第四十一話 変わり果てた王都
翌日の早朝。眠っているところを叩き起こされた私は、お城にある聖女の間へと連れてこられた。
「さあ、お姉様。さっそく聖女の結界を張って、この国から魔物を追い出すわよ。いつも通りに……ね」
「ええ」
いつも通り。それは、結局儀式のほとんどは私が行い、良いところをプリシアが持っていく。
そうすれば、確かにこの国の現状の問題は解決するかもしれないけど……レオン様のところに帰るためにも、素直に言うことは聞かない。
「ちょっと待って、プリシア。この魔法陣じゃ、結界は張れないわ」
私は、事前に用意していた嘘を、プリシアについた。
当然、プリシアはそれに納得するはずもなく、私に食って掛かってきた。
「はぁ!? そんなわけないでしょ! なに、私達への反抗のつもり!? そんなことをすれば、どうなるかわかっているでしょ!?」
「早とちりしないで。この結界の魔法陣は、私がいない間に少し形が変わっているの。あなた、私がいない間になにか弄ったでしょう?」
「それは……」
「どうなんだ、プリシア?」
聖女の間に同行していたギルベルト様の質問に、プリシアは少しつまらなさそうに、フンッと鼻を鳴らした。
「ええ、そうだけど。仕方ないじゃない! お姉様と一緒の時に使っていた魔法陣じゃ、うまくいかなかったんだし! 私は悪くないわ!」
「大丈夫、悪いって話じゃないから。私が言いたいのは、魔法陣の再設計は時間がかかるから、まずはこの魔法陣を消して、王都だけでも結界を張ろうってことだよ」
「待て。それでは、ここに新しい魔法陣を作れない。聖女一人につき、魔法陣は一つだけというのは、常識だろう」
「その通りです。でも、私はヴァルハザードで、いくつも結界を同時に張っていました。それに、簡易的なものなら、時間をかけずに張ることも出来ます。それで、まずは人が多い王都をなんとかしようということです」
私の言うことが信じられないのか、二人は怪訝な表情を浮かべながら、顔を見合わせた。
「僕には、にわかには信じられないが……ガイウス殿は、どう思われますか?」
「私がこの目で、それが事実だと言うのを目撃しております。信じてもよろしいかと」
即答だ……そうだよね。攻め込むつもりの自国のことについて、彼が詳しくないわけがないよね。
「ちっ……バルバレイシアの結界を復活させると同時に、ヴァルハザードの結界を完全に消す予定だったが、少々狂ってしまったな」
「見通しが甘かったですね。今後の精進に、期待しておりますよ」
「動くなら、早くしましょう。私達がこうしている間に、民は傷つき続けます」
「その慈愛の心に、心からの敬意を示すために、彼女に全面的に賛成いたします」
「……わかった。僕も賛成しよう」
「では、私は何かあった時のために、留守番をしています。それでは」
あっ……止める前に消えちゃった。
何をしてくるかわからない人だから、なるべく目の届くところにいてほしかったんだけど……。
「ほら、さっさと行くわよ」
「僕は面倒だから、城に残っている。さっさと済ませてこい」
「ふん、いない方が清々するわ」
「……ええ」
今までずっと、二人が仲良しなのを見せられていたから、仲が悪いのを見せられると、やっぱり違和感がある。
まあ、今の私には関係の無いことだよね。早く、王都へと急ごう。
****
「到着致しました」
「ほら、さっさと降りなさい」
お城を出発して無事に到着した私は、馬車の外に広がる景色に、思わず絶句した。
私の知っている王都は、多くの人で賑わっていて、建物も綺麗で……まさに理想郷の様な場所だった。
しかし、建物は無惨に壊され、あちこちから人々の苦しむ声が聞こえてくる。
そして、鼻を刺す血の匂いや、焦げたような臭いに、思わず喉がひきつり、吐き気が込み上げた。
……ダメよ、私。いくら目の前の現実がつらいからって、聖女として逃げるわけには……全てを受け止めて……そして、助ける。そのために、必死に作戦を考えてきたんだ。
「あれは、王家の馬車じゃないか!?」
「俺達の生活を壊しやがって……! よくもぬけぬけと出てきやがったな!」
見てて胸が痛くなるくらい、ボロボロになった王都の人々が、各々の武器を持って馬車を取り囲む。
その目は、血走っていて……同じ人間なのかと、疑いそうになる。
でも、彼らは何も悪くない。突然、平和な生活を壊されれば、おかしくなってもしかたがないもの。
「皆様! 私達は、これから王都に結界を張り、皆様を魔物の脅威からお救いいたします!」
「散々魔物の侵攻を許しておいて、そんなことが出来るはずがないわ!」
「ええ、皆様が私達を信頼できないお気持ちは、理解出来ます。だからこそ……彼女に帰ってきてもらったのです!」
多くの民の前だから、猫を被っているプリシアに促されて前に出ると、民からかけられたのは、歓迎の声……ではなかった。
「あれって、聖女セシリア……だよな?」
「どうしてバルバレイシアに? よその国に行ったんじゃ?」
「無能の裏切り者が帰ってきたって、役に立つわけないだろ! いい加減にしろ!!」
元々、私はプリシアのせいで、ずっと正当に評価されていなかった。だから、この反応は妥当と言える。
……みんなになんと言われようとも、私は感謝されるために、嘘をついてここに来たわけじゃない。ヴァルハザードに帰るため……そして、みんなをプリシア達から守るためだ。
「皆様もご存じの通り、彼女がいなくなったとたん、聖女の結界は正しく機能しなくなってしまいました」
「なんだって!? そんなの聞いてないぞ! 大罪人じゃないか!」
「なら、僕らがこんな目に合っているのは、あの聖女のせいじゃないか!」
私は、今にも怒りが爆発し、何をするかわからない民達の怒りを向けられても、静かに受け入れる。
実際、私が婚約破棄をしたあの日、もっと周りを見る余裕があれば、もっと良い未来を彼らに提供できたかもしれないもの。
「私も、正直驚きでした。ほとんどが私が行っていた儀式に、彼女が必要だったなんて。しかし、彼女はそれを深く反省し、こうして帰ってきました! 今から結界を張り、皆様をお救いいたしましょう!」
「や、やっと助かるのね……!」
「ほら、お姉様。さっさと結界を張って、あいつらを黙らせなさい」
「ええ、任せて」
私に耳打ちをするプリシアに素直に従った私は、プリシアと一緒に、広い場所がある、噴水広場に結界の準備を始める。
「準備出来たよ」
「ええ。こちらも。では、結界を発動させます! 聖女の声に応え、力を解放しなさい!」
プリシアは声高々に宣言するもが、結界はうんともすんとも言わない。もう一度やっても、変わらない。
これでもダメなのかと、プリシアの顔に焦りが見え始め、それを狙うように、王都の民は詰め寄る。
でも、これは私が狙っていたチャンスだ。私に気が行っていないうちに……!
「……おねがい、私の気持ちに応えて……」
ひっそりと祈りを捧げると、無事に結界が張られ、辺りにいた魔物が一気に消滅した。
「これって……結界だ!」
「やっと助かるのね!」
「でも、今のって……一人でやってたよな? どうしてセシリア様が?」
周りの人達の声が、どこから聞こえてくるけど、今は集中だ。
さあ、王都の結界張りは終わった。もう一つ、この国と民を救うために、大切なことをしなければならない。
――頑張れ、私! 私の作戦は、ここからだから! 絶対に、全てを救ってみせるから!
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