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第三十九話 不本意の帰国

「うぅ……」


 目を開けると、そこは最低限のものしか置いてない、無機質な部屋の中だった。


 私、どうしてこんなところにいるんだろう? あの時……そうだ! 私、ガイウスの光に包まれて、そのまま意識を……。


「ここ、どこだろう……それに、この首輪みたいなのは何……?」


「おや、お目覚めの様ですね」


「この声は……ガイウス!? どこにいるの!?」


「ふふっ、お元気そうでなによりです。若者は、元気が一番です」


 遠回しに、私のことをバカにする声は聞こえるけど、その姿はどこにもない。魔法か何かで、声だけを飛ばしているのかな……?


「ここはどこなの!? 私をどうするつもり!?」


「セシリア嬢は、とても好奇心旺盛なのですね。なぜ? と考えるのは、素晴らしい素質です」


「ふざけているの!? 私の質問に答えて!」


「これは失敬。私はお喋りが好きなのですが、こうしてゆっくり話せる機会が、何年もなかったもので……しかしご安心を。あなたの問いにお答えする者が、間もなく現れるでしょう」


 ガイウスの言葉通り、部屋の外から、コツンッコツンッと足音が聞こえてきた。


「では、私はこれからヴァルハザードを再び攻める準備をしなければいけないので、これで失礼します」


「あっ、待って! あなたには、色々聞きたいことが……!」


 私の引き止める声は、部屋の中に虚しく響くだけだった。


「あら、声が聞こえると思ったら……もう起きてたのね」


 部屋に来たのは、プリシアだった。久しぶりに再会した時とは打って変わり、昔のように、私を小馬鹿にするように笑っている。


「おはよう、お姉様。どう? 私が用意した、スイートルームの居心地は」


「ここはどこなの!」


「ここは、バルバレイシアのお城の地下にある部屋よ。お姉様は、転移魔法でここに連れてこられたの」


「あなた、こんなの人攫いと変わらないよ!? こんなことが、許されると思っているの!?」


「ギャーギャー騒がないでくれない? 耳が痛くなるじゃない」


 はぁ、と小さな溜息を漏らしながら肩をすくめたプリシアは、近くにあった椅子に腰をかけた。


「お姉様のさっきの質問だけど……許されるに決まっているじゃない。だって、私がしたことは、バルバレイシアを助けるために必要な人材を、ここに連れてきただけよ?」


「なによそれ! ただの詭弁じゃない!」


「詭弁で結構。実際、私のために来てもらっただけなんだけどね。国とか民とか、私を褒めてくれるなら、どうなってもいいし」


 なんなの、それ……聖女として、1番言っちゃいけない言葉だよ! 怒りを通り越して、嫌悪感を感じるくらいだよ!


「私は、バルバレイシアに結界を張りに来るって、手紙に書いて送ったのに、なにが不満なの!?」


「不満に決まっているじゃない! 私は、帰ってくるように言ったのよ! お姉様の提案じゃ、結局お姉様の所有権は、あの根暗男のものじゃない! それだと、私の好きなように出来ないじゃない!」


 まるで、私のことを便利な道具のようにしか思っていない発言よりも、大好きなレオン様への侮辱が、何よりも許せなかった。


「あなたなんかに、レオン様のなにがわかるっていうの! 今の言葉、取り消しなさい!」


「…………ぷっ」


 プリシアは、一瞬目を大きく見開かせてから、お腹を抱えて笑い出した。


「あははははははっ! なによ、バッカみたい! あんな男のために、そんなに必死になっちゃってさ!」


「なにがおかしいの! あなただって、ギルベルト様がバカにされたら、嫌な気持ちになるでしょ!」


「全然? あんな男、どうだっていいもの」


「えっ……? あなた、ギルベルト様が好きだったんじゃないの?」


「それは少し前の話よ。今の私にとって、あんな無能な男なんて、私が妃になって褒められるための、道具でしかないわ」


 私の知らないところで、何かあったのかな?

 二人がどうなろうとも、私には関係ないことだけど、この変わりようには、少し驚いてしまう。


「ギルベルトもガイウスも、バルバレイシアも民も……全部、ぜーんぶ! 私が素敵な時間を過ごすための、道具でしかないの!」


「ガイウス……あの人は何なの? どうしてプリシアに協力しているの?」


「さあ?」


「さあって……」


 てっきり、強力な協力者よ! みたいな返事だと思ったら、帰ってきたのは、気の抜けた返事だった。


「よくは知らないわ。彼から一方的に近づいてきたの。それで、彼と私達の利益が一致したから、協力しているだけ」


「素性もわからない人と手を組んで、こんなことをするだなんて……あなた、一体何を考えているの!」


「なに? 少し年上だからって、偉そうに説教するつもり? あんまり調子に乗って喋らない方がいいわよ?」


 プリシアの指先に、小さな魔法陣が描かれた。それにチョンと触れた瞬間、私の全身を焼きつくすような激痛が走った。


「きゃあぁぁぁぁ!?」


「きゃはっ! 良い声で鳴くじゃない!その首輪は、帰ってきたお姉様へのプレゼント。私が合図を出せば、電撃が走るの。私への忠誠の象徴であり、お姉様が今後一切逆らえないようにするための、制御装置ってところね」


 はぁ、はぁ……あ、あまりの痛さで、死んじゃうかと思った……こんなのを何度もされたら、無事でいられる保証はないね……。


「自分の立場がわかったら、大人しくしていなさい。明日には、私の体力が戻る予定だから、そうしたら昔のように、力を……合・わ・せ・て! 頑張りましょうね!」


 最後はとても楽しげな雰囲気で、部屋から出ていた。

 家族に言う言葉じゃないけど、いなくなってくれて、清々した。これで、今後どうすればいいか、ゆっくりと考えられる。


「こんなことに、負けないんだから……とにかく、まずはこの部屋のことを調べないと」


 うーん……見た感じ、逃げられそうな場所は無い。鍵もかかっている。

 こんな時に、攻撃系の魔法が使えればなぁ……って、無いものを考えても時間が無駄だし、お腹が減るだけ。もっと建設的なことを考えよう!


「う~ん……う~~~~ん……ううう~~~~~~ん……」


 ずっと考え事をした後、ふと古い時計で時間を確認すると、すでに夜中になっていた。

 随分と時間はかかってしまったけど、おかげで一つだけ案は浮かんだ


「……これでいけるのかな。うまくいく保証はないし、失敗すれば、私がどうなるか……でも、プリシアが本当に私を殺すとは思えないし、これ以外の方法が思いつかない……」


 ……こんな作戦を実行しようとするなんて、レオン様に知られたら、また自分を大切にしないって怒られそうだ。


 でも、バルバレイシアの民の安全と未来を守るため、そしてレオン様のところに帰るためなら、どんな危険なことだって、恐れずにやってみせる。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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