第二十七話 好きになってもらうために!
レオン様の木刀を、元あった場所に戻した後、どこか上の空でお手伝いを終わらせて、自室に戻ってきた私は、ベッドに顔から倒れこんだ。
「……どうしよう……」
私は、レオン様のことが好きだ。その気持ちは、あの木刀を見つけた影響で、より強いものになっていた。
でも、私とレオン様の関係は、政略結婚。そこに愛なんて、必要の無いものだ。
「政略結婚なんて……無くなっちゃえばいいのに。ううん……全部無くなって、私だけを見てほしい……えっ?」
何気なく出た言葉に、胸の奥がキュッとなった。
私……なんてことを言っているの? そんなの、レオン様の気持ちも、覚悟も全て無視をした発言だ。
「私、ダメダメすぎる……自分の気持ちに任せて、なんてことを……」
聖女としてだけじゃない。人として、あまりにもダメダメだ……うぅ、自己嫌悪に陥りそう。
「……政略結婚……そういえば、どうしてレオン様は、私と政略結婚を結んだんだろう?」
レオン様が、昔のことを覚えているなら、素直に迎えに来たと言えば、それで済む話だよね?
でも、レオン様は一度も昔の話は持ち出していないし、友達って雰囲気も出していないし……。
もしも、実は私のことは覚えていなくて、木刀もただ取っといてあるだけで……あのパーティーで婚約破棄をしたのを見て、聖女を手に入れるために、とりあえず政略結婚を結んだ可能性もあるけど……。
「……それは、やだな……」
また、私の気持ちがそのまま口に出てしまった。
でも、これは紛れもない、私の素直な気持ち。だって、忘れられてたら悲しいし、あのキラキラ輝く毎日が、無かったことにされるみたいで……すごく怖いの。
「……そもそも、私がレオン様のことが好きだからって、レオン様がそうとは限らないよね?」
あくまで、当時の私とレオン様の関係は、ただの友達……だったと思う。
その気持ちが続いているのだとしたら、レオン様にこの気持ちを伝えたところで、困らせてしまうだけだ。
「なら、レオン様に、私のことを恋愛対象として見てもらえるようにすればいいんじゃ?」
そうだ……そうだよ! こうするのが、一番手っ取り早いよ! うじうじ悩むよりも、行動あるのみだよね!
ただ……昔のことは、やっぱり触れない方が良いよね。
私の仮説が合っていて、レオン様が本当に忘れてしまっていたら、すごく悲しいのもあるけど、そんな昔のことを言われても……って感じで、迷惑をかけちゃうかもしれないし。
「よーし、それじゃあさっそく……って、どうすればいいんだろう……?」
何の自慢にもならないけど、私は恋愛経験が皆無だ。そんな私が、いきなりレオン様に好きになってもらう! というのは、少々無謀かもしれない。
「うーん、うーん……」
無謀だからと諦めず、色々考えていると、一つのアイディアが思いついた。
「そうだよ! わからないなら、凄い人達を、参考にすればいいんだ!」
私の言う凄い人……それは、私の両親のことだ。
実は、私の両親は、超がつくほどの、ラブラブ夫婦だったの!
二人がしていたことを私がやれば、レオン様に少しでもそういう目で見てもらえるはず! 我ながら、ナイスアイディアだね!
「たしか、二人がしてきたことって……うわぁ……」
記憶を辿って、二人がしてきたことを箇条書きにしてみたのだけど……なにこれ、すごい。
当時は、仲良し! ラブラブ! って無邪気に思うだけだったけど、改めて見ると……。
こんなのを、頻繁にしていたなんて……さすがに、イチャイチャしすぎじゃないかな?
「こ、これを私がやるの……? 考えただけで、顔から火が出そう……でも、きっと間違いはないだろうし……よ、よしっ! とりあえず、まずはレオン様を探して、私でも出来そうな作戦から実行だ! おー!」
元気よく掛け声をかけてから、私は部屋を飛び出して、レオン様の居場所を探す。
何をするにも、まずは本人がいなければ、始まらないからね。
「うぅ、会う前からドキドキしてる……こんなで、大丈夫なのかな?」
一度立ち止まって深呼吸をしてから、再び探し出すと、使用人からレオン様の居場所を聞き出すことに成功した。
どうやら、この時間は兵士への指導を行っているらしい。
「そうだ! せっかくだから、レオン様に差し入れを持っていこう! 喜んでくれるかなぁ……」
私は一度部屋に戻って、フカフカのタオルと、飲み水が入った水筒を持ってから、レオン様の元に向かった。
「えっと……あっ、いた!」
お城のすぐ近くにある、兵士の訓練場に向かうと、兵士の人と剣をぶつけ合う、レオン様の姿があった。
「レオン様……かっこいいなぁ……!」
無駄のない剣捌き、鍛え抜かれた体、飛び散る汗……そのどれもが、とても美しく見えるのは、いわゆる、恋は盲目ってやつ?
……とはいえ、盲目の私でも、わかるものはある。
「あの傷……」
例の一件で負った火傷は良くなったけど、他の傷跡が消えたわけじゃない。
切り傷、火傷、引き裂かれた後……噛みつかれたかのような跡もある。
レオン様は、一体どれだけの鍛錬を積み、どれだけ身を挺して民を守ってきたんだろう。考えるだけで、涙が溢れそうになる。
「ダメダメ。これから、好きになってもらうのに、泣いてるなんて変だよ……念の為、笑顔の練習をしておこう」
見つからないように隠れた私は、顔をムニュムニュとほぐしてから、何度か笑顔を作ってみた。
……ここに来てから、自然と笑えているはずなのに、いざ意識をしてみると、難しく感じる。
「う~……ここで考えていても、仕方がない。やらないで後悔するよりも、やって後悔した方が良いよね」
ついに意を決した私は、レオン様の元へと向かうと、すぐに私に気が付いてくれた。
それから間もなく、レオン様が振っていた木刀が、すぽんっと手から抜けて飛んでいってしまった。
「あっ……危ない……!」
持っていた武器が無くなった隙を突くように、相手の兵士の木刀が襲いかかるが、レオン様は回し蹴りを相手の手に命中させた。
その衝撃で、相手の木刀を叩き落としたレオン様は、それを拾って相手の首筋に当てた。
「俺の隙を突く観察力、その一瞬を見逃さない判断力は見事だ。だが、まだ詰めが甘い。もっと精進するように」
「はっ! お手合わせ、ありがとうございました!」
「ああ。よし、十分の休憩を入れる。各自、水分補給を忘れないように」
あっ……ちょうど休憩に入った! 今なら、レオン様に差し入れをする、絶好のチャンスだ! 緊張でドキドキしているけど……大丈夫! 頑張れ、私!
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