第十七話 納得は出来ないけど……
翌日、朝の日課である聖女の儀式を終え、朝食をいただいた後、私はレオン様の部屋へと呼び出された。
そこには、レオン様の他にも、とても眠そうに欠伸をしている、ユリウス様の姿もあった。
「ったく、なんでワシまで付き合わなくちゃならんのだ」
「ああいう仕事は、叔父上の方が向いています。適材適所です」
「はぁ……まあ、おめぇに相手の心情をコントロールしろとか、無理な話だわな」
「えっと、何の話ですか?」
「先日、騒ぎを起こした男がいるだろう? 叔父上と一緒に、奴に尋問をした」
じ、尋問って……勝手なイメージだけど、すごく怖い印象がある。国のトップになると、そんなこともしないといけないんだね……。
「事前に聞いた通りみたいだな。大方、依頼人とやらは、今の国家が気に入らない奴だろう。しっかし、結界に耐える魔物とは、驚きだ」
「セシリアの力を直接受けては、耐えきれなかったみたいだがな」
「まったく、つくづく規格外だな。おっさんは怖くて、夜も眠れねーわ」
いつものように、ユリウス様は軽い口を叩く。
しかし、それが耳に入らないくらい、私は強い感情に支配されていた。
「レオン様は、国のためにとても頑張っているじゃないですか! なのに、どうしてそんな人が!?」
「さあな。知ったところで、そんな馬鹿どもと、わかり合えると思えんがな」
「納得できません! みんな、レオン様のことを誤解してます!」
「それがどうした? 俺は、俺の信念を貫き、国と民を守るだけだ」
「っ……!!」
頑張りを否定されているというのに、なお怒らないレオン様を前にして、私の方が先に我慢の限界が来てしまい、涙が頬を伝った。
「私……あなたとわずかな時間しか、一緒に過ごしていないですけど、それだけでも、たくさん頑張っていることを知りました! きっと、私と出会う前から……ずっとずっと……頑張ってきたんですよね!」
「…………」
「なのに……なのに……!」
感情がグチャグチャになって、言葉が出てこない。その代わりに、涙だけは溢れてくる。
そんな私の頭に、レオン様の手が優しく乗った。
「お前がそう思い、俺の味方でいてくれるなら、それでいい」
「レオン様……」
「わかったら泣き止め。うるさくてかなわない」
レオン様は、そのまま私の頭を、わしゃわしゃと撫でてくれた。
「もういいか? ワシは忙しいから、もう行くぞ。ああ、そうだ。今回の特別手当として、最強級のチーズで勘弁してやる」
「ええ。お時間をくださり、ありがとうございました」
「……悩んでも立ち止まってもいいけどな。後で後悔をしない生き方をしろよ。ワシみたいに歳を取ってからじゃ、後悔しても遅いぞ」
ユリウス様が、去り際に残していってくれたアドバイスに、私はハッとなった。
正直、私はまだ、納得出来たとは言えないけど……いつまでも子供のように拗ねていて、後で後悔したら……意味が無いよね。
「……うん。うじうじしているなんて、私らしくないよね」
「セシリア?」
「レオン様! 私、これからもあなたと一緒に頑張ります! この国と民を守って、より豊かな国にして……それで、他の人達が、レオン様って凄かったんだって思ってもらえるように!」
「……ああ」
「って、なんか最近、似たようなことばかり言っている気がしますね……えへへ。とにかく、頑張るぞー! おー!」
「…………」
「ほら、レオン様も一緒に! おー!!」
「…………おー」
「元気が足りませんよ!」
「わかった、わかったから。腕を無理やり上げさせるな。傷が痛む」
「あっ、ごめんなさい!」
私としたことが、やる気が空回しちゃった……失敗失敗。
でも、これくらい元気があった方が、絶対良いはず! 悩みながらでも……この国の聖女として、レオン様の婚約者として、頑張るぞ!
****
翌日、私はずっと窓から景色を眺めながら、これから私がするべきことを、少し考えていた。
その結果、私のやるべきことをまとめたの!
一、聖女として国と民を守る!
二、聖女の力の勉強をする!
三、魔法薬の勉強をする!
四、お手伝いをたくさんやる!
だいぶ大雑把だけど……聖女の勉強をして、魔法薬まで扱えるようになtったら、緊急時にきっと役に立つ。お手伝いだって、やれば他の人の負担を減らせる。まさに、完璧な計画だよ!
「そうと決まれば、早速行動だ! まずは……ユリアーナさんのところに行ってみよう!」
一番お願いしやすいユリアーナさんのところに向かうと、二つ返事で了承してくれたよ!
次に、ユリウス様のところに行くと……早々に、だりぃと言われてしまった。
こうなるのは予想をしていたから、行く前になけなしのお小遣いで買ってきた、おつまみに合うチーズを渡したら、了承してくれた。
手伝いの方は……王様の奥様にさせられません! って感じで、断られてしまった。
まあ、普通に考えれば、未来の王族に掃除とか洗濯とかさせるなんて、ダメなんだろうね。
私は、率先してやりたいんだけどなぁ……何度もお願いすれば、なんとかなるかな?
「さて、次は何をしようかな……」
うーんと考えながら、お城の中をウロウロしていると、ユリアーナさんに再び出会った。
「おや、どうしたんだい?」
「いろんな人に声をかけ終えたので、次はどうしようかと……」
「なら、聖女の特訓をしようじゃないか」
「いいんですか!? ぜひお願いします!」
「その前に……自慢じゃないが、アタシは聖女の中でのへっぽこでね」
「へっぽこって……あなたは、ずっと聖女として、頑張ってたんですのね? そんなの、優秀じゃないと出来ないことですよ!」
「あはは、感情だけは人一倍あるからねぇ。それで乗り越えたようなとのさ、あたしは、元々才能ゼロなのに、歳のせいで力がうまく扱えない」
「ユリアーナさん……」
「おかげで、レオン坊ちゃまや兵士達には、迷惑をかけてしまった。でも、そんなあたしでも、教えられることはある」
その言葉を皮切りに、ユリアーナさんは、己の知識と経験を、私に教え始める。
その主な内容は、力のコントロールのやり方だった。
ユリアーナさんが言うには、私は力はあるけど、その力に振りまわされているから、それを操れるようになるのが重要らしい。
「ふぬぬ……手のひらサイズの結界を張るの、難しい!」
「小さいものほど、扱いは難しいものさ。でも、はじめてにしちゃ上出来じゃないか。あたしは、そこに行くまで半年かかったからね」
「教え方が上手なんですよ!」
「よしとくれよぉ、こんなババアをからかってどうするんだい」
「本当の気持ちですよ! さて、もう一回!」
試しては失敗し、また失敗し――気づいたら、外は夜の帳が下りていた。
ずっと頑張っていた私の体は、汗まみれになっていた。
「ふぅ……疲れたけど、充実した日だったなぁ」
「お疲れ様。よく頑張ったねぇ」
「えへへ……」
ユリアーナさんは、私の頭を優しく撫でながら、笑顔を浮かべる。その笑顔は、とても慈愛に満ちていた。
「あんたみたいな努力家を見ていると、妹のことを思い出すよ」
「妹さん? へえ、そうなんですね! どんな人なんですか?」
「よく笑う子だったよ。特に、絵本を読むのが好きでねぇ。いつかは、絵本作家になりたいって言っていたよ」
……あれ? なんだろう……違和感があるというか……もしかして。
「…………」
「セシリアちゃん?」
「いえ、なんでもありません。お話を聞かせてくれて、ありがとうございました。では、私はそろそろ部屋に戻って休みますね」
これ以上、この話題をするのは良くないと思った私は、少し強引に話を打ち切った。
「ああ。こんな老いぼれで良ければ、いくらでも練習を見るから、またおいで」
「ありがとうございます! えっと……練習もいいですけど、今度お茶もしましょうね! それじゃあ!」
これで、まずは一歩。少しずつ成長して、前に進んでいけば、必ずレオン様の役に立てるようになる。
そのために、出来ることから、前向きに頑張ろう!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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