激怒
目を覚ましたのは侯爵家の別荘のベッドの上だ。
横にはメイド姉妹のフィアとミィ、ヒナがいて、この屋敷の持ち主であるアリス、そしてその護衛のシェリーが裸姿で横になっている。
俺たちは長い森を抜けて昨日リュードにあるこの屋敷までたどり着いたのだ。
やはり旅はいい。新しいメイド娘も増えるし新しい発見がある。
そして昨日は予想外に盛り上がったからな。
実はメイド娘が夜の勤めを果たしている時に、部屋の前にこの屋敷のメイド娘たちがやって来て聞き耳を立てていた。
フィアとミィは直様気付いたが俺はメイド娘たちに何もしないように言ってそのまま奉仕させた。
それで興奮したのがヒナとアリス、シェリーだった。ヒナとシェリーは分かるがアリスは意外だったな。屋敷の主人だし思う所があるのだろうな、知らない相手じゃないだろうし。
まぁ新しい刺激を味わいながら日々は続くのだ。
ただアリスはヒナやシェリーみたいにならないで欲しいと思った。
朝の食事を終えてお茶の時間。メイド娘たちと楽しく談笑する。
「本日はリョウ様はどうなさるのですか」
「そうだな、そう言えばまだ冒険者ギルドのパーティー登録をしてなかったんだよな。いい機会だから今日行ってくるか」
「旦那様、パーティーの名前は決まってらっしゃるのですか」
「まだだな」
「なら神王の騎士団と言うのはどうだろうか!」
「却下だ」
「「シェリー、黙りなさい」」
「ひぅぅ」
「・・・」
シェリーがおバカ発言をしてフィアとミィに怒られる。ヒナはさっきから口を噤んでいるが今の態度を見るとシェリーと似たようなネーミングを考えてたのかも知れない。ヒナ・・・。
何故シェリーがそんな大それたネーミングを考えたか、それは当然だが俺のパーティーに入っているからだ。アリスもシェリーもまだレベルが低いから道中の魔物を倒すだけでもいい経験値になるからな。
同じパーティーを組むという事は信頼関係を構築する事に他ならない。何故ならパーティーを組んでしまうとレベルや職業が相手に筒抜けになるからだ。犯罪者なんかはこれでばれるからパーティーを組むことは無いだろうしな。
つまりアリス達は俺の英雄王の称号(職業)を見ている訳だ。そしてフィアからも、いつもの説明がなされている。
そして何故か英雄の王から神の王になっている。シェリーの認識ではこうなっているのか。まだまだ調教が必要か?
「ですが旦那様、騎士団はいりませんが神王は悪く無いと思います」
「はい、フィア姉様の言う通りご主人様にぴったりです」
「私も姉様方と同じ気持ちです」
「・・・」
まさかの三姉妹からのトリプルアタックである。
何度も言うが俺は王にも英雄にもなる気は無い。ましてや神だと? しかも神の王?
うむ、無理だな。適材適所だ、俺はメイドの主人が一番だな。
「まぁ名前は後で決める。それでその後は早速ダンジョンに行く予定だ」
問題は先送りに限る。何より冒険者ギルドのパーティーの名前は厨二心擽ぐる名前ばかりなのだから。
「ダンジョンですか、それでは私はここで留守番ですね」
「お嬢様は私が守りますから心配いりません。リョウ様は気にせずにダンジョンに行って下さい」
調教の成果かシェリーは今度は間違わずに言えたようだな。いや、それが当たり前なんだが。
「いや、お前達も近いうちに行く事になるからな。まぁダンジョンを攻略してからだが」
「私達もですか?」
「リョウ様、私はともかくお嬢様に戦闘は厳しいと思うのだが」
「戦闘って言っても少し魔法を打つだけだ。危険はないから安心しろ」
そもそもその頃には魔法一撃で大抵の魔物を倒せるようになってるだろうしな。
魔法ですか? なんて言ってるが安心しろ。直ぐにレベリングして覚えさせてやる。
そう言えばリュードのダンジョンはカルーアよりも深いのだろうか。カルーアなんかは55階層迄あったが冒険者がいたのは18階層迄だった。気にしなかったが彼等のランクは幾つなんだろうか。
「フィア、カルーアにいた冒険者の最高ランクはなんだ」
「蠍の刃のBランクが一番上でした。と言っても彼等は盗賊ギルドの構成員ですが、表向きは冒険者ギルドで活動しています。後はCランクになりますし、彼等は自分達が倒せる狩り場から動く事は無いのでダンジョン攻略には貢献していませんが」
武器みたいな名前だな。盗賊ギルドって死神とか呼ばれてたあのおっさんか。確かにあそこじゃ頭1つ抜けてたよな、元気にしてるかな。
ていうかカルーアってAランクがいないのかよ。そういやギルマスもBランクだっだよな。結構街は大きかったと思うんだが。
「旦那様、カルーアは低階層でもドロップアイテムが充実していて十分やっていける街です。ベテランの冒険者は今の稼ぎで十分裕福に生活出来るので敢えて危険を冒す必要はなのでしょう」
俺が疑問に思ってたらフィアが説明してくれた。成る程な、それならわざわざダンジョン攻略する必要は無いよな。冒険者は単純に金を稼ぎたい奴か、ランクを上げて強くなりたい、ダンジョンを攻略したい奴に別れるからな。カルーアは単に前者が多かったのだろう。
「リュードはどうなんだろうな」
「確かAランクの冒険者パーティーは何組かいたと思います。Bランクも当然いますし冒険者は充実していますね」
「Sランクは居ないのか」
Sランクがどれくらいのレベルなのか気になるんだよな。Bランクでレベルが30程度だろ。ならAランクで40? 50? Sはどれくらいになるんだ。
「Sランクは王都に1組いるそうです。なんでも王子様がその一員なのだとか」
流石に元受付嬢なだけはある。いい情報量だ。
「王子様ねぇ、アリスは知ってるんじゃないか」
「はい、お会いした事もありますよ。アレックス殿下ですね。王国でも2番目に強いと言われています。そして殿下の親友であるディック・カーマインさんは王国最強の力を持っていると言われています。彼等の冒険譚は事欠きませんし」
「へぇ、王子様と親友くんか。2人の年は幾つなんだ」
「お二人共16才です。私の1つ上ですから」
「若いな、それでその強さか。パーティーなら他に4人いるのか」
「はい、後男性が1人と女性が3人の6人パーティーです。実力はお2人が突出しているようですが彼等も十分Sランクを名乗れる実力だそうです」
だろうな。まぁその親友くん。ディック・カーマインがレベリングしたんだろうな。
恐らくだが彼は女神の使徒だろう。じゃなきゃ納得が出来ない程の天才になるからな、16才でSランクとか。家名があるって事は転生者か。魔王以外にもいるんだな。いや、俺が例外かも知れないが。
まぁ別に関わる必要は無いか。現地人なら興味が湧いたが女神関係はトラブルしか思いつかないからな。
「若いってリョウ様の方が・・・」
「リョウ様は年以上に精神年齢が高いので実際殿下やカーマインさんにお会いしても彼等が子供扱いになるでしょうね」
シェリーには最後まで言わせずにアリスが被せてきた。哀れシェリー。まぁ中身は29だからな。
「まぁ1週間位でダンジョンは攻略出来るだろうから、アリス達はその後だな」
最下層迄ノンストップで突っ切れば恐らく1日で攻略出来るだろうがな。
フィアやアリス達も何も問題無いようだな。
そこで俺達の後ろで何も喋らずに控えていた執事のミスマルが俺を信じられない物を見るように口を開く。
「恐れ入りますがリョウ様、貴方はリュードのダンジョンを1週間で攻略すると言うのですか?」
「何か問題か?」
「本当にそんな事が可能なのでしょうか」
ミスマルは何か見定める目で俺を観察している。
どうしたんだ? まぁいいか、俺は普通に答えた。
「出来るな。やろうと思えば1日で攻略出来るぞ」
階層毎に空間転移でフロアボスの部屋に跳んで瞬殺すればワンフロア数分も掛からずに攻略出来るからな。(それを攻略と言えるのかわからないが)
うむ、それだと数時間で最下層迄辿りつけるな。カルーアの時は初めてだったから安全マージンを大きく取ってたからな。安心安全は大切だ。今じゃレベルが上がってるから100階層くらいあっても行けそうだ。
「リョウ様、そんな出鱈目を仰るとは。冗談にしてもたちが悪いですよ。私も侯爵閣下からこの屋敷でのお嬢様の生活を任された身、貴方はお嬢様に悪影響を与えます。即刻この屋敷を出て行きなさい!」
「ミスマル! 貴方は何を言ってるんですか!」
「お嬢様は騙されているんです。さっきから聞いていればお嬢様を呼び捨てにして、尚且つありもしない出鱈目を吹き込みお嬢様をダンジョンに連れて行こうとするなんて考えられません!」
ん? 確かに!
俺もミスマルの立場なら何言ってんだこいつ?ってなるな、マップと空間転移がなきゃ出来ないコンボだし。ダンジョンばっかりでこっち(異世界)に来てから人とそんなに関わって無かったからな。身内以外には発言は気を付けないとな。
そして俺を貶されて殺気立つメイド姉妹。完全に殺気を放つ前に念話で抑えるよう指示する。殺気で殺せるからな。(ほんとに!)
「ミスマル、貴様死ぬか?」
メイド姉妹を抑えてたら、シェリーが殺気を振りまいていた。
ダメ犬が暴走してるな。こいつダメだけど犬だから忠誠心はあるんだよな。
いや、なんか後ろで控えてるお嬢様メイドたちもミスマルに殺気を向けてるんだが?
あれ? ミスマルさん孤立してね?
「シェリーさん迄彼の味方をするのですか、信じられません」
「いい加減にしなさい!ミスマルさん、貴方は何を言ってるんですか!」
突然の屋敷のメイド長であるリアの叱責に目を丸くするミスマル。
「リアさん?」
「貴方誰に言っているのか分かっているのですか! ここはもういいですから貴方がさっさと出て行きなさい! 戻って来なくても結構です!」
リアの叱責にうちのメイド姉妹だけでなく後ろのお嬢様メイドたちも頭を振って頷いている。
あれ、ミスマルさん? 急に態度が。
リアに怒られて急に落ち込むミスマル。
「ミスマル、少し頭を冷やしなさい。それと今後リョウ様を侮辱するなら貴方は解雇しますからそのつもりでいなさい」
アリスが追い打ちをかけてミスマルは力無くこうべを垂れた。
これは流石にミスマルが可哀相だ。別に俺は気にしてないしな、アリスに優しくするように言おう。
「アリス、それくらいにしておけ。ミスマルもお前を思って言ったんだからな」
「リョウ様! はい、分かりました。リョウ様がそう言うなら」
「流石寛大な心を持つ旦那様です。私は後少しで殺してしまう所でした」
「ミィも殺意を抑えるので精一杯です」
「命じて下されば直ぐに首を刎ねますが」
「ヒナ殿、私も同じ気持ちだ」
うむ、メイド姉妹は既に切れてたな。言う事が物騒だ。ミスマルがビビってるじゃないか。冗談で言ってないからなぁ。
「し、失礼しました」
いそいそとその場から立ち去るミスマル。うむ、彼には優しくしよう。
「リョウ様、うちの使用人が大変失礼をしました申し訳御座いません」
アリスが頭を下げるのに合わせてお嬢様メイドたちも頭を下げる。何故かこっちが申し訳なく感じるな、ミスマルに。
「構わない、俺は気にしてないからな」
朝から一波乱あったが冒険者ギルドでは何事も無いと信じよう。
そして何故お嬢様メイドたちは俺にキラキラした目を向ける?




