第二十二話 この気持ちの正体
「素敵な場所ですね~! 夕日に照らされるお城と王都が、とても美しいです!」
「そうだな」
レオン様は、景色を眺めながら腰を下ろす。私も、その隣に寄り添うように、静かに腰を下ろした。
「子供の頃から、ここからの景色が好きでな。一人になりたい時や、考え事をする時に、良く訪れている」
「そうなんですね。その気持ち、私もわかります。それくらい、ここの景色は素敵ですから」
「……この美しい国は、何代もの先祖が作り上げてきた、尊いものだ。そして、共に国を作り上げてきた民も、皆とても優しくて慈悲深い……俺には、どれももったいないものだ」
「もったいない? どうしてそんなことを言うんですか?」
レオン様の発言が少し納得がいかなくて、言い方が少し強めになってしまったが、そのまま続ける。
「レオン様が頑張っているから、この美しい景色も、優しい人達も、無事に明日を迎えられているんですよ?」
「……それは、俺一人の力ではない」
「それはそうだと思います。ユリウス様、ユリアーナさん、兵士の人達に使用人……他にも多くの人がいなければ、この結果は無いと思います。でも……それって、レオン様のまっすぐな気持ちがあるから、みんなついてきたんじゃないでしょうか?」
「っ……!」
「昔、お母さんがよく言っていました。真面目に頑張っていれば、きっと良いことがあるって! だから、これはレオン様へのご褒美なんですよ!」
つらかったころの私も、明日こそ良いことがあるって、自分を鼓舞していた。
結果的に、私は一度心が折れてしまったけど……頑張り続けたから、こうしてレオン様に出会い、幸せな生活を送ることが出来ているって思うんだ。
「ご褒美、か……それは、良い考え方だな」
「ですよね! なにごとも前向きに頑張るんです! これからも頑張りますから、一緒に頑張りましょう!」
「前向き、か」
「レオン様?」
まっすぐ、一点の曇りもない目で私を見つめるレオン様。その美しさに、自然と胸が高鳴った。
「……俺は……お前が……」
レオン様は、何かを言おうと口を開くが、なぜかそれをためらっていた。
「いや……なんでもない」
「レオン様……? もしかして、なにか他に、悩みでもあるんですか?」
「違う。これは俺の問題だから、お前には関係ない……いや、違うな」
レオン様は、なにか深く考え込んでから、再び口を開いた。
「この言い方は違う。また、セシリアの優しさに甘えるだけだ……」
「えっと、レオン様?」
急に独り言を言い始めたけど、どうしたんだろう? 小声で聞き取れないけど……そんなに思い悩むほど、大変なことなんじゃ!?
「……この問題は、誰かに答えを求めるようなものではない。だから、お前の力を借りることはできない」
「そうですか……残念です」
「だが、いつか……お前の言葉を聞く時が来たら、その時は協力してくれ」
「はい、もちろんです!」
「それと……なんていうか……」
またしても話すのをためらうレオン様。ただ、さっきと違って、今回は少し恥ずかしそうな感じがして、ちょっぴり可愛い。
「お前の気持ちは……嬉しかった。ありがとう」
「そ、そんな……お礼を言われるようなことじゃ……え、えへへ」
レオン様にしては、珍しく素直な感謝の言葉に、私まで恥ずかしくなってきちゃった。
でも……すっごく嬉しい! 自然と、笑顔になっちゃうよ!
「あっ、そうだ! レオン様、少し待っててください!」
「ああ」
私は、レオン様から少し離れると、近くにあったお花を少しいただいて、可愛らしい花冠を作った。
「レオン様、よかったらこれ、受け取ってください」
「これは?」
「私からの、感謝の気持ちです。たくさんの人に愛されている、優しいあなたには、この冠が似合うと思って!」
「…………」
「あっ……嫌でしたか?」
「そんなことはない。ありがとう」
私は、少しだけ頭を下げるレオン様の頭に、出来立てほやほやの花冠を乗せてあげた。
うん、豪華な王様の冠も似合うと思うけど、この可愛らしい冠もよく似合っている!
「……やはり、俺の目に狂いはなかった。選択は、間違っていなかったんだ」
「選択?」
「お前を選んだことだ」
「えへっ、ありがとうございます。そう言ってもらえるくらいには、聖女としてしっかりお務めが出来ているということですね」
「違う」
「えっ……?」
否定された瞬間、一気に血の気が引いていく感覚を覚えた。
私が出来ていると思っているだけで、聖女として役に立てていないの!? そんな……。
「ご、ごめんなさい……私、もっともっと頑張りますから……わ、私……」
「そういう意味じゃない。俺が言いたかったのは、セシリアという人間を選んだことだ。そこに、聖女は関係ない」
「えっ……? どういうことですか?」
「誰よりも優しく、人の気持ちに寄り添え、分け隔てなく誰とでも接することが出来る、優しい心を持ったお前を選んだことだ」
「……そんな、私なんて……」
「なぜ自分を卑下する?」
「それは……」
「俺は、お前のことを認めている。だから、お前が自分を卑下するのは、俺に対する否定と侮辱だ」
「…………」
「……いや、なんだ……言い方が悪かった。お前の力は、誇るべきものだから、自分を卑下するな。そんなことをされたら……俺は悲しい」
「レオン様……」
今までずっと、私がどれだけ頑張っても、決して認められることはなかった。
だからかな……レオン様のまっすぐな気持ちが嬉しくて、静かに涙が零れた。
「急にどうした? 今の良い方でも、気に入らなかったか? くっ……人に気持ちを伝えるのが、こんなに難しいものだったとは……」
「違うんです。私……頑張っても、認めてもらえなかったから……レオン様の言葉が、嬉しくて……」
「そうか。本当に、ルミナリア家も、他の貴族も、ろくでもない連中だったんだな」
レオン様は、少し乱暴ではあったけど、指で私の涙を拭いながら、まっすぐ私を見つめた。
「俺は、これからも国と民のために働き続ける。そのために、お前が必要なんだ。だから……俺と一緒にいてくれ」
「っ……!!」
夕日に照らされながら、手を差し出すその姿は、神々しさを覚えると同時に……あまりにも魅力的で、胸のドキドキが治まらなくなっていた。
この気持ちには、覚えがある。幼いあの頃、ずっと支えにしていた約束をした、あの男の子に感じたものと、同じもの。
――ああ、そうか。
私は……レオン様のことが、本気で好きになったんだ。
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