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第十九話 不思議な感覚

「あれ? せいじょさま、どうしたの? おでかけ?」


「困っている人がいないか聞いて、お手伝いをしようと思って。あなた、何か知らないかな?」


「しってるよ! あのね、ちかくのはたけでね、こしがいたいおばーちゃんがいるの! おばーちゃん、くさむしりがたいへんって、いってた!」


 それは大変そうだね……よし、そのおばあちゃんのお手伝いをしに行こうかな!


「その畑ってどこかな?」


「こっちだよ! わたし、あんないしてあげる!」


「わっ、引っ張らなくても、お姉ちゃんは逃げないから! レオン様! 私、ちょっと近くの畑に行ってきます~!」


「あ、ああ……」


 女の子の小さな手に引っ張られる私は、レオン様の少し気の抜けた返事を背に受けながら家を出発し、近くの畑にやってきた。


「わぁ……広い畑! 村の近くに、こんな場所があったなんて!」


「ここはね、みんなでおせわしてるの! おいしいやさいが、いーっぱいなの!」


 この村の収入源は、農作物と狩猟とは聞いていたけど、こんな大きな畑があるんだね。

 馬車に乗っている時、レオン様とのんびり過ごしていて、外を見てなかったから、知らなかった。


「あなたの言う通り、これだけ広いと、確かに大変だね……」


「わたしね、おてつだいしてるんだけど……すっごくたいへん!」


「お手伝いをしてるの? とっても偉いんだね!」


「えへへぇ」


 女の子の頭を撫でていると、腰の曲がったおばあさんが、私達の所にやってきた。


「おやまぁ、聖女様じゃないですか! なにかご用ですか?」


「時間があるので、村のみなさんのお手伝いをしようと思いまして。それをこの子に言ったら、草むしりが大変だって教えてもらって、連れてきてもらったんです」


「えぇっ!? 聖女様に、畑仕事なんて……」


「いえいえ、今の私は、聖女ではなくて、一人の人間として、ここに来ただけですから! ぜひお手伝いさせてください!」


 深々と頭を下げて誠意を見せると、彼女は少し困ったように笑った。


「……それじゃあ、せっかくだしお願いしようかねぇ。私と一緒に、草むしりをしてください」


「任せてください!! えいっ! えいっ!」


「せいじょさま! はやい!」


 元々は森にいた私は、自給自足の生活をしていて、小さな畑のお世話をしていた経験がある。

 だから、普通の人よりも、こういった重労働は向いていると思う。


「おお、聖女様が頑張ってくださってるおかげで、みるみる畑が綺麗に……ありがたや、ありがたや……」


「ふぅ! 袋がいっぱいになっちゃった……新しい袋を貰えますか?」


「こちらを使ってください」


「ありがとうございます! いっくぞー!」


 ――それから、どれくらいの経ったのかな。気づいた時には、いくつもの袋が、雑草でパンパンになっていた。


「せいじょさま、すごっ!? パンパンのふくろが、いっぱい!」


「私だけの力じゃないよ。村の人達が、手伝いに来てくれたおかげだよ!」


「聖女様が頑張ってるのに、オラ達が頑張らないわけにはいきませんからな!」


 実は、私が草むしりをしていることを聞いた村の人達が、どんどん集まって、一緒にやってくれたんだ。

 中には、普段は狩猟をしていて、畑仕事をしない人もいた。

 おかげで、畑は綺麗になったし、たくさんの人と一つの目標に向かって頑張れて、とても楽しかったよ!


「なんだか、こういうの……いいなぁ」


 幸せをゆっくりと噛みしめていると、突然お腹の虫が騒ぎ始めた。


「あっ、今のは……その……」


 最悪すぎる……何人もいる中で、お腹が鳴っちゃったよ……。

 でも……よくよく考えると、これは避けられないことだった。だって、聖女の力を使って、畑仕事までしたんだよ?


「そうだ! 今回のお礼に、ぜひうちのおいしい野菜を食べてください」


「おいしいやさい……ゴクリ……」


 おばあちゃんの言う、ものすごくおいしい野菜を食べてみたいと思ったら、喉がゴクリと鳴り、お腹の虫もさらに騒ぎ始めた。


「遠慮なさらずに、どうぞ食べてくださいな!」


 うぅぅぅぅぅぅ……もう我慢できないよー! レオン様、後で謝りますから、今は許してください!


「で、では……いただきます」


 受け取ったトマトを口に入れた瞬間、そのおいしさに目を疑った。


「あ、甘い……! それに瑞々しい! こんなおいしいトマト、初めて食べました!」


「せいじょさま! にんじんも、おいしいよ!」


「本当? どれどれ……本当だ、おいしい! ニンジンって、こんなに甘くておいしい食べ物だったんだ!」


「なんでも採れたては一番なんですよ。こっちのキュウリはいかがですか?」


「ありがとうございます! あぁ~、おいしぃ~!」


 ただでさえおいしい野菜なのに、村の人の笑顔に囲まれながらというのが、最高すぎる。


 ……こうしてたくさんの人と、笑って過ごせるのって、幸せだなぁ。


 こんな幸せな時間を、レオン様とも共有したい。たとえ、そこに愛が無い結婚だとしても、一緒に幸せになれるかな?


「セシリア」


「レオン様!」


 わわっ、レオン様とのことを考えていたら、本人が来るなんて。ビックリして、大きな声が出ちゃったよ。


「随分と楽しそうだな」


「はい、とっても楽しいですし、皆さん優しいんです!」


「そうか。よかったな」


「はいっ!」


 笑顔でレオン様に返事をしていると、女の子が大きなトマトを持って、レオン様の前に立った。


「おうさまも、いっしょにたべよっ! はい、どーぞ!」


「……いいのだろうか?」


「ええ、ぜひ村の自慢の野菜を食べてください!」


「ありがとう。ではいただこう……うん、うまいな」


 私の隣に腰を下ろしたレオン様は、トマトを丸かじりした。


「おいしいですよね! 私、ここの野菜のファンになっちゃいそうですよ!」


「聖女様、よければオラが獲った獲物で作った、燻製肉も食ってください! 野菜と一緒に食べると、絶品ですよ!」


「俺のところで採れた大根もうまいですよ!」


 お肉に大根……食べたい……!


「ぜひいただきます!」


 元気よく答えた私は、彼らに連れ出され、ちょっとだけ離れた、小さな小屋の前へとやってきた。


「ここは燻製小屋さ。ここに……!ほれ、食いごろの上物が!」


「おいしそう! では、さっそく……もぐもぐ……おいしい~!」


 燻製お肉特有の香りが、一気に鼻を抜けていく。お肉はジューシーで、とってもおいしい!


「よろこんでもらえて、なによりです!」


「はい、とっても……レオン様? どうしてこっちを見ているのかな?」


 視線を感じて振り向くと、レオン様がこちらをジッと見つめていた。

 そんな彼に、私は笑顔で手を振ると、小さく頷き返してくれた。


「すみません、さっきのお肉をレオン様にあげたいんです。まだありますか?」


「もちろん! ちょっと待ってな~……はい、どうぞ!」


「ありがとうございます!!」


「…………」


 私が呼ぶ前にやってきたレオン様は、少し強引に私達の間に割り込んできた。


 ……なんだろう。少しだけ、ご機嫌斜めなのかな……私、なにかやっちゃったとか?


「レオン様、よければ一緒に食べませんか?」


「ああ」


 燻製肉を手渡すと、レオン様はそれを一気に食べてしまった。

 結構いっぱいあったのに、すごいなぁ……よっぽどお腹がすいているのかな?


「もっと食べますか?」


「いや、いい」


「いいんですか? 勢いよく食べてたので、よっぽどおいしかったのかと思って」


「…………まあ、否定はしない」


「やっぱり! よければ、これ……あっ、これ……私の食べかけだった……」


 私のバカっ! いくらレオン様に食べてもらいたいからって、食べかけを渡す人がどこにいるの!?


「……なあ、あの感じ……ひょっとして……ひょっとするよな?」


「オラもそう思う。ここは、オラ達が一肌脱ぐか」


「私、まだないか確認してきますね。すみません、燻製肉って――」


「聖女様、申し訳ありません。今食べられる燻製肉、あなたので最後でして!」


「えぇっ!? それは残念……」


「レオンハルト様。せっかく聖女様のご厚意なのですから、いただいたらどうでしょうか?」


「……しかしだな……」


 考えるような素振りをしながら、ちらっと私の方を見る。


 ……レオン様って、本当にこのお肉が大好きなんだね。もしそうなら、たくさん食べてほしいな。


「私の食べかけでよければ、全然良いですよ!」


「………………………………じゃあ、もらおう」


 私の食べかけの燻製肉を、ばくりといくレオン様。なぜか、数秒程固まっていたけど、そのまま租借し、呑み込んだ。


 なんだろう……私の食べかけをレオン様が食べているのが、凄く変な感じ。

 嫌とか、そういうのじゃなくて……そわそわするっていうか……恥ずかしいって感情が、一番近いかも。


「…………」


 どうしてレオン様が相手だと、そんなことを思うんだろう? この感じ……前にもどこかで感じたことがあるような……。


「……う~……!」


「どうした?」


「えっ、あの……なんでもないです! おいしかったですか?」


「ああ」


「それなら良かったです。え、えっと……私、またお手伝い頑張ってきますね! それじゃ……きゃっ!」


 気分がフワフワした状態で走りだそうとした瞬間、盛大に転んでしまった。


 何もないところで転んじゃなうなんて、気が抜けている証拠だよ。もっとしっかりしなきゃ!


「大丈夫か?」


「はい、大丈夫です! 今度こそ、お手伝いに行ってきますね! あ、そうだ! 終わったら、村長様の家で大丈夫ですか?」


「ああ。暗くなる前に帰ってこい。暗い中で探すのは面倒だ」


「わかりました!」


 元気よく返事をした私は、再び畑へと向かう。


 どんな小さなことでも良い。村の助けになることで、みんな幸せになってもらいたいなぁ。もちろん、他の場所に住んでいる人にもね!


 ……それにしても、結局この気持ちはなんなんだろう?

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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