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第二十九話 本当にやりたいこと

「はぁぁぁぁぁぁ……」


 自室の机に突っ伏しながら、盛大に溜息を漏らした。


 ――あれからも、私は作戦通りに、さりげなくボディタッチをしたり、手を握ってみたり、腕に抱きついたりしたけど、どれも効果が無い。

 それどころか、最近レオン様が、そっけないような気がする。


 それに、なによりも……。


「ドキドキしすぎて、身が持たないよぉ……」


 これでも、作戦の中から、初心者向けかなって思える行動を選んでおいて、この体たらく……道のりは、あまりにも遠くて険しい。


 でも、長くても着実に進めば、きっと到着できるはず! この前の失敗を反省して、今回こそ!


 ――そんなことを思っていると、私の部屋にユリアーナさんがやってきた。


「セシリアちゃん、ここにいたんだね」


「ユリアーナさん? どうかしたんですか?」


「今日は、お茶をする約束だっただろう? なのに、待ってても来ないから、様子を見に来たのさ」


「……あっ!」


 しまった、レオン様のことばかり考えていて、ユリアーナさんとの約束が、完全に頭から抜けていた!


「ご、ごめんなさい! すぐに準備しますので!」


「いいからいいから。焦らないで、ゆっくりでいいんだよ」


 その気持ちは嬉しいけど、ユリアーナさんの時間を奪ってしまったことは事実だ。その時間を少しでも返すためにも、急がないと!


「これでよしっと……お待たせしました!」


「全然待ってないから、大丈夫だよ。さあ、行こうか」


 ニコニコと笑うユリアーナさんと向かった場所は、お城の中にある彼女の小さな部屋だ。


 ユリアーナさんの部屋は、彼女が趣味で育てているお花が沢山あって、とても素敵な場所だ。

 だから、一度ここでお茶をしてからは、ここにお邪魔してお茶を飲むようになったの。


「今日は、あんたが好きなビスケットを用意したよ」


「わぁ! 嬉しいです!」


 ユリアーナさんは、いつも通りテキパキと用意をして、とても良い香りがする紅茶を擁してくれた。


「ありがとうございます。ふぅ……おいしい」


「それはよかった。もっと飲んでいいんだよ」


「はい、ありがとうございます」


 ユリアーナさんのおいしいお茶を飲んでいると、悩み事なんてどこかに飛んでいっちゃいそう……。


 ……あっ、そうだ! ユリアーナさんは人生の大先輩なんだから、私の悩みを解決できるアドバイスをくれるかもしれない!


「ユリアーナさん、相談したいことがあるんです」


「なんだい、改まって」


「えっと……これは、パーティーで会った人の話なのですが……とある男性に恋をしちゃったんです。でも、相手が自分のことを好きかどうかはわからないから、色々アタックをして、好きになってもらおうとしてるんです。でも、うまくいかないようで……何かいい案はありませんか?」


「おや……おやまあ……!」


 なんだか、すごく嬉しそうに頷いているのが気になる。私、ユリアーナさんを喜ばせることを言ったかな?

 自分のことだと知られると恥ずかしいから、咄嗟に人のことにしちゃったのに……。


「ごほん。そうさねぇ……変に頭を使わないで、素直にいくのが一番だと思うよ」


「素直……」


「たとえば、このお茶。あんたは、素直においしいって言ってくれて、あたしは嬉しかったんだ。でも、もし変な比喩表現……味の深さは海よりも深いとか、そんなことを言われても、ピンとこなくて嬉しさが半減してしまう」


「なるほど……なんとなく、わかる気がします」


 私も、社交界に来るような人達が好んで使う、遠回しな言い方よりも、素直にお礼を言われたり、褒められた方が嬉しい。


「あなたのことが好きとか、あなたとこういうことがしたいって言えば、そのお相手はきっと喜ぶと思うよ」


「したいこと……」


 それはもちろん、レオン様と恋人になりたい。

 ……でも、本当にそれだけなの? 恋人になったら、それで終わり?


「……違う……私は……一緒に過ごして、一緒に笑いたい……」


 お茶を飲みながら考えていたら、自然と出てきた言葉に、私はハッとする。


 確かに、レオン様と恋人になりたいのは、間違ってはない。

 でも、気持ちの土台にあるのは……あの時のように、大好きなレオン様と一緒に笑って、キラキラと輝く幸せな時間を、一緒に過ごしたい。


「そうだよ……これが、私の一番大切な気持ち……! ありがとうございます。私、大切なことに気がつけました!」


「そうかいそうかい。その気持ちを伝えれば、きっとうまくいくさ」


「はいっ!」


 幼い頃のレオン様は、あの時間は嫌いじゃないと言っていた。

 それなら、またあの楽しくて幸せな時間を過ごせば、レオン様も私と同じ気持ちを持ってくれるかもしれない! そのために、素直にお出かけしたいって伝えないと!


「そのお友達が、うまくいくといいねぇ」


「えっ? お友達……あっ……! そ、そうですね~! きっと、うまくいきますよ~! あ、あはは~……」


 誤魔化すためについた嘘のことを、すっかり忘れてたよ……危なかった……。


「もう相談はないのかい?」


「大丈夫です!」


「ならよかった。そうだ、他にもたくさんお菓子を用意しているんだよ。せっかくだから、食べていきな」


「えっ……えぇっ!?」


 ユリアーナさんは、クッキーやチョコレート、ケーキにタルトと、一体どこにしまっていたのかと疑問に思うくらい、次々とお菓子を並べていった。


「あの、これは多すぎる気が……」


「いいんだよ。今日は、あんたとたくさんお菓子を食べたい気分なのさ。ふふっ……」


「そうなんですか? でも、こんなに食べたら、太っちゃうかも……」


「あんたは痩せすぎなくらいなんだから、気にしなくていいんだよ。それに、これくらいなら、ペロッと食べれるだろう?」


 それは……うん、否定できない。太るとか考えなければ、あと十倍は余裕で食べられると思う。


「いいから、ほら」


「わかりました。あむっ……おいしぃ~!」


 ケーキを一口食べて、その甘さに幸せを感じた私は、たくさんのお茶とお菓子を堪能して、とっても幸せな気持ちを味わった――



 ****



 ユリアーナさんとのお茶が終わった私は、さっそくレオン様をデートに誘うために動き始めたのだけど……。


「こんな時に限って、レオン様に会えないなんて……」


 今日は特別忙しいのか、既に何回も入れ違いが起きている。

 レオン様の部屋、会議室、医務室、訓練場にユリウス様の研究室と、多くの場所を回っている。


「はぁ、ちょっぴり疲れちゃったかも……」


 お城の中はとても広いし、階数もあるから、別の場所に行き来するのは、それなりに大変だ。

 既に少し息が上がってるし、汗もかいちゃってる。私、汗臭くないよね……?


「ふぅ、やっとついた。レオン様、いますか?」


 色々な場所を巡り、最初に訪れたレオン様の部屋に戻ってきた私は、部屋の扉をノックすると、中から返事があった。


「レオン様! よかった、やっと見つけた……」


「セシリア? どうした、そんな汗をかいて」


「色々、行き違いが重なってしまって……」


「それは悪かったな。ジッとしていろ」


「だ、大丈夫です! 自分でできますから!」


「……そうか」


 せっかく、レオン様がハンカチで私の汗を拭ってくれようとしたけど、そんなことをされたら、ドキドキしすぎて、体が持たない。危なかった……。


「それで、なにか急用か?」


「急というわけではないんですけど……お願いがあるんです!」


 一緒にお出かけがしたい――そう伝えるだけなのに、いざそれを伝えようとしたら、顔が凄く熱くて、ドキドキが更に酷くなった。


 お、落ち着いて。ちゃんと、私の気持ちを伝えれば、きっとうまくいくはず……頑張れ、私!


「わ、わわ、私と……お、お、おで……!」


「……?」


「うぅ~……私と! お出かけしませんか!?」


「…………」


 目をギュッと瞑り、握り拳を作りながらも、私の正直な気持ちをレオン様に伝えたが、レオン様からの返事は、返ってこない。


 もしかして、困らせちゃったのかな……そう思いながら、恐る恐る目を開けてレオン様を見ると、なぜか固まっていた。


「れ、レオン様?」


「…………」


 レオン様は、何も言わずに私の傍から離れ、窓から外の景色を眺め始めた。


「ほ、ほら! 最近は、聖女の結界のおかげで、魔物の被害がだいぶ減って、レオン様のお仕事も減ってきているじゃないですか! だから、息抜きにも丁度良いかなって!」


「…………」


「ダメ、ですか……?」


「……俺は……」


「……そうですよね、急に言われても困りますよね。ごめんなさい……」


 愛のない政略結婚を約束した相手に、おでかけしたい言われても、困るよね。あはは、私って……本当にバカだなぁ。


 で、でもでも! 今回は失敗しちゃったけど、次誘ったら、快く受け入れてくれる可能性はあるよね! うん、諦めずに前向きに頑張れば――


「……ダメ、ではない」


「そうですよね、ダメに決まって……えっ!?」


「…………」


「私、あなたと一緒に過ごしたいんですっ!! お願いしますっ!!」


 こちらに背中を向けたままのレオン様に、私は頭が飛んでいっちゃうんじゃないかって勢いで、頭を下げた。


「……わかった。一日開けるには、予定の調整が必要だから、少し待っていろ」


 レオン様は、私を見ないままそう告げると、足早に部屋を出ていった。


「うっ……うぅぅぅ~~~~!!」


 やった、やった~~~!! レオン様と、お仕事とか抜きで、初めて一日お出かけが出来る! もう、嬉しすぎて体が勝手に動いちゃうよ~!


「どうしよう、どこに行こうかな! 町にお出かけ? 食事も捨てがたい……!」


 色々なことがしたくて、一つに絞り切れない。

 ただ、これだけは言える。レオン様と一緒だったら、それだけできっと楽しくて、かけがえのない時間になるって!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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