第十五話 異変!?
その日の夜。私はパーティー用のドレスに着替えた後、レオン様の部屋へとやってきた。
「失礼します。レオン様、準備が出来ました!」
「そうか。俺の方も、問題無い」
数日振りに見る、レオン様のパーティー用の燕尾服……戦場に出る時の鎧姿よりも、こっちの方が私は好みだ。
「おやまあ、セシリアちゃん。とっても素敵じゃないか!」
「おいレオン。なにか言うことがあるんじゃなか?」
「言うこと? そうだな……セシリア、腹は減っていないか?」
「あっ、はい! 出発前に、たくさん食べましたから!」
「はぁ……この唐変木め。いや、こいつに期待したワシが馬鹿だったか」
何故か、頭を抱えながら溜息を漏らすユリウス様を見て、レオン様と一緒に首を傾げる。
なにか変なところがあったかな? 普通にお喋りをしていただけなんだけどね。
「そうだ。これを持っていけ」
「これは?」
「痛み止めだ。しんどくなったら飲め」
「ありがとうございます、叔父上。さあ、そろそろ向かおう」
「はい。みなさん、行ってきますね!」
私は、レオン様と一緒に、元気よくお城を出発する。
今回の会場は、この国のお城の近くにある晩餐会場を使って行われる。
聞いたところによると、色々な国の王族や貴族が招待されているそうだ。
それを聞いて、もしかしたらプリシア達に会うかもしれないと、身構えていたのだけど、諸事情で参加が出来ないと連絡が来たらしい。
「今回のパーティーは、出来れば遠くがよかったですね」
「なぜだ?」
「移動の最中は、することがないでしょう? だから、レオン様に休んでもらうことが出来るじゃないですか!」
会場に向かう馬車の中、レオン様は少しだけ目を丸くさせてから、ふぅと息を漏らした。
「……まったく、お前という奴は…………ないな」
「レオン様? なにか言いましたか?」
「独り言だ」
最後の部分、あまりにも小声すぎて、上手く聞き取れなかった。
何を言ったのか気になるけど……レオン様の雰囲気からして、聞いても教えてくれなさそうだ。
「ふぅ……」
「緊張しているのか」
「はい。昔から、社交界って苦手で……小さい頃は、全然人がいないところで生活をしてましたから」
「森の中では、人と会うことは少ないだろうな」
「そうなんですよね~……えっ?」
この人、どうして私が住んでいたところが、森だって知ってるんだろう? ユリアーナさんに、家族の話をしただけで、他には誰にも話していないはずなのに。
「到着しました」
「やはりすぐだな」
「あ、はい……そうですね」
何ともタイミング悪く到着してしまい、聞くタイミングを逃してしまった。
まあ……たまたま言い当てられただけかもしれないし、人がいないってなると、自然の中って思うのは、そこまで変じゃない……かもしれない。
――そんなことを思いながら会場に入ると、既に多くの来賓の人達が、自由にお喋りをしていた。
「えっと、今回は主催だし、王様だから……こっちからはいかないんですよね?」
「ダメという決まりはないが、普通は来賓から声をかけるものだ」
やっぱりそうだよね。来るのが普通だよね。
だというのに……ここに来てから、遠巻きに見られるだけで、全然近づいて来ないよ!
「なんだか、変な感じですね。みんな、よそよそしいと言いますか……レオン様はこの国の王様で、パーティーの主催だというのに……」
「俺の評判を忘れたのか?」
「あっ……」
そうだ。この数日間、一緒にいたから頭からすっかり抜け落ちていた。
レオン様は、氷の騎士と呼ばれるほど表情は乏しく、口数も少ないせいで、不気味に思われているということを。
かくいう私も、出会って間もない頃は、そういう認識を持っていたから、警戒をしていたのは否めない。
すぐに、優しい人だってわかって、警戒心なんて、彼方に飛んでいっちゃったけどね!
「今日も不愛想なお方ですわね……何を考えているのやら」
「なんでも、役に立たない聖女を突然もらっていったとか……」
「まあ、もしかして彼女が? 変なことをされてなければいいけど」
ヒソヒソと、レオン様への噂話が聞こえてくる。そのどれもが、全く根拠のないものばかりだった。
「レオン様は、優しい人なのに……」
「他人にどう思われようと、関係ない。理解者が、近くにいればいい」
「それなら私はうってつけですよ! たくさん頼ってください! エッヘン!」
「……ああ、期待している」
「というわけで、早速理解者兼、婚約者として、挨拶回りのエスコートをしますね!」
「唐突だな……」
「しっかり話せば、噂話を減らすくらいはできると思うんです! なんでも前向きにいきましょう!」
ふんすっと気合を入れると、レオン様を無理やり連れて、挨拶回りをする。
その度に、あまり良い顔はされないけど、誠意のある態度を取っていれば、必ずわかってくれるはずだよ!
「――これで、大体終わりましたか?」
「そうだな」
多くの参加者が来ている中で、全員に挨拶をするのは大変だったけど、結構なんとかなるものだね。
「お疲れですよね? 私、お水を貰ってきますね」
私は、一旦離れてお水を取って戻ってくると、ちょっぴり見覚えのある人に絡まれていた。
たしか……どこかの国の、王子様だったかな? お話をした記憶はないけど、こういう場で見かけたことがある。
名前は、なんだったかな……レモン様? あれ、ちょっと違うような?
「こんばんわ、レオンハルト様。貴殿が、他の人間に声をかけるとは。てっきり、私達など、ゴミ同然に思っていると感じてました」
「レイモンド殿、それは濡れ衣だ」
そうだ、レイモンド様だ! じゃなくて……なんなの、この人。にこやかに笑いながら、嫌みったらしいことをいうんだね。気分が悪いよ。
「俺に何か用か?」
「無能な聖女、役立たず、負け組……挙げればきりがないくらい、悪評がある女性をもらってしまった貴殿を、慰めたくなってしまったのさ」
えっ、私ってそんなに色々言われていたの!? プリシアのせいで、評判がよくないことは知っていたけど……想像以上だったかも。
「いや、貴殿のような人間には、ある意味お似合いかもしれないな? ハハハハッ!」
「俺のことを言うのは、好きにしろ。だが、セシリアを悪く言うのは、許さない」
「おお、怖い怖い。このままでは、氷の騎士様に殺されてしまうな?」
このっ……レオン様のことをバカにして! 聖女として、こんなことを考えるのは良くないってわかってるけど……私、この人のこと、大っ嫌い!
こんな人、レオン様に斬られ――ごほんっ、さすがにこれ以上は、聖女云々じゃなくて、人としていけないよね。反省。
「それに比べて、私の婚約者を見たまえ! 容姿端麗、文武両道で、非の打ち所がない! 誰もがうらやむ、まさに最高の美女さ! おまけに、誰よりも愛し合っている!」
「私達だって仲良しですが、なにか!?」
ちょっぴりムキになった私は、婚約者の女性の肩を抱くレイモンド様に見せつけるように、レオン様の腕に、それはもう優しく、やさ~しく抱きついた。
「おや、噂の聖女様! 私達の会話に、口を挟まないでくれたまえ」
「レオン様のことを何も知らないくせに、勝手なことを言われたら、口を挟むに決まっているでしょ! 何の権利があって、そんな酷いことを言うの!?」
「権利だと? 私は王子なのだぞ? たかが聖女の癖に、何を偉そうに……!」
「王子様なら、何を言っても許されるの!? あなた、国と民のために、魔物と戦える!? 婚約者が危ない時、自分のことを考えないで助けられる!? 体中が痛くても、休まずにお仕事が出来る!?」
「っ……! そんなこと、下々の連中にやらせればいいことだ!」
「そんな考え方しか出来ないあなたに、レオン様を悪く言う資格なんてないから!」
「わ、私になんて口の利き方を! その不敬、絶対に許さん! 兵共、いますぐこの女の首を刎ねろ!!」
怒り狂うレイモンド様の前に、レオン様がスッと出てくると、控えめに頭を下げた。
「俺の婚約者が、無礼なことを言ってしまい、申し訳ない」
「ふん、今更謝ったところで――」
「その怒りはごもっともだ。後に、改めて謝罪をさせてもらう。だが……俺の婚約者を手にかけるということは、我が祖国、ヴァルハザードへの宣戦布告と捉えることを、ご理解いただきたい」
「……ちっ」
いつものように、淡々と話しているだけなのに、強い殺気を感じて、自然と背筋が冷たくなった。
それは、レイモンド様も感じたのか、さっきまでの威勢の良さは鳴りを潜め、大きく舌打ちした。
そんな中、突然地面が揺れ始め、何もない空間に亀裂が走った。
「な、なにこれ!?」
「わからない……俺から離れるな、セシリア」
一体何が起きているのかと、動揺していると、空間の裂け目から、魔物が現れた――
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