第二十一話 モテモテ? セシリア
「ふぅ、ごちそうさまでした!」
今日も、栄養たっぷりのおいしいごはんをいただいた私は、元気いっぱいに手を合わせる。
ここに来てから、たくさんごはんを食べて、ぐっすり眠っているおかげか、調子が悪くなることは、一度もない。
「お腹いっぱいで、幸せぇ~……体も、羽みたいに軽いんだよね。う~ん! えいっ!」
私は、体を大きく伸ばしてから、ピョンピョンっと、小さくジャンプをした。
こんなの、今までだったら、すぐに息苦しくなって、うずくまっていたと思う。
「さてと……毎朝のお務めは済んでいるけど、ユリウス様もユリアーナさんも、今日は用事でいないんだよね……」
二人がいなければ、聖女の力の特訓も出来ないし、魔法薬の勉強もできない。
もちろん、自主的に勉強するって手もあるけど……。
「こうなったら、少し強引でもいいから、お手伝いをしたいってお願いしてみよう!」
そうと決まれば、即行動! 食堂を出てすぐの廊下で、お掃除をしている人を見つけたから、早速声をかけてみよう!
「おはようございます! あの、私にもお掃除させてもらえませんか?」
「おはようございます、セシリア様。そのお気持ちだけいただきますわ」
「そんな、遠慮しないでください。私、今日はとても時間がありますし、たくさん優しくしてくれるここの人達に、恩返しがしたいんです!」
「ですが……」
「おやまあ、いい心がけじゃないか」
どうやって了承をしてもらおうか考えていると、後ろから穏やかな声が聞こえてきた。
「ユリアーナさん! これからお出かけですか?」
「ああ。声が聞こえたから、少し様子を見に来たのさ。あんた、せっかくの好意なんだから、素直に受け取っておきな」
「レオンハルト様の未来の奥様に、このようなお仕事をさせるわけにはまいりませんので……」
「レオン坊ちゃまには、あたしから話しておくよ」
「その必要はない」
突然聞こえてきたレオン様の声に、私と使用人の肩が、ビクンッと震えた。
「ひぃっ!? も、申し訳ございません! 私、今すぐに辞表を書きますので、命だけはぁ……!」
「レオン様! 彼女を怒らないであげてください! 私から、お手伝いしたいってお願いしたんです!」
「……? 俺は、別に怒ってなどいない」
「さ、左様でございますか……!?」
「お前が、無理やり仕事を押し付けるような人間じゃないのは、よく知っている。やりたいと言っていることは、やらせてやれ」
「レオン様、ありがとうございます!」
「ああ。何かあれば、すぐに連絡しろ。隠される方が迷惑だ」
「わかりました、ちゃんと言いますね!」
無事に許可を貰った私は、彼女に自分のせいで怖がらせてしまったことを謝罪し、一緒にお仕事を始めた。
窓拭きとか、雑巾がけとか、初めての経験だ! 結構力を使うんだね……!
「では、次はレオンハルト様の寝室のお掃除をします」
「わかりました!」
使用人と一緒に入ると、テキパキとお仕事を進めていく。
とはいえ、掃除は念入りに行われているみたいで、汚れなんて全然無い。
「レオン様、普段はここで生活してるんだよね……」
掃除をしながら、自然と目に入ったのは……レオン様のベッドだった。
なぜそこを見てしまったのか。自分でもわからないまま、私はベッドに歩み寄る。
「これでよし、次行きましょう」
「……あ、はいっ!」
彼女の声で我に返り、足を止めた。
わ、私ったら……レオン様のベッドに興味を持つだなんて……こんなのを知られたら、引かれちゃうよ。
「あっ、セシリア様! ここにいらっしゃったのですね! レオンハルト様が玉座の間にお呼びです!」
「わかりました。どうかしたのかな……?」
部屋の外に出てから間も無く、兵士の男性に声をかけられた。
急にどうしたのだろう。少し嫌な予感を感じながらも、レオン様のところに行くと、深々と玉座に座っているレオン様の姿があった。
「掃除に精を出していたのに、呼び出してすまないな」
「いえいえ! なにかあったのですか?」
「これから、王都に視察に行く。お前も妻として、民と交流してほしいと思ってな。だから、来い……じゃなくて、来てくれ」
「まあ、とっても素敵なお誘いですね! はい、もちろんです!」
こうして、一緒にお出かけをすることになった私は、パパっと身だしなみを整えてもらい、レオン様と合流した。
「えへへ、王都の人とお話しできるなんて、嬉しいな~」
「お前は、本当に前向きだな」
「なるべくそうするようにしてたら、癖になってたんです。ほら、ずっと落ち込んでいたら、つらいですから……」
「セシリア……」
「だから、私はこれからも前向きに生きて、幸せになるんです。皆さんと一緒に!」
まっすぐな気持ちを笑顔で伝えると、レオン様も僅かに笑ってくれた。
それが……なんだか嬉しくて、体がムズムズしちゃったよ!
****
無事に王都に着くと、レオン様は多くの人に取り囲まれていた。
「レオン様! 以前作っていただいた橋のおかげで、村が潤いました!」
「うちは、街道の整備をしてもらったおかげで、物資を持ってくるのが楽で楽で! 本当感謝してますよ!」
どうやら、お仕事関連のお礼のようだ。
それ以外にも、民はみんな感謝の気持ちを持って、レオン様の元に向かっていく。
今更だけど、どうしてこんなに優しい人が、氷の騎士って呼ばれているんだろう? 口数とか表情とかが乏しいのは、否定できないけど……。
個人的には、太陽……はちょっと違うかな。月の剣士とかの方が、絶対合ってるのに。
「おまえ、聖女か!」
「うん、そうだよ。君は?」
「おいらは、この町で一番強い男だ! お前、おいらの子分になれ!」
ありゃりゃ、随分と可愛いお誘いが来ちゃったなぁ……って、レオン様の目が、急に鋭くなっている!? なんか、前にもあったよね? 確か……燻製肉とかの一件で……。
もしかして、呑気に子供と遊んでいることに怒ってる!? いや、そんなことで怒るような人じゃないし……う~ん?
「えっと、ごめんね。今はレオン様の婚約者として来ているから、遊べないの。だから、今度遊びましょ」
「ちぇーっ、まあいいや。約束忘れんなよ!」
ふぅ、なんとか帰ってもらえたみたいだね。ああいう時って、どうやって断るのが良いか、わからなくなるんだよね。
――なんて思っているうちに、レオン様は視察をしながら、民と交流する。
一人一人の名前を憶えているし、お仕事や問題点も覚えているの!
王都の人も、レオン様に全幅の信頼を寄せていて、全力で国のために頑張っているのが伝わってくるよ!
「私も、負けていられないなぁ……!」
「おねーたん、ちゃんと、おままごとしちぇ!」
「あ、うん……ごめんね」
……偉そうなことを言っててなんだけど、今の私は、小さい子とおままごとをしている。
どうしても遊びたいとせがまれて、断れなくて……前にも絵本を読んだとせがまれたし、子供に好かれるのかな?
パッと見では、レオン様とは全然違うけど、これも必要なこと……のはず。
だって、私が子供の面倒を見ておけば、大人達が、安心してレオン様とお話しできる。つまり、この国の未来のために、必要ってこと! うん、きっとそう! 絶対に!
「でも……なんか、どんどん増えてきているような……ど、どうしよう……」
可愛いけど……可愛いけどね! 知らないうちに、十人を超えてるんだけど!? 私、子供にモテモテ……じゃなくて! こんなにたくさんの相手は出来ないよ~!
「うぅ、レオン様なら、こういう時にどうするかな……あれ、レオン様……?」
ずっと私の方をチラチラ見てるけど、どうしたんだろう? 前も、こんなことがあったよね?
「セシリア、ご苦労だった。そろそろ帰る時間だ」
帰るって……あれ? いつの間にか、それがオレンジ色になっている!
なるほど、それを伝えるために、タイミングを伺っていたんだね。納得!
「君達、そろそろお家に帰りなさい。向こうで、両親が待っている」
「はーい!! 聖女のお姉ちゃん、ありがとー!」
「またあそんでね~!」
「うん、またね~!」
大変だったけど、可愛かったなぁ……私、こういう子供の相手をするのが、得意なのかもしれない。
「それじゃあ、帰りましょう」
「その前に、お前に見せたいものがあるから、時間をくれ」
「もちろんいいですよ」
レオン様が言うくらいだから、きっと大切なものなんだろう。
そう思いながら馬車に揺られていると、五分程度で到着し、レオン様の手を借りて降りると――。
「わぁ……」
そこに広がっていたのは、夕日で照らされる、ヴァルハザードのお城と、王都の光景だった――
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