第五話 体が軽い……!
「うわぁぁぁぁ~……!」
大きすぎる長机にズラッと並べられた料理を前にして、自然と喉とお腹が鳴った。
お肉にお魚、野菜に果物……この世の全ての食材を使った料理なんじゃないかと思うくらい、私には魅力的に見えた。
「あ、あの! これって!?」
「お前への食事だ。好きなだけ食べろ」
好きなだけ!? 私の聞き間違いじゃないよね!? わ、私がこんなに食べていいの!?
「ごくり……わ、私……」
「これは、聖女であるお前への対価だ。受け取ってもらえないのは困る」
「うっ……」
あまりのご馳走に申し訳なさを感じていたけど……そう言われちゃうと、断るに断れないよ。
「せっかくの料理が冷める。早く食べろ」
「は、はい!」
無駄に大きな椅子に座らせてもらった私は、静かに両手を合わせる。
「いただきます!」
まずは、色とりどりの野菜から口にする。瑞々しい野菜の甘みや苦みが広がり、私の食欲を刺激してくる。
そこから、ジャガイモのスープ、お魚の塩焼き、ステーキと、どんどん食べ進めていく。
祖国にいた時の、冷たくて味気ない食事とは、全然違う。温かくて、心も体もポカポカして……幸せだ。
「おいひぃ~……!!」
「そうか」
「本当においしいです! 私の好きなものも多いですし!」
あれ? 自分で言っておいてなんだけど……どうして、私の好きなものがこんなに多いんだろう? レオン様が、私の好きなものを把握しているわけがないよね……偶然って怖いなぁ。
「もぐもぐもぐ……はっ……」
あまりのおいしさに、どんどんと空いたお皿が積み上がる光景を見て、私は一瞬で我に返り、手を止めた。
……私は聖女。こんなにガツガツ食べるなんて、聖女としてはしたないよね。これだけ食べられただけでも、幸せと思わなくちゃ。
「どうした」
「あの、もうお腹いっぱいなので……」
本当は、まだまだ食べられるけど、こう言っておけば、レオン様も納得してくれる。
――そう思っていたのだけど。
「お前は、嘘が下手だな」
「えっ? 嘘って……」
「俺には、まだ満足しているようには見えない」
「そ、そんなことはありませんよ? あ、あははー……」
なんとか誤魔化そうとするが、レオン様は一切信じずに、真面目な表情を私に向け続ける。
「一つ、言い忘れていたことがあった。ここで暮らすのに必要な絶対条件がある。それは、俺に遠慮をしないことだ」
「遠慮……」
「はっきり言って、遠慮をされるのは不快だ。食べたいのなら、そう言えばいい。寝たいなら、そう言えばいい。簡単なことだ」
「…………」
言い方は、少し乱暴かもしれないけど……要するにそれって、レオン様にはわがままを言ってもいいってことだよね?
「それで、お前はどうしたい?」
「…………もっと、食べたいです」
「なら、食べろ。さっきも言ったが、これは全て、お前のために用意したものだ」
レオン様に背中を押されて、遠慮をやめた私はさっきよりも勢いよく料理を食べ進める。
おいしい料理に、レオン様の優しさ。それらが、今までずっと我慢を強いられてきた私の心を、優しくほぐしてくれて……気づいた時には、涙がポロポロと零れた。
でも、またレオン様に心配をかけたくなくて。だから私は、少し乱暴に目元を拭いながら、食べ進めた。
――そして、気づいた時には、あれだけあった料理を、すべて平らげ、皿の山を築き上げていた。
「満足したか?」
「はい、お腹いっぱいです。その……はしたない姿を見せてしまいましたよね」
「はしたない? なぜだ?」
「聖女たるもの、お淑やかで控えめでなくてはならない。そんな人間が、大食いなんてはしたないと、義母に言われて、育ってきましたので……」
「それは、あくまでお前の義母の意見だろう。俺はそうは思わない。だから、気にせず食べればいい」
「レオン様……」
私を励ましてくれているのか、本当にそう思っているのか、私に知る由もない。
でも、わかることもあるよ。それは……レオン様がとても優しいことと、私の心が少し軽くなったってこと。
「はふぅ……あっ」
いつぶりか思い出せないくらい、久しぶりの満腹。そして、祖国から解放された安心感で気が緩み、小さな欠伸が出てしまった。
「今日は疲れただろう。部屋に戻って休め。仕事は、明日からしてくれればいい」
「いえいえ、こんなに良くしてもらったんですから、早速頑張らせてもらえませんか? こ、これは遠慮とかじゃなくて、本心ですよ!」
「わかっている。だが、食事後にすぐに動くのは、体に悪い。それに、疲れのせいで儀式に失敗されても困るから、今は休め」
「うっ……た、確かにそうですね……わかりました。今日はお言葉に甘えて、ゆっくりしますね」
「ああ。さあ、部屋に行くぞ」
「えっ……うひゃあ!?」
普通に客間まで一緒に行ってくれるのかと思っていたら、再びお姫様抱っこをされてしまった。
「れ、レオン様!?」
「さっきも言っただろう。食べてすぐに動くのは、体に悪いと」
「あ、歩くくらい大丈夫だと思うんですけど~!?」
抵抗虚しく、私はそのまま客間に運ばれた。
は、恥ずかしすぎて、体中から火が出るかと思ったよ……せめて、することを言ってくれれば、心の準備が……ううん、言われても出来なさそう……。
「ベッドの近くに、ベルが置いてある。それを鳴らせば、すぐに近くの人間が駆けつける。それと、俺の部屋は隣にあるから、何かあったら遠慮なく来い」
「わかりました」
「……俺は仕事があるから、これで失礼する」
「あの、レオン様!」
「なんだ?」
「色々と、本当にありがとうございます。私……あなたへのご恩を返すために、たくさん頑張ります」
「ああ。期待している。だが……恩など考える必要は無い。俺が必要と思ったから、行動しただけだ」
「それでも、嬉しかったんです」
「……そうか」
少しだけこっちを見て頷いたレオン様を見送った後、着心地の良いネグリジェに着替えさせてもらい、ベッドに寝転がる。
すると、段々と瞼が重くなっていって……そのまま、心地いい眠りについた。
****
「……はっ!!」
窓から差し込む、温かいお日様の光に反応して目を覚ました私は、勢いよく体を起こした。
「い、今何時!? もしかして寝坊した!? どうしよう、早く支度をしないと、今日の儀式の時間、に……」
焦りながらも周りを見渡して、そこが自分が今まで生活していた部屋じゃないことを思い出した。
そうだった……昨日から、私はレオン様のところで、生活を始めたんだった。完全に寝ぼけていたよ……。
「……あれ? なんだか今日は、体が凄く軽い気がする!」
いつもなら、毎朝体が鉛のように重かったのに、今日はまるで羽根のように軽い。お日様の光も、いつもは眩しいって感じるのに、今日はとても気持ちよく感じる。
よくわからないけど、健康になるのは良いことだよね。これなら、今まで以上に、聖女のお務めをしっかりこなせそうだよ!
「よしっ! さっそくレオン様に伝えてこなくちゃ!」
私は、元気よく部屋を飛び出して、隣のレオン様の部屋と思われる扉をノックしてみる。
でも、誰もいないのか、何の返事もなかった。
「留守なのかな? それとも、まだ寝ているとか……残念だけど、今は部屋でおとなしく――」
肩を落としながら部屋に戻ろうとすると、下の階から、なにやら声が聞こえる。
なにを喋っているかはわからないけど……なんだか、随分と騒がしい。
「なにかあったのかな……?」
嫌な予感がして、急いで下の階に降りると、使用人や兵士の人達が、忙しなく行き来していた。
「セシリア様! おはようございます! 随分とお早いのですね!」
「おはようございます。あの、何かあったんですか?」
「王都に魔物が侵入したのです!」
「ま、魔物!? そんな……れ、レオン様は知っているのですか!?」
「はい! 今は、一階の医務室にいらっしゃいます!」
医務室って……そんな、もしかしてレオン様、ケガをしちゃったんじゃ……!?
信じたくないけど、兵士の人が嘘をついているようには見えない。
「こちらはご心配には及びませんので、セシリア様はお部屋に――」
「医務室ですね。わかりました!」
「あっ、セシリア様!」
彼の声を背中に受けながら、ダッシュで医務室に向かう。
道中で、何人かの人とぶつかりながらも、なんとか無事に到着し、ノックもせずに扉を開ける。
「……っ!?」
――そこには数人のケガ人と、血まみれになっているレオン様の姿があった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
読んでいただいた方々に、お願いがございます。5秒もかからないので、ぜひ☆による評価、ブックマークをよろしくお願いします!!!!
ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタッチすることで出来ます!




