表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/49

第三十五話 失敗しても……

 あれから一週間後。私は久しぶりに二人に会うための準備を終わらせ、呼ばれるまで自室で待機していると、レオン様が呼びに来てくれた。


「セシリア。二人が見えたから、向かうとしよう」


「……はい」


 レオン様と一緒に、私はプリシア達が待つ応接室へと向かう途中、無意識に昔のことが頭に浮かび、足が止まってしまった。


 早く行かないと、遅いとか言い出して、ここの人に迷惑をかけちゃう。早く、行かないといけないのに……!


「っ……!」


「セシリア」


 動いてくれない足に悪戦苦闘している私に、レオン様の静かな声が、そっと私に寄り添った。


「俺がいる」


「レオン様……」


 たった一言、ただ状況を伝えるだけの言葉。

 でも、それは私に沢山の勇気をくれると同時に、固まっていた足が、嘘のように動くようにしてくれた。


「はい、ありがとうございます。行きましょう!」


「ああ」


 決意を新たに、私は応接室に向かうと、そこには二度と会いたくないと思っていた、義妹と元婚約者の姿があった。


 ……なんだか、二人揃って、前と比べて少しやつれている気がする。それに……体のあちこちに、包帯が巻かれている。


「ごきげんよう。待たせたな。遠路はるばる、ご苦労だった」


「ごきげんよう、レオンハルト殿。本日はお時間をいただき、誠に感謝いたします」


 一応、バルバレイシアの王家であるギルベルト様は、しっかり挨拶をしている一方、プリシアは私のことを忌々しそうに睨むだけで、一切挨拶をしなかった。


「互いにあまり時間はない。早速本題に入ろう」


「ええ。こちらからの手紙で、状況は伝わっているだろう? 原因は不明だが、わが国を守る結界が弱体化し、魔物による被害が多発している」


 不明って……どう考えても、原因は一つしかないよね? もしかして、少しでも体裁を保つために、濁して言っているのかな?


「そこで、バルバレイシアの聖女である、セシリアを返却を願いたい」


「申し訳ないが、それは出来ない相談だ。彼女が俺の婚約者なのは、存じているだろう?」


「もちろん。貴殿らが望むのなら、好きに結婚してくれて構わない。僕達の望みは、セシリアではなく、セシリアの力なのだから」


 ……これは、私の偏見かもしれないけど、ギルベルト様の言い方は、私を聖女という便利な道具としか思っていないように聞こえて、とても不愉快だ。


「もちろん、ただでとは言わない。この事態が収束した暁には、多額の謝礼金も用意しよう。悪い話では無いだろう?」


「…………」


「ちょっと、何とか言ったらどうなの!?」


 今までずっと黙っていたプリシアは、突然何かがプツリと切れたように、声を荒げた。


「どいつもこいつも、みんな私のことを悪く言ってきて! 私だって頑張っているのに!」


「…………」


「もう、ほんとやだ! これも全部、お姉様が私一人に聖女の責任を押し付けたせいなんだから! 責任取りなさいよ!!」


 責任? そんなことを、今更言われても困るよ。私があの日、聖女の仕事をプリシアに任せた時、あなたは確かに引き受けたんだよ?


「全面的にお前が悪いが、僕も彼女も、少しは反省してやっている。だから、いい加減機嫌を直して、国のためにまた働いてくれないか?」


「はぁ……?」


 多分、人生で一番呆れた声が出てしまったと思う。それくらい、ギルベルト様の言っていることは、意味がわからなかった。


「はぁ……あなた達が言いたいことは、よくわかりました」


「なら、早く戻って――」


「ですが、私はあの日から、もうバルバレイシアの聖女ではなく、ヴァルハザードの聖女です。だから、いくら頼まれても、戻るつもりはありません」


「なっ……!? なに寝ぼけたことを言っているわけ!?」


「私からすれば、あなた達の方が寝ぼけているように感じます。私は、あなた達からされてきた仕打ちも、言葉も、何一つ忘れていません」


 いくら頑張っても、全部プリシアの手柄にされ、心無い言葉を浴びせられ、食事さえまともに取らせてもらえなくて……そんな人達に、どうして協力できるというの?


「はっきりと言わせてもらいます。私は、あなた達がどうなろうと、関係ありません。私はここで幸せに暮らしているから……邪魔しないでっ!」


「っ……!!」


「そういうことだ。申し訳ないが、貴殿らにセシリアは返せない。わかったら、お引き取り願おう」


「くっ……レオンハルト殿は……ヴァルハザードは、バルバレイシアを見捨てるというのか!?」


「人聞きの悪いことを。俺はあくまで、セシリアを返せないと言ったまで。貴殿の国の事件が収束するように、出来る範囲の支援は約束しよう。さあ、話は終わりだ……誰か、彼らの見送りを」


 まるで、苦虫を噛み潰したような顔をする二人の前から、レオン様と一緒に部屋を出ようとした瞬間、ギルベルト様の護衛にやってきた兵士が、ぽつりと口を開いた。


「しかし、本当にそれでよろしいのですか? あなた様が帰ってこなければ……多くの民が犠牲になるのでは?」


「えっ……?」


 彼の口から出た言葉は、私の胸に深く刺さり、強い動揺を生み出した。


 そこに付け込むように、プリシアは言葉をまくしたてる。


「そ、そうよ! 領土にある町や村は、次々に壊滅して、死人は増える一方なの! 食糧も無くなっていって、このままじゃ餓死する民も出るわ!」


「…………」


 ……そうだよ。どうして、そんな簡単なことに気がつけなかったんだろう。


 プリシアやギルベルト様、多くの貴族達ばかり見てきたけど、一番の犠牲者は、何の罪もない民だ。


 それに気が付かないで、自分のことばかり考えて……私は聖女なのに、民を見捨てるのと同じことをしてしまったんだ。


「それを、セシリア一人に責任を押し付ける気か? 聖女だけでなく、有事の際に民を守るはずの兵や、それらを指揮する王家の責任でもあるだろう」


「それは、我々に対する侮辱と捉えていいのかな?」


「事実を述べているまでにすぎない。それを侮辱と受け取るということは、図星ということだろう?」


「…………」


「とにかく、この話は到底受け入れることはできない。セシリア、行くぞ」


「……は、はい……」


 自責の念で、目の前が段々と暗くなっていくのを感じながら、私は応接室を後にする。


 ……ここに来て、私はたくさんの幸せを貰って、こんな日々がずっと続けばいいと思っていた。

 でも、それは……罪もない祖国の民の平和と幸せを、犠牲にして得たものだった。


 なんで、もっと早くに気が付かなかったんだろう。自分のことしか考えてなかった……こんなの……人として、最低すぎる。


「私は、聖女失格――」


「セシリア」


「っ……!?」


 呼吸が浅くなり、今にも完全に目の前が真っ暗になりそうだった私は、レオン様の声で現実に引き戻された。


「あ、あれ……私の部屋? いつの間に……」


「お前は、どうしたい?」


「……わ、私は……」


「いい。深呼吸をしてから、ゆっくり話せ。ここには、お前を否定する人間はいない」


 私は、ゆっくりとベッドに座らされたあと、何度も深呼吸をして、少しでも自分を落ち着かせた。


「私は……あの日、心が折れて……自分が解放されたいがために、聖女の役目を捨ててしまいました。その結果、祖国の民を傷つけてしまった……」


「…………」


「だから……罪滅ぼしというわけではないですけど、今度こそ民を守りたい。でも……そうすれば、あなたとこの国を、見捨てることに……」


「お前は、聖女として全てを守りたいのか」


「全てだなんて、おこがましいことは言いません。この力を持って生まれた以上、出来るだけ守りたいんです」


「そうか」


「あの……レオン様なら、どうしますか?」


 救いを求めるように、レオン様に問いかけると、特に考えるそぶりは見せずに、すぐに答えた。


「自分の失敗を反省したあと、二つの国と民を守る」


「っ……!!」


「口では簡単に言えるが、それを叶えるのは至難の業だ。だが、俺なら諦めない。俺は、そうして生きてきた」


 ……そうだよ、失敗したなら取り戻せばいいんだ。それが難しいことだとしても、私はそうしたい!


「迷いは、消えたようだな」


「はいっ! 私は……聖女として、みんなを助けたい! それがいかに難しいことでも、私は逃げません! 必ずやり遂げてみせます!」


「なら、俺はこの国の王として……そして、お前の婚約者として、全力で支えると約束しよう。なにがあってもな」


「レオン様……心強いです。ありがとうございます!」


 私は、レオン様に深々と頭を下げて、感謝の意を示した。


 どうやって、プリシア達に良いように利用されず、二つの国を魔物の脅威から守るかは、まだ考えついていないけど……きっと何か方法はある!


 私は……絶対に諦めない!!



 ****



■レオンハルト視点■


 迷いながらも、自分の道を決めたセシリアと一旦別れた俺は、自室に帰ってくると、またしても先客がいた。


「よう、邪魔してんぜ」


「叔父上。ひょっとして、暇なのか?」


「忙しいに決まってんだろ。さっきのバカ共との話の内容について、用があってな」


「聞いていたのか?」


「魔法でちょろっとな。だが、どういうわけか、音質が悪すぎて全ては聞き取れなかった。だから、何を話したか聞かせろ」


 特に断る理由もないため、俺は先程の会話の詳細を叔父上に話すと、随分と難しい顔をしていた。


「話が終わったのに、兵士が口を出してきた……ふむ」


「俺としては、少し引っかかってはいるが……叔父上もか?」


「まあな。実は、お前が話している時に、あの部屋で僅かな魔力の乱れを感じた」


 どういうことだ? あの場では、誰も魔法を使っている気配はなかった。もちろん、魔法薬といった類も見ていない。


「とはいっても、天才のワシじゃなければ感知できないような、あまりにも微弱なものだ。まあ、なんにせよ……まだ一波乱あってもおかしくねえな」


「叔父上……」


「あーあー、それ以上は聞きたくねえ。どうせ、またワシに面倒事を押し付けてくんだろ」


「…………」


「ただでさえ、作りたくもない薬を作らされて、ガキの面倒まで見てやってんのに、これ以上やってられっか。ワシは部屋に戻らせてもらう」


 強引に話を切ってしまった叔父上は、手をひらひらとさせながら、俺に背を向けて去っていった。


 叔父上に頼りすぎでは、この先も王としてやっていけないだろう。この件は、俺達でどうにかするしかないな。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


読んでいただいた方々に、お願いがございます。5秒もかからないので、ぜひ☆による評価、ブックマークをよろしくお願いします!!!!


ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタッチすることで出来ます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ