怖い事だ。
クーリカ達がリズやココをリョウに飼って貰うように説得している事は知ってる。だがリョウの事をよく知らないリズとココはそれを拒んだ。フィアも内心ではそれを良し! と思っていた。だが今回それでリョウのメイドにならなかった2人だけがリョウから力を与えられずクーリカ達の足を引っ張る事になっている。クーリカ達は既に主人の所有物だ。その足枷になる事自体がフィア達を苛立たせてしまうのだ。
相反する気持ちを抑えながらもフィアはリョウに提言する。
「旦那様、リズとココをクーリカ達と同様に飼われてはいかがですか?」
まさかフィアからそんな提案があるとは思わず驚いたリョウだが答えは決まっている。
「自分から言いだしたらな」
リズもココも美少女なのだ。飼う飼わないで言うなら彼女達が望むなら飼うだろう。が、リョウは既にメイド娘たちが沢山居るので既に満足していた。猫耳も兎耳も大好物だがメイド娘も夜になれば猫になったり兎になったりするのだ。リョウに不満は無い。
そんな話しをしていればドッドッドッ、と魔物の群れが押し寄せて来たようだ。
「まぁクーリカ達は問題ない。最悪竜騎士を呼べば魔人族も異常種も倒せる。俺達の仕事はこっちだ」
「「「はい! 旦那様(ご主人様)!」」」
当然全力を出す事はしないが被害を大きくするつもりもない。
リョウは魔物の群れの後方から迫る存在に目を向けた。
「遠距離攻撃が出来る弓使いと魔法使いは攻撃を開始しろ!」
「おう!」、「了解だ!」、「任せろ!」
声を上げて弓や魔法を魔物の群れに打ち込んでいく。大量に湧いて居る為どこに打ち込んでも当たるいい的だ。
ライザックの指示で遠距離攻撃が出来る冒険者達が攻撃を開始した。リュード伯爵傘下の騎士団もライザックの指揮に従って行動している。
「いいか野郎どもぉ! 絶対に街まで抜かせるな、ここが最終防衛ラインだ!」
「「「ウオォォォォォォォォ!!!」」」
雄叫びを上げて冒険者達と魔物の防衛戦が開始された。
「シィ!」
スパンッ!
「はぁっ!」
ズバッ!
押し寄せる魔物を瞬殺していくのは覚醒した執事ミスマルと騎士ラインだ。
鋭い一撃と強力な一撃。それぞれ使う技は違うが結果は同じ、一撃で魔物の命を切り取っている。
「フッ! 手応えがありませんねライン」
「ハッ! その様だな。どうやら俺達は大分強くなっているようだ」
それに頷くライン。だが慢心などしない、出来るはずも無い。
彼等は確かに強くなった。だからこそ分かる。この程度では足元にも及ばない、と。
ミスマルはラインから彼がオークキングを倒したのを見たと話しを聞いた。それはただドラゴンを倒した、ダンジョンを攻略した、などと言われるよりもどっしりとした重さをミスマルに感じさせたのだ。
恐らく事実だろう、と。
ラインも同様にミスマルから彼がドラゴンを倒したらしい事、リュードのダンジョンを既に攻略しているらしい事を聞き「確かに彼ならば出来るかも知れない」と信じがたい気持ちも有りながらも心は納得していた。
ならば彼がやった事が自分達に出来るのか?
結論、
不可能だ!
だがそれで諦める事が出来ようか。追いつきたいと足掻き手にした力は今この時自分達の期待に応えてくれている。
この時2人は自分達が成長しているのを実感していた。
強い、優秀だ、期待のホープだともてはやされていたが当時の自分達がここにいて何が出来ただろうか。魔物の群れに押し潰されておしまい、そんな未来しか見えてこない。
だが未来は変わった。自分が変わった事で、敗北を、屈辱を知った事で自分は強くなれたのだ。
必要な痛みだったのかも知れない。が、それとこれは別だ。
「ミスマル! 俺達は強くなった! だがこの程度では到底届かんぞ。これを! これも乗り越えて更に強くなってやる!」
ズバァッ! ズバァッン!
「勿論です! 今の私には魔物の群れなど美味しい経験値にしか見えません。ガッポリと稼がせて頂きましょう!」
スパァッ! スパァンッ!
バッサバッサと薙ぎ倒し刈り尽くす。驚異的な速度で強くなり続けるミスマルとラインにその場に居た仲間達はドロップ回収が仕事になっていた。




