第十話 村を助けに行こう!!
魔物に襲われた村を助けるために、レオン様と一緒にお城を飛び出した私は、とある問題に直面していた。
「は、速い~!?」
「黙って掴まっていろ。舌を噛む」
「わかってますけど~!」
一秒でも早く村に行くために、私はとても逞しい馬に乗って、その速さに悲鳴を上げている。
いくらレオン様が手綱を握って、私はただ後ろからしがみついているだけとはいえ、馬に乗るのは初めてなんだよ!? 高いし揺れるしで、すっごく怖いよ~!
「心配はいらない。落ちたらすぐに助ける」
「落ちるの前提じゃないですか~!?」
「嫌なら、もっと力を入れろ、速度を上げるぞ」
「ま、まだ速く――きゃぁぁぁぁ!!」
もう何がなんだかわからず、悲鳴を上げながら、必死にしがみついた。
それから、どれだけ経ったか……一分か、十分か、もっとかな……レオン様が、珍しく切羽詰まった声を出していた。
「これは、マズいかもしれない」
「な、何がですか!?」
「嫌な臭いがする」
臭いって言われても、私にわかるわけ……あれ? なんだか、凄く焦げ臭いような……?
「煙も上がっている」
なんとか体のバランスを取りながら、前を確認すると、確かに煙が上がっていた。
それも……一つや二つじゃない……!
「急ぐぞ」
「はいっ!」
改めて力強くしがみついていたら、強烈な熱気を感じた直後、馬はゆっくりと足を止めた。
「こ、これは……」
きっとここは、田舎の小さな村だったのだろう。のどかで、村の人が手を取り合って、仲良く暮らしていたんだろう。
でも……今は……全てが燃えて、村をこの世から抹消しようとしている。
「っ……!」
目の前の悲惨な光景の影響か、過去のことがフラッシュバックしてきて、その場に膝をついてしまった。
……ダメだよ、私。聖女として、強くならないと……みんなを守らないと……そうじゃないと、お父さんとお母さんと……そして、あの子との約束を破っちゃうよ。
「報告を」
「はっ! 魔物は炎を操るサラマンダー。どんどんと数が増えております」
サラマンダー……全身が炎で出来た魔物だな。そんなのに襲われれば、火事になるのは当たり前だ。
「わかった。セシリア、すぐに結界の準備を。その間、俺が奴らを倒す」
「レオン様! お、お気をつけて!」
レオン様は、目にも留まらぬ速さでサラマンダー達に突撃し、剣をまるで木の棒みたいに、軽々と振る。
その見事な剣で、サラマンダーはどんどんと倒れていくけど、燃え上がる炎の中から、とめどなく溢れてきて、キリがない。
「ちっ……!」
「レオン様!」
いくら強いレオン様でも、次々に出てくるサラマンダーの炎を、全て捌き切ることは困難みたいで、足に炎が直撃した。
「このままじゃ、レオン様が……! それに、もっと被害が広がっちゃう……! 私が、なんとかしないと!」
目の前の悲惨な光景、そして村人の悲痛な叫びが、私の焦りを加速させ、冷静さを奪っていく。
でも、焦って結界を張るのに失敗をしてしまえば、更に被害が増えるかもしれない。それだけは、絶対に避けなくちゃいけない!
「落ち着いて……いつも通りやればいいだけ!」
一つ、浅く息を吐いてから、両手を広げると、前回と同じ様に、足元から魔法陣が描かれ、そのまま村全土をすっぽりと覆いつくした。
「これでよしっ! 浄化の光よ、愛しい民を苦しめる悪を殲滅して!」
私の声を合図に、結界が発動する。そうなれば、魔物達は耐えられるわけも無く……何秒もしないうちに、全てがチリと化した。
「やりました……!」
「よくやった、セシリア」
「レオン様、その足……!」
「かすり傷だ」
かすり傷って、どう見ても火傷にしか見えないんだけど!? それも、結構酷い感じの!
「俺は鍛えている。だから、この程度は問題無い」
「……本当ですか?」
「ああ。それよりも、お前は大丈夫か?」
「は、はい! ケガはありませんし、ちゃんと結界も貼れました!」
「ああ、ご苦労だった。だが、まだ問題があってな……」
魔物は確かにやっつけた。でも、村を燃やす炎は、なかなか消えない。
兵士の人達が、魔法で水をかけているけど、このままじゃ……。
「この炎、だいぶ弱まってきているが……奴らの魔力が混ざっているせいで、そう簡単に消えないようだな。俺が逃げ遅れた民の救助に向かう。皆は、消火活動を継続しろ」
「レオンハルト様、無茶です! ただでさえ勢いのある炎の中を、その足で飛び込むなど、自殺行為です!」
「自殺行為だろうが、俺は王として民を守る責務がある」
レオン様の視線の先には、女性が泣きながら、炎の中に飛び込もうとしているのを、他の村人が必死に止めていた。
どうやら、彼女の子供が建物の中から逃げ遅れ、炎の中に取り残されてしまったみたいだ。
「だから――」
「なら、私が行きます!」
「なっ……セシリア!?」
私みたいな、聖女の力しか能がない女が、灼熱の業火の中に突っ込んだところで、ただ燃えるだけだろう。
でも……必死に助けを求める母の姿と、今も子供が炎の中で苦しんでいる子供のことを考えたら……体が勝手に動いていた。
「私に考えがあるんです! 私を信じて、消火活動をお願いします!」
「ダメだ、セシリア! 戻ってこい!」
レオン様の呼び止める声を振り切った私は、自分の体に結界を張って、小さな家の中に飛び込む。
予想通りだ。熱いは熱いけど、サラマンダーの魔力が込められている炎なら、私の力が多少効果があるみたい!
「これなら……お~い! どこにいるの~!」
「うぅ……ぐすん……」
必死に探していると、まだそこまで火が回っていない、部屋の隅で丸くなって泣いている姿を見つけた。
「いた……! あなた、しっかりして!」
「うぅ……おねえちゃん、だれ……?」
「お姉ちゃんはね、あなたを助けに来たの! お外でお母さんが待っているから、一緒に帰ろう!」
「うん……!」
私は、この子にも結界をかけてあげて、急いで脱出を試みるが、炎の勢いは増し、建物を倒壊させて、行く手を阻んでくる。
このままじゃ、燃え尽きるのを待つだけになっちゃう。そんなの、絶対にダメ! 必ず方法がある! 何か考えるのよ、私!!
「……そうだ。聖女の力で、ある程度防げるなら……少しくらいなら、いけるはず!」
もう時間はない。思いついたら即行動! 私は、持っていたタオルに聖女の力をありったけ注ぎ込み、それで女の子をくるんでから、そのまま抱っこをする。
「かならず、お姉ちゃんが助けてあげるからね! すぅ……はぁ……けほっ……いくよっ!」
私は、一番脆くなっていそうな、窓の部分に体当たりをして破壊し、そのまま外に転がった。
体のあちこちが燃えているけど、これはそこまでじゃない。
ガラスの方が痛かったかな……あちこち切れちゃってる。特に、足が酷い有様だ。
「はぁ、無事に外に出られて――」
「セシリア、後ろだ!!」
「えっ?」
後ろを見ると、燃えた家がこっちに倒れ始めていることに気が付いた。
このままじゃ、女の子が危険だ。早く逃がさないと!
「早く逃げて!!」
かわいそうだけど、命のために、彼女を強く突き飛ばした。そのおかげで、なんとか母親の元には帰れたみたい。
私も早く逃げないと。でも、足をケガしたせいで、上手く立ち上がれない。
嫌だ、こんなところで死ぬわけにはいかない! 私は聖女として、これからも困っている人を助けないといけないの!
「動いてよ、私の足……!」
「リアァァァ!!」
聞き覚えのある叫び声が響いた。それから間もなく――倒壊した家が、轟音と共に、私を押しつぶした。
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