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堀河はゆっくりと立ち上がり、階へ近づくと、西行の背後からその肩にそっと手を乗せて言った。


「わたくしも、あの男を甦らせたいと願ったことはある」


西行は振り向くと、堀河の手を取って自分の傍らに座らせた。


そして、静かな声で問うた。


「あなたは、どうしてそうなさらなかったのです?」


「あの男の骨は、もうどこにもないもの」


堀河はふふっと小声で笑った。


それにつられて、西行も笑みを浮かべる。


堀河は西行と共に桜の木を眺め、その後ろの小柴垣の向こうに広がる青々とした竹林に目をやった。


そこは、獅子王が堀河の膝の上から消え失せた場所だった。


堀河は静かに微笑みながら、長い間その竹林の方を眺めていた。


そして、西行と同じように自分の胸に手を乗せ、囁くような声で呟いた。


「わたくしのここにも、大事な面影が宿っている。それは決して消えはしない。あの男は消え去る前にわたくしにこう言った。わしは死んでも、魂魄となって何時もそなたの側にいる。そして、そなたを守り、そなたを想い続けている、と。確かに、あの男の姿をこの目で見ることは二度とできぬ。でも、わたくしはあれからずっとあの男の面影をこの胸の中で見、その魂がわたくしの傍らにいることをこの肌で感じてきた。こうやって胸に手を当てていると、あの男と同じ暖かさがする。風に頬を撫でられれば、あの男の指先に触れられているような気がする。それに、今でも時々うつらうつらしていると、すぐ側に誰かが寄り添ってくれているような感じがすることがある。懐かしくなって目を覚ますと、側には誰も居はしない。そんな時は、思わず哀しくなって、涙に暮れてしまうこともあるけれど」


堀河は皺ばんだ細い指先で、そっと目蓋まぶたぬぐった。


「さっきそなたが目に留めたあのきりぎりすの歌も、そんな時に詠んだ歌じゃ。秋になって、床の下できりぎりすが鳴くのを聞く度、わたくしはあの男が恋しくなる。寂しくて、哀しくて、思わずあんな歌を詠んでしまった。そうして、知らぬ間に泣き寝入っていると、明け方の夢にあの男が現れてな。何も言わずただわたくしの髪を撫でてくれているだけであったが、わたくしはその時はっきりと、あの男の魂がそこにいるのを感じた。人の魂というものは、確かにあるのじゃ。それは死んでもなくなりはしない。人と人の絆も、この世で感じた想いも、決して消え去ることはない。目には見えなくても……」

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