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緊急会議

 

 リュードの街を猛烈な勢いで走らせているのは豪華な、それでいて実用性にもたけた馬車だ。これ程の馬車を所有出来る人物などリュードの街でも限られるだろう。


 その男は大きな建物の前に馬車を止めさせて執事と共に乗り込んで行った。


 彼はリュードの街の領主、ハリンドル・リュード伯爵。冒険者ギルドからの報せを受けて慌ててギルドに駆け込んで来た。


 普段なら領主であり貴族であるハリンドルが自ら赴く事などあり得ないだろう。本来ならどっしりと構えてギルドマスターを呼びつける所なのだが。所が知らされた内容はそんな余裕や猶予などを全てなくさせる程の衝撃をハリンドルに与えていた。


 今ハリンドルの頭にあるのはギルドマスターから正確な内容を直接聞く必要があるという事だけだ。


 使いをやる時間すら惜しいのだ。


 ハリンドルは人格も能力も秀れた人物だったが何よりも行動力があったのだろう。



「ハリンドル・リュード伯爵だ! ギルドマスターはいるかっ!」


「はっ、はいっ。少々お待ちを!」


 突然の領主の登場に慌てて腰を浮かす受付嬢だが。


「お待ちしておりましたリュード伯爵。話はこちらで、彼等も揃っています」


 ギルドマスターが直ぐに現れてリュード伯爵を案内した。




 ハリンドルが通された部屋にはドラゴンファングのメンバーが揃っていた。


 そう、報せの本題はドラゴンファングがギルドからの緊急依頼によって調査してきた出来事だった。




 ハリンドルが部屋に入るとドラゴンファングの一員は立って頭を下げた。自分の住む街の領主だ、如何にAランク冒険者でも不敬は許されない。トリンドル伯爵も当然彼等の事は知っている。そもそも自らが治める街の優秀な冒険者だ。とんでもなく無能な領主でも無ければ知らないなどという事はあり得ないだろう。



 ハリンドルが席に座りギルドマスターも腰を落としてから話は始まった。



「早速聞かせてくれ。全て包み隠さずだ」


「勿論です。先ず事の発端はギルドが出したダイールの森に出没したオーガの討伐依頼からです。Bランクの冒険者パーティーであるブルーフォレストがこの依頼を受けました。


 ダイールの森に入り直ぐにゴブリンが普段より多く現れるのに気付いたそうです。ゴブリンの集落がある可能性から異常発生したゴブリンを倒している内に奥に入り複数のゴブリン、ホブゴブリンと交戦したようです。


 ここまでなら良くある話ですがその後複数のホブゴブリンとオーガを配下に置いたゴブリンキングが現れたそうです。如何にゴブリンキングでも多種族のオーガを配下に置くなど今迄前例がありません。ましてやゴブリンキングは人の言葉を話し通常Bランクである筈のゴブリンキングがブルーフォレストの話によるとAランク以上の強さだったと」



 魔物が人の言葉を話す。この事はリュード伯爵は今でも信じられてない。魔物が人の言葉を話すなど信じられる訳が無いのだ。なんせ話せるという事は魔物では無いからだ。定義として人の言葉を話す事が出来るなら獣人族や精霊族といった種族に加わっていなければならない。


 ゴブリンは間違いなく魔物である。人の言葉を介す事なく獰猛で惨虐な。間違っても共存出来る存在ではない。


「通常ゴブリンは集落が大きくなるに連れてホブゴブリン、ジェネラル、ロード、キングと強くなっていきます。キングとなれば当然何百匹もの集団になる筈ですが今回は幾ら多いと言っても百にも満たない数で内容はゴブリン、ホブゴブリン、オーガとキングが現れるにしては不自然な点がありました。


 調べればキングがいるにも関わらず人への被害は村一つのみと幾ら何でも少な過ぎました。これは何か異常があるのは間違いない、その原因がどこか? キングが現れたのはダイールの森です。そこに原因があるのなら思い当たるのは一つだけです。


 廃棄されたダンジョン。そこに何かあるのでは。そこで今回Aランク冒険者パーティーのドラゴンファングに緊急依頼を出して調査をお願いしました 」



 ここまでは既にリュード伯爵も聞いていた。ここからが話の肝だ。



「ドラゴンファングが向かった所、ダイールの森の奥に行く程魔物は数を増してきたそうです。そして廃棄ダンジョンには魔物が出現していました」



「・・・(こく)」



 今更驚きはしない。魔物が現れなくなったから廃棄されたのだ。正確に言えば誰も寄り付かなくなった。だから人が離れた。それが長い年月を掛けて再び再生したのだろうか?


 いや、違う。


 それならば寧ろ歓迎するくらいだ。事はそれ程単純ではない。


 なんせ。



「廃棄ダンジョンを復活させたのは恐らく魔人族です」


 そう、魔人族が元凶だったのだ。



「ドラゴンファングがダンジョンを進むと一体のホブゴブリンが現れたそうです。ですが本来のCランクを遥かに上回る強さだったと」


 頷くのはドラゴンファング達だ。苦戦とまではいかないが想定よりも強いホブゴブリンには驚いていた。前もって聞かされていた為混乱せずに対処出来たが。


「そしてその後、魔人族が現れたそうです。その魔人族が語った事が真実であればリュードの街は滅びの危機を迎えています」


 重苦しい空気が場を支配する中、ライザックはハリンドルにドラゴンファングを交えて説明していった。



 一つ、その魔人族はダンジョンで魔物を使った異常種に関する実験をしている。


 一つ、その戦力と魔人族がリュードを攻める危険がある。


 一つ、魔王と魔人族の間で対立が出来ておりいずれ魔人族同士の戦争が起こる可能性がある。


 一つ、魔王は女神様からの神託を受けた使徒である。



 全てを簡単に信じる訳にはいかないだろう。魔王が女神様の使徒であるなど戯言だと一蹴されるだけだ。


 とは言え事実はともかくとして知ってしまった以上は王国貴族として報告しない訳にもいかない。


 それが真実ならば未だ魔人族と戦争をしている帝国は諸外国からの反感は免れないだろう。


 だがそれ程の大事よりもハリンドルからしてみればリュードが攻められる事の方が重大だ。何しろ領地を落とされたのではそれどころでは無いのだ。


 対策を考える必要があった。




 ハリンドルはライザック、ドラゴンファングの面々を見据えて聞いた。


「魔人族を倒せるか?」


 それに答えたのはラウルだ。パーティーのリーダーはアイン。指揮はジャスミンだが交渉事は年長者のラウルが引き受けている。


「俺達だけでは先ず全滅するのが目に見えてます。良くて相討ちが精々と言った所でしょう。ですが同じAランクパーティーであるスカイランサー。そしてリュード伯爵傘下のナイトスター。彼等が揃うならば可能性はあります」


「異常種はどうするのだ? 間違いなく戦力として出て来るだろう? 」


「実際に対峙してわかりましたがCランクの異常種であればBランクでも対処可能でしょう。それ以上が出て来たならば複数のパーティーで対応するしかないと思います」


「なるほど」


 ラウルの説明に頷くハリンドル。事実上強大な力を持つ魔人族や異常種相手では数より質が求められるのだ。低ランク冒険者をいくら集めた所で犠牲を出すに過ぎないだろう。


「ねぇ、少しいいかしら、ギルドマスター?」


「何かね」


 頷くライザックにジャスミンは引っかかってた事を確認する事にした。


「さっきの説明で異常種とやり合ったのは本当にブルーフォレストだったのかしら。私達はスカイランサーだと思ってたのよ」


「間違いなくブルーフォレストだ。彼女達のお陰で貴重な情報を入手出来て君達に依頼出来たのだ」


「へぇ、そうなんだ。ブルーフォレストは実質Aランクに匹敵するゴブリンキングを倒したんでしょう。なら彼女達は戦力になるわ。今のままじゃ間違いなく誰かは死ぬもの」


「わかった。何れにしろ冒険者は全て集めるつもりだ。防衛の必要もある」


「そうだ、街の住民に被害を出す訳にはいかないのだ。ならこちらから打って出るしかない」


「なるべく時間を掛けない方がいいでしょう。準備させる時間を持たせずに奇襲をかけるべきです」


「確かに時間をかければかける程こちらが不利か。リュード伯爵、今日明日で準備し明後日には動いた方がいいでしょう。それまでに全ての冒険者に緊急依頼を出して集めておきます」


「頼む。報酬は私から出す。これは正式な依頼だ。街を守るのだ」


「承知しました。ドラゴンファングはスカイランサーにも良く話しておいてくれ。ギルドからも説明するが何かあっては取り返しがつかないからな」


「わかったよ。僕達と彼等は知らない関係じゃないからね」


「うむ、宜しく頼む!」




 リュード領主、ハリンドルからの依頼により、リュードにいる全ての冒険者が一斉に集められる事になる。





 そこには、当然あの男も含まれていたのだった。





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