第三十四話 私の居場所
レオン様とデートに行ってから三日後、私は日課の聖女の儀式と、お城のお手伝いを終えて、自室で一息入れていた。
「……最近、レオン様とあまり話せてない気がするのは、気のせいかな……」
私の聖女の結界のおかげで、確実にレオン様の仕事は減っているはずだ。
なのに、ここ数日のレオン様は、とても忙しくしていて、話しかけても少しだけ話すだけで終わってしまう。
「もしかして、何か不快な思いをさせてしまったのかも……」
もしそうなら、ちゃんと謝らないと。そう思った私は、レオン様の部屋に向かうと、中から話し声が聞こえてきた。
「バルバレイシアから、その後の連絡はあったのかい?」
「ああ。もう一通、手紙を送ってきた」
「そいつは初耳だな。どれどれ……ほー、こりゃ随分と焦ってやがるな。こりゃ傑作だ」
この声って……レオン様とユリウス様、ユリアーナさんの声だよね? それに、祖国の名前も……一体どういうこと?
「ふざけている場合かい!? あたしの可愛いセシリアちゃんに関係することなんだよ!」
「いつからお前の所有物になったんだ? それを言うなら、レオンのもんだろ」
「叔父上、真面目にしてください。これは、両国の今後に関わる問題なのですから」
「別に、今はふざけててもいいだろ。外で盗み聞きしてるゲストを招くまではな」
あっ……き、気づかれちゃった。もっとしっかり話を聞きたかったから、ちょうど良かった。
「失礼します」
「セシリアだったのか」
「ごめんなさい、盗み聞きをするつもりは無かったんです。その、最近レオン様を怒らせちゃったんじゃないかって思って……」
「俺が? どうすればそんな考えになる?」
「怒ってないんですか? 良かったぁ……」
理由を聞く前ではあるけど、とりあえずレオン様を嫌な気持ちにさせたわけじゃないってわかっただけで、ほっと一安心だね。
「まあ、これ以上隠しても仕方がねえし、嬢ちゃんを不安にさせた罰として、ちゃんと話した方が良いんじゃねえか?」
「……そうですね」
やや不満げな雰囲気のレオン様は、一通の手紙を渡しに手渡した。
そこには、プリシアのものと思われる筆跡で、書かれていた。
「つい先日、バルバレイシア王家から手紙が届いた。そこには、大至急聖女セシリアを我が国に返してほしいという旨が書いてあった」
「どういうことですか?」
「ワシらも最近知ったんだがな……実は、嬢ちゃんがいなくなってから、バルバレイシアのあちこちに魔物が出てきてるみたいでな」
魔物? そんなはずはない。だって、あの国には私のほかにも、聖女がもう一人……義妹のプリシアがいる。
「詳しくはわからないけど、これが想像以上に酷いようで、自分達だけでは処理しきれなくなったみたいでねぇ。各国に支援要請をすると同時に、うちにはセシリアちゃんを帰してほしいって要求してきたのさ」
「俺としては、彼らの要求を呑む理由は無い。バルバレイシアとは特に友好国というわけでもないうえに、セシリアを返すことによるメリットも、提示されていなかった」
「……もしかして、レオン様が最近あまり話してくれなかったのって……」
「お前を、この件に巻き込みたくなかった。それだけだ」
「そうだったんですね……心配してくれて、ありがとうございます」
確かに、私がこのことを知っても、あまり良いことはなさそうだもんね……。
「もしも、お前が帰って手を貸したいというのなら、無理に引き止めるつもりは無い」
「レオン坊ちゃま? あんた、正気かい!?」
「俺の一番の願いは、セシリアの幸せだ。だから、セシリアが幸せになりたいというのなら、邪魔する権利は俺には無い」
「レオン様……」
「だが……俺はもう、後悔はしたくない。だから、一度だけ言わせてほしい」
レオン様は、私の前まで歩み寄ると、片膝をつき、手を伸ばした。
「俺は、お前を失いたくない。だから……これからもこの国の聖女として、俺と共にいてほしい」
まっすぐ向けられたレオン様の目から、嘘偽りの感情が一切感じられない。これが、レオン様の本心なんだ。
ずっと認められなかった私が、こうして認められる……それも、子供の頃から大好きだった人に。こんなの、嬉しいに決まっているよ……!
「はい……! これからも、よろしくお願いします!」
私は、差し出された手を、両手でギュッと握りながら、強く頷いて見せた。
「でも……一つだけ、お願いを聞いてもらえませんか?」
「なんだ?」
「私、プリシアに会いたいのです」
「なんだと?」
私のお願いを聞いた三人は、三者三様の驚き方をしていた。
ここにいたいって言っておいて、急にこんなことを言い出したら、驚かれても無理はないよね。
「祖国に帰るつもりはありません。私の居場所は、ここですから。ですが、何度も連絡を寄こしているってことは、今後も諦めずに行動をしてくるかもしれませんよね?」
「可能性は捨てきれねーな」
「私は、ずっと一緒にいたからわかります。プリシアやギルベルト様なら、普通ならやらないようなことも、やってくるでしょう。そうすれば、きっと皆さんにも、ヴァルハザードにも迷惑がかかる……だから、そうなる前に直接会って、断ろうと思います」
「あんたって子はねぇ……! 相手は、ずっと酷いことをしてきた連中なんだろう!? そんな連中と会ったら、それこそ何をされるかわからないんだよ!」
ユリアーナさんは、声を荒げながら、私の両手をギュッと握ってくれた。
……ここで生活する中で、ユリウス様とユリアーナさんには、ちゃんと祖国での境遇は話している。特にユリアーナさんは、私の話に共感してくれている。
「私は大丈夫ですよ、ユリアーナさん。そういうことには、慣れっこですから。それよりも、皆さんの方が大事なんです」
「あんたはそれでいいかもしれないけどね! あたし達からすれば、あんただって大切なんだ! あんたが傷つくかもしれないことを、喜んで受け入れられないんだよ!」
「ユリアーナさん……ありがとうございます」
私は、感謝の言葉を伝えながら、ユリアーナさんに抱きつくと、ちょっと痛いくらいの強さで抱きしめ返してくれた。
「ユリアーナ、心配はいらない。俺が同席して、何があっても必ずセシリアを守る」
「こいつもこう言ってるし、老婆心を丸出しはやめとけ」
「レオン坊ちゃまのことは信用しているけど、心配なものは心配なんだよ! ただでさえ、あたしのせいで、この子に聖女の仕事を押し付けちゃっているのに……!」
「それは違いますよ。私は、私の意思でこの国の聖女として頑張っているんです。だから、ユリアーナさんが自分を責める必要は無いんです」
「あんたって子は……」
私は、感極まって涙が零れるユリアーナさんの涙が止まるまで、そのまま抱きついていた。
――それにしても、またプリシアとギルベルト様に会うことになるだなんてね。
この国のためとはいえ、これからもこの国でレオン様やみんなと幸せに過ごすために、これっきりにしないと!
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