表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/49

第二十八話 最善とは……?

「れ、レオン様! お疲れ様です!」


「セシリア。情けないところを見られてしまったな」


 ドキドキしながら声をかけると、レオン様は少しバツが悪そうに、目を逸らした。


「そんなことはないです!す、すごくカッコよかったです!」


「…………そうか。それで、どうしてここに? ここは、お前が来るような場所ではない」


「あの、えっと……その……こ、ここにレオン様がいるって聞いて! それで、会いたくて……じゃなくて! 差し入れをしようと思いまして!」


 自分でも呆れてしまうくらい焦りながら、持っていたものを差しだそうとすると、既にレオン様の手には、タオルと水筒があった。


「あ、あれ……も、持ってる……?」


「…………」


「そ、そうですよね! レオン様はしっかりしているんですから、鍛錬の時にタオルと水筒を忘れるわけないですよね! も、も~! 私って、本当にバカで嫌になっちゃいますよ!」


 本当に……私ってバカだ。これくらい、ちょっと考えればわかるはずなのに。先走って、ちゃんと考えなかった結果がこれだ。


「ごめんなさい、お邪魔しました……」


「待て」


 半ば逃げるようにその場を去ろうとした私の肩に、レオン様の手が乗った。


「それを寄こせ」


「えっ、でも……」


「兵士の指導は過酷だ。タオルや水は、いくらあっても困らない」


 私の持っていたものを、ほんの少し強引に持っていったレオン様は、水筒の水を一気に飲み干した。


「もう、そういうところ……ずるいです」


「何か言ったか?」


「いいえ。あの、私が体を拭いてもいいですか?」


「なっ……? 急にどうしたんだ?」


「えっと……ほら、レオン様がさっき、指導は過酷だって言ってましたよね! 少しでも休んでほしくて……!」


 ラブラブだった両親のしていたことの一つ。それは、狩りから帰ってきて汗だくのお父さんの体を、お母さんが拭いていたことだ。


 レオン様の体に触れるのは、以前手当のお手伝いをした時もあったとはいえ、正直すごく緊張する。


「ほら! ここに座ってください! よいしょ、よいしょ……」


「セシリア、こんなことはしなくていい。お前は、俺の都合の良い道具じゃない。だから、こんなことはする必要はない」


「レオン様……」


「だが、その気持ちだけは、ありがたく受け取っておく」


「…………」


「……悪いが、急用を思い出した。各自、ここからは今から言う鍛錬を行うように」


 レオン様は、各自に指示を出すと、そそくさとお城の方へと行ってしまった。


 ――本当に、急用だったのかな? もしかして、私が変なことをするから、怒っちゃったんじゃ……。


「あの、その……皆さん、鍛錬のお邪魔をして、ごめんなさい……」


「いえいえ、お気になさらず! 我々は、誰も邪魔だとは思っておりません!」


「きっと、レオンハルト様は照れ隠しで逃げてしまわれたのでしょうね」


 照れ隠し? あのレオン様が? 本当にそうなのかな……? 私が、余計なことをしただけじゃないかな?


「ダメダメ、弱気になっちゃ。前向きに頑張らないと」


 今回はうまくいかなかったけど、次こそうまくやって、レオン様に好きになってもらおう!



 ****



■レオンハルト視点■


 早足で自室に帰ってきた俺は、急いで部屋の鍵をかけると、その場に座り込んだ。


「い、一体何を考えているんだ……急に触れてくるなんて……危うく、我慢できなくなるところだった……」


 心の準備もなく、セシリアに体に触れられたせいで、心臓がバクバクいっている。


「そもそも、どうしてセシリアが訓練場にまで来て、差し入れを持ってきたんだ? 今まで、そんなことはなかったのに……」


 セシリアが来てくれたのは、正直嬉しかったが、動揺して情けない失態をしたのは、あまりいただけない。


「恥ずかしいけど~、もっと愛するセシリアちゃんに~、たくさん触れてもらいたいな~……なんて思う、普段クールだが、実は初心なところもある、レオンハルト君なのだった。ちゃんちゃん」


「うおっ!?」


 俺しかいないはずの部屋に声が聞こえてきて、思わず剣を鞘から抜いてしまった。


「おいおい、随分と物騒だな」


「お、叔父上!? いつの間に俺の部屋に!?」


「最初からいたわ。面白い試薬が出来たから、自慢しに来たんだよ。んで、お前がいないから、休憩がてら一服していたところ、お前が帰ってきた」


 ……これは、気づかなかった自分を責めるべきなのか? それとも、勝手に部屋に来て一服するなと、怒るべきなのか?


「お前、暇だろ? 少し付き合え」


「暇というわけではないのだが……」


「あ? 聞こえねーな。ワシの一服に付き合え」


「暇ではない」


「あ?」


「……はぁ、わかった」


 これ以上断っても無駄だと悟った俺は、叔父上の対面に腰を下ろした。


「ふーっ……色恋沙汰で悩む若者を前での一服ってのは、格別なもんだ」


「付き合わされる俺は、いい迷惑だ」


「毎日身を粉にして働いてる、偉大な叔父さんを労わるのも、甥っ子の役目だろ。ていうか、お前はなにをくだらないことで悩んでんだ」


「くだらない?」


「そりゃそうだろ。惚れた女から触られるなんて、男からしたら小躍りする出来事だろ」


「…………」


 叔父上の言葉は、あながち間違ってはいないのだが……俺は、素直に首を縦には振れなかった。


「……この前も思ったけどよ。お前、まだ後悔して、引け目に感じてるのか?」


「ああ……あの時、無理にでもセシリアを連れ出して、婚約者として迎え入れていれば……きっと、彼女の人生は変わっていた」


「そうかもしれんが、ちゃんと考えがあっての行動だったんだろ?」


 叔父上の問いに、今度は頷いて見せた。


 あの時、俺は一人ぼっちのセシリアを連れていきたかった。父も母も、俺が認めたことなら連れてこいと、許してくださった。


 ――しかし、俺はそれをしなかった。いや、出来なかった。


 俺と婚約をするということは、必然的に社交界と関わることになる。

 社交界というのは、各々の陰謀が渦巻く、薄汚れた場所だ。弱いものは利用され、淘汰される。

 そんな場所に、純粋で幼いセシリアを連れていき、守ってやれるほどの力と決意が、俺には無かったんだ。


「結果的に、俺の選択は失敗だった」


「そりゃ結果論だろ。当時のお前にも、同じことを言ったんだがなぁ。あれだけへこんでたら、そんな声なんて聞こえるわけねーか」


「…………」


 ――今思い出しても、胸の奥が締め付けられる。


 その過去とは、セシリアと別れてから、二年後のことだ。

 俺は、セシリアを迎えても大丈夫だと思って、再びセシリアに会いに行ったんだ。

 そこで、俺の本当の名と、気持ちを伝えるつもりだった。


 だが……俺を出迎えたのは、人為的に破壊された痕跡がある小屋だけで、セシリアの姿は無かった。


 すぐに知ったことなのだが、俺がセシリアのことを話しているのを聞いた商人が、ルミナリア家に情報を売った結果、セシリアはルミナリア家に連れていかれてしまったんだ。


 それを知った俺は、自分の判断と浅はかさを悔いた。あれだけ頑張ってきた勉強も鍛錬も、何も手につかなくなった。


 そんな愚かな俺に……神からの罰が下った。


 セシリアのことを知ってから間もなく、俺の両親は事故によって、帰らぬ人となってしまい……俺は、人生で一番のどん底に落ちた。


「その節は、迷惑をかけた。それに、叔父上には、本当に感謝している。俺がこうして肩の力を抜けるようにしてくれたうえに、俺が即位するまで、摂政までしてくれて」


「お前に礼を言われたくてしたんじゃねえ。あのまま放っておくのは、格好悪い大人がするもんだと思っただけだ。それに……あのまま玉座が空いていたら、面倒事を起こすバカもいたからな」


「叔父上……」


「まあ、おかげでこうして、お前から多額の支援を受けて、研究が出来てっから、それでチャラだ。面倒な仕事を押し付けてこなけりゃ、なお良いんだがな」


「それは、難しい話だな。叔父上の魔法薬には、大変世話になっている」


「けっ! やってらんねーぜ。なんでこんなに想ってるのに、連れてこない方が幸せだったなんて、バカみたいなことをほざくガキのお守りをせにゃならんのだ」


「そ、それはだな……俺は彼女と一緒にいたいが、それ以上に彼女の幸せを願っているからであって……」


「そこで、俺以上に幸せにできる人間はいないって言えないのが、まだまだなんだよな。はぁ、最近は、魔法薬のことを教えろってうるさいのも増えたし、どいつもこいつも迷惑だ」


 口では悪態をついておきながら、その口角は僅かに上がっているように見えるのは、恐らく気のせいでは無いだろう。


「んで、結局お前は告白しないで、このまま現状維持を続けんのか?」


「……一緒に連れて行けないどころか、約束を破った俺のことなんて、愛してくれるはずが無いからな」


 愛してくれないだけなら、まだいい。その話を知って、嫌われてしまうのが……なにより怖い。


 まったく、王として強くなければいけないというのに……自分が情けない。


「それに、あれは遠い過去の話だ。セシリアが覚えていない可能性もある」


「はぁ、思春期ってのは面倒なもんだ」


「俺はもう二十歳だから、思春期は終わっている」


「んじゃ、遅れてきた思春期か? ついでに、思春期特有の、甘酸っぱい恋愛のおまけつきか」


「…………」


「……まあ、勝手にしろ。ワシがどうこう言う問題じゃねえしな」


 その言葉を最後に、叔父上は部屋を出ていった。


 叔父上の言葉は、理解できる。でも……どうしても一歩が踏み出せない。


「……セシリアの笑顔と幸せを守れている今を貫くのが、きっと最善だ……」


 俺の情けない独り言が、自室に虚しく響く。


 そう、これが最善……いや、本当に最善なのか?

 嫌われるのを覚悟して、あの時はすまなかったと謝って、セシリアの気持ちを考えずに、告白をするのが最善なのか?

 永遠に隠し続けて、今の生活を守り続けるのが最善なのか?


 ――いくら考えても、結局答えは出ないまま、時だけが過ぎていった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


読んでいただいた方々に、お願いがございます。5秒もかからないので、ぜひ☆による評価、ブックマークをよろしくお願いします!!!!


ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタッチすることで出来ます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ