第八話 治っている……?
「んっ……」
ゆっくりと目を開けると、そこは私が使わせてもらっている、客間だった。
私、どうしてここにいるんだろう? 確か、このお城の聖女の間に行って、結界を張ってから……あれ、その後を覚えていない……。
「お嬢ちゃん、目が覚めたかい!」
「……あなたは……」
聞き覚えのある声に反応して顔を向けると、そこにはさっき会ったおばあさんが、目じりに涙をためながら、私の顔を覗き込んでいた。
えっと、確か……ユリアーナ様だったよね? どうして彼女がここに?
「どこか痛くないかい? 苦しいとかは?」
「えっと、大丈夫です」
本当は、お腹はペコペコだし、眩暈もちょっとするけど、大した眩暈じゃないし、言わなくてもいいかな。
「はぁ……ならよかった。あんたが倒れたのを見た時、本当に肝が冷えたよ」
「心配をかけてしまって、ごめんなさい」
私の頭を優しく撫でるユリアーナ様のシワシワな手は、とても暖かくて……遠い昔に、両親に撫でられた頃を、ふと思い出した。
「あの、あれからどうなったのですか?」
「お嬢ちゃんが頑張ってくれたおかげで、前よりも強力な結界が張られたのさ。その結界で、魔物達は残らず消滅したって聞いたよ」
「本当ですか。ああ、よかった……」
魔法陣を短時間で描いてから即座に発動なんて、一度もやったことがないことをしたから、もしかしたら……って思ってた。それが杞憂になって、本当に安心した。
「レオン様は?」
「各地に魔物が残っていないか、自分の目で確認に行っているよ。もうすぐ帰ってくる頃――」
ユリアーナ様がそう言ったところで、まるで狙っていたかのように、扉がノックされた。
「ユリアーナ様。レオンハルト様がお見えです」
「通しておくれ」
「かしこまりました。レオンハルト様、どうぞ」
「ああ、ありがとう。セシリアの容体は……」
「レオン様!」
「もう目が覚めていたのか。体の調子は?」
「…………」
本当は、心配をかけないように、言いたくないのだけど……遠慮はするなと、レオン様に言われているから、素直に打ち明けた。
「お腹が、ペコペコです。あと、少しだけ眩暈がします」
「なんだって? さっきは大丈夫だって……嘘だったのかい?」
「ごめんなさい。心配をかけたくなくて……」
「なら、まずは食事にしよう。すぐにここに運ばせるから、そこで待っていろ」
「やれやれ……レオン坊ちゃま。あたしは結界に不具合が起こってないか、聖女の間に確認に向かうとするよ」
「ああ、よろしく頼む」
「ユリアーナ様、看病をしてくれて、ありがとうございました」
「あたしの方こそ、感謝してもしつくせないよ。それと、あたしは様付けで呼ばれるような、裕福な人間じゃないからね。もっと気軽に呼んでくれると嬉しいね」
「えっと、それじゃあ……ユリアーナさんって呼びますね。私のことも、好きなように呼んでくれて大丈夫ですよ!」
「そうかい? じゃあ、セシリアちゃんと呼ぶことにするよ。今度、一緒にお茶を飲もうね」
「はい、是非!」
セシリアちゃんかぁ……なんだか、ちょっとくすぐったさはあるけど、とても気に入った。
それに、お茶の約束までしちゃった! えへへ、嬉しいなぁ。
――その後、レオン様とユリアーナ様が部屋を出ていってからほどなくして、沢山の料理が運ばれてきた。
「ごくり……」
今日も凄くおいしそう。一瞬でも油断をしたら、よだれが出ちゃうと思う。
「好きなだけ食え」
「はい、いただきますっ!」
私は、両手を合わせてから、順番にごはんを食べ始める。
今日のごはんもおいしくて、体に力が湧いてくるような感じがして、最高だった。
「ごちそうさまでした! 今日もおいしかったです!」
「もう満足したのか?」
「はい! お腹いっぱいですし、元気になりました!」
私は、レオン様の前でくるっと回って、自分が元気なことをアピールした。
さっきまであった眩暈は、一体どこに行っちゃったんだろう? 今なら、あと五回くらいは、回れそうだよ。
「そうか。だが、念の為に叔父上に診てもらった方が良い」
そうだよね。ただでさえ調子が悪かったのに、普通はやらないことをやったんだから、心配になるよね。
「わかりました。行ってきますね」
「一人で行くな。俺も行く」
「良いのですか?」
「ああ」
「ありがとうございます。あ、でも……今日は歩けるので、お姫様抱っこは大丈夫ですから!」
「……そうか」
一瞬、なにか言いたそうな顔をしたレオン様と一緒に、ユリウス様の研究室に向かう。
今日も、相変わらず散らかっているなぁ……むしろ、更に散らかっている気がするよ。
「おう、聞いたぞ。おめぇ、とんでもないことをしでかしたってな」
「あ、あはは……正直、私も驚いてます。助けたい一心で取った行動が、こんなにうまくいくなんて」
「魔法陣をぶっ壊して、即座に即戦力の魔法陣を作って発動したんだろ? かぁ~っ、世の中は広い。いろんな奴がいるもんだな。んで、そんな大活躍をした聖女様のご調子は?」
「お務めの後に、空腹と軽い眩暈はありました。今はごはんを食べて、元気いっぱいです!」
「ほう? まあ、念のために調べさせてもらうぞ。あの時みたいに、服を脱げ」
「えっ!? この前は――」
「叔父上……?」
「冗談に決まってんだろ。兵士の薬を追加注文してきた、人使いの荒い王様を、からかっただけだ。さてと、そこでジッとしてろよ」
ユリウス様の魔法陣が、再び私の体を調べ始める。
うぅ、これ……痛いとかは無いんだけど、眩しくて目がチカチカしちゃうんだよね。
「叔父上、どうですか?」
「……消えてやがる」
「叔父上?」
「信じられねぇが、確かに症状は綺麗さっぱり消えている。嬢ちゃんの体はどうなっていやがるんだ?」
「さ、さあ……?」
「最近、なにかいつもと違うことはあったか?」
「う~ん……ここで過ごすようになったことと……あっ、昨日からたくさんごはんを食べて、お腹がいっぱいになりました!」
ここでいただいているごはんは、本当にどれもおいしいんだよね……また食べたくなってきちゃった!
「あ~……厨房に水を取りに行った時に、やたらと料理してたのは、そういうことか。とはいえ、腹いっぱい飯を食っただけで、治るような症状でもねぇよな……レオン、おめぇ……なんか変な薬でも入れたか?」
「そんな技術と知識があれば、すぐに叔父上に隠居をさせてあげられるのですが」
「違いねえな。はぁ~、さっさと隠居して、好きな研究だけしていたいもんだ。それよりも……来た時には症状があって、満腹になって回復。聖女の力を使ったら、すぐに再発、でも食事後は回復……ふーむ」
ユリウス様は、新しい煙草に火をつけながら、頭を悩ませる。
自分のことなのに、自分でもよくわからないものを、他人が理解するなんて、難しい話だよね……。
「叔父上。これは俺の仮説なのですが……空腹も体調不良も、聖女の力の反動というのは、考えられませんか?」
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