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第三十三話 損な役回り

■レオンハルト視点■ 


 城についたというのに、俺に寄りかかって眠っているセシリアを、起こさないように抱っこをして馬車を出た。


 今日は、散々遊んだからな。きっと疲れているのだろう。早くベッドに寝かせよう。


「おかえりなさいませ。寝室の準備は出来ておりますわ」


「ああ、ありがとう」


 セシリアの部屋でベッドメイクをしていた使用人に礼を述べてから、俺は自室へ帰るとそこには叔父上と、もう一人客がいた。


「ユリアーナ? 随分と珍しいな」


「今日は、レオン坊ちゃまがデートと聞いて、いてもたってもいられなくてねぇ」


「その歳にもなって他所の色恋沙汰に興味あるとか、理解に苦しむ」


「万年枯れてるあんたに言われたくないよ! それで、どうだったんだい?」


「過去のことは話せた。やはり、セシリアは俺の探していた女性だった」


「あらまあ、良かったじゃないの! これなら、気兼ねなくプロポーズをして、正式に結婚が出来るじゃないか! あーめでたい!」


 ユリアーナの言いたい気持ちはわかるんだが……今の俺には……。


「……俺が、セシリアとの約束を守れなかったのは事実だ。そんな俺に、本当の意味でセシリアの夫になる資格など……」


「……はぁ。男の癖に、まだうじうじしてんのかい! あの子が、そんな些細なことを気にすると思っているのかい!?」


「ゆ、ユリアーナ?」


 いつもは、叔父上以外にはとても温厚なユリアーナが、珍しく俺に声を荒げたことに、俺も叔父上も目を丸くさせた。


「一番近くにいる子の気持ちを理解しようとしないで、そうやって情けないことばかり言って! あんたは、あの子のことをしっかり見て、ちゃんと考えたことがあるのかい!?」


「考えたからこそ、俺は……」


「いいや、考えてないね。あんたは、ただあの子に拒絶されるのが怖いだけだ!」


「…………」


「悔しいかい? しょせんはただの平民の出のババアに、こんなことを言われて! なら、一秒でも早くあの子に気持ちを伝えて、あたしを見返すことだね!」


 ユリアーナの言葉は、俺の胸に深く突き刺さった。


 ……ああ、確かに俺はセシリアのことを考えて、俺のような男は相応しくないとか、勝手に決めつけていた。


 それは、俺がセシリアの夫に相応しくないと勝手に決めつけ、勝手に恐れていたからだ。

 なによりも、あいつが俺の言葉を待っていた可能性なんて考えずに……セシリアの気持ちと向き合わず、逃げていたんだ。


「ユリアーナの言う通りだな。俺は、一番想っていたの女性のことが、一番見えていなかった……最低な男だな、俺は……」


「わかりゃいいのさ。今からでも、遅くはないからね」


「そんなお前に、優しい叔父さんが手助けしてやろう。飲めば誰でも惚れる薬を作ってやるから、飲み物に混ぜるといい」


「どうしてあんたは、そういう余計なことしか出来ないんだい!?」


「冗談に決まってんだろ。そうカッカすると、また血圧が上がるぞ」


「あんたがいなければ、血圧の心配はいらないんだけどねぇ!?」


 相変わらずの喧嘩の光景だが、それがなんだか、いつも以上に微笑ましく思えた。


 俺の心の準備が、いつできるかはわからないが、必ずこの気持ちは、セシリアに伝える。もう、逃げることはない。


 ――きっと、そう遠くない未来に、俺が思い描いている未来に近づいているはずだ。



 ****



■ユリウス視点■


「はぁぁぁぁぁ~……」


 不本意ながら、ユリアーナのババアと一緒に部屋を後にしてワシは、自室で一服するつもりだったのだが、何故かババアも一緒に来やがった。


「人の部屋に来て、くつろぐんじゃねえ」


「けちけちすんじゃないよ」


「まったく、感情に任せてペラペラご高説垂れて、ついでにワシの部屋までジャックかよ。せっかくワシが我慢してあいつに気づかせてやるつもりだったのが、台無しだ」


「ふん、あんたの遠回りなやり方は、あたしの好みじゃないんでね」


「何でもかんでも、バカ正直なのもどうかと思うがな」


 相変わらず、ワシ達は水と油というか、綺麗に合うことは稀だな。

 まあ、合ったら……それはそれで気持ち悪い。


「それにしても、お前にしちゃ、随分と珍しい役回りじゃねえか。歴代の聖女が、国王にあんな口の利き方をしたと知ったら、卒倒もんだな」


「ああでも言わなきゃ、レオン坊ちゃまには響かないと思ったんだよ。慣れないことはするもんじゃないねぇ……どっと疲れたよ」


「なら、良いベッドを紹介してやろうか。とても冷たくて、暗くて快眠が出来る。一度入ったら出れないうえに、狭いのが難点だがな」


「あんた、それ棺桶じゃないだろうね!?」


「誰もそんなことは言っていないんだが? そう思うってことは、そろそろ入りたいと思ってるってことか」


「はっ! あんたの顔を見なくて済むようになるのはいいけど、あたしの可愛いセシリアちゃんに会えなくなるから、ごめんだね!」


 どれだけ生きるつもりだよ、妖怪ババア。

 嬢ちゃんが来てから、ババアが若返った気がするのは、気のせいじゃないだろう。研究したら、面白い結果が出そうだが……面倒だからいいか。


「あーあ、どいつこいつも面倒な奴らばかりで、ワシも疲れた。酒でも飲まないとやってられん。おいババア、たまには付き合え」


「はぁ? 冗談じゃないよ。あんたなんかに付き合ったら、体が持たないよ」


「なんだ、逃げるのか? まあ、ワシはそれでも構わないが」


「誰が逃げるだって!? 上等だ、クソガキ! 酔い潰れても後悔しないことだね!」


「寝言は酔い潰れてから聞いてやんよ。ま、いいじゃねえか。あいつらの未来を祝ってやるのも、お節介焼きな大人の仕事だ」


「そこだけは、同意してあげるよ」


 ふんっと鼻を鳴らしながら、ワシはお気に入りのワインを器に注いだ。


「こんな上等なワインを開けるなんて、よほど機嫌が良いのかい?」


「さあな。良いから黙って付き合え。今日は、酒を飲むのにちょうどいい日だ」


「ちょうどいい……? あっ、そうか……今日はあたしの……はっ、いい年してカッコつけても、痛々しいだけさ」


「文句を言うなら返してくれ」


「嫌だね。酒はあまり好きじゃないが、こんな上等なものが飲めるなら、いくらでも飲むさ!」


 ワシの対面に座ったババアは、ワインを注いで香りを楽しんでいた。


「んじゃ……あのガキ共の未来の幸福と、どっかの死にぞこないのババアの誕生日を祝って、乾杯」


「あんたは、嫌味を言わないと死ぬ病気かい?」


「ワシからのプレゼントと思って、受け取っておけ。ごくっごくっ……ふー。こいつは絶品だぜ」


「……ああ、確かにおいしいねぇ」


「ほれ、何か言うことがあるんじゃねえか? ん?」


「ちっ……プレゼント、ありがとねぇ」


「まあ二十点ってところだな。精進しろよ」


「二度とこんなことはしないから、精進もくそもないね!」


 ――結局、終始ワシらはギャーギャーと言い争いをしながら、夜が更けるまで酒を飲み明かした。


 あのババアめ、ずっとワシに愚痴やら文句を言っていたけど……まっ、たまにはガス抜きをさせても、罰は当たらんだろ。


「夜分遅くに失礼します。王家あてに、お手紙が……」


「あ? こんな時間にか? レオンに見せりゃいいんじゃねーか」


「ですが、差出人が……レオンハルト様の前に、あなた様にお見せした方がと思いまして」


 突然入ってきた使用人から渡された手紙を見て、嫌な予感がした。

 その予感は、すぐに的中することになるとはな。


「差出人は……バルバレイシア王家? 嬢ちゃんの故郷ねぇ……これは、面倒なことになりそうだな」


ここまで読んでいただきありがとうございました。


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