-122-
堀河は驚いて念仏を唱えるのを止めた。
西行は立ち上がると山荘の庇に出て、堀河には背を向けたまま庭を眺め始めたが、しばらくすると低い声で話し始めた。
「……私は、あるのですよ。もう二十年ほども前のことでしょうか。私はその頃高野山の奥の院に篭っておりましてね。私の庵はそれは寂しいところで、人はおろか山の獣すらめったに姿を見せませぬ。人間というものは、あまり長い間たった一人でいると、少し妙な具合になってしまうものとみえまする。私はひどく人恋しい気持ちが募ってしまって、ふとあのことを思い出してしまったのですよ。そして、一度思い出すと好奇心まで湧き上がって来て、どうにも押さえることができませぬ。それでとうとう、山の荼毘の行われる野辺で骨を拾い集めて、実能様の言われた通りのことをしてしまったのです」
「何と、そなたは本当に人を造ってしまったのか。一体どうなったのじゃ」
心配げに問う堀河を、西行は少し照れたような顔で振り返った。
「それが……確かに、人らしきものは出来上がりました。でも、それはひどく青黒い嫌な色をしていて、きいきい妙な音を発するだけで話すこともできませぬ。それに、何一つ感情らしきものはなく、ただぼうっとつっ立っているだけで。私はいろいろと世話をしたり話しかけたりしてみましたが、何の反応もありませんでした。それには心というものがないのですよ。私はもう困ってしまって。いくら心がないといっても、そのものは確かに息をしております。打ち壊してしまっては、やはり殺生になりましょう。出家の身でそれはできぬと、散々悩んだ挙句、私は結局それを高野山の一番奥深い山の中へ連れて行って、そこへ置き去りにして来てしまったのです」
「何と無責任な」
白髪混じりの頭を掻く西行を、堀河は少年の昔のように叱った。
「自分で勝手に拵えておきながら、そんなところへ捨てて来るとは。可哀想ではないか。それはそれからどうなったのじゃ」
「さあ、それ以来姿を見ておりませぬゆえ、どうなったかは。私の庵にいる時も、自分で草や木の実を口にしたりしておりましたから、山奥でも何とか一人で暮らしていることでしょう。でも、あのものを見た人間は、きっと鬼じゃと思うことでしょうなあ」
暢気な口調でそう言う西行を、堀河は呆れたように見つめていた。
だが、西行はそれに構わずに、相変わらず話を続ける。
「でも、私はあの義親の甦りを見ておりますからな。私の造ったものは、あれとは似ても似つきませんでした。おそらく実能様のやり方には何か間違いがあるのではないかと、ずっと思って来たのですよ。それで、ある時京へ参った折りに、たまたま源師仲様にお会いする機会があったので、こっそりお尋ねしてみたのです」




