クーリカ
クーリカが生まれたのはハングリア獣王国である。
以前語った通り強者が絶対であり国の王である獣人王が国の最強の男である。
とはいえ強さだけで国は安定しない。下々の民は法により守られるしそれを守るのは国の兵でありその強さも折り紙つきである。
だがだからと言って獣人族の性質であり本能、弱肉強食の理。それが強者と弱者を作り出す。そこから子供と大人、女性と男性、全ての人が守られるかと問われると否という他ない。
国の兵がどれだけ目を光らせようと救えない者、虐げられる者は出てくる。
特にここ、スラムでは。
「フローラ姉お腹空いたにゃん」
くー、とお腹を可愛らしく鳴かせているのは猫人族のココだった。
「もうすぐだから我慢しなさいココ。どうかしらフィオナ」
「おう、もう出来るぜ。ココはリズを呼んだこい」
「にゃーん!」
ぱたぱたと走る姿は子供のそれであり、まだまだ凄腕の冒険者には見えない。
「フローラ、フィオナ。考えたか」
ココが走り去った後2人に声を掛けたのは虎人族のクーリカだった。
まだ少女といった姿なのも当然、この当時、彼女はまだ15才。フローラとフィオナが12才であった。その時点で既に2人には胸で負けていたがクーリカは気にしない。
(大きさが全てではない!)
「え? 何か言ったかしら?」
「何でもない。それでどうだ?」
以前から話していた。それはこの国を出る事だ。
正直国を出たからと言って他所の国に歓迎される事などない。それどころか迫害だって当たり前にあるだ。だがそれでもスラムよりかはマシだというのがクーリカの決断だった。
身寄りもなく雨が凌げる程度の家で身を寄せ合って何とか飢えを凌ぐ生活。それも限界が来ていたのだ。
昨年王が代替わりした。代替わりは国が年に一度開く決闘大会により勝ち上がった優勝者が王の一騎打ちを挑む事が出来る。そこで戦い国民の前で倒す事により新しい王が生まれる。
新しく生まれたその王の政策によりスラムの廃止が掲げられた。身寄りもなく助けすらないスラムに生きる人々は当然声を上げた。そして当然の如く捕まり奴隷になった。
目的は単純であり簡単だ。腐らせて勝手に死なれるより国力を上げる為の労働力にしたのだ。それも強制的に。
ここでも出てくるのだ。力を持つ者が正しいと。
それは魔法の言葉であった。
「スラムに住む人々を奴隷にして国に奉仕させよ。それが国の為になる」国の王の言葉である。
兵達は国の為を思い迷わずに次々とスラムの住人を捉えて奴隷紋を刻んでいった。
(これが王のする事か!)
結果、国は一見豊かになった。だが貧富の差は更に広がりを増した。何より力を持つ者が持たない者を下に見る。以前よりあった差別がより顕著な形で現れてしまった。
それはまるで人族の国のような貴族と平民の姿である。
何よりもその政策の所為でクーリカ達が住む場所も既になくなろうとしている。
無くなればまたスラムのような場所は必ず出来るだろう。最下層の人間が居なくなる事などないのだ。
だがそれはクーリカ達が奴隷になった後の話だ。現状クーリカは選択を迫られていた。
このまま捕まって奴隷にされるか、それとも新天地を目指すのか。
「クーリカ、私達は一緒に付いていくわ。ココとリズも同じ考えよ」
「今更っつーか、初めからこの国に愛着なんかねーしな。それどころかこのままじゃ捕まって奴隷になっちまう。物扱いのこの国じゃ性奴隷にされるのが目に見えてるしよ」
奴隷にされたが最後、人としての生など望めない。奴隷が物扱いなのは帝国や王国などの巨大国家がそう定めているからだ。他の小国も右に倣えであり、例外など聖王国くらいのものだ。
「そうか、なら良かった。共に生きよう」
「おう!」
「ええ、クーリカ」
(あたしはこの国の王を認めない。仲間達を奴隷にしたこの国も!)
その後5人で国を抜け出して隣接するシャラント王国を目指した。帝国も隣同士だがそこは獣王国との諍いが絶えず獣人族の扱いが悪いので選択肢にはならなかった。やっとのことで王国にたどり着き、そこで冒険者となり生活を始めた。
女性でも一般の人族より遥かに高い身体能力により採取依頼より討伐依頼を優先して受けた。魔物を倒せばそれだけでレベルが上がるからだ。パーティーを組んでる以上誰が倒しても経験値は共有されるし元々ゴブリン程度楽に勝てるだけの能力もあり直ぐにレベルとランクも上がって行った。
気付けば5年が経ちBランクにまで上がりAランクも間近まで迫っていた。
贅沢だってできる。一般人よりも遥かにいい暮らしをしてるだろう。
既にあたし達は弱者じゃない。弱者を食い物にするあの国とは縁を切りリュードと言うホームグラウンドも見つけたのだ。
ランクを上げる一押しに信頼出来そうな仲間が後1人いればあたし達はAランクでもやっていける。
そんな人材を偶然見つけた。
メイドの少女だった。
仲間にするなら女性がいい。偏見ではない。クーリカはその方が上手く回るだろうと思っていたし、女が5人の中に男1人などやりずらいに決まってる。
それで上手く勧誘出来ればと今回の依頼に誘ったのだ。
だがそれは上手くはいかなかった。見通しは甘く、現状最悪の形で結果が現れようとしていた。
恐怖を押し殺す。こんな事今迄に幾らでもあった。
あたしはフローラとフィオナと共に魔物の中心、ゴブリンキングに突撃した。
勝てないだろう。だが現状を打破する為には、生き残るには倒すしかない。
左右は2人に任せてただ前を見据えて必殺の一撃を繰り出す。
身体強化! 身体能力大!
ステータス上昇スキルを発動!
そして
「疾風斬!」
力ではなく斬れ味で切り裂く!
真空刃を纏った剣が超スピードでゴブリンキングに迫る。
それを見てゴブリンキングはニヤついた笑みを浮かべる。
瞬間、周りのゴブリンが身を呈してゴブリンキングを庇う。
バカな! 間に合う訳がない!
バシュゥッ!!
だと言うのに切り裂いたのはゴブリン達だった。
「くぅ!」
「おっと、そこまでだ」
速度が緩んだ所をオーガが壁になり囲まれてしまう。
どうする!
「ハハハッ、残念だったな。俺のスキル、【王の配下】により俺の支配下にある者は全ての能力が上昇する。そして俺の意のままに操る事が出来るんだよ!」
「・・・ゴブリンが瞬間移動したかのようだったが?」
「ああ、只の肉の壁だ。壊れて構わないならどうとでも出来るんだよこれがな」
ハッハッハッと醜い顔を更に歪めて笑う。
なんて能力だ! 強過ぎる!
それが出来るならこちらは瞬殺されてしまうだろう。だがそうしないのは自分を捕らえて繁殖に使う為だろう。
対してこちらの攻撃は通らない。それでも諦める訳にはいかない。
「言っただろう? そこまでだと」
「なっ!?」
目の前に突然現れたゴブリンキング、距離を一瞬で詰められた!?
伸ばした手を切り払い距離を開けようとするが剣が手で掴まれてビクともしない。
まだっ!
スキル! 疾風斬っ!
剣に真空刃を纏わせ切り裂くスキル。
それが、
効かない!!!
「バカな!」
「生憎とその程度の攻撃は俺には通用しねぇんだわ。ハッハッハッ!」
剣はゴブリンキングの手で容易く握り潰されてしまい両腕を掴まれ持ち上げられてしまう。
これまでか。済まない、フローラ、フィオナ、みんな。
「くっ! 殺せ!」
「ハハハハハッ! 喜べ! これでお前は俺のメスだ!」
フィオナのあたしを呼ぶ声がする。済まない、こんな所で、これからだっていうのに。やっと地獄を抜け出せたのに。
あたしを持ち上げるゴブリンキングは涎を垂らしながら舌舐めずりをしてあたしの装備を剥ぎ取る。
ビリィッ!
「くぅ!」
最低限の装備である胸部のプロテクターが外されて素肌が晒される。
まさか自分の身体を夫になる人じゃなく魔物に初めに見られるなんて。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「「きゃー!(うあー!)」」
笑い声を上げるゴブリンキングが声を上げた先に視線を向ける。
(今のはフローラとフィオナ!)
あたしの視線の先には剣を奪われたて倒れるフローラとフィオナの姿があった。
「ハッハッハッ! 仲間もこれまでのようだな。連れてこい!」
「く! 捕まるかよ!」
「離しなさい!」
2人はオーガに掴まれあたし同様ゴブリンキングの前に引きずり出される。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ!」
ビリィッ!
「きゃあ!」
「んぁ!」
2人の胸部まで晒されて怒りと羞恥により睨みつける。
だがそんな物なんの意味も持たなかった。
「こっちもいいメスじゃねぇか。人間はすぐ壊れるからな。獣人のメスが欲しいと思ってたんだよ」
「うるせぇ! さっさと殺せ!」
「あー? なに命令してんだ? このメス犬がぁっ!!!!!」
ビリビリビリッ!!!
王の咆哮は空間を震わせ全てを恐怖させる最高スキルの威圧。例え高位冒険者でも防ぎようが無い。
「ひぃぃ!」
びくっびくっ!
「あっ、あっ」
ゴブリンキングの圧倒的な威圧によりフローラとフィオナは涙と共に漏らしてしまった。かく言うあたしも涙目で初めて漏らしてしまう。
「うぅ、ごめんなさい。ゆるして」
「ゆるして下さい。何でも、なんでもしますから」
自慢の耳も尻尾も垂れ下がり、そこにあるのはゴブリンキングの言う通り恐怖に支配されて赦しを請う只のメス犬だった。
「ハハハッ! なら俺のメスになれ!」
「やぁ! 嫌ぁ!」
「おねがい、ゆるしてぇ!」
もう聞くに耐えない。
「ゴブリンキング! あたしが代わりになる!彼女達は逃して欲しい、頼む!」
「ひゃひゃひゃ! そうか! ならお前から頂くとするか!」
くっ!
ゴブリンキングの手が伸びる。
ああ、済まない。何度目の懺悔だろう。
あたしは涙を流しながらも睨む事はやめなかった。その時。
ザシュッ!
「ん?」
呆然と落ちた片腕を見つめるゴブリンキング。
「なっ!? なんだ一体!?」
「いや、最後まで静観するつもりだったんだが流石に目の前で死なれるのは気分が悪いからな。済まんな、死んでくれ」
そこに立っていたのはあたしがスカウトしたメイドの主だった。彼はただ面倒臭そうにゴブリンキングを見下ろしていた。
「キサマ! 殺れ配下共!」
瞬間移動のような超スピードで殺到するゴブリンやオーガがあるで壁でもあるかのようにある一点から形も残さず霧散する。
「何だ!? 何がどうなってやがる!」
「終わりか?」
「クソが!」
ゴブリンキングの能力によって生み出されたキングゴブリンブレードが彼の頭を狙い。
いや、やはりある境から消滅する。それは剣も、キングゴブリンの腕すらそうだった。
「ギャアー! 何なんだこれはぁ! お前はぁ!」
それが怒り狂うキングゴブリンの最期の言葉だった。
「俺か? 俺はただの王だ」
その瞬間、キングゴブリンは、フローラやフィオナを捕まえていたオーガ達は音もなく消滅して消え去った。
「大丈夫か、お前ら?」
胸に暖かい感情が入ってくる。
そうか、わかった。
彼があたしの王様なんだ!!!




