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昔懐かしい人々のことをつらつらと考えている堀河の傍らで、西行はしばらく厨子ずしの前に置かれた桜の瓶を眺めていたが、ふと低い声で和歌を口ずさんだ。



尋ぬとも風のつてにもきかじかし花と散りにし君が行方を


(いくら尋ねても風の便りにさえ聞くことができないのですね。花が散るように亡くなってしまったあのお方の行方を)



それは、待賢門院が亡くなった後、三条高倉第でその喪に服していた堀河の元に、西行が送って寄越した歌だった。


堀河はにっこりと笑って、その時の返歌を呟いた。



吹く風の行方しらするものならば花とちるにもおくれざらまし


(吹く風があのお方の行方を教えてくれるのならば、花のように散ってしまったあのお方に遅れぬようついて行けたものを)



西行も微笑みながら堀河の方を振り向いて言った。


「あの時も、今と同じように桜が満開の季節でしたね」


「そう。御所の南面の桜が、それは見事に咲いていて。そなたが送ってくれた歌には、ずいぶんと慰められた気がする。今も、あの時もらった文を大事に取ってあるのですよ。ほら、そこの二階厨子の上にのっている料紙箱の中に」


「見てもよろしいですか」


西行はそう言うと立ち上がり、厨子の上から千鳥の螺鈿らでんのついた料紙箱を取って来た。


蓋を開けると、少し黴臭いにおいがする。


きちんと綴じられた冊子が何冊かと、幾束かにまとめられた文が入っていた。

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