スカウト
(おいあいつ、こないだの・・・)
(3バカに絡まれてた・・・)
(なぜかアインが倒れたんだよな・・・)
こないだの件か。冒険者なんて乱暴者の集まりだからあれくらい日常茶飯事じゃないのか?
そんなにひそひそと言う事か?
(それよりも周りのメイドだろ! なんだよあの美少女達は! 可愛すぎるだろうが!)
(あの美女見てみろよ、翠の髪の! あんな綺麗でクールな女を侍らかすなんて許せねぇ!)
・・・リア・・の事か?
(ってかここを何処だと思ってんだよ! あんなにメイド引き連れやがって! 1人下さいっ!)
やらねぇよ。
うむ、相変わらず騒がしい所だな。
今俺は久し振りに冒険者ギルドに来ていた。俺個人的にはあまり依頼を受ける必要性がない為中々足を踏み入れる事は無いのだが、今回珍しくも依頼を受けに来たというわけだ。
理由?
それは後ろについて来ているメイド娘を見れば分かる。
「えへへー、ここが冒険者ギルドなんだぁ、冒険者が沢山いるよーサラ」
天真爛漫なイヴが周りをキョロキョロと楽しそうに見渡している。好奇心旺盛な彼女はなんでも突撃の精神である。
「当たり前でしょ、冒険者ギルドなんだから。それでどんな依頼を受けたいのよイヴは」
呆れながら返事を返すサラは堂々としたものだ。喧騒漂う冒険者ギルドでも凛とした姿勢は変わらない。
「うーん、やっぱり討伐クエストだよね。ドラゴンくらい強い魔物を狩りたいなぁ、ワンパンで死なないくらいの奴。それで一気にSランクだよ!」
「そんな依頼ありませんよイヴさん。それに登録した手の新人に任せられる仕事ではありませんし」
冷静に返すのはシャルロッテだ。見た目完全お嬢様。いや、お姫様のような彼女がふりふりのメイド服を着ている。それでも変わらぬ気品を保ち、尚且つ可愛さまで加わればそれは最高のメイド娘に違いない。野郎どもの視線も釘付けにする魔性の魅力だ。
「うー。でもやっぱり討伐クエストじゃないと面白くないもん。早く登録して依頼を確認しようよ」
「イヴさん、ここでは周りの目があるのですからご主人様のメイドとしての自覚を持って行動して下さいね」
「セリーナ姉様の言う通りよ。イヴは自由に振る舞い過ぎ」
セリーナとセレーナの注意が入るがイヴに堪えた感覚はない。
「分かったからそんなに怒んないでよ。ちゃんとしますー」
「イヴ? ちゃんとしなさい?」
「うー、はい、リア姉様」
こんなだがイヴ含めメイド娘達は貴族の令嬢としての教育はしっかりと受けている。感情を殺して作り笑いを浮かべて品よく振る舞うのもお手の物だ。だがイヴは親しい人相手にまで息苦しい演技をしたくはないのだ。主人であるリョウにも大好き故に素の自分を見てもらいたいのである。それがメイドの振る舞いとして正しいのかは疑問が残るがリョウはそれを咎めてはいない。と言うよりも今更の話である。騎士メイドとなったシェリーからして口調はメイド?と疑問符をつけざるを得ない。だがリョウはそれを個性的だと気に入っている為問題なく、指導にも熱が入るというものだ。
そこに近付いてくる2人組みの冒険者の姿があった。
「お嬢ちゃん達可愛いね。どんな依頼を出しに来たんだ、俺たちが直接聞いてやるぜ?」
声をかけて来たのは先ほどからちらちらとこちらを見ていた冒険者達だ。どうやらギルドに依頼に来たと勘違いしているようだ。まぁメイドが冒険者とは普通は思わないだろう、リョウの事も知らないみたいだ。冒険者の男達はにやけた嫌らしい表情でメイド娘を見ている。
一瞬にして頭が沸騰する沸点の低いリョウだがこの間もギルド内で冒険者をつい威圧によって気絶させてしまった為反省してしたのを思い出す。
リョウはメイド娘を愛している。
故に勿論後悔はない。触れるもの全て払いのける所存だ。とは言え別に目立ちたい訳でも喧嘩をしたい訳でもない。そもそもうちのメイド娘がそこらの冒険者に遅れを取るなどあり得ない。これもいい機会だとメイド娘達の対応力を見る事にした。
とは言っても冒険者ギルドにメイド娘(それも全員が美女、美少女だ)を連れてくれば基本的に柄の悪いその日の稼ぎで生きている冒険者達にしてみれば手を出さない訳がない。
まさしく密に吸い寄せられるアリである。当然例外はいるが。
振り返ったイヴはよそ行きの笑顔できっぱりと言い切る。
「いえ、結構です」
バッサリである。
「はははっヤン、断られてんじゃねぇか」
「うるせぇよジョン。ほらそんな事言わずに言ってみろって。相談に乗るぜ。そんな大勢で来るんだ、困ってるんだろ、任せろって」
めげない男達、ヤンとジョンは更に言葉を重ねてシャルに触れようと、
「!」
する。
ひょいっ
シャルは涼しげな表情で身軽に躱していた。
ふぅ、危うくまたもややってしまう所だった。メイド娘を見守るのも気が気でないな。やはり近付いてくる虫共は焼き払った方がいいのではないだろうか。と、考えて始めてしまうリョウである。
「おいおい、逃げるなって。大丈夫だ、悪いようにはしないからさ」
「そうそう、俺らに任せておけば大船に乗ったようなもんだぜ」
間違い無く泥舟である。沈没確定だ。
しつこい男達にため息をつき断ってもこれ以上は効果が無いと判断したイヴは、先程の笑顔とは似つかない冷めた目で冒険者達を見て言い放つ。
「いい加減にしなさいクズ共。私達はご主人様の所有物なの。貴方達のようなゴミが話しかけて、ましてや触れていい存在じゃないのよ。分かったならさっさと消えなさい」
イヴとて普段は天真爛漫なドスケベメイドだが元は貴族の伯爵家の令嬢だ。貴族に群がり食い物にする輩はごまんと見て来ている。勿論その対応もだ。背後関係を洗ってないとはいえこの程度の冒険者に強力な後ろ盾があるとは思えない。ならば正面から潰すだけだ。
「なんだと! 折角俺達が気を遣ってやったら調子に乗りやがって。俺がそんな事言えなくなるように教育してやる!」
どこかの誰かみたいに沸点の低い冒険者の男達は直ぐに逆上してメイド娘達に危害を加えようとした。彼等が言うには教育らしいが。
「先程も言いましたが結構です。私達を教育して良いのはご主人様だけですので」
今度は侮蔑だけでなく物凄く軽く威圧も乗せて放ったがそれがいけなかった。
びくっ!
「て、てめぇ!」
一瞬怯んだジョンは自分が只のメイドの視線だけでびびった事に激昂した。レベルが低いとはいえ冒険者とは文字通り命懸けの仕事である。彼等にとってはゴブリン達だって油断すれば殺される危険がある。そんな中今まで生き残ってきたのだ。それが戦場を知らない小娘の眼光に怯むなど屈辱以外の何物でもない。
男は無意識に拳を固め殴りかかった。渾身の右ストレートだ。
その迫る拳にすら侮蔑の表情を浮かべるイヴはスッと軽く身を引いて躱し、手を開いて振りかぶっていた。
バチーンッ!
冒険者ギルドに顔をはつられた音が鳴り響く。
ギルド内は静まり返っていた。
イヴ達の冷めた視線に射抜かれるヤンとジョン。ジョンは真っ赤なもみじマークを作った頬に手を当て呆然としている。
イヴ達だけでなく周りのバカを見るような視線に気付いたヤンは直ぐに降参の言葉を吐き出し逃げに徹する。勝てない相手とは戦わない。それが冒険者の生き抜く術なのだ。
「す、すまなかった。さっきのは冗談だ。もう俺達はあんた達にかからわない、すまなかった。ほらジョン、行くぞ」
未だ呆然とするジョンの手を引き起こして逃げようとするヤンだがそうは問屋がおろさない。
「何を言っているのですか? ギルド内でまだ冒険者でもない女性に殴りかかった以上文句を言えない立場に立ったのですよ。それがすまなかったの一言で許されると思うのですか」
「うっ」
「ここは素直に迷惑をかけた周りの皆さんにしっかりと頭を下げるのが筋でしょう。ほら、床に頭をつけて言いなさい。皆様、クズでゴミの分際である私達は皆様の道具として罵られる為に存在しています。どうか哀れで救いようのない惨めな豚を蔑んだ目で罵って下さい。と」
「「「・・・」」」
ギルド内の人間全員ドン引きである。
リョウ(S)によって躾けられたイヴ達(M)は初めはリョウの恋人や嫁になる事を考えていたが指導を受けるに連れメイドの何たるか、完全な上下関係、尽くす悦びを教え込まれたのである。リョウからすればイヴ達の本心を引き出したに過ぎないが。
そして主人に尽くす事イコール幸せである彼女達は言葉責めをされると当然のように悦んでしまうのだ。
とはいえリョウはゲスい事は言わない。あくまでメイド娘を物扱いするだけだ。それもメイド娘が本心で求め悦ぶから始末に悪い。イヴのあの台詞はそんな毎日の愛の囁きを聴いてるが故に素で似たような感じで毒を吐いてしまっただけだ。イヴがSという事ではない。というかもはやメイド娘にそれは有り得ない。
だがそんな容赦のなさが良かったのか笑いながら進み出た冒険者達がいた。
「いいねあんたら。いつも大口叩くだけの野郎共がビビってやがるよ。ざまあないね」
そう言った女冒険者には虎の耳と尻尾があった。獣人族である。
「私はイヴと申します。貴女は?」
「あたしはクーリカ、ブルーフォレストのリーダーをやってる。Bランクだよ」
一般的に冒険者ランクはCランクでベテラン級、Bランクから上は超人達の世界である。何故ならBランクに連ねる魔物達は一体で村どころか街にだって大きな被害をもたらす程の脅威だからだ。たったひとつの差だがCランクとBランクには大きな隔たりがあるのだ。
そして彼女達はBランク。まぎれもない凄腕達である。
そんな彼女達にイヴは。
「そうですか、ありがとうございます。ですが私共は用事がありますのでこれで失礼します」
なら何故名前を聞いたんだ。と言いたくなる場面であるが、イヴの頭からはジョンとヤンの事も頭から消え去っていた。と言うか目にする価値も無い。
「まあ待ちなよ、あんた中々の腕じゃないか。どうだい、あたし達はこれからダイールの森にオーガを狩りに行くんだけど一緒に来ないかい。あんたが居たら面白くなりそうだ」
クーリカはイヴを見た目で判断しなかった。一見小柄なイヴはメイド服に身を包んだ可憐な少女にしか見えない。だがその見た目で侮ったりなどしない。戦闘技術は先の一瞬の攻防で明らかにであり彼女は依頼主側でなく冒険者側の人間だと判断したのだ。
Bランク冒険者に一目で声をかけられるなどそうそう無いだろう。だがイヴはやはり。
「申し訳ありませんが私達はこれから冒険者登録した後にご主人様とどんな依頼を受けるか決めますのでご一緒は出来ません。それにBランクの冒険者が受ける依頼を新人が一緒には出来ないでしょう?」
「そんな事ないさ。Bランクが居れば他のランクの人間が居たところで受ける事は出来るさ。臨時パーティー扱いになるからね。何よりパーティー全員が絶対に同じランクって訳でもないしね」
ブルーフォレストは全員がBランクだが全てのパーティーのメンバー全員が同じランクと言う事ではない。基本ソロの冒険者以外はパーティーを組むので同じ依頼を受ける事になる。そして依頼の難易度や達成回数によって評価される。それが評価されればランクアップ試験を受ける事が出来る。それに受かる事が出来れば晴れてランクアップだ。
ちなみに初心者であるEランクからDランクには試験は無く、依頼を受けてれば自然と上がる。
クーリカは何も問題ないと形のいい胸を張りながらイヴの言うご主人様とやらに目を向ける。
「それであんたがイヴのご主人様かい。随分と可愛いメイドの娘を侍らせてるみたいだけど・・・貴族様にしては強そうだね。聞いての通りあたしはBランク冒険者なんだけど一時彼女を預けてみる気はないかい」
リョウを見て少年と侮らずに強者の雰囲気を感じ取る事が出来たのはクーリカが強いから、だけでなく獣人族である点が大きい。
獣人族は強者が絶対の弱肉強食の世界である。それは個人の武力と言う意味でだ。獣人族が住まう国ハングリアは強さこそ正義。獣人王ゴルガトフは前国王を決闘により、圧倒的な勝利を収めて国王になった。強き者が上に立つ、それが獣人族。故に他者の強さには敏感だ。
そして彼女達は強かったが上には上がいる。気に入らない奴が上など簡単に納得出来ない。強さは絶対だが気持ちは別なのだ。だから国を出て冒険者になった。より強くなる為に。ブルーフォレストはそんな反骨心を持った若い獣人族の娘達で構成されたパーティーだった。
リョウはクーリカとその後ろにいる仲間達を見る。
獣人族の娘達で構成されたパーティーの様だ。その目には犬耳や猫耳、兎耳が見えた。
ふむ、悪くない、が。
リョウは愛するエルフメイドを思い浮かべる。
それはフィアだ。
ふむ。
やはりエルフ耳には敵わないな。
普段からメイド娘に獣耳を付けさせる事のあるリョウだが一番好きなのはフィアのエルフ耳なのだ。興味がない訳ではないが食指は動かない。それにメイド娘を教育するのが先で今は新しいメイドを増やす気は無かったからだ。加護を使うつもりはない。
「ふむ、悪いが断らせて貰おう。特に得られる物もなさそうだからな」
必然、淡白な返答になる。
だがそれでクーリカも簡単に引きはしなかった。何しろブルーフォレストのメンバーは現在5人。まだ1名空きがあるのだ。優秀な人材をこの機会を逃す手は無いと待ったをかける。
「そうかい? イヴはこれから冒険者登録するんだろう。なら他の冒険者と共同で依頼をこなすのもいい経験になるんじゃないのかい。あんな野郎共みたいなザコじゃなく本物の冒険者の実力を見せてみせるよ」
ふむ、それは悪くないかもな。
リョウは他の冒険者とは特に交友はない為、Bランクと一言で言ってもどれ程の物なのか、レベル自体は大体想像が付くが実際に見てみたいと思った。それにメイド娘の勉強になるのは確かだろう。
「そうだな、パーティーはうちの子達で作る。共同で依頼を受けると言うなら受けてやってもいい」
「勿論構わないさ。実力を見て入りたいと思わせてやるからね」
「ならいいだろう」
笑みを浮かべるクーリカにリョウは頷きメイド娘たちの冒険者登録をした。




