第七話 少し物足りない一日
■プリシア視点■
お姉様が、突然よその国の王様に連れていかれて、丸一日。
私は、聖女の務めをパパッと終わらせてから、愛しのギルベルト様の元へとやってきた。
「ギルベルト様、今日からお姉様がいなくなったから、とても忙しかったんですけど、頑張りました! だから、褒めてください!」
「おお、僕の愛しのプリシア。よく頑張ったね。とても偉いよ」
私を出迎えるや否や、ギルベルト様は私のことを強く抱きしめながら、しっかり褒めてくれた。
一人でやるのは、とても面倒で大変だったけど、ギルベルト様がこんなに褒めてくれるなら、頑張った甲斐があった。
「君が来たことだし、お茶でもしようか。おい、早く準備をしろ!」
「かしこまりました。ギルベルト様」
「あっ、今日は王都で流行りの、イチゴのタルトが食べたい気分なの。すぐに用意して」
「い、今からですか? すぐにご用意するのは、難しいかと……」
「プリシアの頼みが聞けないのか!? 移動魔法が使える奴に行かせればいいだろう! それとも、反逆罪でギロチンにかけられたいか!?」
「も、申し訳ございません! すぐに準備をしてまいります!」
若い女の使用人は、顔を青ざめさせながら、何度も頭を下げ、その勢いのまま部屋を出ていく。
はぁ……使用人をいじめるのも、それなりに楽しいけど……やっぱり、いじめるのはお姉様に限る。
普段はいなくていいから、お務めの時と、私が戻ってきてほしい時だけ、戻ってきてくれないかしら? 正直、ちょっと物足りないのよね。
「ギルベルト様。間もなくご所望の品が届くと思われますので、それまではこちらをお楽しみください」
「ああ」
残った使用人が、手早く用意したお茶を、ギルベルト様と一緒に口にする。
……ふん、まあまあね。面白くないわ。酷い物だったら、難癖をつけてやろうと思ったのに。伊達に、王家に仕えているわけじゃないのね。
「ギルベルト様、今日のご予定は?」
「王都に視察に行くんだ。君がよければ、皆に新しい婚約者として紹介したいんだが、どうかな?」
「まあ、とっても素敵ですわね! もちろん、ご一緒させてください!」
民への紹介なんて、正直どうでもいいことだけど、ギルベルト様と一緒にいられるし、きっと新しい婚約者として、民に祝福されるに違いない。
ふふっ……そう考えただけで、気分が高揚してきたわ。
「それにしても、まだ来ないのか? もう、行かせてから五分も経っているのだが」
「ギルベルト様は、せっかちさんなのですね。あと五分くらいは待ってあげてもいいのでは?」
「君は心が広いのだな。だが、指示をしてすぐに果たせぬような人間など――」
ギルベルト様の言葉を遮るように、部屋の扉がノックされる。
そのノックの主は、汗だくになりながらも、私が所望したものを大事に抱えていた。
「お、お待たせしました。イチゴのタルトです……」
「遅い。一分以内で用意できないような無能なんて、我が城には不要だ。誰か、この女を牢に叩きこめ」
「はっ!」
「そんな!? お、お許しくださいませ! ギルベルト様! プリシア様ー!」
なにか、必死に私達の名前を呼んでいるみたいだけど、どうでもいい。
私は、このイチゴのタルトを食べるのに、とっても忙しいから。
「ふふっ、とてもおいしそうだわ」
「そうだね。ほら、プリシア。あーん」
「あーん……おいしくて、ほっぺが落ちてしまいそうですわ!」
ああ、とっても幸せ……これも全て、お姉様がいなくなってくれたおかげね。
****
楽しいお茶会は終わり、王都に視察に来た私は、ひれ伏す多くの民に出迎えられた。
「我が親愛なる民よ、面を上げろ。本日は、皆に良い知らせを持ってきた。僕は、偽りの聖女と縁を切り、真なる聖女である、プリシアと婚約を結んだ! これからは、プリシアと共に歩み、この国をさらに豊かで、平和なものにしていくことを約束しよう!」
顔を上げた民達は、驚きと喜びの声を上げ始めた。
「プリシアって……彼女が、噂に聞いていた、真の聖女と呼ばれる女性なのか!?」
「プリシア様ー! いつもお守りくださり、ありがとうございますー!」
「まあ、なんてもったいないお言葉。皆様、ありがとうございます」
「なんて謙虚なお方なのかしら……あれこそ、まさに聖女の鏡だわ!」
控えめに笑いながら、口元を隠し、時に頭を下げることで、謙虚な女性を演出する。それだけで、バカな民は簡単に騙されて、褒め称える。
ああ、なんて気持ちが良いのかしら!
お姉様からギルベルト様を奪い取って、正式に婚約者とならなければ、こんな気持ちの良い発表の場は訪れなかったわ!
「ギルベルト様。少々、お伝えしたいことが……」
「む? なんだ?」
「先程、王都の外れに、魔物が侵入しました。それも、複数の報告があります。弱っていたので、大事にはなっておりませんが……」
「大事になっていないなら、報告の必要などない。そんなことで、僕の話の邪魔をするな」
「も、申し訳ございません!」
魔物? どういうこと? 王都には、偉大な聖女である私の結界があるのに……変なこともあるものね。
まあ、気にすることはないわよね。今回は、たまたま結界の一部にほころびが出ただけだろうし。
「ギルベルト様、ばんざーい! プリシア様、ばんざーい!!」
「ふふっ……!」
魔物のことなんて、今は無視無視! それよりも、この民達の賛辞の声を、目いっぱい堪能しなくちゃ!
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