第四十二話 作戦開始!
「皆さん、突然のことで驚かれたと思いますが、まずは落ち着いて私の話を聞いてください!」
歓喜と動揺の声を上げる民達の視線が、一斉に私へと集まった。
「まずは、結論からお話します。先程、私一人で聖女の力を使い、王都に結界を張りました。これで、王都にいればひとまず安心です!」
「一人って……あんたらは、二人で結界を張っていたんじゃないのか?」
「そもそも、セシリアさんは何の役にも立っていないって……」
「その話は、全てプリシアがでっち上げた嘘です!」
突然の私の告発に、民達から動揺の声が聞こえてくる。
そんな中、一番最初に声を上げたのは、やはりプリシアだった。
「何を言っているの!? 皆様、騙されてはいけません! お姉様の言葉の方が嘘です!」
「今から、詳細を話します!」
「必要はないわ!」
「黙りなさいっ!!」
いつもなら、私から攻撃することが無く、慣れていないプリシアは、一瞬怯んだ。
「私は今まで、聖女の仕事を妹としていました。しかし、妹はほとんどなにもせず、手柄を全て横取りし続けました――」
そこから皮切りに、自分がやられてきたことを説明をすると、最初こそ民は信じてくれなかったが、事細かな説明に加えて、私が一人で結界を張ったことが後押しとなり、話を聞いてくれた。
その間、プリシアは何度も邪魔しようとしてきたが、民が守ってくれた。
「ですが、私も人のことを言える立場ではございません。私だって、長年に渡って虐げられ、空腹に苦しみ、精神的な暴力を受け……もう耐えられなくなり、逃げだした……聖女としては、失格です」
「そんな……俺達が信じていたのは、間違いだったのか……!」
「あなた一人で頑張ってくださっていたなんて……ありがとう!」
「……っ!!」
祖国では、いくら頑張ってもお礼なんて言われなかったのに……ああ。胸の奥がとても暖かい。顔もちょっぴり熱いや。
「ありがとうございます! 私は、もう間違えません。私は、祖国の民が大切ですし、嫁いだ場所も大好きです。なんで、私は両国を守るために、奮闘することをここに誓います!」
「お姉様の言っていることなんて、全部信憑性がないわ! 民を騙して利用する気なのでしょう!」
「利用するのは、あなた達でしょう? 私は、あなたとギルベルト様の醜い面を知っている。あなた達がトップになれば、あなた達の私利私欲によってこの国は廃れ、民は路頭に迷う。そんなこと、許されないわ!」
私はそこで言葉を一旦切り、大きく息を吸い込んでから、一番伝えたいことを伝える。
「私は!! 絶対にー!! 民をー!! 見捨てませーーーーん!!!」
私の気持ちを全て込めたストレートな言葉に、一人の男性が、控えめに拍手をくれた。
そこから、拍手はさらに広がり、大歓声まで上がった。
「……どうして……どうしてお姉様なんかが、褒められるの?」
「プリシア……」
「……これじゃあ、もう誰も私を信じて、褒めてくれなくなる!! 誰も私を見なくなる!! 特別じゃ……なくなる!!」
「自業自得として、受け止めることね」
「う、うぅぅぅ……!! どうして! 私は何も悪くない! 悪いのは、お姉様なんだから!」
「…………」
「もういいっ! お姉様なんて、大っ嫌い!」
「ぐっ……あぁぁぁぁ!?」
合図が出た瞬間、首輪から電流が流れ、視界が白く弾けた。
「お姉様がいなくなれば、聖女は私一人だけ! どれだけ酷いことになっても、みんな私をすがって、私を褒めてくれる! そうよ! 私が一番偉いんだから!!」
あまりにも言っていることが破綻しているプリシアの顔は、狂気に満ちていた。
い、痛すぎてよくわからなくなってきた……でも、負けていられない。とにかく、作戦を最後までやり切らないと!
「な、何が起こっているんだ!?」
「とにかく、セシリア様を助けるぞ!」
「み、みんな! 私はいいから! このことを、多くの人に伝えて、王都に避難するように協力して!! お願いだから!!」
「せ、セシリア様……わかりました!」
必死の叫びは多くの人に届いた結果、彼らは次々と私の元から走り去った。
……これで、とりあえず結界を張ることと、プリシアの真実を伝えること、そしてプリシアの支持を落とすところまでは、上手くいった。
あとは……私が逃げるだけ、なんだけど……痛すぎて、立っているので精一杯だ。
「ふぁ……あぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「セシリア様!」
「来ちゃダメ! みんな、巻き込まれちゃうから! お願いだから逃げて!」
まだ残っている民が、私を助けようとしてくれる気持ちは嬉しいけど、彼らに同じ苦しみを与えるわけにはいかない。
「……なんで、まだ生きているの? 出力は最大にしているのに!」
「……だって、私には……守るべき人と……帰る場所が、あるから……!」
「っ……!?」
「私は、聖女なんだから……今度こそ、みんなを……まも、る……!」
「うるさい……うるさいうるさいっ! お前なんか、もういらない! さっさと死になさいよ!」
プリシアの大声と同時に――全身を焼き尽くすような衝撃が走る。
その激痛で、息が詰まり、視界も白く染まっていく。
――それでも。
「だい、じょうぶ……だから。まけ、ない……」
なんとか保っていた意識が、段々と薄れていき、体が前に倒れそうになるが、気力だけで踏ん張った。
「まけない……まけない……!!」
必死に自分を鼓舞し続けたが、体はもう限界を迎え……体から力が抜け、そのまま倒れそうになった。
しかし、地面に衝突することは無かった。
「……??」
ぼんやりとだったが、甲高い金属音が着替えてから間も無く、私を苦しめていた電撃が、ピタリとやんだ。
それと同時に、唇に何かが当たり、そのまま苦い液体を飲まされた。
「けほっ……こ、これって……」
さっきまで痛くてどうしようもなかった体が楽になった私は、ゆっくりと目を開けると……そこには、一人の男性が私を支えながら、いつもの表情を浮かべていた。
「セシリア・ルミナリア。今、お前は彼女に捨てられたな」
「……はい」
「なら、俺と祖国に帰って、結婚しろ」
彼は、淡々とした言葉で、私に求婚を申し出る。
――まるで、私の運命が大きく変わった、あの日の再現のように。
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