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閑話 フィオナの飼い主

 

「・・・ぅぅ・・ご主人様ぁ」


 オレは今、柄にもないくらいに緊張していた。


 今のオレの首には首輪が付いている。


 それは何故かというと。


「ふむ、最高だ」


(かぁ〜)


 褒められただけで顔が熱くなる。


 それはオレの目の前にいる最高の雄。俺の飼い主であるご主人様に首輪を付けて貰ったから、そして初めての夜のお勤めだからだ。


 正直言えば凄く嬉しい。真っ赤になるくらい恥ずかしいけど、こうしてご主人様の所有物である事を示せる物が身に付けられるだけで自分はご主人様の物なんだと実感出来る。お勤めも精一杯頑張ろうと思える。



 そして俺の頭にはカチューシャも付いていた。


 これはメイドの子が付けてる奴だ。それだけじゃない。今のオレはいつもの服を付けた戦闘服じゃなくてちゃんとした? メイド服を身に付けていた。


 なんでもご主人様は大のメイド好きらしい。


 ご主人様が連れてる女の子は確かにメイドの子しか居なかったけど、身分は貴族だったからな。貴族の娘にメイドの格好をさせるなんて変わってるけど、彼女達が着てるメイド服は個性的でかなり可愛いとオレが見ても思ったくらいだ。


 それもこれ程質の良いメイド服を支給される所など貴族でもありはしない筈だ。見た目も華やかでそれでいて可愛い仕上がりは本当にメイド服なのか? と疑問に感じるくらいだ。なんせ貴族のお嬢様が着ていても可笑しくない程上質だからだ。


(実際に貴族のお嬢様も着てるけど)


 けどオレが可愛い服を着るなんて自分じゃ想像すらしていなかった。


(オレに可愛い物なんて似合う訳ねぇしっ)



 だけども今は、立派なメイド服を身に着けて、首輪をつけて、下着もメイド達に選んで貰ってご主人様の前に立ってる。


 隣には同じく緊張した様子のクーリカとフローラも一緒だ。


 彼女達も俺と同じ様にメイド服を着て首輪を付けて貰っていた。


「いいな、実に良い。最高の獣耳メイド娘だ。ほら来なさい。よしよし」


 なでなで


 ご主人様は俺達を見て何度も頷いて褒めてくれた。気に入ってくれたみたいだ。


 なでなでも沢山してくれる。それだけで嬉しくなって幸せな気持ちになる。尻尾も自然と振ってしまう。


「今日はお前達だけだ。沢山可愛がってやるから覚悟しろよ」


「「「・・・はぃ」」」


 恥ずかしいけど嬉しいご主人様の言葉に、オレ達は返事を返す。



 今日はご主人様に飼われてからの初めてのお勤めだ。


 いつもは毎日屋敷のメイド達全員でお勤めを果たしてるそうだ。


 毎日という部分にも、全員という部分にも驚いたが、改めて考えるとご主人様ならそれくらい当然だろって思ってしまった。


 なんせ獣人族の王なら複数の番い(つが)がいるのが当然だ。人族だって身分の高い者なら当然のように複数人以上いるのだ。それがご主人様ならどうだろうか?


(最低でもその倍以上はいて当然だろう)


「ふむ、そうだな」


 ご主人様は俺達を見渡しながら。


「っ!」


 視線が合う。


「ふむ」


 目を逸らせない。


 真っ赤になった顔がもっと紅くなってる筈だ。


「フィオナ、来い」


「はっ、はいっ、ご主人様!」


 準備は万全だ。


 オレはご主人様に愛される為にメイド達と完璧に準備してたんだから。



 そうして愛されたオレは幸せな感覚に不思議な想いを抱いていた。


 ああ、なんか不思議だ。オレは初めての感覚に少し混乱してる。


 シャル姉様のアドバイス通りオレはご主人様に精一杯尻尾とお尻を振ってアピールした。ご主人様に尻尾をぎゅっと握られてお尻を叩いて貰うと凄く幸せになるんだ。痛いのに、苦しいのにそれが癖になるのはどうしてだ?


 シャル姉様が言ってたんだ。ご主人様に可愛がって貰いたいたいなら調教されて悦ぶメス犬になりなさいって。


 だからオレはもっとご主人様に調教されたい。だって調教されるって事はご主人様の好みの女になるって事だろ。オレはご主人様に気に入って貰いたい、もっと、もっともっとオレを使ってもらいたい。シャル姉様が言ってたように今ではご主人様に支配される事がこの上ない悦びに感じている。


 だってご主人様も喜んでくれてるんだから。


 そんな事が出来るのは本気で愛して貰えてるからなんだ。今もご主人様からの愛情が伝わってくる気がする。リードを引っ張られて、これじゃほんとの犬みたいだけど。だけど、ご主人様が喜んでくれるからオレも嬉しいんだ。


 もっともっとご主人様に喜んで貰いたい。その一心で俺はシャル姉様から教わった事を実践した。








 数日前、俺はご主人様に自分を飼って欲しいと懇願した。


 それは直感というか、言うなれば本能だと思う。それはその場にいたクーリカとフローラも同じだった、彼女達もオレと同様にご主人様に飼って欲しいと懇願していた。


 俺達獣人族にとって強さは絶対だ。強さは権力と言ってもいい。頭が良くても強くないと上に立つ事など出来ない、許されないと思っている。それがオレ達の、獣人族としての本能なんだろう。


 だけど俺達は弱かった。そこいらにいるような奴らには勝てても兵隊が出てくれば相手にもならない。


 それでも抗ったんだ、生きる為に。弱い者は虐げられる、何よりそれが気に食わなかった。


 元より跳ねっ返りで気の強い性格だった。弱いなら強くなればいい、そんな単純な考えの元、生まれた国を見限って国を出た。



 それだけで自由になれた気がした。


 数年が経ち冒険者となって成功を収めた。暮らしだって贅沢が出来るくらい豊かになった。


 自分達は変われた。もう弱者じゃない。奪われる側なんかじゃないと思っていた。


 当然今でも自分達よりも強い奴がいるのはわかっていた。それでも頭を下げる程じゃない、そう思ってたんだ。


 油断。いや、慢心していたんだろうな。


 オレ達は本当の恐怖を知った。


 実感したんだ。


 これが本当の強者なんだって。



 暴力はやっぱり絶対だった。一匹のゴブリンキングにクーリカもフローラも手も足も出ず何も出来なかった。


 目の前に地獄が広がってただ泣き叫んだ。


 そんな時に現れたんだ。ご主人様が!



 救われた。命だけじゃない、心が。


 絶望なんて一瞬で吹っ飛んだんだ。


 絶対的な強者だったゴブリンキング。そんな存在を歯牙にもかけずに一掃した景色は生涯忘れる事は無いだろうな。



 強さの次元が違った。今迄見てきたどんな強い奴よりも強いと思ったゴブリンキングが瞬殺されたんだ。


 衝撃だった。


 ああ、こんな人が居るんだ。オレはこの人になら。


 獣人族は強い存在に憧れる。本能的に。


 それでも強くなった俺は自分を預ける相手なんて見つからなかった。預ける気も起きなかった。幾ら強くても自分が劣るなど考えもしなかったから。


 でも出会ってしまったんだ。


 こんな人は他にいないぜ、絶対に!


 即決即断が冒険者に求められる能力でもある。だからオレは直ぐに願い出たんだ。



 俺を飼って欲しいって。









「ほらクーリカはこっちの方が似合うんじゃないかしら」


「そ、そんな派手なのは!」


「フローラは純白が似合うよね。これならご主人様も喜んでくれるよ!」


「え? ご主人様がっ!? わかったわ、試着してみるわね」


 俺の前ではクーリカとフローラがサラ姉様とイヴ姉様と一緒に今日の為の下着を選んでいた。


 彼女達は俺よりも年下だけど俺達は彼女達より後からご主人様のメイド(メス)になったから姉様になるそうだ。オレも姉様なんて呼ぶのは慣れないがここではそれがルールだから我儘は言えない。



「ほら、どうしたのかしら。フィオナも可愛いのを見つけないとご主人様に可愛がって貰えないかもしれませんよ?」


「なっ、それはダメだ!」


「それならこれを着てみなさい?」


「っ!?」


 俺に付き合ってくれてるシャル姉様に手渡された布地の少ない黒の下着を見て絶句する。


 確かに俺の着てた服は露出が多かったけどそれは戦闘用の装備服であり動きやすさ優先だっただけの事なんだ、オレは決して露出狂なんかじゃない!


「なんだよこれ! こんなのダメに決まってる! 紐じゃんか」


 そう、これは紐にほんの気持ち程度の布地を使って出来てる大人用である。


「フィオナなら絶対似合いますよ。何よりご主人様の為ですからフィオナに拒否権なんてありませんよ?」


 とにかく早く着て来なさい、とシャル姉様に試着室に詰め込まれてしまう。


「ぅぅっ」


 それは、俺もご主人様のメスになった時から覚悟はしてるし、それ以上に期待してるけど恥ずかしいのは恥ずかしいんだ。


 シャル姉様達はご主人様の望む事が最優先であり絶対だ。今はその為に俺に付き添っているのだから。本当なら自分達が可愛がって貰いたい筈なのに。


 それが分かる為フィオナは勇気を振り絞って服に手をかけた。





「その、ど、どうだ?」



 ぴくぴくと狼耳を震わせながらフィオナはシャルに評価を聞く。


 シャルが選んだ一枚を身に付けたフィオナはまさしく超絶の可愛さだった。


 フィオナの豊満な胸はメイド娘でもトップに入る大きさで、くびれの出来た細い腰と形の良いお尻に細長い足。このいやらしい肢体を見てシャルは直ぐに悩殺する事を狙った。その為のいやらしい下着だったのだ。だがそれはフィオナの純粋な乙女心によってエロさよりも可愛さが勝ってしまった。


 これにはシャルも認めるしかった。


 素直に可愛いと思ってしまった。よし、これならご主人様の前に出しても問題ない。むしろ一番可愛がって貰えるのでは?


 リアからフィオナの助っ人を指示されたシャルはフィオナを見て頷き。


「いいです。これ以上はない程の仕上がりです」


「っ!」


 それを聞いて目を輝かせるフィオナにシャルは。



「時間がありませんから直ぐに次に行きますよ。次は屋敷に戻ってメス犬の何たるかをレクチャーします」


「っ!?」


「3人の中で誰が一番可愛がって貰えるかはここに掛かっています。シャルが任された以上最高のメス犬としてご主人様に可愛がって貰えるように指導しますから全て覚えるのですよ? いいですね?」


「は、はいっ! シャル姉様!」


 被虐体質のシャルはメイド娘の中でも特にメス犬に一家言ある立場にいる。ヒナやシェリーと言った完全な犬体質もいるがシャルの場合はそれ(メス犬)に理解があるのであって実際にはそれ以上の被支配を求める変態だ。


 シャルが教えるのはご主人様が喜ぶメス犬でありメス犬以上の変態だった。



 こうしてフィオナはシャルに「フィオナが頑張ればご主人様が喜んでくれますよ?」との甘い餌に騙されて物の見事にリョウからの扱いが調教コースになる事になった。









 お勤めを終えた次の日。オレ達はご主人様に起こされた。朝の挨拶を教わって恥ずかしいけど頑張った。そしたら頭をなでなでしてくれて、お勤めの方が凄い事してたのにオレは嬉しくて仕方なかった。ああ、オレはご主人様の為なら何でも出来る。


 クーリカとフローラも俺と同じ様になでなでされてたが、その顔は発情してるのがばればれだ。全く、恥ずかしいぜ、2人はとんだメス猫とメス犬だったようだ。


 全く、付き合わされるご主人様の身にもなるべきだ。今度2人にはちゃんと注意しとかないとな。


 オレはそんな事を思いながらご主人様に手を縛られてリードで引っ張られて自由に動けない身体をご主人様に使って貰い二人よりも長い時間、朝からお勤めを果たしたのだった。








 その数日後、オレ達はご主人様とダンジョンに行く事になった。


 オレ達が身に纏っているのはいつもの戦闘服じゃなくご主人様から渡されたオレ達専用のメイド服だった。ピンク色のあんまりにも可愛いらしくてふりふりしたデザインはオレには似合わないと思うけどご主人様がオレの為に作ってくれた事を思えばこのメイド服はオレにとって何よりも大切な宝物だった。


 着る時は恥ずかしくて抵抗はあったけど実は可愛いものが好きなんだよ。それに胸元も足も開放的なデザインで窮屈じゃないし動きやすい。メイド服を着た俺をご主人様は「可愛いぞ」と、何度もなでなでしてくれた。最近は耳と尻尾ももふもふしてくれるようになって凄く嬉しい。



 そして、今はいつものリュードダンジョンにいる訳だが。


 35階層?


 ゴーレムエリア?


 どういう事だ!? 訳が分からないぜ!?


 完全にオレの理解の範疇を超えてた。これにはクーリカとフローラも混乱している。


 何せご主人様は一瞬にしてオレ達を連れてダンジョンに転移したらしい。


 転移? ってなんだよ!?



 初っ端からの凄まじい能力の魔法に圧倒されながら説明を受けるオレ達。それはご主人様から貰った力の事だ。


 まず職業が変わってる事に驚く。


 職業がメイドになってる。しかも3つもある!?


 次はステータスが何倍にもなってる!?


 そして経験値スキルなんていう伝説級のスキルまで付けて貰えた。


 ご主人様って何者なんだ!?



 それには直ぐに答えて貰えた。フィア様が言うにはご主人様は「英雄王」。この世全ての王の頂点でありこの世の神であるそうだ。その力の一端を目の当たりにしてしまえばオレには疑う余地もなく、そうだったんだ、と胸にストンと入り込んだ。



 やばい!


 オレのご主人様って神様だったんだ!


 英雄の中の英雄。王の中の王。


 全ての頂点に立つお方。それがご主人様なんだ。



 なんて凄い人に飼って貰える事になったんだろうか。こんな幸せな事なんてこの世のどこにもない!


 オレはなんて幸せなんだ!



 より一層の忠誠をご主人様に誓ったオレ達はサラ姉様とイヴ姉様のフロアボスの戦闘を見学する事になった。


 姉様方とパーティーを組んでいるがステータスは、高くない? そんな事は無かった。例えパーティーを組んでいようと「鑑定スキル」を持っていようとご主人様の「偽装スキル」によって本当の能力は隠されているみたいだ。


 だって幾らなんでもあれでレベル50代なんてあり得ないだろ!?


 オレは目の前で起きる衝撃的な光景から目が離せない。



 巨大なゴールデンゴーレムを相手にサラ姉様は一人優雅に歩いて近づいていく。


 オレはゴールデンゴーレムなんて初めて見るけど対峙して感じるのはこの前のゴブリンキングに匹敵する化物だって事だ。つまりSランクは確実だろうな、討伐には高ランクパーティーがいくつも必要とするレベルだ。


 だがその半端じゃない圧力を物ともせず涼しげに歩いて接近し、ゴールデンゴーレムの振り上げた拳をひらりと躱す。



 ドゴオォォォォォォンッ!!!



「「「っ!」」」


 凄い衝撃がこっちまで来る。


 まるで爆発でも起きたかのような轟音が響く。



 だがそこには上がった土煙は風魔法で瞬時に晴れて何事も無かったかのようにサラ姉様が立っていた。


 再びゴールデンゴーレムは剛腕を振り上げる。


 それをサラ姉様はその細い腕で真正面から迎え撃った。



 ドガアァァァァァァンッ!!!!!



 信じられない光景だった。


 別に年が下で小さな子だと見下していた訳じゃない。強い事は分かっていた。



 それでも、これは!?


 拳と拳がぶつかり合い一方的に吹っ飛ばされたゴーレムはなんとその一撃で倒されドロップアイテムに変換されたのだ。



 ゴーレムの攻撃を見せたのはわざとなんだ。


 俺達にどれだけの強敵と戦ってるかを認識させる為だ。そしてそれを容易く倒せる力がある事を見せつけたんだ。


 撲殺メイド、サラの力を目の当たりにして驚愕する。


 ゴーレムが倒されると同時にサラとパーティーになっている為経験値が共有された。


 それによりゴールデンゴーレムの莫大な経験値と「経験値スキル」の重ね技によりとんでもないレベルアップを果たしたフィオナは何度目の驚愕か。


 嘘だろ、なんだよこのレベルアップは!?



 その後もサラとイヴの戦闘と自身のレベルアップと大量のスキル習得に目の回るフィオナ達は改めて自分の主人と姉達の凄まじさを体験した。




 本当に凄いぜ。


 サラ姉様やイヴ姉様がこれだとフィア様達メイド娘の頂点はどれ程なのか想像もつかない。


 軽々と巨大な牛や巨人。果てはドラゴンまで撲殺するサラ。


 一方音も立てず気配も姿すら消えて相手の懐に入りどんな魔物硬い魔物も一撃で暗殺するイヴ。


 2人の大きさを肌で実感しそれでも、と決意する。



 オレも絶対ご主人様の役に立ってみせる!




 こうしてメス犬(忠犬)は新たな戦場に身を委ねたのだった。





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