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第三十話 久しぶりの森デート

 あれから毎晩、寝ずに考えに考えて――ようやく決めた。

 やっぱり私は、昔みたいにレオン様と楽しく遊んで笑いたい。

 そう思った結果、あの頃みたいに森で遊びたいと思ったの。


 普通の貴族や王族が行くような場所ではないけど、私達にとっては、思い出深い場所だ。 ちなみに、レオン様には、行き先は決めてあるとだけ伝えて、肝心の行き先は内緒にしている。


「おはようございます、レオン様! 今日のお洋服も素敵ですね……!」


「おはよう。お前のも悪くない……じゃなくて、似合っている」


「えへへ……」


「それで、今日はどこに行くんだ? 動きやすい服を着ろと言われていたから、ハイキングか?」


「ついてからのお楽しみです!」


 今日は、珍しく私がレオン様をリードして馬車に乗り、そのまま揺れること一時間。私達は、広大な森へとやってきた。


「森? 散歩でもしたいのか?」


「ほら、ずっと忙しかったですから、自然の中でいっぱい遊びましょうよ!」


 この自然の中で遊べば、あの時みたいに、楽しく笑い合えると思って、今日のお出かけプランを組んだんだ。


「あそこの大きな木まで、競争しましょう!」


「競争……いいだろう。挑まれたからには、セシリアでも手を抜かない」


「私だって負けませんよ! よーい、ドン!」


「ふっ!」


「あ、あれ……?」


 あれだけ森で遊んでいたのに、うまく体が動かない。最近運動をしてないから、衰えちゃった?

 一方のレオン様は、木々が生い茂る道を、スルスルと抜けていき、簡単にゴールについた。


「レオン様、速いですね~! 私、自信あったんだけどなぁ 」


「鍛錬しているからな。負けるわけにはいかない」


「さすがです! でも、次こそ負けないんだから!」


「望むところ……待て。これは、男女のお出かけと言えるのか?」


「お出かけですよ! 何をするかは、人それぞれですし」


「ふむ……なるほど。よし、良いだろう、二回目も俺が勝つ」


 一回走って感覚が戻った私は、そのまま森の中をかけ回る。


 ああ、この草花の香り、土を蹴る感触、耳心地が良い草木の揺れる音……何もかもが懐かしい。


「セシリア、夢中になると危ない」


「これくらい大丈夫ですよ! 私、毎日こんなことをしてたんですから!」


 ――なんて自分を過大評価をしていた時に、事件が起きた。

 なんと、私は倒れている大木の上で、足を滑らせてしまった。


「えっ……きゃぁぁぁぁぁ!!」


 情けなく悲鳴を上げ、目を閉じるしか出来なかったが、何だか様子がおかしい。

 本来なら、固い地面か大木にぶつかるはずなのに、なにか暖かいものに包み込まれていた。


 何があったのか確認すると……目の前に、レオン様の顔があった。どうやら、受け止めてくれたみたいだ。それも、お姫様抱っこで。


「だから言っただろう」


「ご、ごめんなさい……つい、はしゃいじゃいました」


 私ってば、なにやってんの……って、落ち込んでても仕方がない! せっかくのお出かけで、うじうじするなんてありえない!


「助けてくれて、ありがとうございます。そうだ! レオン様、こっちに面白いものがありますよ!」


 向かった先にあるのは、少し勢いがある川だった。

 川でやることなんて、もちろん決まっているよね。


「ふふっ……えーい! えいえい!!」


「そう来ると思っていた」


 なんと、私が水かけをするのを読んでいたレオン様は、魔法で水を受け止めると、それを細かくして、ピチピチと私にぶつけてきた。


「も~、ずるいですよ~! あなたもこっちにきてください!」


「やれやれ。少しだけな」


 レオン様が川に入ったのを見計らって、私は再び水をかける。

 すると、レオン様は今度は魔法を使わずに、私に水をかけてきた。


「きゃっ、つめたーい! 負けませんよー!」


「こちらもだ。いかなることでも、手を抜くことはない」


「その自信、さすがですね~! あはははっ!」


「……ふふっ」


 とにかく水をかけ合っているうちに、二人はびしょ濡れになっていた。


「今日は暖かいから、すぐに乾きそうですね」


「ああ。次は何をする?」


「川と言ったら、魚釣りです! 事前に、竿を用意しておきました!」


 子供の時のように、木の棒で釣ることも考えたけど、あの小川に比べて流れがあるここで、木の棒でやるのは、少し無理があると思うんだよね……。


「釣りか。いいだろう、俺の技術力を見せるいい機会だ」


「あっ、待って……」


 今日用意したエサは、以前も使った虫だ。虫が嫌いなレオン様には、まさに天敵……と思っていたのに。


「くっ……はぁ! つけたぞ!」


「レオン様……虫、触れるんですね」


「……好きではないがな。虫にも触れない王など、威厳のかけらもないだろう」


 へぇ~……! すごい! 虫なんて、見ることすら嫌がってたのに、ちゃんと触って釣り針に差してる! これは、すごい進歩だよ!


「さあ、みていろ! ふっ!」


 元気よく釣りを始めること数分。なんとレオン様は、少し大きめの魚が釣りあげた。


「つ、釣れたぞ! 確実に、前よりも大きいサイズだ! ははっ!」


 レオン様は、珍しく自慢げな顔で、私に魚を見せつけてきた。


 前より…ってことは、レオン様はやっぱりあの日々のことを、覚えているのかな……?


「レオン様、すごいですね! この調子で、私と勝負です!」


「いいだろう! 勝つのは俺だ!」


 レオン様の隣で、静かに釣り糸を垂らしながら、ちらりとレオン様を見る。

 初対面の時のどんよりした目でも、社交界で再会した時の冷たい目でもない……純粋な少年のような、キラキラと輝く目だった。


 さっきから、楽しそうに笑ってくれてるし、なによりも私もすごく楽しい……! ああ、なんて幸せな時間なんだろう。

 叶うならば、永遠にこの時間が終わらないでいてほしい……!


「あっ、来た~! やった~!」


「やるな……だがっ!」


 一匹連れて喜んでいたら、レオン様も続いて魚を釣り上げた。


 子供の時よりも、色々と成長をしているおかげで、結果的に二人で十匹も魚を釣ることが出来た。


「うーん、引き分けですね~」


「そうだな。勝負は、また次だな」


「ですね。あ~、楽しかった! レオン様は、楽しかったですか?」


「悪くは……いや、違う。楽しかった」


「よかった~! レオン様、釣りの時に笑ってましたよね! すごくキラキラしていて、楽しそうに見えて……素敵でした」


「そうだな。あの時も楽しかったが……今も、楽しい」


「レオン様……」


 これは、絶対に覚えている。聞いてみるべきなのかな……なんとなく、レオン様も察してほしいって言っているような感じもする……気のせいかな?


「あの……変なことを聞くのですが……前も、私とこうして遊んだことはありませんか?」


「…………」


「ううん、もっと単刀直入に聞きます。あなたは、ハルくんですか?」


「…………」


 沈黙するレオン様を見つめていると、暖かい風が頬を撫で、私の後押しをしてくれた。


「……ハルくん、私……ずっと会いたかったんだよ」


「……ああ、俺もだ。リア」


「っ……!!」


 やっぱり……やっぱりそうだったんだ! レオン様は、ハルくんだったんだ!


「すまなかった!!」


「えっ……?」


 突然頭を下げたレオン様に、思わず面喰らってしまった。


「俺は、約束を守れなかった。お前を二年後に迎えに行ったが、もうそこは……」


 二年……その時には、もう私は森から連れ出されているころだ。


「それは、変な人達が来て……」


「それを作ってしまったのも、俺なんだ! 俺が、身内にお前のことをペラペラ話してしまったのが原因なんだ……!」


 レオン様は、深い悲しみと後悔を感じさせながら、私を迎えに行けなかった理由を話してくれた。


「本当に、俺は愚かだ。お前を守れなかったことを、ずっと後悔していた! それに引け目と感じて、言い出すこともできず……本当に、申し訳ない! 俺が、お前の幸せを――」


「それは違いますよ。私の家は壊されて、長い間虐げられ、認められなかった……でもね、レオン様。私は……また、あなたに会えた」


「っ……!!」


「約束を覚え続けてくれて、迎えに来てくれた。おかげで、私は毎日笑顔で、幸せに過ごせています。本当に……ありがとう」


「……っ!!」


 目を大きく見開いたレオン様は、そのまま背中を向けると、腕でごしごしと目元を拭った


「ずっと待ってたよ、ハルくん」


「……ああ……待たせてしまって、すまなかったな……待っててくれて、ありがとう、リア」


 私は、少し腫れぼったくなったレオン様の目を見ながら、そっと頬を撫でる。

 すると、レオン様は何かを噛みしめるような表情を浮かべながら、私を抱きしめてくれた。


 ……あれ、これってすごい告白チャンスなんじゃ!?

 でも、いくら昔のことを覚えていたからって、異性として好きって思ってくれているかは、別問題だし……う、うぅ~~~~……。


「リア、俺は……」


「レオン様……?」


 レオン様は、何かを言いかけたはずなのに、どこか言いにくそうで……。


「…………いや、なんでもない」


 ――結局、言葉を飲み込んでしまった。


「さあ、せっかくの魚が傷む前に、食べてしまおう」


「あっ……」


 考えているうちに、最高のタイミングを逃してしまった……。


 で、でも! これが最後のチャンスってわけじゃないよね!

 次こそ、オドオドしてないで、しっかりアタックして、好きになってもらって……告白して……誰よりも幸せな日々を、レオン様と一緒に……!


 ……それにしても、レオン様……どうしたんだろう? 何か話でもあったんじゃ……?


 気になるけど……うん! わからないことは、わからないってことにしておいて、後で聞けそうなら聞く! これでいこう!


 楽観的かもしれないけど、せっかくのお出かけが台無しになっちゃうのは嫌だからね。


 なによりも……私が気になりすぎちゃって、お出かけを楽しめなくなっちゃいそうだから。そんなのもったいないでしょ?

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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