ダグラス
いつもの酒場の一角にはドラゴンファングがテーブルを囲んで集まっていた。そこには彼等だけでなくAランク冒険者、スカイランサーの姿もあった。
「それで俺達まで駆り出されたって訳かよ。いいか、よく聞け、俺はお前の指揮下に入るつもりはねぇよ、例えギルドからの依頼でもな」
口を尖らせてアインにガン付けるのはスカイランサーのリーダーであり【魔空の槍】の二つ名を持つダグラスである。
「状況が分かっていないようね。あんたのチンケなプライドなんか構ってる状況じゃないのよ。それともあんた達だけで魔人族と異常種の相手でもするって言うのかしら?」
「なんだとぉっ! 幼女てめぇっ!」
「はぁっ!? 幼女じゃないわよっ!」
「落ち着けダグラス」
「はぁ、ジャスミンも煽るな」
売り言葉に買い言葉。互いに沸点の低い二人を抑える苦労人のベースとラウル。
魔人族の侵攻が懸念される中、領主であるリュード伯爵はギルドマスターのライザックに冒険者を募り廃棄ダンジョンに打って出る作戦に出た。
冒険者ギルドからはAランク冒険者パーティーの3組が、ドラゴンファングとスカイランサー、リュード伯爵傘下のナイトスター、そしてブルーフォレストが共闘して魔人族と異常種を討伐する。
その為の顔合わせとして前もって冒険者同士が集まった訳だが、その仲は最悪、というかダグラスが一方的にアインを嫌っており態度が悪い為ジャスミンも突っかかってしまう。
しかし事の重大さを彼等はまだ理解出来ていないようだ。
「落ち着いてくれダグラス。これは俺達が協力しなきゃ出来ない事だ」
「ラウルの言う通りなんだよ。魔人族は僕等だけじゃ倒す事は不可能だ。よくて相討ち、全滅するのが目に見えてる程の強敵だ」
「なに?」
ダグラスはアインの言葉に耳を疑う。まさか自分の先を行く男が負ける? 全滅する? 何を言ってるんだ?
ダグラスも自分達の力量はわかっている。当然だが、彼等はAランクに名を連ねるトップパーティーなのだ。だからこそ実力を何よりも重視する。アインが実績でも実力でも確かな物を持ってる事を知っている。だからこそ自分のライバルなのだ。そのアインに対してこうまで言わせる魔人族とは。
イラつき歯ぎしりさせながらもダグラスは睨みながら確認する。
「それ程のやべぇ相手ってことかよ」
「そうさ。僕等が力を合わせる必要がある。たまにはいいじゃないか刺激になってさ。それに下手をすれば僕等が簡単に殺されるような相手なんだ。今回参加する冒険者達も少なくない犠牲が出るだろうね」
「はっ! それでバルトの旦那も参加って訳か」
「バルトさんだけじゃない。ブルーフォレストもいる」
「ああ? 確かBランクの奴等じゃねぇか。いらねぇだろ、足を引っ張るだけだ。邪魔なんだよ」
「実力的にはAランクさ。きっと役に立つよ」
「ああ?」
「だから落ち着けダグラス」
沸点の低いダグラスをベースがため息を吐きながら落ち着かせる。
そんなベースもアインに懐疑的な視線を向けた。
「だがブルーフォレストはBランクだろ。どうしてAランク並みの実力があるって言えるんだ」
最もな疑問に答えたのはラウルだ。
ちなみにモニカとマリーは何故か話に口を突っ込まず空気になっていた。空気を読んでるのかも知れない。
「異常種になるとランクが一つ上がるのは話したな。ブルーフォレストはBランクのゴブリンキングの異常種を倒したんだ。なら間違いなく実力はAランクあると言っていい。じゃないとまず勝てないだろうからだ。俺達もホブゴブリンの異常種と戦ったが確かにランク一つ分上の魔物だったからな」
実際はそのゴブリンキングはAランクどころかSランククラスの魔物になっていた訳だがアイン達が知る由はない。
「はぁ、ゴブリンキング程度が強化されてもたかが知れてるだろうが、だが」
ダグラスはそう言いながらアインを睨みつける。
「今回限りだ。わかったな」
「勿論さ、感謝するよ」
態度は悪いがそれでも了承してくたダグラスにアインは笑顔で答えた。
スカイランサーが席を立った後。
「ほんと相変わらずむかつく奴よね! なによあの態度!」
「まぁまぁジャスミンさん。とにかく依頼は受けてくれるみたいですから落ち着いて下さい」
「そうだよー。怒ってばっかだとシワが増えちゃうよー?」
「増えないわよ!ってそもそも無いわよっ、ばか!」
いつものように賑やかな雰囲気だったがラウルが不吉な一言を口にする。
「それでアイン、俺はスカイランサーやバルトの旦那達となら勝てると言ったがお前はどう思う」
「僕達はAランク冒険者だ。つまりレベルだって最高レベルにある。そのトップにいる僕達が束になって勝てないならグレンダ帝国なんか今頃滅んでるよ」
「まぁ確かにそうだな。グレンダ帝国の軍隊がどれ程強いかは知らないが未だ魔人族と戦争をしてるんだ。だから分かる。あの魔人族は強過ぎる」
「そうさ、冒険者は戦争には加担しない。それでも長い間戦争を続けてこれたのは戦力が拮抗してるからさ。昔は勇者が魔王を倒した事があるみたいだけどそれでも亡ぼすには至らない。きっと魔人族の強さはBからAはあるじゃないかな。そしてあの魔人族の女性はスペシャルさ、特別だよ」
「もー、なに暗くなる事言ってんのよ。大丈夫よ、Sランクの魔物なら複数のAランクパーティーで討伐出来るって相場で決まってんのよ、狩った事無いけどね」
「ジャスミンは気楽だよねー。逃げるのに苦労したんだよー?」
「ラウルさんがおぶってくれましたから無事でしたけどね」
「そーそー、ラウルもすっごい重いって言ってたなー。太った?」
「も、モニカさん!?」
「あんたらぁ!焼き尽くすわよ!」
真剣な話も直ぐに霧散してジャスミン達が騒ぎ出す。アインとラウルも苦笑いしながら息を吐き出した。
「確かに腰が抜けるかと思ったな」
「うっさい年寄りっ」
「年!?」
「だめだよに体重の話しなんか振ったらさ。子供に見えてもレディーなんだからね」
「何が子供よ天然野郎っ」
「天然!?」
ジャスミンのキレのいいツッコミが決まりアイン以外が笑い出す。そこに緊張はなかった。
その頃酒場を後にしたスカイランサー達はというと。
「おいダグラス! 本当に受けても大丈夫なのかよ。あいつらが勝てねえなんて言って助けを求めるなんてどんな化物かわかんねぇよ! 悪い事いわねぇ、今回は止めとこうぜ!」
「落ち着けよ。今が異常事態だってわかってるだろ。ここで食い止めなきゃ他所に行ったとしても同じ事が起きるだけだ、諦めろ」
「だけどよー」
「ニール」
「どうした?」
ダグラスは低い声で宣言する。
「魔人族は俺達が倒すぞ」
「「「!」」」
「お、おい、お前、協力してって話を分かってるのか」
「当然だろ。俺はそこまで馬鹿じゃねぇよ。だが今回のこれはチャンスだ。なんせ推定Sランクの魔人族と魔物の異常種だ。俺らが倒せばSランクに一気に近づく事になる」
「確かにな、レベルがいくつ上がるか想像もつかねぇよ。だがそんな上手くいくか?」
「行かせるんだよ、なら分かってんだろうな?」
「「「・・・」」」
「俺はSランクになる男だ。このチャンス絶対に物にして見せる」
クククッ
暗い笑い声を上げてダグラスは歩き出す。
ベース達はダグラスの言葉に顔を見合わせる。言い出したら止まらない、それが分かってる以上フォローするしか出来る事は無いだろう。
彼等もAランク冒険者。生半可な修羅場を潜り抜けていない。
「いいな、生き残るぞ」
ベースは仲間達に冒険者の基本を口にする。今回の依頼が今迄以上に危険だと直感が告げていたからだ。
ベースは頷く仲間達と共にダグラスの後を追った。




