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ラインの戦い

 ここはある訓練場での出来事。若い騎士とベテラン騎士が模擬戦を繰り広げていた。


「はぁ!」


「くっ」


 鋭い剣さばきで相手を圧倒する騎士ライン。彼はアルテン侯爵家の私設騎士団、赤竜騎士団の期待のホープだ。


「ふっ!」


 ラインは相手の剣を弾き飛ばし喉元に剣を突きつける。


「そこまで!」


 相手は悔しそうな表情を浮かべるが、ラインにはまだ余裕があるようだ。


「くそ、益々強くなったなライン。護衛隊長にも抜擢されたそうじゃないか」


「俺は強くならないといけないからな。ニールにだって負けられないさ」


 182センチの恵まれた身長と真面目で実直な性格から、ラインは剣技を湯水のように吸収して己の物にしていった天才である。隊長格であるベテラン騎士のニールですら相手にならない。


「ああ、お目当てはあれか。見に来てるぞ」


 そう言ってニールが指指したのはアルテン侯爵家の令嬢アリスティア・アルテン、の隣に立つ騎士シェリーだ。ラインが彼女に気を寄せているのは騎士団では周知の事実だった。


 今回の護衛任務では侯爵家の令嬢であるアリスティアを護衛する為、アリスティアの専属護衛であるシェリーと共に行動する事になるのだ。


「ニール!」


「はっはっは、初心なのは相変わらずの様だな。剣技だけ鍛えていてもシェリーは落とせないぜ」


「からかわないでくれ、やってみせるさ」


 ラインは拳を握りしめ目標を見据えた。今回の旅で必ず告白を成功させてみせる!


「まぁ頑張れよ」


 ニールは若者を眩しそうに見てエールを送っていた。







 ラインは今、シェリーと旅の警護の打ち合わせをしていた。


「シェリー殿、護衛の件だがお嬢様も長い間馬車の中で1人でいるのは大変だろう。シェリー殿が側で護衛してもらえないだろうか」


「勿論そのつもりだがライン殿、それは私もお嬢様と共に馬車に乗れと言う事か」


 シェリーとて騎士の誇りがある。当然アリスティア専属の護衛なのだから側で護衛するのは当たり前だ。それが只の話し相手をしろでは侮辱されている様な物だ。勿論ラインはシェリーに気を使っているだけなのだが。


「そうだ。私達は専用の馬がいるが君は持っていないだろう。無論用意も出来るだろうが無駄に費用をかける必要は無いだろう。外の護衛は私に任せてくれないか」


 無駄に金を使うなと言われればそれまでだ。シェリーにも侯爵家のお金を無駄に消費する気はないが、護衛の為の費用をそう言われれば当然頭にも来る。


「了解した。そこまで自信があるのなら必ず何事も無くやり遂げて貰いたいものだ」


「任せてくれ、必ず守ってみせる」


 シェリーの皮肉も恋するラインには声援にしか聞こえない。気合いを入れて持ち場に着くラインをシェリーはため息をつきながら見送った。






 馬車は森の中を進んでいる。アルテン侯爵領からリュード公爵領を結ぶ道だ。アリスティアは年に1度リュードにある別荘に療養と言う名目で遊びに出掛けているのだ。侯爵家の令嬢である彼女にはそう言う理由も無ければ好きに動く事も出来やしない。当然アルテン侯爵は良い顔をしないが娘可愛さかアリスティアの自由にさせているようだ。当然騎士団の護衛は付けてある。


「お嬢様、リュード迄後3日の距離になるかと思います」


 アリスティアにお茶を淹れながらシェリーが報告する。


「そうですか。ずっと馬車の中でいるのも退屈ですから後しばらくの辛抱ですね」


 外を眺めると1人の騎士が目に付いた。そこでアリスティアはイタズラ心が芽生えてしまう。


「シェリーの彼がこっちを見てますよ」


「お嬢様、私は誰とも付き合ってなどおりません。ライン殿とは少し会話する程度ですから」


 そうは言いながらも自分に好意を持たれるのは悪い気はしないと思うシェリーだが、それならこちらの気持ちも少しは察して貰いたいと思っている。自分は騎士でありお嬢様の護衛だ、その誇りが1番であり仕事優先のシェリーには恋愛は二の次になってしまうのだ。勿論真面目な性格だと分かっているラインの事は嫌いではないが。


「そうは言っても嬉しいでしょう?」


「お嬢様」


「うふふ、ごめんなさいね、シェリーがあんまり可愛いものだから」


 こうやって軽口が言い合えるのも2人が親友だからに他ならない。幼い頃より共に過ごして来たからこそ砕けた会話が出来るのだ。


「でも彼もシェリーの性格が分かってたらちゃんと馬くらい用意したと思うわよ」


「お嬢様。今の私はお嬢様のお茶汲みですが」


「もう、そんなに拗ねないの」


 たわいない会話が続きお昼を過ぎた頃にそれはやって来た。


「魔物だー、オークの群れだ!」


「「!」」


「各自散開、馬車には1匹足りとも近けさせるな!」


「「「了解!」」」


 魔物の襲撃と迎撃を指示するラインの声が聞こえてきた。アリスティアは直ぐに判断する。


「シェリー!」


「分かってます、お嬢様はここから出ないように!」


「ええ、気をつけてね」


「はい!」


 シェリーに指示を出して外を確認する。オークの集団は20匹を超えている。だがオーク程度の魔物であれば騎士団の敵ではない。1対1の戦いならばまず負けは無いだろう。既にラインが4匹目のオークを倒していた。


 だがその次に現れたオークは格が違った。


「くぅ!」


 オークジェネラル。オークの上位種だ。強さはラインと同格と言っていいだろう強さだ。それが3匹!


「はあぁぁ!」


 ラインはオークジェネラル達の攻撃を受け流しながらスラッシュを放ち1匹の首を刎ねる。


 だが善戦もここまでだった。


「ブオォォォォォォォォ!!!」


 ビリビリビリッ!


「「「!!!」」」


「なんだあいつは!」


 雄叫びを上げた魔物、そこにいたのはオークキングだった。明らかに敵うはずもない災害レベルの魔物。ラインは馬車を見る。シェリーや仲間達が必死にオークと戦っているが数が減らない。最早撤退も不可能。ならばお嬢様だけでも逃さなければならないと馬車まで下がろうとするがオークジェネラルがそれを許さない。


「くっ、! 、しまった!」


 オークジェネラルの振るう剣に力負けして剣を弾き飛ばされてしまうライン。無手の状態ではどう足掻こうとも勝ち目は無い。


「ブオォォォ!」


 オークジェネラルが剣をラインの頭に振り下ろす!


「!」


 だがラインは死ななかった。


「何だ?」


 オークジェネラルは振り上げた姿勢のまま止まっていた。そして首がポトリとずれ落ちる。


 オークジェネラルの後ろにはメイド姿の少女が立っている。


「君は?」


 メイド姿の少女は答えずに一礼をして迫る最後のオークジェネラルの首を短剣で流れるように鮮やかに切り落とす。


「ブオォォォォォォォォ!!!」


 オークキングの雄叫び。オークキングもラインも気付いた時には周りのオークは全て倒されてドロップアイテムの「肉(並)」になっていた。


「後はこいつだけか」


「はい、旦那様」


 オークキングの前には若い男とエルフのメイドが立っていた。


 男はそう言うと右手を突き出して掌を握る。まるでその手に連動するかの様にオークキングは圧縮されてドロップアイテムに一瞬にして変換された。


「何だ、彼等は」


 男はこちらに足を向け


「良かったな、生きてて」


 一言声を投げかけたのだった。





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