第四話 異質な魔法
「ついたな。足元に気をつけろ」
「は、はい!」
レオン様の手を借りて馬車を降りると、綺麗に整列した使用人達に出迎えられた。
「おかえりなさいませ、レオンハルト様。そちらの女性は?」
「俺の妻になる、セシリア・ルミナリアだ。丁重にもてなしてくれ」
「……失礼ですが、もう一度お聞きしても?」
「俺の妻になる女性だ」
「つ、妻ぁ!?」
声をかけてきた女性を皮切りに、他の人達も凄く驚いていた。
……あの時は、混乱して考える余裕はなかったけど……私が婚約を破棄して、即連れ出したから、こっちに連絡が行ってるわけがないよね……。
「彼女を客間に案内した後、入浴と着替えを。それと、料理長に大至急、今から言う品を作るように伝えてくれ」
「か、かしこまりました!」
深々と頭を下げた使用人達は、慌ただしくお城の中へと入っていった。
なんだか、私のせいでビックリさせちゃって、申し訳ないなぁ……。
「セシリア様、お部屋にご案内いたします」
「あっ、はい! よろしくお願いします!」
使用人に案内してもらった部屋は、お城の最上階にある、とても広い部屋だった。
故郷にいた時とは、比べ物にならないくらい、豪華な部屋だ……! 心なしか、家具がキラキラと輝いているように見えるよ!
「お荷物は、お好きな場所にどうぞ」
「わかりました。それで、私はどうすれば……?」
「これから、ご入浴のお手伝いをさせていただきます。どうぞ、こちらへ」
「えぇっ!? そんな、一人で入れますから!」
「お心遣い、痛み入ります。ですが、私達はあなたのお世話をするように、言付かっておりますので」
私の遠慮も虚しく、そのまま広いお風呂に連れていかれ、頭のてっぺんからつま先まで綺麗にしてもらい、お風呂で暖まって、全身のマッサージまでしてもらった。
ずっと申し訳ない気持ちはあったけど、あまりにも気持ちよすぎて……まるで、天国に昇ったかのような気分だった。
「よくお似合いですわ、セシリア様」
「あ、ありがとうございます!」
お風呂の後、綺麗なドレスを着させてもらい、髪も整えてもらっちゃった。
至れり尽くせりすぎて、近いうちに罰が当たりそうだよ……。
「失礼します。レオンハルト様が、入浴後に客間に来るようにと」
「わかりました。すぐに行きますね!」
私は、急いで客間に向かうと、すでにレオン様が待っていた。
「戻ったか。彼女達に、何か不手際はなかったか?」
「全然無かったですよ! すっごく気持ちよかったです!」
「そうか。ならいい」
「あっ……あの! どうして、こんなに良くしてくれたんですか?」
「自分の妻をもてなさないようでは、王家の恥。ただそれだけだ」
「なるほど……レオン様は優しいんですね。こんなに良くしてもらったの、本当に久しぶりで……なんだか、嬉しいです」
「そうか」
「ありがとうございます、レオン様。私、レオン様の妻として、恥ずかしくないように頑張りますね!」
「その心構えは良いが、今は体調の方を考えろ。それと、正式に結婚するのは、まだ先の話だ。今は、少々国がごたごたしていて、悠長に結婚をしている暇がない」
「では、今は婚約者として振舞えばいいんですね」
「それでいい」
「わかりました。あっ、体調の方は、全然大丈夫――ごほっ!」
もう、どうしてこのタイミングで咳が出るの? これじゃあ、まるで私の言葉を、体が真っ向から否定しているみたいだよ。
「だから言っただろう。まったく……そのまま静かにしていろ」
「ひゃあ!?」
レオン様は、急にしゃがんだと思ったら、私をお姫様抱っこをして、そのまま部屋を出た。
「レオン様!? 急にどうしたんですか!?」
「ジッとしていろ」
「は、恥ずかしいですから! 降ろしてください~!」
……私のささやかな抵抗も虚しく、そのままお姫様抱っこをされて連れていかれた先は、お城の地下にある部屋だった。
「叔父上、レオンハルトです」
「おう、入れ」
レオン様が触る前に、勝手に扉が開いた。
これも、何かの魔法なのかな――そんなことを思いながら入ると、タバコの独特な匂いと、本や書類で散らかった部屋が私を出迎えた。
「あぁ? おい、レオン。その嬢ちゃんは誰だ?」
「俺の婚約者です、叔父上」
「はぁ!?」
叔父上と呼ばれた男性は、よほど驚いたのか、盛大に椅子から転げ落ちてしまった。
あ、頭とか打ってないかな……ちょっと心配だよ。
「おいレオン、寝言は寝て言うものだぞ」
「本当です」
「……マジかよ」
「セシリア。彼は俺の叔父であり、高名な魔法薬師でもある、ユリウス・ヴァルハザードだ」
「は、はじめまして! セシリア・ルミナリアっていいます!」
叔父さんってことは、この人も王族の関係者だよね?
でも、無精髭にボサボサの髪、しわの目立つ服……なんだか、随分とだらしない……じゃなくて、個性的な人だね。
「おう、よろしくさん。おいレオン。おめぇ、確か今日はパーティーに行ったんだろ? それで、なんで婚約者がいやがる? ひょっとして、どこかで盗んできたのか?」
「人聞きの悪いことは控えてください」
「じゃあなんだ? どこかで拾ってきたのか。拾い食いはやめろと、ガキの頃から言ってんだろ」
「それよりも、彼女の診察をしてもらいたい。どうやら、調子が悪いようでして」
「だりぃ。おめぇの依頼した魔法薬を作んのに、こっちは徹夜してんだぞ。ワシはこの後、一杯飲むって決めてるんでな。他を当たってくれ」
……そうだよね。いきなり来て診察しろだなんて、彼の都合を一切無視してるよね。
「あの、私は全然へっちゃらですから!」
「……四十五年もののワインでどうでしょう」
「レオン、さっさとその嬢ちゃんを置いて出ていけ。診察の邪魔だ」
即座に乗った!? あれだけ嫌がってたのに、ワイン一本で乗っちゃったよ!?
「ありがとうございます。では、俺は外で待っています。セシリア、彼は信用できる人だから、心配は不要だ」
「レオン様のご家族の人ですから、大丈夫だってわかってますよ!」
「おーおー、素直で泣けるじゃないか。レオン、嬢ちゃんの爪の垢でも煎じて飲んだらどうだ?」
「それは、叔父上の方が適任でしょう。少しは、彼女のように素直な人間になるかと」
「かっ、ほっとけ!」
レオン様は、その言葉を最後に、部屋を出ていった。
「えーっと、私はどうすればいいんでしょう? あっ、服は脱いだ方が良いですか?」
「いらん。他のヤブ医者と違って、診察にかこつけて、ガキの裸を見る趣味は無いんでな」
「……そんなお医者様がいるんですか?」
「案外いるぞ。まったく、そんな腹の足しにもならんものを見るよりも、酒と煙草の方が、絶対に有意義だろうに」
「は、はぁ……そういうものなんですね」
それじゃあ、どうやって診察するんだろうという私の疑問は、すぐに解消される。
ユリウス様が、軽く指を振ると、私の足元に魔法陣が一瞬で描かれ、私の体を光で包み込んだ。
「なになに……症状は咳、めまい、異常な食欲……」
「ど、どうしてわかったんですか!?」
「診察魔法だ。まあ、ワシが勝手にそう呼んでいるだけだがな。ちまちま調べるのは、性に合わん」
魔法には色々あるのは知っているけど、こんなものもあるんだね……世の中には、私の知らないことが、山ほどあるね。
「ほう……これは……レオン、終わったから入っていいぞ」
「はい。それで、容体は?」
「こいつは非常に面白いぞ。体に異常は見当たらねえが、咳や眩暈といった症状が確認された。どうなってんだ、こりゃ?」
「治療法は?」
「……珍しく、必死じゃねえか。この嬢ちゃんに何かあるのか?」
「例の女性が、ようやく連れて来られたのです」
「……ああ、なるほどな」
ユリウス様は、なにか納得したかのように頷いてから、新しい煙草に火をつける。
そうだよね、私は聖女だから、元気になってほしいよね。
……そういえば、どうしてレオン様は、私の聖女の力を求めてきたんだろう? プリシアの健気な印象操作の影響で、私は無能な聖女って評判なのに。
う~ん……う~ん……考えてもよくわからないし、たまたまレオン様の目に留まったって思うようにしよう。
「とりあえず、咳止めと眩暈を抑える薬をやっから、食後に飲んどけ。あと、こっちの方で原因を調べておく。ワイン、忘れんなよ」
「もちろんです。では、俺達はこれで。セシリア、行くぞ」
「はい。ユリウス様、ありがとうございました!」
「おう、お大事にー」
こちらに視線を向けずに、ひらひらと手を振るユリウス様に頭を下げた私は、レオン様の後を追いかけると、また別の部屋の前に連れていかれた。
「あの、ここは?」
「入ればわかる」
「……こ、これって……!」
部屋の中に入ると、そこには多くの料理が、ズラッと並べられていた――
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