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第九話 体調不良の原因

「ほう。続けろ」


「その前に……セシリア、一つ確認をしたい。お前は祖国にいる間、食事はあまり食べていなかったのだろう?」


「……はい。一応、食事は与えられてましたけど、全然足りませんでした。特に、聖女の力を使った後が、一番お腹がすいて、咳とかも酷かったと思います」


「あー、なるほどな」


「えっ? えぇっ??」


 わかったって……今の会話の中で、なにかわかるような話があったかな?


「レオンの仮説通りだ。聖女の力を使うと、腹が減って、症状も出る。その状態で、まともに飯を食わせてもらえなかった。ここに来て、たらふく食ったら、症状は消えた。つまり、これは聖女の力の反動……空腹が初期症状で、放っておくと体調不良として表に出る」


 な、なるほど! 言われてみれば、確かにその通りかもしれない! わかりやすく説明してくれたおかげで、スッと頭に入ってきたよ!


「……自分で言っておいてなんですが、食事だけで説明がつくものなのでしょうか?」


「聖女の力は、いまだに謎が多い。ワシらのような凡人には、わからない領域なんだろうよ。はっ、こいつは研究のしがいがあるじゃねえか。おい嬢ちゃん、ワシに体の隅々まで調べさせてくれねーか?」


「えぇっ!? そ、それはちょっと、恥ずかしいといいますか……」


「叔父上、彼女の前でふざけないでください」


「はっはっはっ! 一度きりの人生で、クソ真面目に生きててもつまんねーだろ?」


「…………」


 楽しそうに笑うユリウス様とは対照的に、レオン様は深く息を漏らした。


「なんだ、からかわれて怒ったか?」


「あなたのからかいに腹を立てていたら、身が持ちませんよ。それよりも、彼女の国のやり方の方が問題だ」


「まあ、こうして生きていますから、大丈夫ですよ!」


「今時のガキには珍しいくらい、嬢ちゃんはまっすぐだな。それにしても、レオンは随分と嬢ちゃんに入れ込んでるようだな?」


「……倒れられては、また聖女を探すのに苦労をしますから」


「そういうことにしておいてやるよ。とにかく、ちゃんと腹いっぱい食うのが一番だ。ほれ、診察は終わりだ。さっさと帰れ。しっしっ」


 部屋を追い出された私達は、一度私の部屋へと戻ってきた。


「あの、レオン様。私はこれから、何をすればいいですか?」


「部屋でゆっくりしていろ。城の中を見て回っていても構わない」


「それって、自由行動ってことですよね? 私、元気だからなんでもお手伝い出来ますよ!」


「ダメだ。お前の体調に関しては、わかっていないことが多い。それで無理に動かれて、倒れられたら迷惑だ。最低でも、今日はしっかり休め」


「うっ……そ、それはそうですね。ごめんなさい、私……もっとお役に立ちたくて」


 自分の浅はかさにしゅんとしていると、レオン様の手が私の頭に乗り、わしゃわしゃと撫でた。


「お前の気持ちは伝わっている。それに、お前の活躍のおかげで、現状の問題は解決しているから、心配するな」


「レオン様……」


「俺は仕事に戻る。なにかあったら、すぐに誰かに声をかけろ」


 そう言って、レオン様は私を置いて部屋を出ていった。


 ……どうしよう。こんなに良くしてくれているのに、全然お返しが出来ていない。もっと、役に立ちたいのに。


「それに、自由にしていろって言われても、何も思い浮かばないよ」


 祖国にいる時は、少しでも空腹を紛らわすために、無理やり寝ていたけど、今はお腹いっぱいだし……お城の中でも探検していようかな?


 ――そんなことを思っていると、部屋の扉がノックされた。


「あ、はーい! どちら様ですかー?」


「ユリアーナだよ。入っていいかい?」


「ユリアーナさん? どうぞどうぞ!」


 扉を開けると、そこには優しい笑顔を浮かべるユリアーナさんが立っていた。


 急にどうしたんだろう? なにか私に用事でもあるのかな?


「レオン坊ちゃまから、セシリアちゃんが一人ぼっちだって聞いてね。この老い先短いババアに付き合ってもらおうと思ったのさ」


「えっ……? ゆ、ユリアーナさんは、まだまだ元気じゃないですか!」


「ははっ、ありがとう。あんたは、とても優しい子なんだね。きっと、素敵な親御さんに育てられたんだね」


「はい! 私の両親は、とっても素敵で凄い人なんです!」


「それじゃあ、お茶でも飲みながら、ゆっくり話を聞かせてもらうとするかねぇ。座って待っていな」


「私もお手伝いします!」


「いいからいいから。このお茶会は、あたしから誘ったものだし、今回の件のお礼も兼ねているからね」


「お礼だなんて、そんな……私は、当然のことをしただけです」


 聖女として生まれた以上、誰かを助けるのは当たり前だ。

 それに、私はこの力を使って、困っている人を助けたいと、心の底から思っている。

 だって……私みたいに、大切な人を失うなんて悲しみを、感じてほしくないもの。


「あたしは、趣味で茶葉の世話をしていてね。これも、あたしが手塩をかけて育てたものさ」


「良い香り……」


「こっちのクッキーも、あたしが焼いたんだ」


「ユリアーナさんは、とても多彩なんですね」


「よしてくれよ、照れるじゃないか」


 楽しそうに笑いながら、手際よくお茶の準備を進めていく。

 気が付いた時には、私の前には、素敵な香りがするお茶とクッキーが並んだ。


「さあ、召し上がれ」


「いただきますっ! わぁ、お花の香りが鼻を通っていく……クッキーも香ばしくて、とってもおいしいです!」


「そんなに喜んでもらえると、あたしも作った甲斐があったもんだ。ほら、あたしのも食べな」


「いえいえ、そういうわけには……!」


「我慢なんてするもんじゃないよ。老いぼれってのはね、若者が喜んでいるのを見るのが、何よりの生きがいなのさ」


「……では、遠慮なく……おいしぃ~……」


 はぁ、ここに来てから、こんなにたくさん幸せって感じて良いのかな? これじゃあ、一生をかけても、みんなに恩を返せないかもしれないよ。


「あんたの笑顔は、とっても可愛らしいねぇ」


「そうですか? えへへ……お母さんにも、笑顔が一番いいって、よく言ってもらいました」


「ご両親は、どんな人だったんだい?」


「お父さんは、寡黙だけど強い戦士でした。私が遊び疲れると、いつもおんぶをしてくれ……凄く大きな背中が大好きでした。お母さんは、私と同じ聖女の力がありました。とても優しくて、でも怒るとちょっぴり怖くて……太陽みたいに明るい人でした」


 目を閉じれば、二人の顔も、私を呼ぶ声も、一緒に過ごした日々も、まるで昨日のことのように思い出せる。私にとって、かけがえのないものだ。


「でも……魔物から私を庇って……」


「……そうかい。つらい話を思い出させちゃったね」


「いえいえ! 私は全然大丈夫ですから! いつまでもメソメソしてたら、天国から見守ってくれる二人が、安心できませんし!」


「……あんたは、強い子でもあるんだね。でもね、強くあることと、我慢をすることは、似ているけど違う。つらくてどうしようもなくなったら、遠慮なく話すんだよ。老いたとはいえ、あたしも聖女……きっと、あんたの役に立てるはずさ」


「ユリアーナさん……ありがとうございます」


 ……そんな優しくて温かい言葉をもらっちゃったら、嬉しくて泣いちゃうよ。もう、ユリアーナさんったら……ぐすっ。


「お話中に失礼します。レオンハルト様がお越しです」


「レオン様? どうしたんだろう……ちょっとだけ、待っててもらえますか?」


「かしこまりました」


 変にレオン様に心配をかけないように、気持ちを落ち着かせ、姿見で顔のチェックをしてから、レオン様を招き入れた。


「レオン坊ちゃま。どうかしたのかい?」


「緊急事態でな。セシリア、休んでいろと言った手前、頼みにくいのだが……聖女の結界が届かない場所にある村が、魔物に襲われたようだ」


「大変じゃないですか! 私に何か出来ることはありますか?」


「兵は向かわせている。だが、結界が無い以上、また魔物が現れる可能性がある。だから、俺と一緒に村に行き、村に結界を張ってもらえないだろうか?」


 今すぐに動く気満々だったけど、レオン様の申し出に、思わず言葉を詰まらせてしまった。


「……レオン坊ちゃま。聖女の結界というのは、一人につき一つしか作れないのは常識じゃないかい?」


「もちろんだ。だが、彼女の結界は、まだ祖国に残っている……そうだろう?」


「はい、私の力の気配を感じるので、確実にまだ残っています」


「それなのに、お前はこの国で、結界を張った。なら、一つしか張れないという常識も、打ち破れる可能性がある」


 言われてみれば、確かにその通りだ。私も他の聖女と同じとは限らない。何事も、やってみないと始まらないよね!


「わかりました! 困っている人がいるなら、放っておけません! お任せください!」


「ああ、助かる」


「レオン坊ちゃまが一緒なら、心配はいらないだろうけど……気をつけて行ってくるんだよ。結界になにかあっても、あたしが時間を稼ぐから、安心して行っておいで」


「はい! 行ってきます!」


 もっと恩を返したいと思っていたけど、そのチャンスがこんなに早く来るなんて! 絶対に村の人達を助けだしてみせるよ!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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