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廃棄ダンジョン

 

 ドラゴンファングはダイールの森の中に足を踏み入れていた。


 奥に進むに連れて魔物の遭遇率は上がっているようだ。並みの冒険者では恐らく廃棄されたダンジョンまでも辿り着きはしないだろう。


「もうそろそろかい?」


「ええ、見えて来たわ」


「わぁ! いっぱいいるねー」


「いい目印だな」


「気を引き締めていきましょう」



 ダンジョンの入り口。その前には魔物が、オークやゴブリンが溢れかえっていた。


 間違いなく異常が発生している。そして原因がダンジョンだと判断できた。


 だがここで帰っては誰でもできる調査に過ぎない。


 依頼を任されたのはAランク筆頭の冒険者パーティー、ドラゴンファングである。


 並み以上の結果が常に求められるのである。



「先ずは雑魚を蹴散らす。いいな!」


「「「「了解!」」」」



 オークやゴブリン程度の下級クラスの魔物など彼等の敵ではない。先頭を走るアインは魔法剣でオークを斬り伏せていく。


 ラウルも後衛を守りながら一匹一匹と薙ぎ倒す。


 モニカは現れては倒して消えてを繰り返し、気配遮断スキルが十全に効果を発揮していた。


 ジャスミンは火魔法で燃やし尽くし、マリーはパーティーを補助魔法で援護する。



 数分で狩り尽くされて魔物はドロップアイテムに変換された。



「どうだった」


「強くは感じなかったわね。恐らく目的の対象はダンジョンの中でしょうね」


 全員ジャスミンに頷く。


 異常発生した魔物の存在は確認出来たがその原因はダンジョンの中にある筈だ。変異種がいるなら討伐しなければならない。



「それじゃあ行こうか」


 アインの合図でダンジョンに足を踏み入れた。






 廃棄ダンジョン1階層。



 洞窟型のダンジョンでそこはオークとゴブリンが出て来るくらいで他に変化はないようだった。



「だが本来なら魔物が発生しなくなったから廃棄されたんだろ。何年も前から出るようになったのならばスタンピードの可能性だってあるんじゃないか」


 ダンジョンで発生した魔物が討伐されずに異常増殖して外に溢れ出る現象だ。


「確かに十分考えられるわね」


「見た感じそれしかなさそー。だって別に対して強くないしー」


「管理を怠った領主とギルドの責任ですね。何もなくとも見張りくらいは立てるべきでしたね」


 マリーからも辛辣な意見が飛び出す。もしスタンピードが起これば小さな村や町は簡単に呑み込まれてしまうから無理もない。リュードだってどうなるか。


 廃棄ダンジョンは話に聞いていた通り魔物は強くなく新人冒険者でも倒せるレベルの初心者向けダンジョンだったのだろう。


 調査した見解はスタンピードが原因だったのでは? と纏まっていた。


 その緩んだ気持ちが一瞬で引き締まる。



「待って!」


 突然声を張り上げでナイフを投擲するモニカ。視線の先には何も見えないのだが隠密スキルを持つ魔物もいるから油断は出来ない。


「来たよ!」


「ギャアァァッッ!!!」


 叫び声を上げながら現れたのはホブゴブリンだった。Cランクの魔物。ドラゴンファングの相手ではない。


 だが。


「こいつ!? 色が赤いぞ!」


 そのホブゴブリンは緑ではなく真っ赤な姿であり両手に持つゴブリンソードは通常よりもサイズの大きな物だった。


「異常種だ! それでもBランクに過ぎん。いつも通り狩るぞ!」


「「「「了解!」」」」


 ホブゴブリンの剣をラウルが受け止めてアインが切り込む。


「はあぁっ!」


 アインの魔法剣は雷を纏い片腕を両断する、


 筈だった。だが。


「ぐぅ!?」


 ダメージを負ったのはアインの方だった。アインの肩には石の鏃が突き刺さっていた。


 ホブゴブリンはあの僅かな時間で土魔法を発動してカウンターを決めたのだ。


「アイン!? マリー、お願い!」


「はいっ!」


 すかさずジャスミンはマリーにアインの回復を指示する。そして自らも魔法で援護する。


「ラウル、モニカ!」


 それで彼等理解し後方に下がり魔法の射程圏内から離脱する。


「獄炎魔術、五月雨!」


 超高温にまで圧縮された百の炎の矢がホブゴブリンを穿ち、貫く。


「グゥアァァッ!!!」


 悲鳴を上げるホブゴブリンだが。


「これで終わりだ!」


 ジャスミンの魔法が切れた境を間髪いれずにアインが首を今度こそ両断した。







「ふぅ、それにしても強かったね。耐久力なんてBランク所じゃないね。助かったよマリー」


「いえ、私の役目ですから。それにしてもジャスミンさんの魔法でも倒し切れないなんて信じられません」


「それに土魔法も使ってたわ。あり得ないわ、油断とかそういう話じゃない」


「ああ、ゴブリンメイジならともかく完全な剣士タイプだったからな。それが万能タイプだと? 異常種の強さは確かに異常だ」


「たーしーかーにー。でもCランクのホブゴブリンがこれってゴブリンキングはどれだけ強くなるのー。嫌になるねー」


 モニカの愚痴も最もだ。それはドラゴンファング全員の共通認識だった。スカイランサーが倒したゴブリンキングはこれ以上の強敵に決まってる。だがホブゴブリンと戦った感触を思えば最悪全滅すらあり得ると感じていたからだ。


 まだ異常種がいるかも知れないが安全策を取るべきだろう。無理を通す時もあるが無茶はしない。それが一流の冒険者だ。


 次は殲滅戦に切り替わる筈だ。その時はスカイランサーと協力する事になるだろう。



「異常種は一体討伐したわ。強さも確認できた、こちらの想定以上の戦闘力よ。これ以上無理をする事は無いわ、撤退しましょう」


「「「「了解」」」」


「あら? もう帰るのですか?」


「「「「っ!?」」」」


 アイン達が頷いた所で誰かが声をかけて来た。


 ギルドから異常種は人の言葉を話すと言っていた。


 まさか!?



 だがそこに居たのは魔物ではなくて。


 カラッ、カラッ。


 地面に落ちたのは投擲した二本のナイフ。反射的にモニカが投げた物だ。それに笑って答えたのは。



「あらぁ、いらっしゃい。冒険者の方々」



 漆黒のドレスを纏った絶世の美女。



 見た目は人と変わらない。だがその女性は魔人族と呼ばれる種族だった。




「貴女はここで何をしてるのかしら」


 圧倒的な威圧感を放つ相手に怯む事なくジャスミンは切り込む。


「あら可愛い女の子ね。冒険者の真似事かしら?」


「失礼ね、正真正銘の冒険者よ、Aランクのね!」


「確かに見た目じゃ分かんないよねー」


 こんな時でも軽口を叩くのは一流ゆえだった。平常心を保てないようじゃ目の前の化物の相手など務まりはしない。



「そうねぇ、見て分からないかしら。それとも考える能力すら退化しちゃったのかしら?」


 わからないの? と、魔人族の女性は首を傾げる。


「君がダンジョンを活性化させて生き返らせたとでも言うのかい」


「「「!?」」」


 そんな事!?


 驚くジャスミンに魔人族の女性は。


「あらぁー、いきなり当ててくるなんて凄いわね、驚いたわ。そうよ、少し実験に使わせて貰ってたのよ」



「実験?」


「それは何の実験なんだい」


「んふふ、何だと思う?」


 何の? 取り敢えずロクでもない実験である事は確かだろう。


 だが「ゴブリンキングがAランク相当の魔物になっている」そう聞いていたジャスミンは先程ホブゴブリンの異常種との戦闘でその危険性を実感したばかりだ。彼女が元凶に違いない。


 ダンジョンで魔物を使っての実験?


 魔物を強化している?


「何? 魔物を強くして操ろうとでも言うのかしら」


「あらぁ?」


 魔物によってはテイム出来る魔物もいるがその前にわざわざ強くして難しく・・・喋る?


 そう言えばゴブリンキングは人の言葉を話していたという。


 意思疎通が出来、完全な上下関係を築ける強力な魔物の兵隊?


 それを作る理由は?


「あんたまさか! 戦争を始める気なの!」


 んふふ。


 ぱちぱちぱち。



「魔物を支配する能力は魔王だけの物だけど、その範囲は魔族領に限られるわ。ましてや細かな命令なんて出せはしない。なら作ってしまえばいいの、そうすれば魔王に頼らずに私達は自由に生きられる筈だわ」


「・・・何を言ってるの?」


「あらぁ、ごめんなさい。こっちの都合なんて関係無かったわね。取り敢えずは私達が生きられる領土を得るために人族を少しばかり滅ぼそうかと思っているのよ」


「滅ぼすだって。そんなの認める訳にはいかない!」


「そうは言っても剣士のお兄さんじゃ私の相手にならないわよ。戦闘も、夜の相手も役不足ね」


「っ!」


「待って!」


 飛び出そうとするアインを必死に繫ぎ止める。ジャスミンだけでない、アインも。ドラゴンファング全員が分かっている。目の前の魔人族は自分達と同等以上の実力だと。


「あらぁ、どうしたのかしら。悪いけど貴方達にはここで死んで貰うつもりなの。私が姿を見せた時点で察しているでしょう?」


「分かってるわよ、そんな事。それよりこんな事してるのはあんただけじゃないでしょう。魔王から独立した魔人族が暴走してるのかしら」


 どうやら目の前の女性は魔人族でありながら魔王を軽視しているようだ。敬称すらつけないなどあり得ない事だからだ。


「見た目に似合わず強い心を持ってるのね貴女。まぁ直ぐに死ぬ事になるから話してあげるわ」


 必死に時間を作るジャスミンにマリーも心の中で頷く。


「魔人族を人族や亜人族、精霊族は迫害してきたでしょう。これまでの歴史を見れば分かる通り、魔族領に閉篭もる魔人族を人族は亜人族や精霊族を煽って戦争を仕掛けて来た。そうして何度も繰り返される戦争で魔王は何度も殺されたわ。でも何度魔王が代替わりしようと魔人族から人族に戦争を仕掛けてる事はなかった。魔王が止めたから」


 魔人族と人族が戦争をしているのは知っている。現在だってそうだ。何しろ魔人族は人族に仇なす者であり魔物の上に位置する脅威その物だからだ。


 魔王が魔物を支配するのも支持を集める理由になっている。


 だが人族から魔人族に仕掛けたというのはどうなのか。


「でも何故魔王が戦争を止めようとするのかしら。実の親を殺されたのに復讐したくはないのかしら」


「私達は不思議だったの。私達がこんなに怒り狂って殺したいと願っているのに誰よりも無念を感じている筈の魔王の子が揃って言うのよ。報復はしない。領土を治めるのが自分達の使命だって」


「ふふふ、可笑しいでしょう。異常だわ。まるで他人事のように肉親を切り捨てるなんて王族としても薄情よね。それで思ったのよ」



「もしかしたら魔王は偽物じゃないかって」


「「「「!!!」」」」


 魔王が偽物? 何を言ってるの?


「魔王は強すぎる。私達じゃ敵わない程の潜在能力を持ってるわ。でも子供の頃ならどうかしら。仲間は魔王の潜在意識を覗いて本心を聞き出そうとしたの。そして分かったわ」



「魔王が女神の手先である事に」


「「「「!!!」」」」


 衝撃の事実が次々と出てくる。これが本当なら戦争どころの話じゃない。いや、戦争なんてやる必要すらないのだ。


 世界の人々が信仰する7人の女神様達。


 女神とは世界を見守る最高位の存在だ。なんせ神様なんだから。


「魔王一族は女神によってある使命を与えられていたのね。その一つが魔族領における魔物の管理。魔王一族のスキルに領土内の魔物を支配出来る能力があるわ。領土内だけ、だから侵略する為の戦争に向かないけど防衛は得意。でも目的は別みたいね。だけどそれで人族に報復をしない理由にはならないわよね」


「結果いいように人族に殺される魔人族はどうなるのかしら。生き残りだって女子供ばかり。それでも人族よりは強くても勇者みたいな化物だって現れる事もある。このままじゃ使命どころか滅ぼされるのが目に見えてるわ。だから私達は魔王と決別して新たな国を立ち上げる事にしたの。そして人族を滅ぼしてね」


 どうかしら、と微笑みながら魔人族の女性が笑う。


「そうね、驚きを通り越してどんな顔すればいいかわかんないくらいの情報よね。でもそれより気になったのだけど、一つ聞いていいかしら」


「うふふ、聞きたい事ばかりね。なにかしら」


「貴女の名前はなんて言うの?」



 空気が変わる。


「・・・アシュレイよ。アシュレイ・アシュタルツ。忌まわしい魔王の血を引いたね」



 ゾクッ!!!


 瞬間アシュレイから殺気が放たれる。先ほどの何倍もの威圧感を持ってのし掛かる。



「さて、話はお仕舞い。さあ死んで貰うわ」



「ジャスミン!」


「行くわよ!」


 アインが大声で叫びジャスミンが答える。



「獄炎魔術、織神!」



 マリーの全力の補助魔法をジャスミン一人に重ねがけして能力を限界まで底上げし、ジャスミン自身、自分に強化魔法をかけて放つ固有魔術、織神。


 全ての魔力を根こそぎ注ぎ放たれる、視界全てを飲み込む獄炎の牢獄。


 ジャスミンの奥の手であった。


 当然消耗も激しく、放った本人は魔力切れにより意識を手放してしまう最後の切り札だ。



 だがそれで倒せるなどと油断はしない。すぐにラウルがジャスミンを抱えてモニカを先頭にアイン、マリー、ラウルと全力で撤退する。



「走れっ!!!」




 ひたすら全力疾走で走り抜けダンジョンを出てダイールの森の安全地帯に身を寄せた。


「追ってはないな」


「大丈夫、来てないよー。もう死んだかと思ったよー」


「何とか生き残りましたか」


「だが信じられない話だったな」


 重い空気の中ジャスミンが目覚めるまで待ちリュードに帰還した。



 こうして危機を脱して破格の情報を持ち帰りドラゴンファングの調査は完了した。


 これによりドラゴンファングは更に名声を上げる事になる。









「あらら、逃げられてしまいましたかぁ」


 まあどうせ構いやしない。直ぐにあの街も滅ぼす事になるのだから。



「グルゥゥゥゥッッ」



「はいはい、あなたも直ぐに喋れるようになりますよ」



 大きな巨体を揺らす一匹の魔物が唸り声が響き渡っていた。





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