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何を言っている?

 カルーアの領主であるライオット・オロトスは怒り狂っていた。


「何なんだあの男は!」


「旦那様、落ち着いて下さい」


「黙れコジー!」


 執事のコジーが宥めるがライオットの怒りは収まる事はない。


 実の娘であるミィセンを連れ出して行った男は自分が領主を務める街の冒険者ギルドでも問題を起こしていたのだ。


 冒険者ギルドのギルドマスター、ガランはあの男に金貨500枚(日本円にして5億円)をかけて決闘を行った。王都であれば大した金額でもないだろうがカルーアのような田舎町ではかなりの大金だ。勝てば何も問題は無かっただろうがガランは負けて素直に金貨を支払ったと言う。しかも丁寧に誓約書にサインまでしているのだ。焼こうと破こうとしても傷一つ付かない程の強固な防御魔法がかけてある。元から無かったと言った所でギルド職員も冒険者達にも既に周知の事実だ。


 これでは街を支えるギルドからの税金の徴収も満足に出来ない状況だ。


 ライオットはガランを拷問して殺してやろうとも考えたがそれだけでは気が済まない。ミィセンを連れ去ったあの男を見つけ出し殺してやる。その為の道具としてガランにあの男の捕縛を命じた。ガランを始末するのはその後だ。


「必ず見つけ出してやるからな!」









 冒険者ギルドのギルドマスターであったガランは怒りと焦りを感じていた。


 新人冒険者に決闘を申し込み無様に返り討ちにされてしまい、金貨500枚を支払うという大失態を犯してしまったのだ。当然ギルドマスターを即座にクビにされた。普通なら即処刑にされてもおかしくないが領主であるライオットの慈悲によってあの男の捕縛と言う任務の達成により無罪放免を言い渡された。


 あの時ガランは怒りに我を忘れていたが今冷静に考えると奴のとんでもない馬鹿力に震えが止まらない。だが正面から戦う必要などない。不意を突いてしまえば奴とて一溜まりもあるまい。


 ガランは奴の情報をギルド職員や冒険者達から聞き出そうとしたが誰もが口を噤んで喋らない。それ程までにリョウは彼等に恐れられていたのだ。こいつに関わってはいけないと。


 情報も無く手足が無ければどうしようもない。ガランは裏仕事を専門にしている盗賊ギルドに顔を出した。


「なんだぁ、見慣れねぇ奴が来やがったぜ」


 盗賊ギルドのボス、ヘッケルドである。ヘッケルドは黒犬人族特有の黒い肌で2mを超える大柄な男だ。その脇には部下の人族の柄の悪い男達が控えている。


「お前に依頼を出したい。リョウって名前の男を捕らえて欲しい」


「はっ、お前の噂は知ってるぜ。そのリョウって奴にこっ酷くやられたそうじゃねぇか」


 ガランはヘッケルドを鬼の形相で睨みつけるが何も言い返せない。


「やめときな。命が惜しけりゃあれには手を出しちゃいけねぇ」


「死神のヘッケルドが随分と弱気な事を言うな。確かに俺は負けたがお前なら殺れるだろ」


 ヘッケルドを煽るように言うがそれはのれんに腕押しだった。


「情報にゃ金を貰うんだが特別だ。うちの鑑定持ちがリョウって奴を鑑定した。なんて出たと思う?」


 にやにやしながらヘッケルドは楽しそうに話す。ガランは苛立ちを抑えて答えた。


「さあな、だがあれだけの馬鹿力で武器も持ってなかったんだ。レベル30以上の武闘家と言った所か」


「ヒッヒッヒッ、違ぇよ。全然違う。だからお前は駄目なんだ」


「なんだとぉ!」


「ヒッヒッ、まぁ落ち着け。あれは正真正銘の化け物だぜ。丁度昨日街に出てる所を見つけて鑑定出来たんだがな、奴のレベルは262だ」


「は? 何を言ってる?」


「俺は事実しか言ってねぇぞ。信じられねぇだろうがな」


 ガランはヘッケルドの言う通り信じられなかった。確かに奴は強かったが262? 意味がわからない。理解出来ない。


「そして職業は英雄王だ、聞いたことあるか? そういやフィアラルってエルフの女もレベルが260だったと報告がある。信じるかはお前次第だがな」


 ガランはヘッケルドが何を言ってるのか分からない。


「お前は何を言ってるんだ」


「まぁ普通はそうなるよな。別に理解する必要なんざねぇよ。ただ盗賊ギルドは手を出さねぇってだけだ」


「それは困る!俺はもう後がないんだ」


「俺達も奴から直接手を出すなって言われてんだよ。それにお前がやられた現場には俺の部下もいたんだぜ。その場にいた連中は奴の事は暗黙の了解で完全に箝口令が敷かれてやがる」


 確かに誰に話してもまともに取り合ってはくれなかったが直接?


「どう言う事だ、奴と話したのか?」


「部下が鑑定したって言っただろ。バレてたんだよ。直接頭に声が聞こえて、付きまとえば殺すって脅されたようだ。つまり奴にはこっちことは筒抜けな訳だ。レベルもそうだが英雄王なんて職業、どんなスキルがあるかも分からねぇからな。まともに取り合ってられねぇよ」


 関われば死ぬだけだ。ヘッケルドの言葉に愕然とするガラン。それでも奴を捕らえなければ自分は死ぬだけだ。だが肝心の盗賊ギルドが動かない。


「俺はどうしたら」


「逃げるしかねぇな」


「・・・逃げる? どうやって?」


「それこそ盗賊ギルドの出番じゃねぇか。化け物相手ならともかく街の領主の手を撒くくらい訳ねぇぜ」


「た、頼む! 力を貸してくれ」


 ガランの目に力が戻る。これで助かる。ガランはそう思ってヘッケルドに懇願する。


「いいだろう。だがただって訳にはいかねぇ。金貨1枚、それと奴の話は今後は一切するな。こっちもお前を逃したとばっちりを受けたくねぇからな」


「分かった、直ぐに用意する」


 ガランはそう言って慌てて帰って行った。そう様子を見ながらにやにやしながらヘッケルドは眺めていた。


「これでいいのか」


「ああ、俺も人を殺したくはないからな。これは礼だ」


 そう言って奴と言われていた男、リョウは1本の長剣を取り出した。


「これは・・・ミスリル製か。こんな高価な物を簡単に出すとはな。いいのか」


 驚くヘッケルドに軽く返すリョウ。


「ダンジョンに行けば幾らでも作れるしな、それにお前には働いてもらう時があるかも知れないからな。後俺の名前は広めないように頼むぞ」


 ミスリル製の剣は魔剣には及ばない物のその価値は金貨100枚はくだらない。しかもリョウから受け取った物はかなりの業物のようで金貨150枚の値段が付くのではないかとヘッケルドは剣を見て思う。それ程の物を簡単に渡してくるリョウにこいつは逆らってはいけない奴だと改めて感じた。それに上手く付き合えばこうやって金にありつける。既に目を付けられたなら上手くやるしかないだろう。


「ああ、お前達にもやるよ、ほら10本もあれば足りるだろ」


「「「・・・」」」


 絶句しながら受け取るヘッケルドの部下達。


「・・・分かった、そっちは任せてくれ」


 流石のヘッケルドも部下達の無礼を責める気にはならなかったのは仕方ない事だろう。自分がお礼を言うのも忘れるくらいだ。


 返事を聞いたリョウは目の前から忽然と消える。全く、台風のような奴だ。あんな化け物に絡むなんて、


「ガランも運が無かったな」


 ヘッケルドは昔の仲間にそう呟いたのだった。








「まだ見つからないのか!」


「どうやらガランは逃げ出したようです。衛兵達に捜索させましたが何処にも見当たりません。家も金目の物は全て無くなっているようです」


 癇癪を起こすライオットに執事のコジーが言う。ガランを信用させる為に敢えて金を取り上げなかったのが裏目に出たようだ。ガランはその金を使い盗賊ギルド経由で街の外に逃れたのだ。


「何だと! どう言う事だ! ガランは裏切ったのか!」


 怒りで怒鳴り散らすライオットだが最早どうなるのでもない。冒険者ギルドもリョウと言う名前以外何も情報を寄越さないのだ。手掛かりがそれだけでは見つけようとが無かった。


「旦那様、あの男に対して明らかに情報が不足しております。誰に聞いても答えないのです。これ以上関わるのは止めるべきかと」


 コジーは部下に情報収集させたが何も情報が入って来ない。誰に聞いても口を噤むばかりで明らかに不自然だった事に嫌な予感を感じていた。


「コジーっ! 貴様!」


 癇癪の対象が自分に切り替わったがあの男に固執されるよりはましだとコジーは割り切りライオットを宥める作業に入った。






 その様子を見ていたリョウは、


「やっぱりこの街潰れるんじゃね?」


 なんて事をもらしていた。








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