取って来い
フィアが嘆いている頃こっちは順調に指導が進んでいた。
「魔法はイメージだ。魔法の詠唱に慣れたら今度は無詠唱で発動してみろ。お前たちには既にスキルがあるから出来る筈だ」
「「「はいご主人様!」」」
簡単な説明を終えてから魔法を使用させて感覚を慣れさせる。俺はウィンドウで選択すれば魔法が使えた。その後はわざわざ開いて選択しなくてもイメージによって使用出来た。それも当然だ。もし戦闘中で使う場合にそんな無駄な時間などある訳がないのだ。魔法に限らずスキルは基本的に意識的にに発動出来る。要は慣れだ。幸い急激なレベルアップによって使いきれない程の魔力を得ている為初級魔法なら一日中使った所でガス切れにはならない。
アリスも訓練によって無詠唱で発動出来る様になり、魔力操作による強化された魔法を使うので通常の初級魔法ですら鬼のような威力である。
サラとセリーナ、セレーナは真剣な表情で初級のボール系魔法やアロー系魔法を次々に発動して魔法を使う感覚を体に覚え込ませている。
彼女達は真面目だ。だが魔法を発動する度に表情が緩むのは自分の手で魔法を発動しているという感動故か凄く楽しそうだ。
魔法が使えない一般の人に、「あなたは今から魔法が使えます」なんて言って誰が信じると言うのか。事実、メイド娘達は誰も魔法を覚えていなかった。魔法使いじゃないのだから当然だ。そして魔法を使えないと思っていたメイド娘達がダンジョンにいきなり連れて来られて「魔法の練習をする」と宣言されたのだ。そして事実急激なレベルアップと共に魔法スキルも覚えてしまった。俺が言った事が事実であると身をもって理解してしまったのだ。
自分に縁の無かった魔法を唱えられるという奇跡によって、彼女達は一層リョウへの忠誠心を抱き努力する。積み重なる通常では考えられない奇跡の連続によりリョウへの信仰心が高まるのは必然だった。
そしてリョウはフィアが面倒を見ているリア達と違いサラ達には更に優しい目を向けていた。
何故なら彼女達は新人メイド娘の中でノーマルな少女達であり、クセの強いメイド娘が多くいる中リョウから見たら天使の様に可愛い存在だったからだ。
リア達への愛情は躾ける感覚が強い為ついつい犬扱いしてしまうのだ。勿論メイドである事前提の話だが。
と、そこでサラがリョウに。
「ご主人様、初級魔法の中に身体強化魔法もあるのですが使用してみても宜しいでしょうか」
初級魔法は多岐に渡る基本魔法だ。基本スキルでもある。身体強化系などの能力向上は自身や仲間にかけることの出来る凡庸性の高い魔法だ。当然使用者によって能力の上昇値は変わる事になる。
今ならばサラが普通に発動しても通常の魔法使いの何倍もの効果が得られる筈だ。
とは言えサラのステータスは未だレベルアップが続いており魔法より遥かに上昇している為効果を実感出来ないのではないか、そう思ったが実際に使えばそれも分かるか、とリョウは許可を出す。
「良いだろう。ボール系にも慣れたみたいだし強化魔法以外にも他の魔法も使ってみろ」
「「「はい、ご主人様!」」」
サラは早速強化魔法を発動したようだ。既に超人の域にいる能力をこれ以上上げてコントロール出来るのかと思うが実際に試させて経験するのが一番だろう。
案の定高過ぎる身体能力に振り回されて危うく壁にぶつかりそうになる場面がちらほらとある。
リョウはサラに近づいてサラを呼ぶ。
「サラ、こっちに来い」
「は、はい、ご主人様っ」
慌ててサラはリョウの側に走って来た。
「強化魔法を解け。先ずは魔法無しで今の体を制御してみろ。それが出来て初めて魔法を使う意味がある。今のお前はレベルが上がって高くなった身体能力に振り回されてるだけだ」
「はい、ご主人様!」
強化魔法を解いたサラはリョウの持つ物を見て首を傾げる。
「ご主人様、それは?」
「今からこれを投げるから落ちる前に取ってくるんだ。全身を使う良い訓練になる。分かったか」
「は、はい、ご主人様!」
「良し、取って来い!」
サラはその丸い円盤状の物をみて不思議に思ったがご主人様の言葉に頷かない訳にはいかない。気合いを入れてリョウの手から投げられた丸い円盤状の、フリスビーと呼ばれる物を走って追いかけた。
それは凄い勢いで飛んで右に曲がったがサラの超人的なステータスの前では遅いくらいであった。
「はあ!」
パシンッ!
メイド服をはためかせサラはフリスビーをキャッチ、そしてリョウの元へと戻りリョウに手渡す。すると。
「よしよし、よくやった、良い子だ(なでなでなで)」
「ふぁぁ、ご主人様ぁ〜」
サラはフリスビーを受け取ったリョウに頭を優しく撫でられたのだ。それも何度もだ。
突然のなでなでに気持ちよくなって目を細めて潤ませるサラは幸せの絶頂にいた。
「それじゃあ次に行くぞ」
「は、はいっ、ご主人様っ!」
高過ぎる身体能力の制御という目的も忘れてリョウになでなでしてもらう為にやる気を出すサラ。
「「じーーー」」
だがそれを見て黙ってないのはそれを見ていたメイド娘だ。セリーナとセレーナも愛するご主人様に可愛がられるサラにヤキモチを焼くのは当然の事。自分達も参加を表明する。
「「ご主人様、私達も一緒にやらせて下さい!」」
「なっ! リーナ姉様達!」
リョウはセリーナとセレーナを見て「ふむ」と頷きセリーナとセレーナを愛称で呼ぶ。
「良いだろ、リーナとレーナも加わって競争だな」
「「「はい、ご主人様!」」」
絶対負ける訳にはいかない。メイド娘は3人互いに牽制し合う。セリーナとセレーナも今は姉妹である事を忘れて完全な敵同士、まるで親の仇のように静かに笑ってない笑った目で戦意を滾らせている。
「よし、行け!」
そして賽は投げられた。
飛んで行くフリスビーは今度は右に左にと不規則に曲がりながら飛んで行く。
「これはサラのよ!」
「リーナのです!」
「レーナが貰います!」
口々に牽制しながら自分の物だと追いかけるメイド娘達。
リーナとレーナも高い身体能力でフリスビーを追うがフリスビーの軌道に対応しきれていない。もう少しで届く所を軌道を読んだサラにキャッチされてしまう。
サラはまるで尻尾があればぶんぶん振っているだろう笑顔でリョウの元に戻りフリスビーを手渡す。
「よしよし(なでなで)いい子だ」
「はぅぅ、ご主人様ぁ」
撫でられると自然と頬をリョウの胸元にすりすりして甘えるサラ。いつもはクールでも、大好きなご主人様の前では女の子なのだ。甘えてしまうのも当然だ。
そんな光景をまたもや見せられて悔し涙のリーナとレーナ。次こそは負けない、早く早くっ、とリョウに催促する目を向ける。
リョウもその視線に気づいていたのでサラの頭をぽんぽんと優しく叩いて促す。
サラはリーナとレーナを一瞥して前を向く。その目は言っていた。「ふふん、ご主人様のなでなでは私の者よ」と、正に目を口以上に物を言う、である。
それを見たリーナとレーナは闘志を、否。殺意を滾らせる。「それは私の!」と。
メイド娘が燃える中リョウの心境は穏やかだった。
それもそのはずで以前にもフィア達相手にフリスビーをやっているからだ。高い能力を慣れさせるのにフリスビーは最適だ。ただ走り回るのではなくリョウが投げる変幻自在、速度も自在の円盤を追いかけて、対して丈夫じゃないフリスビーを壊さないようにキャッチする必要があるのだ。今は冒険者でいう所のSランク?くらいのクラスに抑えているが慣れれば能力を全開で使わないと取れないレベルで投げる事になるだろう。
そしてその時に全力を出すのは決まってヒナとシェリーなのだ。
彼女達は負けず嫌い。いや、単に褒められたいのだ。それ程迄に犬属性が強い。
シェリーなんてアリスを押し退けてまでフリスビーを取るくらいだ。
その為穏やかというより殺伐とした空気の中投げ続ける事になったのだ。
まあなでなですると直ぐに緩んだ顔になるから可愛いんだがな。
「良し、次行くぞ!」
「「「はい、ご主人様!」」」
メイド娘はフリスビーに向かって勢い良く追いかけて行った。
「よしよし、いい子達だ」
「はぅぅ、ご主人様ぁ」
「ご主人様、優しいですぅ」
「大好きですぅ、ご主人様ぁ」
何度か繰り返しフリスビーを投げたが結果はサラが取る事が多くリーナやレーナがあまり取れなかったのでフリスビーも3枚に追加して一人づつ取れるようにした。
訓練だから競争も良いのだが無駄に不満を貯める必要も無いだろう。今は3人をなでなでして褒めている。
「よく頑張ったな3人とも。これでかなり動けるようになったんじゃないか」
それもその筈、最後の方は冒険者ランク推定Sランクを超えるレベルで投げても取れてたのでこの1日でかなりの実力になってる筈だ。
「これもご主人様のお陰です」
そうか、まぁそうだな。
「ご主人様は私達のご主人様です」
それは、そうだ。
「ですのでご主人様にご奉仕させて下さい!」
そうか、うん?
「・・・ここでか」
「場所は関係ありません。今はこの3人でご主人様にご奉仕したいんです」
「ご主人様のメイドとして尽くすのは当然です」
「ご主人様っ!」
潤んだ目で見上げるメイド娘たち。暴走中である。
仕方ない。フィアに一言告げ屋敷に転移する。そして衣装はメイド服がいいかそれとも耳と尻尾を付けるのがいいのかを選ばせる。普段は俺の一存で決める為選ばせる事などないのだが今日違う。俺が命令すれば否応もないだろうがわざわざ自分で選ばせるのは普段であれば絶対に自分達では選ばないとわかってるからだ。
元より選択肢は一つしかなかった。筈である。
普段なら絶対に選ばない。なのに今日は自分の意思で選んでしまった。手にとってしまったのだ。
目の前にはメス犬メイドになったメイド娘たちがいる。当然リードに繋げている。
「ご主人様ぁ」
上目遣いで見上げるサラの目は既に潤んでいる。
「誰が人の言葉を話していいと言ったんだ。お前たちはメス犬だろう」
「っ! くぅーんっ!」
「わふぅっ」
それを聞いたリーナとレーナは直ぐに切り替えて尻尾を、お尻をふりだす。
彼女たちは今は犬だからだ。
「今日は徹底的に調教してやる」
その日はメス犬の鳴き声が鳴り止まなかったと言う。




