屋敷のメイド娘たち
イヴside
「ねぇイヴ、メイド長が言ってたけどもう直ぐお嬢様が帰ってくるらしいわよ」
今は仕事が終わって就寝前の休憩時間だ。サロンでみんなでお茶をしている所でサラから声をかけられた。
きっとメイド長のリアさんが執事のミスマルさんと話してる所を聞いたんだろう。メイド長がそんな話をする相手はミスマルさんしか居ないからね。だって後はみんな私と同じ見習いメイドだからね。
「そうなんだ、なら明日の朝礼でお話があるのかな。はぁ、また気合い入れての大清掃が始まるよ」
またこの時期が来たのか、と肩を落としながらため息を吐く。あれは地獄だった。前回の大清掃はまだここに来たばかりの頃で、仕事が何も分からなかったから凄く大変だった。
「あれは大変だったわね、セレーナ」
「うん、確かに大変だったね、セリーナ姉様」
「くす、確かにあの頃は大変でしたわ」
セリーナさんとセレーナさん、シャルロッテさんが口を揃えて大変だったと言う。気持ちはみんな同じだ。
「確かに大変だけどカッコいい騎士団の人がいるかも知れないじゃん」
「あー騎士団の人達は真面目な人が多いからねぇ。もしかしたらいい人が見つかるかも」
「前は話をする余裕もありませんでしたしね」
「私も素敵な人を見つけたいです。セリーナ姉様」
「ふふ、それでは誰が一番に相手を見つけるか競争ですわね」
アルテン侯爵家の私設騎士団である赤竜騎士団は、貴族の三男や四男等の人達や、平民でも試験に合格した者が所属するエリート騎士団である。あぁ、三男や四男って言っても試験があるから能力が無いと当然採用されないみたい。だから平民でも才能があれば入団出来るのだ。
そして私達も使用人(見習い)ではあるが貴族の子女である。そして三女や四女といった具合だ。まぁ彼等と同じ立場だよね。
いや、本来なら私達のように貴族の娘として生まれたら政略結婚に使われるのが普通なんだけど、アルテン侯爵が娘の別荘の使用人は信用のおける者がいいとか言い出したらしくて。なら傘下の貴族達の娘がと言う事で余り物である私達が選ばれたらしい。信用と言うなら奴隷を使えば(契約により裏切る事が出来ないから)と思うが、侯爵は奴隷を使いたがらないらしい。
なら上の姉達はと言うと、長女や次女は貴族の当主達に貰われるのが一般的だ。と言うか私達とは価値が違うのだ。生まれた順でここまで差がつくとか、酷い話だ。
まぁ貴族と言っても下の子の扱いはこんな物だ。一番上の姉には「イヴさんは相手が居なくて大変ですね」なんて言ってくるし。そんなの私も分かってるよ!
でも考えても見て欲しい。確かに姉達は当主の家に嫁ぐ事が出来て何不自由無い生活が約束されてる訳だけど、それって結局は家の道具でしか無いんだよ。そりゃ貴族の娘である以上、家の為に知らない相手に嫁ぐ事が私達の責任だけどさ。
だから今はチャンスなんだよ。このまま家に戻ればきっとどこかの老いぼれ爺さんの妾に差し出されるのが関の山だもん。
そんなの絶対いやだよ。
同じ道具として使われるにしても素敵な旦那様の方が何倍もいいもん。旦那様に貰ってもらえたら鬼のメイド長に鍛えられたメイドスキルで精一杯ご奉仕するんだもん。(家事をだよ?)
みんなも今回は気合いが入ってる。
だっていつ家に連れ戻されるか分かったもんじゃないからね。
そして次の日、そう思ってお嬢様を出迎えたら騎士団の人は誰も居なかった。いやいや、きっとここに寄ることもあるよきっと。
希望は捨てちゃ駄目!
お嬢様と一緒にいたのは3人のメイドを従えた1人の少年だった。
お嬢様のいい人かな?顔も良いしそれに優しそう。お嬢様と一緒に居るって事は間違い無く貴族の長男だと思う。だってメイドさんを3人も従えてるし、何よりメイドさん達が着てるメイド服!凄い高級な物だよ!侯爵家の使用人である私達よりもかなり上等な物だもん。それにすっごく可愛い!
良いなぁ、私も着たいな。素直に羨ましい。
名前はリョウ様って言うんだ。
騎士の人よりもリョウ様の方が何倍も上玉じゃん。リョウ様のメイドにならなっても良いかも、なんて。
メイド長のリアさんが私達を紹介してくれた。
リョウ様と目が合ったその時。
「んっ!」
私の身体が急に熱を帯び始める。
なに? なんなのこれ?
分かんないけどリョウ様を見ると胸が苦しくなる。身体が熱くなる。
え?
もしかしてこれって一目惚れってやつかな。私、恋しちゃったかも。
もう一度確認、とリョウ様を見つめる。
「んっ!」
やばい!間違いないよ!
でもどうしよう、リョウ様はお嬢様のいい人だよね?私が声なんてかけ・・・あれ、みんなどうしたの?
明らかにみんなの様子がおかしい。顔を赤く染めてどうしたのよ。
・・・え、もしかして・・・まさか!
お嬢様方がリアさんを連れて立ち去った後、私は直ぐに確認する。
「ちょっと待って、みんなもしかして?」
「え、まさかイヴもリョウ様狙い?ダメよ、リョウ様は私のご主人様になるんだから」
サラがさらっと衝撃の事実を口にする。何がご主人様よ、リョウ様は私の旦那様なんだから!
「ふふ、サラさんやイヴさんも私のライバルですか。ですが当然負けるつもりはありません」
シャルロッテさんが薄く笑いながら宣言する。なによ、こっちだって引く気はないわよ。
「まさか皆さん全員がライバルになるとは」
「ですがセリーナ姉様、私達は2人で1人。他の方よりも圧倒的にリードしてます」
セリーナさんとセレーナさんが双子の様に息を合わせてライバル宣言する。何がリードよ、2人でご奉仕出来るからって事? 関係ないよ!
「ちょっと待ってよ、私は本当にリョウ様を好きになったの。一目惚れなの、恋しちゃったの。だから勝ち馬に乗るみたいな気持ちでリョウ様に近くのはやめて!」
私は必死に抵抗する。だって初めての恋だもん。
みんなの気持ちは分かる。何故なら私達は昨日まで姉達の事を罵りながらも勝ち組になりたいと出来るだけいい人を探していたんだから。
リョウ様は明らかに大物貴族だ、なら正妻になれずともその妾であろうと勝ち組である事は間違い無い。
出会いのチャンスが少ない彼女達には絶好の機会なのだ。
だが私は完全に勘違いしていた。
「ばかにしないで!私だって本気なんだから!本気で好きなの!」
サラが声を上げて私を睨む。
その顔は本気だった。それを見て私は自分が勘違いしている事に気付いた。
「ええ、当然私も本気です。先程申し上げた通り私も負けるつもりはありません。イヴさんと同じ様に私にとっても初恋ですから」
シャルロッテさんもそうだ。いつもの澄ましたお嬢様じゃない。その顔は女の顔だった。
「本気、ですか。私もこんな感情は初めてですからね。セレーナはどうですか」
「私も初めてです、セリーナ姉様。みんなも私達と同じ気持ちなんですよね?」
セリーナさんがセレーナに聞き、セレーナさんが私達に問いかける。
「「「(こくり)」」」
私達は無言で頷く。気持ちは一緒だったんだ。
本当にまさかのまさかだ。私達全員がリョウ様に一目惚れするなんて。でもおかしいなんて思わない。私達はずっと素敵な人を求めてたし、リョウ様はカッコ良くて優しくて素敵な人なのは間違いないから。お嬢様だってリョウ様を見る目は恋する乙女になってたもん。
「ならここは協力しましょう。私達は同じ殿方を好きになった仲間です。貴族の娘である私達が恋愛なんてと思ってましたがこの気持ちに嘘は付けないでしょう?」
年長のセリーナさんが私達を纏めてくれた。そうだね、みんなで協力するのがいいよ。そうしたらみんな幸せじゃん。
みんなで話し合って今日の夜、リョウ様に少し話す時間を貰おうと言う事になった。
仕事が終わって就寝前の自由時間、一度サロンに集まりみんなでリョウ様の部屋に移動した。
部屋の前まで来てノックしようとしたら
「あっ、んっ、ご主人様ぁ」
え? これは?
みんなも固まってる。だってこれお嬢様の声だよね?
「アリスもメイドとしての自覚が出来てきたな。なら言わなくてもわかるな」
「はぃぃ、ご主人様ぁ」
やっぱり! お嬢様だ!
えぇ!お嬢様がリョウ様のメイド!?
どう言う事なの!?
私は混乱して訳が分からなくなってしまう。
足はその場を動かない。だけど耳は神経を研ぎ澄まして声を、音を拾い続ける。
えっ!?
ちょっとサラあんたナニしてんの!?
セリーナさんとセレーナさんまで!シャルロッテさんも!
あぁ、もぅ。私までおかしな気持ちになってしまう。
リョウ様が相手をしていたのはお嬢様だけではなかった。お付きのメイドさんはいると思ったけど3人ともいるとは。そしてまさかお嬢様の護衛を務めるシェリーさんまでいたなんて。
そのシェリーさんの、騎士とは思えない発言に耳を疑った。リョウ様はメス犬と言っていたけどその通りだと思う。(もう1人いたけど
私達6人はその日は自分で慰めてその場を去った。戦略的撤退だね。流石にこれは想定外だよ。こんなのないよ。
気付かれてないかな。みんな声が出てたから妙に焦っちゃったよ。
はぁ。
え? 1人多くないかって?
そうなんだよ、私達が部屋の前に来てすぐにリアさんが来たんだ。リアさんは「お嬢様に相応しいかどうか確かめないといけません」なんて言ってから私達と一緒に傍聴会に参加してたんだ。
手を胸と下に当てて何言ってんのこの人? 尊敬してたのに実はとんだドスケベメイドだったよ。
え? 私は違うよ!?
それに自分がリョウ様の事が好きになったからってお嬢様を言い訳に使うなんてね。
リアさんはプライド高いからなぁ。
いや、もう誰がリョウ様を好きになっても驚かないよ。て言うかさ、この屋敷のメイド全員リョウ様の事好きになってるじゃんか。
リョウ様のメイドさん達は私達が手をかけて綺麗にしたお屋敷を1日でまるで新築みたいにしてしまう凄腕のメイドさんだ。(本当にメイドさんなの?)
そんな凄い人に囲まれてるリョウ様にお近付きになれるのかな。
少し心配になりながらもイヴは自分を鼓舞して決心する。
だからって諦めるつもりは無いからね!
この日以来メイド娘たちのアピール合戦が始まるのだった。




