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確かに、今のこの世は、平氏が権勢を誇る武士の世になったのだろう。


だが、それは果たして、あの獅子王が夢見たような、武士が武士らしく生死をまっとうできる本物の武士の世であろうか。


堀河には、今のおごり高ぶった平氏の世が、まるでひとときの陽炎かげろうのように思えてならなかった。


それに、今は清盛の言いなりになってすっかり息を潜めておられるかに見える後白河院は、一体どんな心持ちでこの平氏の栄耀を眺めているのだろう。


堀河の知っている子供の頃の後白河院は、暇さえあれば今様ばかり歌っているきかん気な少年だった。


だが、この世の権力の渦に巻き込まれていくうちに、あの少年も父や母と同じような仮面を身につけていったのであろうか。


大人になってからの後白河院は、いつの間にか心の中で何を考えているかわからないぬえのような人物になってしまったようだ。


堀河にはそんな後白河院の心中を推し量ることはできなかった。


それに、風の便りに噂を聞くだけで、もう何年もお会いしていない。


後白河院ばかりではなく、他の知り人や縁者にも、堀河はこの西山の山荘に隠退してからほとんど会うこともなかった。


というより、八十歳も過ぎた今となっては、もう生きている人の方が少ない。


待賢門院所生の六人の皇子女のうちご存命なのは、後白河院と、母君に良く似た絶世の美女と評判だった上西門院だけ。


保元の乱の時、お気に入りの頼長を見捨てて保身に走った忠実は、知足院に篭って隠居した後、十年ほど前に死んだ。


源頼政は上手く保元・平治の乱を乗りきり、今は清盛に擦り寄ってしぶとく生き残っている。


あの眉間の皺に平氏への鬱憤うっぷんを隠しながら、いつかきっとと源氏の返り咲きを狙っていることだろう。

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