第四十三話 本物の聖女は私なんだから!!
「レオン様……!」
愛する人を前にした私は、目に涙をたくさん溜めながら、その大きな胸に抱きついた。
「助けに来てくれて、ありがとうございます……!」
「……偶然、通りかかっただけだ」
「偶然? ふふっ……なら私は、とっても幸運でしたね」
照れ隠しなのか、そういうことにしたいのかはわからないけど、私はレオン様の言葉を尊重して、それに合わせた。
とはいえ、偶然なわけないのは、火を見るより明らかだ。偶然なら、服がこんなに泥だらけになっているわけがないし、額に沢山汗を浮かべるはずがない。
きっと、レオン様は私を助けるために、休まずに助けに来てくれたんだ……そんなの、ずるいよ。この人のこと、もっと好きになっちゃうよ。
「プリシア殿……いや、プリシア。貴様がギルベルトと結託し、俺のセシリアを誘拐したこと。そして、祖国を混乱に陥れたこと、断じて許される行為ではない」
「そんなの知らないわ! 誰が何と言おうと、この国の聖女は私で、偉いのも私なのよ!」
「なら、その証拠を見せて」
私は、そう言いながら聖女の結界を解除する。それから間もなく、王都の上空に、鳥型の魔物が現れ、低い声を辺りに響かせ始めた。
私にあんなことをしておいて、今更プリシアが逆転できる手は無いと思うけど……姉として、しっかり現実を知らしめる必要がある。
「私の言ったことは全て嘘で、本当にバルバレイシアの聖女だと言うのなら、一人で完璧な結界を張ってみせて」
「そ、それが出来れば、こんなことには……」
「やる前から諦めるの? 私なら、可能性がほぼゼロだとしても、民のために全力を尽くすよ」
きっぱりと言い切った私に続くように、まだ残っていた民達の鋭い視線が、プリシアに向けられる。
――もう、プリシアに逃げ道は無くなった。
「じょ、上等じゃない! 私がお姉様より優れているって、見せてやるわ!」
完全に化けの皮が剥がれたプリシアは、聖女の力を使おうと試みる。
その表情は青ざめ、冷や汗が顔を濡らし、体は小刻みに震えている。
「どうしたの? やらないの?」
「うっ……うわぁぁぁぁぁ!!」
半ばヤケクソ気味に力を使い、辺りに結界を張ってみせるが、空を優雅に飛び回る魔物には、何も影響がなかった。
「やっぱり出来ないじゃないか!」
「散々私達を騙していたのね! 最低!!」
「ち、違う……これは何かの間違い……私は悪くない……全部、全部お姉様が悪いんだから!」
「……ここまで往生際が悪いと、むしろ哀れに見えるな」
レオン様が呆れるのも無理はない。私だって、今のプリシアはあまりにも救いようがないと思ってしまっているもの。
「聖女プリシアは、大罪人だ!」
「この国のために、極刑を!」
残っていた民がどんどんとヒートアップし、それが新たな民を呼び、さらに騒ぎが広がる。
ある程度は、私が望んだこととはいえ、こんな大騒動になるのは、想定していなかった。このままじゃ、収集がつかなくなる。
「皆のもの、静まらんか!」
色々な言葉が飛び交っている中、たった一つの制止の言葉で、辺りは一瞬で静かになった。
そんな凄い声を上げた人は、かなりお年を召していて、車椅子に乗っているが、強い圧を感じる男性――そう、この国の国王様だ。
ずっと病気で目覚めなかった国王様が、どうしてこのタイミングで? それに、どうして隣で、ギルベルト様が縛られているの?
「皆のもの。此度の騒動、余が病にふせっていたがために、このような事態にまでなったこと、心から詫びよう」
私が状況についていけないまま、国王様が頭を下げた後、彼はプリシアの前に移動した。
「事情は、余を死の淵から救ってくれた者から、全て聞いた。余が眠っている間に、愚息共々、随分と好き勝手にしてくれたようだな」
「そ、それは……その男に脅されて……」
「まだそのような言い訳をするのか、愚か者め!」
国王様は、ピシャリとプリシアに言い放つと、深々と溜息を漏らした。
「反省の一つでもすれば、まだ情状酌量の余地があると考えていたが……ギルベルトも貴様も、救いようがない。兵よ、こやつらを牢に閉じ込めておけ!」
「ちょっ、離しなさいよ! 私は何も悪くないんだから! や、やだ……お姉様、助けて!」
「……あなたは、やりすぎてしまったの。潔く、法の裁きを受けて」
「やだっ! そんなのやだっ!! 誰でもいいから助けなさいよ!」
まるで子供のように駄々をこねるプリシアに味方をする者は……誰一人としていなかった。
「なんでよ……どうしてそんな目で見るの!? 私だって、ずっと頑張ってきたのに! どうして誰も助けてくれないの! 誰も褒めてくれないの! なんで……!」
プリシアは、その言葉を最後にがっくりと項垂れてしまい、それ以上何もしゃべらないまま、兵に連れていかれた。
「セシリア、そしてレオンハルト殿」
「国王陛下。ご無沙汰しております。長き眠りからお目覚めになられたこと、大変嬉しく存じます」
「国王様! お体は大丈夫なんですか!?」
「うむ。本調子とは言えんが……こうして話すこと程度なら問題無い。それよりも……」
国王様は、順番に私達に視線を向けると、深々と頭を下げた。
「余が至らぬゆえに、そなた達には大変な迷惑をかけた。本当にすまなかった」
「そ、そんな! 国王様は、何も悪くありませんから!」
「……過ぎてしまったことを、悔やんでも仕方がないでしょう」
国王様の言葉を、慌てて否定する私とは対照的に、レオン様はどこか冷たく、突き放すような態度だったのが、とても印象に残った。
「えっと……それよりも、国王様がお目覚めになられて、良かったです! ご病気で、目覚めるのは絶望的と聞いていましたので!」
「余の病を治すために、とある兵士が奮闘してくれたようでな。直近の出来事も、彼から聞いたのだ」
「……兵士……なるほど、そうでしたか」
「レオン様?」
「いや、なんでもない。国王陛下、色々と積もる話もあるでしょうが……今日のところは、セシリアを早く休ませたい」
「それがよかろう。よければ、馬車を用意させるが」
「お気持ちだけで結構。では、我々はこれで。セシリア、帰ろう」
「はいっ。でも、どうやって帰るのですか?」
ここからヴァルハザードまで徒歩で帰るのは、数日を要する距離はある。馬車を使っても、何時間もかかる距離だ。
「俺が連れて帰る」
「連れてくって……うひゃあ!?」
一切の迷いもなく、そう言い切ったレオン様は、私をお姫様抱っこした。
そして、レオン様は風を置いてけぼりにしているように感じる速さで、ヴァルハザードへの帰路に就いた。
「は、速い~!? 本当に、走って帰るんですか~!?」
「ああ。単独で来たから、馬車など無い。それに、申し訳ないが……彼らを信じることは出来ない」
「な、なるほどです~!」
それにしたって、これはさすがに力技すぎる気もする!
……でも、そんな力技をしてまで、私を助けに来てくれたんだよね。
「レオン様、助けに来てくれて、ありがとうございます。私、凄く嬉しかったです」
「そうか」
感謝の気持ち、そしてこの胸から溢れ出て抑えきれない愛情を、少しでも伝えられるように、私はレオン様の首に手を回し、ギュッと抱きついて過ごした。
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